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<コラム>世界に羽ばたくバーチャル・アーティスト輩出プロジェクト「Revival Production」発足、第1弾アーティストIbukiが導いていくその世界とは

Ibukiバナー

Text: 小町碧音

 黒髪ストレートロングヘア、深く被ったキャップ、黒と紫を取り入れた近未来的なデザインのパーカー。都会のネオンが光と影を描き出す中で、確かな存在感を放つ少女――Ibuki。胸元に輝く逆三角形のネックレスが、クールな眼差しの奥底に燃える闘志を象徴している。Ibukiは、世界に羽ばたくバーチャル・アーティストを発掘・輩出する音楽プロダクション「Revival Production」から5月15日にデビューした、第1弾アーティストだ。デビューから1か月足らずで、YouTube登録者数はすでに8.2万人を突破(6月27日現在)。彼女の歌声、存在に惹きつけられるリスナーが、日ごとに増え続けている。

 “Revival(復活)”を冠する「Revival Production」。彼女のデビューはこれから始まる一大ムーブメントに過ぎない。その動きは、デジタルとリアルの境界線を溶かし、既存のVTuberシーンとは一線を画した最先端クリエイティブ・レーベル「KAMITSUBAKI STUDIO」を彷彿とさせるものがある。「KAMITSUBAKI STUDIO」は、バーチャルシンガー・花譜や、彼女のメインコンポーザーを務めていたボカロP・カンザキイオリ(2023年5月1日卒業)などの才能の卵を輩出した。「Revival Production」の掲げるテーマは「私たちは音楽と共に蘇る——」。同プロダクションを運営するiTokyo株式会社はこう表明している。


光を浴びず、世間から注目されなかった人間が音楽を軸に再生し社会現象を引き起こす——。「Revival Production」は、そんな未来の実現を目指します。


 音楽という名の魔法を軸に、敗北を味わった人間が再生し、かつての輝きを凌駕するほどの光を放つ。そんな逆転劇を紡ぎ出す「Revival Production」からは、今後もそれぞれに深い傷を抱えたバーチャル・アーティストが続々とデビューする。楽曲はもちろん、その背景にあるストーリー展開が注目されることになるだろう。また、彼らは、Ibukiと同様にVision Singerという独自のジャンルに分類される。理想像を意味する「Vision」と歌い手を表す「Singer」を組み合わせた造語は、VTuberという既存の枠組みを超えて、シーンに旋風を巻き起こすという強い決意の表れと言える。

 Ibukiの1stシングル「藍嵐」は、ボカロP・Misumiが作詞、作曲、編曲の全てを手がけた。イラストはVTuberを含めたキャラクター・デザインや書籍の挿画を幅広く手がけるイラストレーターのカオミンが担当。冒頭に紹介したIbukiのキャラクター・デザインもカオミンが制作した。Ibukiのバックグラウンドを匂わせるエモーショナルなリリック、EDM特有のビルドアップから過去の傷跡を乗り越えていく強さが光るドロップへの解放的な展開、挑発的なラップパート……最前線のグローバルトレンドを吸収したサウンドと芯の通ったクールな歌声は、様々な殻を破る強さを持っている。


 ボカロ、アニソン、J-POPと幅広いジャンルの歌ってみた動画を投稿し、TikTokやInstagramなどの各ショート動画プラットフォームではアカペラのショート動画も公開するIbuki。特筆すべきは、ボカロ曲に限ると、次々と新たなトレンド楽曲が生まれるなかで、「六兆年と一夜物語」(kemu)、「夜咄ディセイブ」(じん)、「ブリキノダンス」(日向電工)、「東京テディベア」(Neru)、「心拍数♯0822」(蝶々P)などのボカロシーンの全盛期を築いた2010年代のキラーチューンを、積極的にアカペラショート動画でカバーしていることだ。6月12日に投稿された椎名林檎の「ギブス」(2000年)の歌ってみた動画にも、「懐かしい」「Ibukiさんの歌声はタイムマシン」といったコメントが散見された。成熟したその歌声は、普遍的な美しさを奏でており、聴き手の心をノスタルジーで満たす不思議な力を内包していると感じる。このように、Vision Singerは、自らの物語の中でドラマティックな復活を遂げる一方で、現実世界にもリバイバルの波を起こす。刻んだ過去にも価値を見出だすことで、リスナーととともに未来への階段を駆け上がっていく。


 今後のプロジェクト制作陣としての参加が決定しているのは、「KAMITSUBAKI STUDIO」所属の雄之助をはじめ、niki、yowanecity、Purukichiなど、世界水準のエレクトロサウンドを生み出すボカロシーンのクリエイター。最新のトレンドから過去のムーブメントまでをも掬い上げるこの壮大なプロジェクトは、核心をついた作品で世界中の音楽ファンに響くポテンシャルを秘めている。

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