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<コラム>「鬼ノ宴」がバイラルヒット中の友成空とは? 豊富な音楽遍歴から生まれるポップミュージックの魅力



コラム

Text:柴那典

 2024年上半期、最もブレイクしたアーティストの一人が友成空だ。

 2024年1月10日に配信リリースした「鬼ノ宴」が大きな注目を集め、2024年上半期Billboard JAPAN“Heatseekers Songs”でも1位となった友成空。2002年生まれ、作詞・作曲・アレンジに加え、イラストも自ら手掛けるマルチな才能を持つシンガーソングライターだ。TikTokとSpotifyが共同でアーティストを応援するプログラム『Buzz Tracker』のMonthly Artist 第27弾にも決定した。

 バイラルヒットとなった「鬼ノ宴」は、和のテイストを感じさせるメロディとファンキーなグルーヴ、癖のある言葉と歌いまわしが印象的で、一度聴くだけで覚えてしまうキャッチーさを持つ楽曲。この曲がどんな反響を集め、どうヒットしていったのか。そもそも友成空とはどんなアーティストなのか。本記事で紐解きたい。

 きっかけになったのはTikTokだ。友成空が自身のアカウントで「鬼の宴って曲作った。」と1分強のデモバージョンの動画をアップしたのが2023年11月のこと。SNSで徐々に話題が広まり2023年末には250万再生を突破するなど反響が広まる中、配信リリースと同日にYouTubeに公開されたリリック・ビデオから本格的に火がついた。このリリック・ビデオは現在3,800万回再生を突破。3月1日に公開されたミュージック・ビデオも1,000万回再生を超え(6月17日時点)、動画サイトからのバイラルヒットとなった。


「鬼ノ宴」Lyric Video


 Billboard JAPANチャートにはリリースから2週間後となる2024年1月31日公開(集計期間 2024年1月22日~28日)の“Heatseekers Songs”で14位に初登場している。翌週2月7日公開チャートで4位にランクアップし、さらに2週後の2月21日公開チャートでは首位に。その後、3月6日公開チャートまで3週連続の首位を獲得した。

 “JAPAN Hot 100”では、“Heatseekers Songs”にて首位を獲得した2月21日公開チャートで90位に初登場。そこから徐々に順位を上げ3月13日公開チャートにて20位にランクイン(トップ20入りに伴い、3月13日チャートからは“Heatseekers Songs”の集計対象外アーティストとなっている)。指標を見ると動画再生およびUGC(二次創作動画)を追いかける形でストリーミングチャートが上昇し、ロングヒットとなった。

 TikTokとYouTubeに数々の「歌ってみた」動画が投稿されるなどブームを巻き起こしたこの曲。その起因となったのはあくまで楽曲の持つパワーだ。ポイントは民謡にも通じる和のメロディ、古風な言葉遣いのリリック、そして随所に仕込まれたギミックだろう。TikTokに最初に投稿されたデモバージョンの動画にも〈宴が始月曜〉の〈始月曜〉を「はじマンデー」と読ませるフレーズ、日本画風のイラストを用いた映像があり、この時点で多くの人を惹きつけていた。さらに2番では〈今宵は帰日曜〉の〈帰日曜〉を「かえサンデー」と読ませる。水の音が随所に仕込まれたリズムなど、サウンドにも仕掛けが多い。

 歌詞は鬼の宴に招かれた主人公が、〈踏み外すのも惡くない〉や〈堕ちるとこまで堕ちなはれ〉と、その妖しくも快楽的な誘いに応じていくストーリーを描く。ユーモラスで、どこか露悪的な表現も魅力になっている。

 そして、興味深いのは友成空というアーティストにとって「鬼ノ宴」が、ひとつの新境地として作られた楽曲だということだ。

 2021年3月31日、18歳の時に5曲入りの音源『18』でデビューした友成空。小学3年生ごろから作曲を始め、高校3年生のときに事務所へ送ったデモテープをきっかけにシンガーソングライターとしてのデビューが決定したという。

 『18』に収録されているのは「鬼ノ宴」のような癖の強い楽曲ではなく、爽やかなシティ・ポップの「5号線」や、シンプルなピアノバラードの「看板」など、いわゆる王道のポップスが中心だ。

 大貫妙子や竹内まりやなどを中心に、洋邦幅広く聴いてきたというリスナー遍歴を持つ友成空。2022年に入ると、TikTokアカウントに様々なカバー動画を投稿していく。松任谷由実、山下達郎、星野源、藤井 風、マルーン5、トム・ミッシュなどバラエティに富んだ楽曲をピアノ弾き語りで歌っている。洒脱にアレンジされたKANA-BOON「ないものねだり」のカバー、MONKEY MAJIK「空はまるで」のカバーはデジタルリリースもされた。

 2023年12月にリリースされた「改札」は、温かな音色に乗せて愛する相手への切ない思いを歌うハートウォーミングな一曲。2024年3月リリースの「I LOVE ME!」は軽快なリズムとゴスペル調のコーラスと共に〈ぼくのままで生きていたい〉と歌う晴れやかなポップソングだ。

 そういう、親しみやすいアコースティックなサウンドに乗せて等身大の素朴な思いを歌う“グッド・ミュージック”が中心だった友成空のデビュー以来の発表曲を並べて聴くと、むしろ「鬼ノ宴」のほうが異色作だったということがわかる。

 一方、2024年5月リリースの「睨めっ娘」は、明らかに「鬼ノ宴」で開拓した境地の延長線上にある楽曲。〈あっちゃぁ あっちゃぁ/またやった/惚れたら最後と分かるのに〉と、ひねりのある言葉遣いと和風のメロディで、ひと目惚れの情景を歌う。疾走感あるリズム、小気味よいギターリフにシンセのフレーズ、途中でオペラ風に展開する目まぐるしい曲調と、強力なフックを持つ楽曲だ。




「睨めっ娘」Lyric Video


 おそらく、今は友成空というアーティストにとって、大きなターニングポイントの季節を迎えているのではないだろうか。シティ・ポップを根っこに、いわゆるJ-POPとしての“清涼感”や“親しみやすさ”を持ち味にしてきたシンガーソングライターが、TikTokからのバイラルヒットをきっかけに、“毒気”や“妖しさ”という新たな持ち味を手にしたタイミングとも言える。

 ある意味、今の時代のポップスのあり方を象徴するような出来事とも言えるかもしれない。

 この先、友成空がどういう道を歩んでいくのか。マルチな才能と多彩なセンスを持つアーティストは、今の時代に「ポップであるということ」をどう見定めるのか。そのあたりも含めて、とても楽しみだ。

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