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<対談>花譜×崎山蒼志、コラボ曲「抱きしめて」で二人が得たもの



インタビューバナー

Interview & Text:森朋之


 様々なアーティストとのコラボレーション企画「組曲2」をスタートさせた花譜。第2弾楽曲「抱きしめて」は、シンガーソングライターの崎山蒼志が作詞・作曲を手がけた、儚さ、切なさ、美しさ、温かさが滲むミディアムチューンだ。

 以前から崎山の楽曲のリスナーであり、「五月雨」などをカバーしたこともある花譜にとって、今回のコラボレーションはどんな意味があったのか?「花譜さんの歌声をイメージして曲を書きました」(崎山)という「抱きしめて」について、花譜、崎山に語り合ってもらった。

お互いのファーストインプレッションは?

――花譜さんが崎山さんの音楽を知ったきっかけから教えてもらえますか?

花譜:(バラエティ番組)『日村がゆく!』のフォークソングGPで崎山さんが演奏している姿を見たのがきっかけです。めちゃくちゃカッコいいと思ったし、同世代でこんな歌詞が書ける人がいるんだ?!って。その映像を観たのは13歳か14歳のときだったんですけど、「来年か再来年、私にはどんな言葉が書けるんだろう?」って漠然と思った記憶があります。

崎山蒼志:(『日村がゆく!』に)出させてもらったのは、中3のときですね。ちょっと前に友達とそのときの映像を観たんですけど、恥ずかしかった(笑)。

▲崎山蒼志が出演した『日村がゆく!』第3回高校生フォークソングGP

――崎山さんが花譜さんの存在を認識したのは?

崎山蒼志:花譜さんが「五月雨」を歌ってくださったときですね。声の震える感じとシンクロしながら歌ってくださっていて、なおかつ柔らかさもあって。すごく不思議で、素敵な歌声だなと思って、そこから注目するようになりました。

花譜:ありがとうございます。「五月雨」はそれまで私が聴いてきた曲とは違っていて、すごく新しい感じがしました。崎山さんの歌声も好きだったので、何回も何回も聴いてからカバーさせていただきました。歌詞も独特の寂しさみたいなものを帯びていて、とても好きです。

▲花譜「五月雨(崎山蒼志カバー)」

崎山蒼志:うれしいです。「五月雨」を書いたのは13歳の頃なんですけど、当時感じていた寂しさとか怒り、思春期特有の感情をぶつけたような歌で。今聴くと、無意識下にある言葉を使っているなと思いますね。瞬発力というか、言葉の速さみたいなものが説得力につながっているような気がするし、楽曲を明確にしている感じがします。勢いで書いてたんですよね、たぶん。

花譜さんの曲では、長谷川白紙さんとのコラボ楽曲「蕾に雷」がすごく印象に残っています。花譜さんの柔らかい声、突き抜けるような歌声が同時に存在しているし、白紙さんらしい和音だったり、誰にも真似できない展開やサウンドがすごくて。「この曲を歌いこなせちゃうんだ?」という。今年の1月に観せていただいたライブでも歌っていたんですけど、めちゃくちゃカッコよかったです。

花譜:ありがとうございます。「蕾に雷」は歌っててとっても楽しい曲で。長谷川白紙さんから曲を送っていただいて、すぐ歌いました。

▲花譜×長谷川白紙「蕾に雷」

――崎山さんは昨年の夏に花譜さんのラジオ番組(InterFM『ぱんぱかカフぃR』)にゲスト出演。どんな話をしたんですか?

花譜:崎山さんがモンチッチを集めてるというお話が印象に残ってます。また増えましたか?

崎山蒼志:どうでしょうか?(笑) 母親もモンチッチが好きで、実家に帰ったら52センチのモンチッチが置いてありました。

花譜:玄関に置いてある招き猫みたいな(笑)。

崎山蒼志:ソファに鎮座してましたね(笑)。

リスペクトの中で生まれた「抱きしめて」

――では、崎山さん、花譜さんのコラボ曲「抱きしめて」について。花譜さんとしても待望のコラボレーションだったのでは?

