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<インタビュー>緑仙流“幸せのレシピ”を伝授、『イタダキマスノススメ』がロック色強めになった経緯は?



緑仙インタビュー

Text & Interview: 小町碧音

 バーチャルライバーグループ「にじさんじ」所属の緑仙が、2ndミニアルバム『イタダキマスノススメ』をリリースした。自身のルーツであるギターロックを軸に、心揺さぶるエモーショナルな楽曲から、心を弾ませるポップチューンまで、聴きごたえのある一枚に仕上がっている。

 6年間の活動を通して独自の価値観を築いてきた緑仙。今回のインタビューでは、その片鱗を垣間見ることができた。まさに、今作『イタダキマスノススメ』は、緑仙流の“幸せのレシピ”といえるだろう。

──前作『パラグラム』のリリースからしばらく経ちますが、その間はどのように過ごされていましたか?

緑仙:今年の頭ぐらいに2か月ほど休みを取りました。その間に旅行や温泉に行ったりして、めちゃくちゃゆっくり過ごしました。今回のアルバムの歌詞を書きつつ、同時に作業も進めていたので、その心の余裕が歌詞に反映されていると思います。

──今作は、メジャーデビュー後、初めて、共作を含めた全曲の作詞を緑仙さんが手掛けられたそうですね。作詞にチャレンジしてみようと思ったきっかけは?

緑仙:昔から「こうなるためには、何歳までこれをしておかなきゃいけない」と計画を立てる人生年表を作る癖があって。音楽も同じで、逆算して計画を立てています。以前、YouTubeの雑談配信でも、「いつか大きなライブに、にじさんじとしてではなく、アーティスト・緑仙として呼ばれる存在になりたい。その時、ギターは弾けて、歌詞も書けるようになっていたい」と話していたんです。そのために映画を観る期間を設けたりしました。

──計画的なんですね。

緑仙:当時作った年表によると、作詞に挑戦するのはちょうど今くらいだったんです。前作よりも自分の気持ちを伝えるために、歌詞にもチャレンジしたいと思っていたタイミングでもありました。この調子で年表を埋めていって、最終的には一つの目標にしているフェスに出演したいと思っています。


──今回のアルバムは、どんな構想から生まれたのでしょう。

緑仙:『パラグラム』を経て、これから緑仙は音楽でどういうことをしたくて、何を伝えていきたいのか。そういうことを考えた時に、一番相性がいいのはロックだと思ったんですね。これまでの経験上、心揺さぶられる瞬間が多かったのはロックだったので。

──では、ロックにまつわる感動エピソードを一つ教えていただけますか?

緑仙:どうしよう……いっぱいあるよ(笑)。 そもそも、僕の地元にはライブハウスがなかったので、好きなアーティストが全国ツアーを発表しても、僕の住んでいる県に来ることは、まずなかったんですね(笑)。実家も厳しくて、夜行バスに乗ってライブに行くなんて、もってのほかで。まじめにすくすくと育ちました。

そんな田舎者の緑仙が、キューミリ(9mm Parabellum Bullet)の「Black Market Blues」をフェスで初めて生で聴いた時は衝撃でした。年上の方々に囲まれている中で聴いていたんですけど、音の圧がすごくて! 音楽って、聴く場所や生演奏でこんなに違うんだと実感しましたね。

それ以来、いろんなライブに行くようになりました。友達の影響でフォーリミ(04 Limited Sazabys)のライブに行ってから、僕も彼らのことが大好きになり、そこからまた新しい繋がりが生まれました。ライブって、新しいコミュニティと出会える場所でもあるんだと、すごく感動しました。

──「リコネクト」にも、ラジオを通して生まれた“繋がり”が描かれているように感じたのですが、どうでしょうか?

緑仙:ラジオパーソナリティを担当させていただくようになってから、今まで接点がなかった人たちと繋がれたことがすごく嬉しかったんです。例えば、学生時代の友達(クラスメイト)から「緑の声、運転中に聴いたよ!」ってInstagramのDMが来たり。特に嬉しかったのは、昨年亡くなった祖父のことです。亡くなる直前まで僕のラジオを聴いてくれて、僕がどんな活動をしているのかを感じてくれました。

──緑仙さんの活動は、なかなか伝わりづらいところもあると思いますが、ラジオを通して伝わったんですね。

緑仙: 将来的には「音楽と真剣に向き合っています」と、胸を張って言えるアーティストになりたいと思っています。VTuberだとか、関係なく。ラジオから流れた声が、自然と聴いてくれる人の耳に届いたみたいに、僕の音楽も、たくさんの人に届いたら嬉しいです。

実は、今作の収録曲のなかで最初に歌詞を書いたのが、この「リコネクト」でした。なので、アルバムの中でも特に素直で優しい気持ちで書けた印象があって。「緑仙、これは歌詞いけるぞ!」って自分でも思いました(笑)。でもそれ以外はいつも通り、ちょっと暗い(笑)。


──緑仙さんらしさがあっていいと思います(笑)。ラジオのリスナーさんとの距離感は、YouTubeの視聴者とは違いますか?

