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<インタビュー>HANCEが語る“誰かを思い続ける強さ”――ニューシングル「櫻花」

インタビューバナー

Interview & Text:黒田隆憲


 シンガーソングライターのHANCEが、通算17枚目のシングル「櫻花(さくらばな)」をリリースする。この曲はHANCEが今から20年前に作ったもの。「亡くなってしまった最愛の人を生涯想い続ける1人の女性」をテーマに、命をかけて大切な人を守ろうとした人や、大切な人を生涯想い続けようとした人の、HANCE曰く「今の時代に失われつつある『強い想い』」をメッセージとして込めた、これまでの楽曲の中でも特に思い入れの強い作品に仕上がったという。なお、ミュージック・ビデオはHANCEの故郷である島根県出雲市で撮影。美しい自然や古くから残る街並みなど、ノスタルジックな映像となった。洋楽に影響を受け、ヨーロッパをはじめとする海外を舞台にしたミュージックビデオを作り続けてきたHANCEが、なぜこのタイミングで日本情緒あふれる楽曲をリリースしようと思ったのか。その理由を語ってもらった。

海外公演を通して感じた“日本”と故郷への思い

――新曲「櫻花」は、これまでのHANCEさんの楽曲とは少し趣が違いますよね。今から20年前に作ったそうですが、まずはそれを今回リリースしようと思った経緯から教えてもらえますか?

HANCE:今年に入ってから、HANCEとして海外でライブをする機会がとても多くなりました。2月にスイス、4月と5月にはスペインとイタリアに行きましたし、今月はハンガリー、ドイツ、そして8月にはウクライナ、9月にポーランドでライブをする予定です。ヨーロッパを中心に、海外で開催されるイベントへの出演機会が増えており、そこでは日本の文化に興味を持つ方が多く、「日本的なもの」を求められることを強く感じるようになったんですね。


――それは、例えばどんな時に感じますか?

HANCE:例えば、過去にリリースした「幻夏」という曲は日本的なメロディーが特徴で、ミュージックビデオも日本で撮影したものですが、それが海外で非常に大きな反響を得ました。これまでHANCEは洋楽に影響を受けた楽曲を中心に制作し、ミュージックビデオも海外の美しい場所や街並みを舞台にしたものが多かったのですが、そうした経験から今後も海外で活動していく上で、自分が「日本人」として求められていることに応える必要性を強く感じるようになったんです。

それに自分自身も、海外での活動が増えるにつれ「日本人であること」を強く自覚するようになりました。私は島根県の出雲市で生まれ育ちましたが、その故郷への思いも強くなり、海外の人に自分の育った街はもちろん、日本の素敵な風景を届けたいと。そうした思いが重なって、この「櫻花」という曲をリリースしようと思ったわけです。


――「櫻花」は、「亡くなってしまった最愛の人を生涯想い続ける1人の女性」がテーマだそうですね。

HANCE:はい。「櫻花」には「おうか」という別の読み方があります。太平洋戦争末期、連合軍の猛撃に追い詰められた日本軍は、搭乗員が乗った軍用機や小型艇、潜水艇で連合軍の艦船に体当たりする捨て身の攻撃、いわゆる「特攻」を組織的に行いました。「櫻花(おうか)」はその時に作られた有人特攻兵器の一つの名前でもあります。

曲を作っていた時にはその特攻兵器の存在を私は知らなかったのですが、調べる中でそのことを知り、歌詞やメロディにも影響がありました。というのも、私の両親と祖父母は広島出身で、特に祖父母からは原爆で家が傾いた話など戦争時の体験を子供の頃からよく聞いていました。そして自分がこの歳になって思うのは、私たちは当時の戦争体験を当事者から直接聞くことができる最後の世代かもしれないということです。


――なるほど。

HANCE:実際、私の祖父母も他界しており、誰かが伝えていかなければ風化してしまうという危機感を持つようになりました。そうした思いが、最初に話した海外活動で感じたこととも重なり、この作品を世に出す必然性を感じたんです。広島に原爆が落とされた8月6日、長崎の8月9日、そして終戦記念日である8月15日の前に「櫻花」をリリースしたかったのも、そのためです。

とはいえ、特攻兵器「櫻花」にまつわるストーリーをそのまま歌うのは違うと思いました。今おっしゃっていただいたように、亡くなってしまった最愛の人を生涯想い続ける女性の心情がテーマであり、伝えたかったのは誰かを一途に思い続ける強さです。戦争や、特攻兵器「櫻花」のことを知らない若い世代や海外のリスナーにも「ポップソング」として共感を得られるものにしたいと考えました。こういう話をすると、どうしても政治的なイデオロギーを持ち込まれがちです。が、そこを伝えたかったわけでは決してなく、誰かを思い続ける強さ、誰かを命懸けで守ろうとする美しさを伝えたかったんです。


――それは、HANCEさんの実体験とも重なるところはありますか?

HANCE:そうですね。HANCEの楽曲は、これまでも「大切な人との別れ」について歌うことが多かったのですが、そこに影響を与えているのは高校の時に亡くした母親だと思います。私は今年、母が亡くなった時の年齢と同じになりますし、先ほど話した故郷である出雲市への思いなど、いろいろなタイミングが重なった今年、どうしても表現したかったことだったんです。


――例えばロシアによるウクライナへの軍事侵攻や、パレスチナ自治区ガザ地区へのイスラエル軍の侵攻など、今なお世界のあちこちで戦争や紛争が起きています。そういうことへの思いも、「櫻花」をリリースする上でありましたか?

