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<コラム>ノーマニが遂にアルバム発表、困難を乗り越え完成させた新作『ドーパミン』

インタビューバナー

Text: 竹田ダニエル

 6月14日、ソロアーティストとしてデビューしてから6年、ノーマニは遂に待望のデビューアルバム『ドーパミン』をRCAレコードから正式にリリースした。現在28歳である彼女にとって、そしてジャンルレスな実力派として愛される彼女のポップスターとしての君臨を待ち続けたファンにとって、大胆かつ変革的な章を意味する出来事となった。

 重くのしかかる期待を軽々と超えるほど、主要音楽メディアからは軒並み高評価を得た今作。聴くたびに新たな魅力やこだわり抜かれたサンプリングやレファレンスが見つかったり、聴き飽きないような緻密なサウンドの工夫が組み込まれていたりなど、ノーマニの昔からのファンだけではなく、ヒップホップやR&Bに厳しいような玄人、そしてメインストリーム・ポップスにおいて「踊れるグルーヴ」を求め続けている新規リスナーも悠々と取り込むような、そして多面的かつ音楽に忠実なアーティストとしての認知度が高まるような仕上がりとなっている。コラボレーション楽曲も彼女の多面性を引き出すようなフィーチャーアーティスト(ジェイムス・ブレイク、ブランディ、スターラ、ガンナ)が選ばれており、一音一音に心血を注いでいることがひしひしと伝わる。


 『ドーパミン』は衝撃的なほどのインパクトをもつ「ビッグ・ボーイ」で幕をあける。ニューオーリンズやテキサスにルーツをもつノーマニらしく、南部のヒップホップレジェンドのピンプ・Cやアウトキャスト、ビッグ・ボーイなどをシャウトアウトしている。インタビューで語っているように、ダンサーならではの「踊れる曲」に対するフィジカルなアプローチが施されていて、まさに聴く人誰もが踊り出したくなるようなエネルギーを持った曲だ。

「スタジオに入るときはいつも、最終的にどこでこの曲を披露することになるかを考える。賞の授賞式とか、スーパーボウルのハーフタイムショーとか。アグレッシブで、自己主張が強く、大胆で、支配的で、女性として、またアーティストとしての自信を感じられるものが欲しかった。」


 サビだけがTikTokでバズるような曲を作るようにレーベルからアーティストが指示されたり、短い曲を作ってSNSウケを狙うような動きが流行ったり、先行シングルを多く出してアルバムという形にしたときに曲間の繋ぎがぎこちなかったりと、現代のSNS中心になりがちな楽曲制作のルートとはかけ離れていることも高く評価されている点だ。例えばヒップホップ色の濃い「キャンディ・ペイント」からヒップホップR&Bと形容されるような「グリップ」に転換する時、いわゆるアルバムシーケンシングが、思わず「気持ち良い!」と叫んでしまうほど非常にシームレスに繋がるようトラックが緻密に計算され尽くされていたりと、「抜かりないこだわり」が所々に散りばめられているのだ。

 「サビが中毒的すぎる」とSNSで話題となったのが、3曲目の「オール・ユアーズ」。ボーカルのレイヤリングや親密性を直接感じられるようなミックス、そして一見反復的な曲構成でも豊かな表情を魅せられるノーマニの表現力が光る。ジャネット・ジャクソンを彷彿とさせつつも現代的なハウスアレンジがキュートな「テイク・マイ・タイム」や、男性アーティストとのコラボを通して描かれるミステリアスな世界観など、アルバムを通して様々なアイデンティティが模索されている点も、ジャンルレスなアーティストでありたいと語る彼女らしい展開として要注目だ。


 ファンの期待を裏切りたくない、そして何よりも自分を裏切りたくない。アルバムを今年こそ出す、これ以上待たせないよ(「アルバムタイトルが決まったよ」とツイートしたのは2018年。その投稿のコメント欄に毎年ファンが残していくコメントを印刷したケーキをリリース時のお祝いにノーマニが持って撮影したことが話題に)と示唆し続けて、1stソロシングルをリリースしてから5年。「ノーマニはファンのことなんてどうでもいいんだよ」「音楽なんて興味ないんだよ」というファン、アンチともに流布していた噂話は事実とは程遠く、本当はファンのことが何よりも大切で、音楽のことを真剣に愛しているからこそ自分にとって最も良い形の作品にしたかった、と誠意を持ってApple MusicTERRELLとのインタビューで語っている。そして彼女が度々強調しているのが人間としての成長、そして自分にとって大切である音楽的なルーツを反映するような作品作りを重視した、ということ。