花譜:そうですね。崎山さんの歌は何度かカバーさせてもらっているし、好きな曲もいっぱいあるので、コラボのお話が出たときはすごくうれしかったです。しかも一緒に歌えるという。

崎山蒼志:曲を作るときも一緒に歌うことを視野に入れていました。花譜さんの声にもインスピレーションを受けていたし、「花譜さんだったらこうやって歌うかな」と考えながらメロディを作りました。特に伸びているときの声が美しいなと思っていたので、1音1音が長い感じのメロディにしたかったんですよね。そういう制作は新鮮だったし、楽しかったです。

▲花譜×崎山蒼志「抱きしめて」

花譜:デモを聴かせてもらって、すぐに「すごく好きな曲だな」と思いました。そばにいない人のことを思っていて、寂しくても温かい……そういう気持ちを感じる曲だなって。

崎山蒼志:テーマとしては、誰かを思う曲というか。「今は会えないけど、思っている」だったり、「もう会えなくなった」だったり。寂しさのなかにある温かさ、高揚感みたいなものも込めたかったんですよね。

花譜:歌っているときも、自分と重なる部分がありました。誰かを思いながら窓の外をボーッと見ていたり、街灯が並んでいる景色が浮かんできて。それくらい身近に感じる歌だったんですよね、自分にとって。「こういうふうに歌いたい、聴かせたい」というイメージもハッキリしていたし、レコーディングではそれに向かって何回も歌いました。

崎山蒼志:花譜さんのボーカルが入って、曲がすごく有機的になりましたね。Aメロの部分はクリック(テンポのガイドとなる音)に対してちょっと後ろ気味で歌ってるんですけど、それもカッコよくて。花譜さんらしいなと思いました。

花譜:私が歌った後に崎山さんがアコギを入れてくださったんですけど、私の歌に寄り添いながら弾いてくれているのがわかって。すごくうれしかったです。

――崎山さんと花譜さんの声が重なる瞬間も、この曲の聴きどころですよね。

花譜:サビのところで声が重なって、そこから思いが溢れてきて。大きく広がっていく感じも印象的だったし、すごく好きだなと思いました。

崎山蒼志:普段よりもかなり低いキーで歌ってるんですよ。曲を作っていくなかで自然とそうなったんですけど、自分にとっては挑戦でしたね。花譜さんとハモっぽくなるところも好きだし、いい感じでシンクロできたのかなと。花譜さんのフロウが素敵だったし、語尾の感じとか、ちょっと寄せて歌ったところもあります。

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「抱きしめて」を作ったことで、二人が得たもの

――アレンジやサウンドメイクに関しては?

崎山蒼志:Naoki Itaiさん(ONE OK ROCK、THE ORAL CIGARETTES、緑黄色社会などの楽曲を手がけるクリエイター)が作ってくださったんですけど、デモの段階では「4つ打ちで、弦楽器っぽい音が鳴っている」という感じだったんです。Jim Legxacyというヒップホップ系の人の「Old Place」のイメージもありましたね。ジャージー・クラブ的な感じもあるし、エアリーな空間的のなかでキックが鳴っている。

▲Jim Legxacy「old place」

花譜:曲の後半に向かってどんどん高まっていって、空間が広がっていく感じも好きです。

――お互いのリスペクトが交差する素晴らしいコラボだと思います。「抱きしめて」を作ったことで、お二人が得たものとは?

崎山蒼志:(花譜さんは)とにかく歌声がスペシャルだし、自分自身のこともしっかり書けたのがよかったなと思いますね。自分の日常の気持ちも込められてる感じもあるし、花譜さんがさっき「窓から見える風景」「街灯が並んでいる」と言ってくれたこともうれしくて。そこは共有できているのかなと。

花譜:うれしいです。「抱きしめて」を制作していて感じたのは、“寂しい”にもいろんな聴こえ方があるんだって。ただ「寂しい、悲しい、うーん……」というだけではなくて、そのなかにはいろんな感情があるし、そこを模索していくことをすごく考えていましたね。