HANCE:まさに、そのような運命めいたものも感じましたね。今回、地元の出雲市でミュージックビデオを撮影するにあたり、地元の方々から「大社基地」という太平洋戦争末期の海軍航空基地を中心とする戦争遺跡を教えていただきました。自分は出雲市に住んでいながら、その存在を知らなかったのですが、そこには特攻機「櫻花」が格納されていたそうなんです。このタイミングで「櫻花」という曲を作り、その直後にウクライナからツアーのオファーを受けたことに、ある種の「使命感」を抱いたというか。

しかも今回、ロシアから脱出し現在は出雲市で仕事をしているロシア人の方とお会いする機会もありました。その方から出雲市について、「美しさがそのまま残っている場所」と言っていただいたんです。今、日本はインバウンドが増えて「オーバーツーリズム」状態になっていますが、島根県の出雲市はまだまだ海外の方から遠い場所のようです。「広島までは行くけど、島根までは行かない」という人も多い。「櫻花」のミュージックビデオでも撮影しましたが、出雲市には素敵な街並みや風景が残っており、それを世界中の人々に知ってもらい、故郷や平和について考えるきっかけにしていただけたら……という思いもありましたね。


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「昔から変わらずそこにある風景」を伝える


――「櫻花」は「ヨナヌキ音階」を用いたオリエンタルなメロディや、美しく抒情的なピアノが印象的です。

HANCE:現代ポップスとしてのクオリティを意識しつつ、シンプルかつ素朴であることに重きを置きました。どこか童謡や唱歌にも通じるようなメロディラインにすることで、HANCEがこれまでやってこなかったような、子供でも口ずさめる楽曲を目指したんです。ボーカルも今回は、誰かを一途に思う「静」の表現と、その強い思いをエモーショナルに歌う「動」の表現を1曲の中に同居させ、コントラストを強調させることを意識しています。


――今後もライフワークとして、世界中の美しい街でミュージック・ビデオを撮影しつつ、日本の素晴らしい街並みや風景も世界に発信していきたいそうですね。

HANCE:今年の10月終わりから11月にかけて、再び出雲市で別の楽曲の映像作品を作る予定です。できる限りHANCEのミュージック・ビデオは島根県を舞台に制作できたらと思っています。それによって地元の方にも見ていただき、貢献できたら嬉しいです。

以前、「幻夏」のミュージック・ビデオは茨城県で撮影しましたが、茨城も一時期住んでいたので私にとって魅力ある場所です。まだまだ知らないところが多いですが、また茨城にも行ってみたいですし、他にも日本全体に魅力的な場所がたくさんあると思います。個人的には観光地としてメジャーなところより、何気ない道路や木々がある場所など「昔から変わらずそこにある風景」に惹かれます。そういったところを映像や曲で伝えていきたいですね。


「櫻花」ミュージック・ビデオ



――ちなみに出雲市というと「出雲大社」が有名ですが、HANCEさんおすすめの出雲市スポットを教えてもらえますか?

HANCE:出雲大社に観光で行かれる方は、参拝後、多くは市内の中心エリアに戻ってしまいますが、私が一番好きな場所は出雲大社の奥にある海なんです。学生の頃はよく友達と、その海が見える山道を自転車で登り、高い場所からいつまでも眺めていました。キラキラと光るその水面は季節や時間、天気によって様々な表情を見せるので最高です。出雲大社に行かれるのであれば、ぜひその向こうの海まで足を伸ばしていただけると嬉しいですね。

――今後、HANCEさんはどんな音楽を作っていきたいですか?

HANCE:もともとHANCEは洋楽に影響を受けたサウンドを作っていましたが、「幻夏」や「櫻花」を経て今後は和と洋を折衷した「和モダン」な楽曲を作っていきたいと思っています。昔からある日本の要素だけでなく、今っぽさや洋楽の要素をミックスした曲をすでに制作し始めていますので、楽しみにしていてください。



――ところで、海外活動を積極的に行っている中で感じることはありますか?

HANCE:僕が主に出演するイベントは、アニメや漫画、コスプレなど日本のサブカルチャーに興味がある人たちが集まるコンベンション形式で、そこで開催されているショーケースライブに招待される場合が多いんですよね。規模は国によって異なりますが、例えば4月にイタリアのナポリで開催された【COMICON】は、4日間で17万人が集まるイベントでした。

ちなみに出雲市の人口がちょうど17万人ぐらいですから(笑)、その規模の大きさには少なからずカルチャーショックを受けました。

欧州や南米などを中心に、今、世界中で『ONEPIECE』『DRAGON BALL』『NARUTO』など、日本の漫画、アニメなどを好きな人たちが、コスプレ、ダンス、歌などを楽しむイベントを開催していることに、日本人の多くは知りません。

インバウンドで来日する外国人の多くは、そのようなソフトパワーの影響を多大に受けていますので、国としてももっとこのようなカルチャーを全面的にバックアップして欲しいと切に願っています。


――今後、HANCEさんは日本と海外での活動のバランスをどのようにしていきたいですか?

HANCE:今は、欧州を中心に活動をしていますが、南米やアジアにも行きたいですね。特にブラジル、メキシコ、ペルー、チリなどの南米はリスナー層の割合も多く、ファンの方から「自分の街にきてほしい!」というメッセージをよくいただきますので、必ず実現させたいです。

一方、日本については、まだまだ行けていない県、地域がたくさんありますが、11〜12月頃に、近い距離感で楽しんでいただけるような会場をまとめて廻れたらとと思っています!お近くの方がいらっしゃいましたら、是非遊びにいらしてください!

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