緑仙:全然違いますね。YouTubeは、僕のことを何かしらで知っていたり、「あなたへのおすすめ」で表示された人が見てくれていたりするので、緑仙を知っている前提で話しています。でも、ラジオはたまたまその時間帯が暇だから聴いていた、なんて人もいるので、話す内容や話し方も結構違います。ラジオは、自分にとっての新しいコミュニティであり、居場所です。

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僕の幸せは、“自分なりの幸せを定義したクッキー”を食べること

──なかでも、「独善食」「なんでですか?」は、比較から生まれる苦痛が歌われています。

緑仙:インターネットの世界にいると、どうしても他人と自分を比べてしまう時がありますよね。それが活力になることもあるんですけど、逆に落ち込んだり、傷ついたりもします。でも、誰かが決めた「幸せ」の形に自分を当てはめようとしているから、辛くなるんじゃないかなって。

だからこそ、自分にとっての「幸せ」の定義を見つけることが大切なんだと思います。そうすれば、「自分は幸せじゃないのかも」って不安になったり、逆に本当は幸せなのにそれに気づけなかったりすることもなくなる。「独善食」は、暗いかもしれませんけど、周りの意見に流されずに、自分を持って生きている人の強さの中にある明るさをイメージして制作しました。


──最近、幸せだと感じたことはありました?

緑仙:ラジオ作家の方が着ていた変な犬のTシャツが可愛くて、同じものを買っちゃいました(笑)。そういうささやかな幸せを見逃さないように生きてますね。

──「なんでですか?」は緑仙さんの口癖だと聞きました。

緑仙:そうみたいです(笑)。分からないことや納得できないことがあると、すごく気になってしまうんです。もちろん、自分とは違う意見の人がいることも理解しています。だからこそ、その人なりの答えを聞いて、相手のことを知りたいし、理解したい。だから、「なんでですか?」って聞いちゃうんです。

──特に思い入れの強い楽曲は?

緑仙:「Blowin’ Wind is blowin’」ですね。ベガルタ仙台にとって30周年という節目の年であり、J2の現状をどう乗り越えていくか、サポーターにとっても大切な年だと感じていました。僕の声が選手のみなさんの追い風になることで、あと一歩を踏み出す力を届けたいと思っています。ベガルタ仙台の歴史の重み、選手への熱い想いを噛みしめるように歌いました。

──制作は、どのように進められたのですか?

緑仙:やり取りは交換日記形式で進めていきましたね。ebaさんの楽曲では、最初にいただいたメロディーに僕が歌詞を乗せて、藤林さんが修正を加え、さらに僕が修正する流れです。(ぼっち)ぼろまるさんとの楽曲も同じ方法で制作しました。

──ぼっちぼろまるさんとの共作「しあわせクッキー」と「友達代表宣言」は、笑顔になれる、とてもハッピーな楽曲です。

緑仙:ありがとうございます。特に「友達代表宣言」は、仲の良い友達が結婚するという嬉しい気持ちの反面、「もう遊んでくれないかも」と思ってしまう僕の気持ちを表現した楽曲です。「友達として何ができるか」をぼろまるさんとご飯を食べながら話し合って。最初、僕は〈ずっと前だけを向いて、後ろは振り返るな〉という歌詞を書いたんですけど、〈後ろの敵なら僕らに任せてくれ〉と変えてくれたんです。これは僕には絶対に出てこない表現で、ぼろまるさんらしい素敵な一文だなと感激しました。すごく温かくて、ちっちゃいぼろまるが反復横跳びをして背中についてくるイメージが浮かぶ(笑)。

──緑仙さんは甘いお菓子を、よく食べますか?

緑仙:実は、甘いものが苦手で……。でも、クッキーって家で焼くと甘さを控えめに作れるじゃないですか。焼きたての手作りクッキー(甘さ控えめ)という概念がすごく好きです。

──自分で作ると、好みの甘さに調整できるのも魅力ですよね。

緑仙:そうですね。僕の幸せは、そういう“自分なりの幸せを定義したクッキー”を食べることなんですよ。配信やラジオでもたくさん言っているので、このアルバムを楽しみに待ってくれているみんなは「しあわせクッキー」というタイトルだけで「あ、緑仙の歌だ!」と思ってくれているかもしれません(笑)。

──最後は、緑仙さんの言葉で締めくくりたいのですが、人生を楽しむコツがあれば教えてください。

緑仙:僕自身、学校生活がうまくいかなくて、インターネットという居場所を見つけたことが、全ての始まりでした。そこでYouTube活動を始めて、同じ趣味の人たちと繋がれたことで「一人じゃない」と思えたんです。最近のラジオでも、また新しい場所を見つけられました。本当に幸せなことだなって思います。

実は、2か月ほどのお休みの間、インターネットから離れようとした時もあったんです。滝を見に行ったり、温泉に行ったり、麻雀を打ちに行ったりして。大切なのは、ずっと同じ場所にいる必要はないということ。全ての場所で「ちょうど良い距離感」を保ちながら、視野を広く持つことで、新しい出会いを逃さないようにする。案外、気づいていないだけで、すぐ近くにチャンスは転がっているかもしれません。もしかしたら海外にも。自分を大事にしてあげたいし、みんなにも自分を大事にしてほしいです。現実と上手に付き合っていきましょう。

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