――“寂しい”のなかにもグラデーションがある、と。

花譜:そうですね。「もう会えない」と「会いたい」では、そのなかにある寂しさは違うので。

崎山蒼志:確かに。「抱きしめておくれよ」という歌詞もあるんですけど、この前、花譜さんが「花譜はバーチャル空間に存在しているから、実際には抱きしめられないんですよね」という話をしてくれて。(歌詞を書くときに)そのことをすごく意識していたわけではないんですけど、「本当にそうだな」と思ったんですよね。

花譜:(花譜は)実体が現実世界にあるわけではないし、「抱きしめる」って人の身体があるから出来ることなので。このタイトルと歌詞を見たときに、「崎山さんはバーチャルをこういうふうに捉えてくれたんだな」と思ったんですよね。

――なるほど。歌詞のなかに「ひとりきり/眠れない夜を過ごしているのかい?」というフレーズがありますが、お二人は眠れない夜に何をやってます?

崎山蒼志:マンガ読んだりしてますね。あとはテトリスとか。

花譜:私もマンガ読むか、手芸ですね。ずっと手を動かして、眠くなるまでやってます。

――ネットは見ない?

花譜:ネットも見ます(笑)。

崎山蒼志:僕もYouTubeショートとか見てますね。ラーメン二郎をめっちゃ食べてる人の動画とか(笑)。そういう動画を見ると、夜食を食べたいっていう気持ちがちょっと減るんですよ。

――花譜さんは今年、シンガーソングライター“廻花”としての活動をスタートさせました。崎山さんと関わったことで、ソングライターとして刺激を受けたところはありますか?

花譜:これまでは自分のため、自分が聴くために作ることが多くて、廻花としてデビューするまで「これだと伝わらないかな」みたいなことは全然考えてなかったんです。「抱きしめて」の歌詞もそうですけど、崎山さんの言葉はちゃんとみんなの心に届くし、先ほども言ったように私自身も自分のなかの景色と重ねることができた。きっと崎山さんの曲には聴いている人が自分を重ねられる余地みたいなものがあるんだろうなって。自分のために作った曲だとしても、他の人が自分に当てはめたり、誰かのためになる。私もそういう曲が作れたらいいなと思いました。

▲廻花「転校生」

――崎山さんは“リスナーが自分を重ねられる曲にする”ということを意識していますか?

崎山蒼志:ちょっと意識しているところはありますね。特に「抱きしめて」はそれが強いかなと思います。でも、もっと映像的な歌詞だったり、「これ、何のことを歌ってるんだろう?」という曲もあって。……歌詞って面白いですね(笑)。

――崎山さんの歌詞、すごく独創的だと思います。ちなみに崎山さん、今年は“超インプット”が目標だとか。

崎山蒼志:そうなんです。いろんな創作物を見たいし、今まで触れてなかったようなものにも触れていきたくて。(お笑い芸人の)永野さんが下北沢のヴィレッジヴァンガードでサブカルを語り尽くす動画があるんですけど、それがすごく良くて。それを観ていろいろ思い出したんですよね。子供の頃、家にたくさんマンガがあったんですけど、「これはまだちょっと読まないほうがいいかな」みたいなものもあったんですよ。たぶん内容がハードだったり表現がすごいんだと思うんですけど、もう20代なので、そういうものもどんどん読みたくて。奇怪とされてるもの、カルト的な人気の作品にも触れて、いろんな人の視点を取り入れたい。そういうものを求めている時期なんだと思いますね。

花譜:私も最近、ドキュメンタリーとかめっちゃ見たくて。とにかく知らないことが多すぎるなって……。崎山さんもドキュメンタリーがお好きなんですよね?

崎山蒼志:はい。NHKの「ドキュメント72時間」が大好きです。

――お二人ともインプットを求めている時期なのかも。花譜さん、崎山さんにもう1曲書いてもらうとしたら、どんな曲がいいですか?

