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<インタビュー前編>小室哲哉、オーケストラとの共演を振り返る



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 小室哲哉が一昨年開催した初のオーケストラコンサート【billboard classics 小室哲哉 Premium Symphonic Concert 2022 -HISTORIA-】は、J-POP史に残る数々のTKメロディの歴史と"強さ"を、オーケストラが紐解き、証明した3公演だった。そして2024年—【billboard classics ELECTRO produced by Tetsuya Komuro】を6月29日愛知県芸術劇場大ホールを皮切りに、全国で6公演開催する。初のフルオーケストラコンサートを経て感じた衝動を、"ELECTRO produced by Tetsuya Komuro"という進化形のオーケストラコンサートとして提示する。

 電子音と生音が交差し生まれるダイナミズムが観客を魅了した前回、今回はどんな熱狂をプロデュースするのか、インタビューした。【前編】では前回初めて体感したオーケストラの凄み、そこから得たことを聞かせてもらった。
(Interview & Text:田中久勝/Photo:石阪大輔)


初めてのオーケストラコンサートで得たもの

── 一昨年初めてフルオーケストラとの共演を経験されていかがでしたか? 

小室:初めてだったので、もちろんすごく刺激的だったことは確かですが、終わってみると正直もっとああすればよかった、こうすればよかったという思いが強かったです(笑)。この感覚どこかで感じたことがあったな……って記憶を辿ると、TM NETWORKのデビューアルバム『RAINBOW RAINBOW』(1984年)が完成した時に感じた感覚と同じでした。デビュー作に関しては、ほとんどのアーティストがそう感じていると思います。


── 手探り、という感覚が強かったのでしょうか? 

小室:僕は音楽大学も出ていないし、最初からオーケストラの皆さんに対してコンプレックスのようなものがあったのかもしれません。例えば皆さんとリハーサルをやっていて「そこはもっとシャープにしてほしいんですよね」と言いたくてもなかなか直接伝えることができなかったというか。でも僕はプロデュースで、指揮の藤原いくろうさんがトランスレーター的な存在で、オーケストラの皆さんに音の意図を的確に伝えてくださったので、いいコンサートになりました。


──60人を超えるオーケストラと感性と息を合わせる瞬間、未知の世界に挑んで得たものも多いと思います。

小室:新鮮というか驚きました。コンダクターの手、タクトだけでリズムとの距離を測って、それぞれの生活や人生がある約60人のオーケストラの方達が約2時間、他の人の曲のために呼吸を揃えて、何もかも指揮者に委ねて整然と、時には感情的にという指示までされて、そこでも自分というものを出す。そんな人間模様のひとつがオーケストラなんだということを強く感じました。決してひとつの個体として考えてはいけない、 個々の集合体なんだと思いました。そんなオーケストラの演奏家の方たちをまとめるというのは、小澤征爾さんやレナード・バーンスタインのような指揮者が持つカリスマ性や、この人について行きたいと思わせる音楽を作る作曲家、そんな求心力がないと一心同体にはならないと感じました。そういう音楽家になりたいと改めて思いました。


── 前回小室さんはMCで「大変緊張しています」と語っていましたが、オーケストラのあの一体感は特別な感動を運んできてくれました。

小室:オーケストラは上手と下手、前列と後列ではどうしても音に微妙な"ズレ"が生じてしまうのですが、でもそれが"揺らぎ"となって聴き手の心に響くということも再認識できました。大所帯ですが非常に繊細で、だから"揺らぎ"という感情が生まれ、それを届けることができる。コンダクターの元、まるで船が波の間を必死に水平を保つように60人が息を合わせる。そこがコンピューターと一番違うところです。


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── 壮大なストリングスが入っているものや、ご担当されたミュージカル『マドモアゼル・モーツァルト』(1991年)の音楽など、小室さんの楽曲はオーケストラとの親和性が高いですよね。

小室:今までプロデューサーとしてハリウッドとか海外のオーケストラと30曲はやっています。例えば「CAN YOU CELEBRATE?」(1997年)のストリングス入れの時、ディズニーの音楽もやっているストリングスチームとやったのですが、音が違っていて。でも誰も何も言わないので譜面を見たら、書き写しの間違いがあって、そのミスを誰も気づいていなくて僕だけが気づいて。そうやって弦やストリングスチームと多くの現場で、自分が理想とする音を表現してもらっていましたが、生で60人を超えるオーケストラの皆さんと演奏するのは、また別ものでした。


── 今回オファーがきたときは、前回での手応えや気づきなどを踏まえて、またフルオーケストラでやろうという感じではなかったのでしょうか?

小室:友人の玉置浩二さんから、この"billboard classics"を納得できるまでとことん追求していく姿勢を感じて、すごいなって思います。でも僕は色々なことをやりたいタイプで、自分の中で音楽家としてパフォーマンスを見せる時間というのは、そんなに残されてないと思っていて。これまでのレコーディングと前回のコンサートで、「オーケストラとは?」ということを大分理解したと思っているので、次はまた新しい形のオーケストラコンサートを作りたいと思いました。


── 今回はチラシに"小室哲哉が目指す究極のオーケストラコンサート!"というキャッチが躍り、"ELECTRO produced by Tetsuya Komuro"というタイトルです。 電子音、ダンスミュージックがよりクローズアップされ、オーケストラの生音とどう融合していくのか想像するのですが、どんなスケール感なのかなかなか想像できません。

小室:やってみたいアイデアを少しずつ溜めているのですが、現在TM NETWORKのツアー中なのもあって、今の段階では僕もまだ全貌が見えていなくて(笑)(※取材は4月中旬)。イメージはベルギーのフェス【Tomorrowland(トゥモローランド)】が企画する<Symphony of Unity>に代表される、ヨーロッパで人気のEDMとオーケストラが融合したイベントです。海外のDJも和声やコード進行などクラシックの影響を受けている人が多くて、僕も元々音楽を始めたきっかけはバイオリンを習い始めたことでクラシックに影響を受けているので、テクノよりトランスの方に興味がいったというのもあります。曲を作る上でクラシックが大きなピースになることもありました。前回のフルオーケストラ公演の際はオーケストラが伴奏的役割を担当することが多かったですが、今回は22人の編成で、例えば感情が一番出るトップリードのメロディを弾いてもらったり、リズムの一番引っ張っていきたいところを弾いてもらったり、様々なパートを担ってもらいます。テクノロジーとどう融合していくのかが自分でも楽しみです。その可能性の広がりを見せたいと思うし、EDM、ダンスミュージックとオーケストラの架け橋のような存在になれたら嬉しいです。


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