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<インタビュー>亀田誠治、6年目を迎える【日比谷音楽祭】~続けたことによって生まれた変化とは
2019年にスタートした【日比谷音楽祭】が、今年も6月8日、9日に開催される。“音楽の新しい循環をみんなでつくる、フリーでボーダーレスな音楽祭”をコンセプトに立ち上げられ、入場無料の都市型フェスであることが特徴だ。そんな音楽祭の実行委員長を務める、亀田誠治に今年もインタビュー。この6年間の変化や、目指していきたい方向について話を聞いた。(Interview & Text: 高嶋直子)
音楽市場を活性化するために必要なのは、特典などの付加価値ではないと思った
――今年で【日比谷音楽祭】は6年目を迎えます。この音楽祭は、入場料無料で、クラウドファンディング、企業からの協賛、行政からの助成金によって開催するという、他フェスとは異なる座組で実施されています。このやり方について、6年間で周りからの反応に変化はありましたか?
亀田:企画を立ち上げた当初、最も言われたのは「この規模でフリーイベントをやるなんて無理。普通に入場料金をいただいて、興行として音楽フェスを立ち上げた方が良い。」でした。ただ、このフェスを立ち上げた2018年、音楽の聴かれ方が大きく変わっているのを感じていて。ライフスタイルも含めて、様々な価値観が変化していく中、音楽を聴く人を増やしていくためには、もっと生活の中に音楽を根付かせる必要があると思っていました。
当時、僕が東京で見ていた景色は、特典が付いた何種類ものCDや、アンコールが終わる前に、最後の曲を聞かずにグッズ売り場に走る人々の姿でした。それを見て「アーティストが表現したい、肝心の音楽というのはどこに行ってしまったのだろう」と思っていて。
そんな時に、ニューヨークのセントラルパークで無料開催されている【サマー・ステージ】を見たんです。ロック、ジャズ、ポップス、クラシックと様々なジャンルのアーティストが出演していて、キャリアも新進気鋭のアーティストからレジェンドまで様々で。そしてステージを見るために、ニューヨーク中からお客さんが集まって、公園で列を作っていました。その光景を見て、「音楽って、こうやって人々の生活に根付いていくんだな」と感じたんです。特典などの付加価値を付けて聴いてもらうのではなく、本物のステージを経験して、その感動から大きな渦が生まれて、音楽市場は活性化していくんだなと。
チケット代を無料にするということは、どんなイベントであっても参加するハードルが大きく下がります。そんな音楽フェスを、東京のど真ん中で開催したいと思いました。
――一番大変だったことは、なんですか?
亀田:とにかく、資金集めです。日比谷音楽祭を立ち上げた当初、日本ではクラウドファンディングという文化が、まだまだ根付いていませんでした。日本人らしい、つつましやかな姿勢の表れなのかもしれませんが、第一回目の頃は、お金を出してもらうっていうことを言い出しづらいような空気がありました。
ですが、コロナ禍を経て少しずつ雰囲気が変わってきて。「あと、いくら必要なんです。みんなで支援してください」ということを正々堂々と言えるようになりましたし、応援してくださる皆さんにも、プロジェクトを支援して、誰かの役に立つことの素晴らしさが伝わっていった6年間だったと思います。
――協賛企業の反応に変化はありましたか?
亀田:そうですね。社員の皆さんの心身を健康にするためには、一週間の残業時間を減らすだけではなくて、音楽のような、人の心に水を与えてくれるようなものの存在が必要です。そして、それがこれからより重要になってくるという話を各社にプレゼンテーションし、皆さんに賛同いただきました。
僕がニューヨークで見てきた、本当の豊かさというのを各企業の皆さんも考えるようになってきて、人が生きやすい社会、音楽が根付くことによる豊かな社会が求められるようになってきたのかなと。なので、あきらめずに日比谷音楽祭を続けてきて良かったと思っています。
――出演者の皆様の反応はいかがですか?
亀田:音量制限があったり、日比谷公園、日比谷野音という環境上、制限されてしまうこともあるんですが、アーティストの皆さんから出てみたい、出て良かったと思っていただけるフェスの一つになってきたと思います。なので、佐野元春さんやハラミちゃんのように、アーティストご本人から、「日比谷音楽祭に出たい」と連絡をくださるケースも増えてきました。
公演情報
【日比谷音楽祭2024】
2024年6月8日(土)、9日(日)
会場:日比谷公園 (大音楽堂(野音) /小音楽堂 /にれのき広場 /第二花壇 /噴水広場 /日比谷図書文化館大ホール・小ホール /草地広場)
サテライト会場:東京ミッドタウン日比谷(日比谷ステップ広場・パークビューガーデン)
料金:無料
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豊かな音楽体験というのはミュージシャンになってスターになるという道だけではない
――日比谷音楽祭のコンセプトは、「フリー(無料)」と、「ボーダーレス」です。日比谷野音で開催される【Hibiya Dream Session】では、様々なジャンルのアーティストが共演しますね。
亀田:組み合わせは、めちゃくちゃ考えています。第一線で活躍し続けているスピッツと、これからの日本の音楽シーンを牽引していくようなAile The Shotaが同じステージに立つということに、すごく意味を感じていて。初めて聞くアーティストのことも好きになってもらえるよう、全アーティストと打ち合わせをして、セットリストを作っています。なので、自分の生活の中に、常に日比谷音楽祭があるような生活ですね。
――そこまでしようと思う、原動力は何でしょうか?