 ノーマニはビジュアル、才能、チャンスともに恵まれているように一見見えるかもしれないが、彼女のことを応援している人の多くは彼女の苦労、特にフィフス・ハーモニー時代に受けた彼女の暗い肌色に対する酷い人種差別の背景を知っている人だ。黒人女性、特に肌色が暗い人はそれ以外の人の数倍も努力をしなければ真面目に取り合ってもらえない、何をしても差別的な扱いを受けることについて彼女は過去にも複数回言及している。今でも心無いコメントをノーマニに対してなら投げかけてもいいかのようなインターネットの風潮は根強く、その根底にある人種差別的な意識は度々問題になっている。

 そんな「フィフス・ハーモニーのノーマニ」という縛りから解放されたものの、レーベルとの不安定な関係性やチームの予期せぬ解体など、様々な試練を乗り越えなければならなかったとインタビューで語っている。今作の音楽的な良さとともに話題としてファンや音楽/ポップカルチャー好きの間で盛り上がってしまったのが、いいアルバムだからこそもったいないと感じてしまうアルバムロールアウト(リリース時のPR)の簡素さだ。アルバムのリリースが大幅に遅れたり、正式なアナウンスも急ピッチで行われたりしたこと以外にも、リリース後にミュージック・ビデオやキービジュアル以外のコンテンツがほとんど発表されないことなど、楽曲がいいからこそ目立ってしまう部分もリスナーの間で問題視された。このことについてもノーマニは「リリースする前からすでに、やれることはやったけど、終わりが見えないんじゃないかと思うほど何度も壁に当たった」と語っている(TERRELインタビュー参照)。音楽ビジネスの難しさ、そしてチームマネジメントの難しさが垣間見える、赤裸々な状況のシェアを行っているのだ。

 米国現地時間6月30日に行われた【BETアワード】でパフォーマンスすることが決まっていたノーマニ。2021年の【MTV VMAアワード】ではテヤナ・テイラーとともに「Wild Side」を披露し、そのセクシーかつアクロバティックと言えるほど大胆なパフォーマンスは当時大きな話題になった。フィフス・ハーモニー時代からライブでの歌とダンスの評価が高かったノーマニだからこそ、今回の【BET】は「全世界に実力を見せつけるチャンス」だと多くのファンは期待していたが、リハーサル中に起きてしまった深刻な怪我によって直前に出演を辞退。「頑張ればいけるだろ」「やる気が足りないんじゃないか」などと彼女に対する無慈悲な言葉がSNSでは飛び交った。しかし数日後にはタイラが怪我の再発とともに複数のフェスの出演をキャンセルすることを発表し、アーティストに無理をさせないこと、そして何よりも長期的な活動を続けられるように応援をすることの重要性が議論された。

 さらに、最近の「音楽関連SNS」で度々話題になっているのが、自称音楽ファンたちがアーティストの再生数、チャート順位、売り上げなどいわゆる「数字」ばかりを追ってしまっているカルチャーの盛り上がりに対する懸念だ。ノーマニ自身もApple Musicのインタビューで語っているように、良い音楽を出せばそれを認めてもらえるような時代ではなくなり、制作/リリース以外にも定期的な「コンテンツ」の供給やファンとのエンゲージメント、SNSでのバズや高頻度でのリリースなどが求められる時代へと変化している。さらにはSNS上で熱狂的なファンたちは自分たちの「推し」が数字的に「勝つ」ことに多大な時間とエネルギーと金銭を使い、その延長線上として売り上げやチャート順位によってアーティストの「良さ」を判断してしまうような風潮も強まっている。ノーマニのデビューアルバムも当然このような視線を熱く浴び、ビルボード200チャートで91位でデビューしたことを良しと思わない意見も多く見受けられた。しかし、彼女が大人の事情で置かれている状況やフィフス・ハーモニー時代と比べてはるかに広いリスナー層を獲得していること、そして持続的な活動に重要となる「アーティストとしての信頼」を確実に得ていることを考慮するならば、アートとして評価した時には十分な結果となったのではないか、と言われている。

 ノーマニのソロアーティストとしての旅は、まだまだ始まったばかり。そして大きく変化している音楽業界の「今」の渦中にいる彼女は、その音楽に対する真摯な姿勢と思慮深い活動方針を持って、これからもファンの予想を超えるようなアートを生み出し続けるでしょう、ついそう期待してしまうような魅力が詰まった、まさに快感(ドーパミン)を与えてくれる作品だ。

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