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<2024年上半期チャート首位記念インタビュー>Creepy Nutsが国内&世界で“想定外”の13冠――「想像していないもの」を楽しんでいく
Interview & Text:Maiko Murata
2024年上半期のBillboard JAPAN各種チャート結果が発表された。計6指標からなる総合ソング・チャート“JAPAN Hot 100”では、Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」が総合首位を獲得。同曲は、24年1月より放送されたTVアニメ『マッシュル-MASHLE-』第2期オープニング・テーマに起用されており、アニメOPムービーの軽妙なダンスとともに、TikTokおよびストリーミングを中心に圧倒的な支持を集めた。その人気は日本国内にとどまらず、世界でヒットしている日本の楽曲をランキング化した“Global Japan Songs Excl. Japan”では、同チャート史上最長となる19連覇を達成。こちらもダントツの成績で上半期首位に輝き、他チャートもあわせて、史上初の計13冠を達成した。
国内外のチャートを駆け上がったその凄まじい勢いは、彼ら自身も予想すらしていなかったことだという。話を訊くと、ふたりに共通する「想像していなかったものを楽しむ」というマインドがくっきりと浮かび上がってきた。
ヒットは「あまり実感がない」「ピンとこない」
――「Bling-Bang-Bang-Born」が、Billboard JAPAN2024年上半期チャートにて“JAPAN Hot 100” “Global Japan Songs Excl. Japan”のほか、合計13のチャートで首位に輝きました。おめでとうございます。まずは受賞についての率直な感想をお聞かせください。
R-指定:全く想定していなかったので、驚きというか……あまり実感がないというのが勝っていますね。でも、ありがたい。嬉しいです。
DJ松永:俺もそうですね。完全にマイペースに「ゆっくり楽しく曲作るか」みたいなモードでやっていたところでのこれ(ヒット)だったので、より想定外というか。ちょっとありがたすぎてピンとこない、みたいな状態になっています(笑)。
――5月4日に放送されたNHK『ライブ・エール2024』ご出演時にも、ヒットの実感がないことに加えて「街中で聴いたことなんて一回もない!」とおっしゃっていましたもんね。
DJ松永:まだ街中で一回も聴いてないですね。自分のスマホの端末でしか聴いたことないですから。それって、(SNSの)アルゴリズムだから、素直に受け取れないじゃないですか(笑)。だから未だに信じられないですね。
――Rさんはどうですか?
R-指定:俺もそんなに街で遭遇したことなくて。ツアーで行った高松で、夜中に歩いていたらラーメン屋から聞こえてきたくらいですね。あとは、友達から「子どもがめっちゃ歌ってるわ」って動画が送られてきたりとか、先輩のラッパーから「ずっと子どもが歌ってる、勘弁してくれ」と言われたりとか、そういうのでちょっとずつ実感する……みたいな感じです。
Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」 × TV Anime「マッシュル-MASHLE-」
Collaboration Music Video
――チャートをみると、「Bling-Bang-Bang-Born」リリース前は、Creepy Nuts楽曲の“JAPAN Hot 100”最高位は「堕天」の35位(2022年9月14日発表)でした。その後「Bling-Bang-Bang-Born」で首位獲得後は、次作「二度寝」も最高9位(2024年4月10日発表)、その同週には「のびしろ」のチャート最高位も更新(58位)と、まさに「Bling-Bang-Bang-Born」のヒットを機に、国民的な地位を確立されたように思えるのですが……。
DJ松永:そうなんだ! ……衝撃ですね。
R-指定:見える景色はまだ、自分の生活圏内の中ではそんなに変わってないですね。だから、(実感は)間接的にって感じです。こういうふうに賞をいただいたりとか、インタビューをしてもらったりとか、チャートを見たり、さっき話したみたいに友達とかから聞いたり……間接的に「あ、聴いてくれてるんやな、いろんなところで」とは感じるようにはなりましたね。
――Rさんの耳に入ってくるリアクションは、これまでの楽曲や予想とは違ったんでしょうか? たとえば、さっきお話しいただいた「子どもが歌っている」こととか。
R-指定:確かに、それはあんまり想定していなかったですね。子どもが聴いて楽しんでくれるタイプの曲ではないなと思ってたんで。自分らの好きなように作っていっただけなので、そういう楽しみ方の解釈をしてくれるんやっていうのも、めちゃくちゃ意外でしたね。
DJ松永:まあ、常にそうではあるけど、あんまり聴き手のことを想像しないというか。この曲に関しては特に、“自己満足”と言ったら語弊がありますけど、自分たちの制作欲だけというか……そこを喜ばせるためみたいな感じで、割とマニアックな作りにしたんです。だから作れた時点で満足という。リズムとかもだいぶシビアな曲だし、そもそも誰かが歌うことも考えなかった(笑)。だから子どもたちが歌ってるのとか、ちょっと衝撃ですよね。パロディー映像を観ているかのような気持ちです。
世界のどこにもないタイプの曲ができたときが、
いちばんふたりで達成感をおぼえるとき
――ラジオ『Creepy Nutsのオールナイトニッポン』シリーズのレギュラー放送時には、「HIPHOPニュース」のコーナーで世界のラッパーのおもしろニュースをよくお話しされていました。国内外のラッパーへの意識が高いなあと感じていたんですが、正直、自分たちもいつかは彼らのように……!というような思いはありましたか?