亀田:一番は、来てくださるお客さんや出演者の皆さんの多幸感に満ちた笑顔や声援です。あと、毎年【日比谷音楽祭】を開催するために様々な企画を考えて、色んなアーティストに声を掛けるので、終わると全部出し切って、僕自身が空っぽになるんです。そして、また1年かけて新しいものが、僕の中に入ってくる。なのでエネルギーがあるから音楽祭をやるのではなく、音楽祭をやることで、僕の中のエンジンが回って、またエネルギーが循環しているように感じます。また、【日比谷音楽祭】でコラボレーションしたアーティスト達が、他でもコラボしていたり。そういう新しい循環が生まれる喜びがありますね。
【日比谷音楽祭】に関わることで、普段の音楽プロデューサーとしての仕事では出会わない人とも、たくさん仕事をすることができました。そして、音楽業界以外の社会の基準や、社会が求めていることを知ることもできました。そういった経験は、僕自身を大きく成長させてくれますし、それを音楽業界に還元していけたらなと思っています。
――ライブ以外に、ワークショップも数多く発表されています。亀田さんも、武部聡志さんと一緒に【武亀セッションワークショップ】を今年も開催されますね。
亀田:参加したい方には、ご自分の演奏を録画してSNSに投稿していただくのですが、皆さん、リテラシーが高くて驚きますね。映像を、ちゃんと作品として仕上げられていて。参加される方はプロのミュージシャンではないので、日頃は別の仕事をされたりしています。そんな皆さんの生活に、音楽というものが溶け込んでいるんだなと思いますし、豊かな音楽体験というのはミュージシャンになってスターになるという道だけではなく、星の数ほどあるんだなと感じました。
他にも、去年は台風で開催できなかった、ダンスのワークショップも開催予定で、今年はEXILE TETSUYAさん、中務裕太(GENERATIONS)さん、Dream Amiさんなどが出演されます。LDHに所属されている皆さんは、子供の頃から音楽とダンスが大好きで夢中になって練習して、オーディションに合格して、今はスターとして活躍されています。そして、今度は子供たちに還元していきたいという思いで活動されていて、ワークショップを実施してくれることになりました。
あとは、出田りあさんという、パリのコンセルヴァトワール出身で現在はベルリンで活躍されているマリンバ奏者の方によるワークショップを初開催します。マリンバって、『きょうの料理』のテーマ曲や、CM、携帯電話の着信音とか、とても身近なところで使われているんですが、実際には見たこともない方が多いのが歯がゆくて。なので、日比谷公園のASOBIという草地広場で誰でも参加できるワークショップを開催します。
――これからの【日比谷音楽祭】が、どのようになっていってほしいですか。
亀田:ツアーって、ホール、アリーナ、ドームと言ったように会場を大きくしていくことが目標じゃないですか。でも、【日比谷音楽祭】は今のサイズがちょうど良くって。はじめにお話ししたような、音楽という文化を社会に根付かせていくことが目的なので、そのきっかけになるようなアプローチを、これからも丁寧に続けていきたいと思っています。あとは、いま日比谷公園で工事が行われていますが、日比谷野音も含めて、日比谷エリアは約10年間かけて改修していきます。なので、毎年、様々な制限がある中で開催することになりますが、しなやかに対応しながら続けていきたいと思います。
この話を先日、KREVAさんともしていたんですが、「サグラダファミリアなんて、百何十年も工事してるんだから10年なんて、あっという間だよ」と言われました(笑)。日比谷公園や日比谷野音の中には、変わらない良さ、変わっていく良さの両方があると思います。そんな日比谷という場所で、様々な人が参加しながら、【日比谷音楽祭】を育てていくことによって、音楽が社会に溶け込んでいく…。そんな循環を生んでいきたいと思っています。
公演情報
【日比谷音楽祭2024】
2024年6月8日(土)、9日(日)
会場:日比谷公園 (大音楽堂(野音) /小音楽堂 /にれのき広場 /第二花壇 /噴水広場 /日比谷図書文化館大ホール・小ホール /草地広場)
サテライト会場:東京ミッドタウン日比谷(日比谷ステップ広場・パークビューガーデン)
料金:無料
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