花譜:え、どんな曲だろう……? この前、崎山さんが「走るのが好き」という話を聞いて。「烈走」という曲もあるし、ワーッと走り抜けていくような曲を一緒に歌ってみたいかも。

崎山蒼志:ぜひぜひ。やりましょう。

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花譜による新作EP『GSA』解説

――ここからは花譜さんの新作EP『GSA』について聞かせてください。1曲目の「ゲシュタルト」は、岡嶋かな多さん(作詞・作曲)、Jazzin' park(作詞・作曲・編曲)のよる超カラフルなアッパーチューン。

花譜:楽しすぎる曲です(笑)。最初からグッと掴まれるし、曲の展開もすごくて。スピード感もあるんですけど、歌っていて楽しかったですね。“ゲシュタルト(※)”については……花譜は、いろんな人の思いや力とかが集まって初めて成り立つものだと思ってるんですね。関わってくれている全員の意思を代弁している感覚もあるし、私1人では絶対に存在できないっていう。花譜として伝えなくちゃいけないこともあるし、(リスナーやファンから)受け取るものもあるけど、「これはみんなに贈られるべきものだな」みたいなことも考えるんですよ。「ゲシュタルト」という楽曲はそういう区切りがない状態というか、どうしたらいいかわからないけど、とりあえずエネルギーをバーッと外に出している感じがあって、めちゃくちゃ楽しいです(笑)。誰ともぶつかることなく、思うままに踊れる感じも好きです。
(※)《形態・姿などの意》知覚現象や認識活動を説明する概念で、部分の総和としてとらえられない合体構造に備わっている、特有の全体的構造をいう。

▲花譜「ゲシュタルト」

――〈ゲシュタルトゲシュタルト/どっかーん〉の歌い方も素敵です! 「スイマー」は繊細なサウンドメイク、ドラマティックなメロディが印象的な楽曲。

花譜:曲の始まりのところは誰かに向けているというより、一人で呟いているような感じで歌っていて。そこから内省して、どんどん自分のいる世界や想いが鮮明になって、溢れて出して……。すごく素敵な曲だなと思います。曲を作ってくださった水槽さんとお話をする機会があって、「自分の世界を変えられたいか、自分がその人の世界を変えたいか。花譜ちゃんはどっち?」と聞かれたんですよ。そのときに私なりに考えたんですけど、「“どっちか”ということではないかも」と思ったんですよね。この曲にも「あなたの正解に帰りたい/あなたの世界を変えたい」という歌詞があるんですが、まさにそうだなって。

――なるほど。花譜さんは活動を通して多くの人に影響を与えていると思いますが、受け取った人たちの反応をどう捉えていますか?

花譜:まず、花譜にはいろんな側面があるんですよ。歌だけではなくて、(花譜が所属する)KAMITSUBAKI STUDIOのゲームに登場したり、ナレーションのお仕事や、ライブのなかでは語りの部分もあって。それぞれに“像”が違うと思うし、全部が混ざっているんじゃないかなって。そのなかで「花譜ってこうだよね」というイメージができていると思うし、こちらから「こうです」と指定したくはなくて。でも、「ちょっと違うかもしれないな」と感じることもあったり……。やっぱりいろいろ混ざってるんだろうなと思いますね。

――そして3曲目の「アポカリプスより」は、音楽プロジェクト“Empty old City”のコンポーザー/プロデューサーのNeuronが作詞・作曲・編曲を担当。緻密なエレクトロサウンドと起伏に富んだメロディ、終末的イメージを描いた歌詞が一つになった楽曲です。

花譜:めっちゃカッコいいですよね! 疾走感のある音なんですけど、歌詞には葛藤や焦燥感もあるし、その裏ではウットリと陶酔するような感じもあって。どう歌おうか迷いましたけど、がんばって歌いました。“アポカリプス”という言葉も初めて知ったんですよ。

――花譜さんのボーカル表現の広がりを実感できるEPだと思います。今年は1月に国立代々木競技場 第一体育館で、バーチャルアーティストとして史上初の単独公演【花譜 4th ONE-MAN LIVE 「怪歌」】を開催。バーチャルシンガー“ソングライター”廻花としても活動がスタートするなど、大きなアクションが続いています。この後はどんな活動をしていきたいですか?

花譜:とにかくたくさん曲を作りたいですね。あとはなんだろう、さきほどの崎山さんとの対談でもお話したんですが、いろんなことを知りたくて。大学に通っているんですが、授業などを通して、これまでは絶対に興味を持たなかった作品や人との出会いがって。そのたびに「知らないことがありすぎる」と思うし、ちょっとずつでも新しいことに触れていきたいなって思ってますね。

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