DJ松永:あんま考えてなくない?
R-指定:そんなん考えてないからこそ、海外の話題でゲラゲラ笑えたというか(笑)。
DJ松永:ただのヒップホップ好きたちがプライベートでやってる、友達の間柄でラッパーをイジりながらゲラゲラ笑う、みたいな。いちばん無責任な状態(笑)。
R-指定:たぶん、意識は全くしてなかったですね。特に自分らのスタイルが――こと俺のラップに関しては超土着的な、日本の言語を知ってくれてるからこそ面白いと思えるタイプのラップかなと思ってた節はあるんです。もちろん、言語がわからなくても聴いてヤバいラップをしたい、というのはあるんですけど、とりわけ自分の肝は日本語やったりするなと思っていたんで。あんま海外に寄せに行こうとか、そういう意識はもともとそんなになかったですね。
――なるほど。Rさんのラップが今お話しいただいたように“日本的”とするなら、松永さんのトラックにもすごく“日本的”なところを感じるんですが、松永さんはどういうふうに思ってらっしゃいますか? 「Bling-Bang-Bang-Born」も、ジャージー・クラブのビートとしても、たとえばアメリカのトラックメーカーが作ってもこのような仕上がりにはならない気がするんです。松永さんならではというか。
DJ松永:そうですね……。「聴いたことがないのをつくろう」みたいな感じの認識なんですよね。それこそ、ミックスするときとかリファレンスがないから、エンジニアさんにイメージを伝えられないって現象がよく起きるんですよ。似てる曲がないっていう。
――それは「Bling-Bang-Bang-Born」以外もですか?
DJ松永:うん、以外も。「二度寝」とかもそうですね。
二度寝 / Creepy Nuts
R-指定:俺らの中で、作ってるときに「これは“ない”曲やな」っていうときがいちばん手応え感じるよな。
DJ松永:ほんとほんと。
R-指定:世界……もちろんUSにも、他の海外の国にもないタイプの曲ができたなってときが、いちばんふたりで達成感をおぼえるときですね。「また聴いたことないやつ出来たで!」みたいな。
DJ松永:それこそ、トラックの音色も自分の思いつきで作って……。ラテンとジャージー・クラブの組み合わせっていうのもあまりなかったし。プラス、取り入れてきたもの、インスピレーションを受けたものが、一曲の中にひとつじゃなくいくつかあって。それを混ぜて、自分の手癖もそこに合わさってくる。かつ、毎回作るときに“事故”(予想外の展開)待ちで何回もガチャガチャやるんです。コード感のあるジャージー・クラブは「Bling-Bang-Bang-Born」の他にもあるんですけど、それはずっと歌っぽくて、空間がもっと広いもののほうが多くて。あんなにリフがしっかりしているものはないんですよね。で、リフがしっかりしているものってなってくると、がっつりラップか、サンプリング系のジャージー・クラブばかり。しかも、もっと音が粗くて、自分が作りたいクオリティのものではない。他にはなかったんだよなあ。
――リリック面でいうと、「Bling-Bang-Bang-Born」も「二度寝」もそれぞれアニメ、ドラマのタイアップ作で、作品に寄り添った内容を含みつつ、それだけで終わらない内容にされているところが秀逸だなと思います。リリックはオファーを受けてから組み立て始めるんですか?
R-指定:基本そうですね。でも、今までの自分たちのタイアップ曲を振り返っても、結局ヒップホップというアートフォーム上、どうしても自分のことを歌うし、歌いたいし、そうじゃないほうが難しいってのがあるんで。結局「二度寝」も「Bling-Bang-Bang-Born」も、タイアップ元はあれど、最終的に俺の話になるようには書いてるってところは変わらずですね。むしろ、そういうタイアップがあったときに“寄せる”というより、お題や原作の世界観があったうえで「じゃあ自分はどうなのか?」みたいな問いかけになる。最終的には自分のこととして、最後まで背負っていけるようなリリックにするっていうのが、基本的には変わらないやり方です。
――タイアップだけで終わる曲ではないですもんね。
R-指定:そうですね。やっぱライブで、自分で歌うから自分のことを(歌う)、っていうのは最終的にはありますね。
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