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<インタビュー>go!go!vanillas 10周年を終えての次なる一手「平安」に込めた“正解のない社会”を生きるためのメッセージ

インタビューバナー

Interview:蜂須賀ちなみ
Photo:Akari Yagura


 先日3月9日と10日に、2023年のインディーズデビュー10周年、2024年のメジャーデビュー10周年という“Wアニバーサリー”を祝う全国ツアー【DREAMS TOUR 2023-2024】を千葉・幕張メッセ 国際展示場 9-11ホールにて締めくくったgo!go!vanillas。ひとつの節目を越えた4人の次なる一手となる新曲「平安」は、曲名から想像するイメージとは裏腹に、USロックなサウンドにアグレッシブなワードで聴く者を鼓舞する力強い一曲に仕上がっている。この曲に込めたメッセージ、10周年ツアーを終えて得たもの、そしてさっそく発表された2025年のアリーナツアーを含む次なるビジョンについて、メンバー4人に話を訊いた。

【DREAMS TOUR 2023-2024】を終えて

――まず、2023年11月から2024年3月にかけておこなった【DREAMS TOUR 2023-2024】の感想を聞かせてください。全国のライブハウスをまわったあと、幕張メッセ2DAYSでフィナーレを迎えるというスケジュールでしたね。幕張は1日目がワンマンで、2日目は仲間のバンド6組との対バンライブでした。

柳沢進太郎(Gt.):結構長いツアーだったんですけど、あっという間で。本当に濃密な時間だったので、一瞬で終わったように感じました。最初の時期は「ファイナルの幕張2DAYS、どんな感じになるんだろう?」と思いながらライブしていたんですけど、ツアーが進むにつれて、だんだん幕張に照準が定まっていって。自分の中の「こうプレイしたいな」という理想に、お客さんの熱量が合わさることによって、理想以上のものが生まれるみたいなことがたくさん起きたツアーでした。アディショナルで入ってくれたミュージシャンとの音楽でのキャッチボールもどんどん上手くなっていって、バイブスを徐々に高めながら幕張に突入できたのがよかったです。

長谷川プリティ敬祐(Ba.):お客さんたちの顔がしっかり見えるライブハウス公演から始まったツアーだったからこそ、幕張では、みんながめちゃめちゃ楽しんでくれているのを空気で感じるよりも先に、みんなのことをちゃんと信頼することができました。

ジェットセイヤ(Dr.):幕張のフロアには柵とかあまり置かずにやったんですよ。俺らとお客さんの間の信頼関係があるからこそ、できたライブだと思いますね。

プリティ:【MAKE YOUR DREAM】(幕張メッセ2日目となる対バン公演。[Alexandros]、sumika、04 Limited Sazabys、My Hair is Bad、マカロニえんぴつ、UNISON SQUARE GARDENを迎えた)はどのバンドも完全にぶちかましてくれましたけど、それに引っ張られずに、ちゃんと自分たちのライブができたのがすごくよかった。

セイヤ:その感覚めっちゃ分かるわ。

プリティ:もしもこれが10年前とかだったら、僕、絶対すごく引っ張られただろうなって。できないことをやろうとして、結局ぐちゃぐちゃになって泣く、みたいな。

柳沢:泣くんですか?(笑)

セイヤ:とりあえず上は脱いでただろうね(笑)。

プリティ:うん、脱いでたと思う(笑)。だけどそうじゃなくて、ちゃんと自分たちの音楽ができたところに10年間での自分の成長を感じましたね。ベースを弾きながら「今まででいちばん楽しいな」と思っていました。



Photo:Akari Yagura

――2010年代に出てきたバンドにも関わらず、高速4つ打ちという当時のトレンドにそこまで乗っからず、自分たちの好きなルーツ・ミュージックを突き詰めて地道にやってきたバンドが、大勢の観客を沸かせているという幕張メッセでの光景、とても素敵でした。

セイヤ:俺らは10年間自由にやり続けてきたけど、そんなバニラズの音楽をみんな好きでいてくれて……本当にありがとうって感じです。まさに夢のようでした。

柳沢:ツアー中にメンバー同士で喋ってたんですけど、「自分らの音楽がこんなに多くの人に受け入れてもらえてるんだ」という自信はより強く、深くなりましたね。

牧達弥(Vo. / Gt.):俺らの曲ってめちゃめちゃ分かりやすいわけではないと思うんですよ。ブームに乗っかったほうが楽だし、仲間外れにならなくて済むけど、それよりも、自分たちの思うかっこよさや音楽に対する好奇心を曲には詰め込んできた。今はそれをお客さんがバニラズのカラーだと思ってくれていて、好きでいてくれているからああいう日になったんだと思うし、僕たちもツアー中は無我夢中で、集中してライブすることができました。そういう空気がライブハウスから幕張メッセまで、ずっと続いていたのがとてもよかったですね。今思えば、2日目に出てくれたバンドは波に乗らず、マイウェイを行った人たちばかりだったなって。俺たちもブームを全く気にしていなかったわけではないし、バンドっていつ終わるか分からないものだから、「大丈夫かな」「不安だな」と思っていた時期もありました。だけど自分自身から逃げずに、手間をかけて育ててきたからこそ、幕張メッセの最後にやっと芽が出た気がする。これからはこの芽を、自分たちしか見たことのないでっかい木にしていけたらと思っています。


イギリス、アメリカ、日本の“全部乗せ”

――ツアー終了後の4月24日に配信リリースされた新曲「平安」は、芽を木にするために必要な一手だとまさに思いました。今年1月にリリースした「SHAKE」と同じく、ロンドンの名門スタジオのメトロポリス・スタジオでレコーディングしたそうですが、曲調はUKというより、むしろUS寄りですよね。だけどタイトルは「平安」だし、歌詞やメロディは明らかに日本という。

柳沢:パッション・ピットのようなニュアンスを取り入れたいという話になったんですよ。イギリス行くのにアメリカなのが逆にいいねって(笑)。そして「平安」だから日本という。全部乗せ!

セイヤ:おもろすぎるっしょ。

:せっかくUKでしっかりレコーディングできるんだから、“なんちゃって”ではなくて、本場のサウンドを作りたくて。サウンドがかなり洋楽に寄ったぶん、メロディと歌詞には日本のポップスならではの要素を落とし込みました。


――このハイブリッド感がバニラズらしいなと思います。どういうふうに作り始めたんですか?

:この曲を作り始めた時は家で、俺と進太郎が一緒にいたんですよ。確か惇志(キーボーディストの井上惇志。go!go!vanillasのライブサポートや共同編曲を行っている)もいたかな? どういうノリだったか忘れたけど、自分たちが好きな年代のアーティストをいろいろ聴き直してたんです。

柳沢:確か、レコーディングエンジニアのアレックス・ロビンソンが今まで担当してきたアーティストのリストをみんなで見ていたら、 「自分らが聴いてきたアーティスト、めっちゃいる」「えっ、このアーティストも?」という感じで盛り上がって、Spotifyでいろいろ聴き始めたのが始まりだったと思います。

:そうだった。

柳沢:そうやって「この曲のこういうところがいいよね」と言いながらザッピングしていく中で、湧いてきたアイデアを形にしていって。

:ベックの「Dreams」から影響を受けて、ギターのスライスを取り入れたりね。


――そんなところに隠れ“DREAMS”が。

セイヤ:ベックの「Dreams」はツアーの場内BGMに入れてましたよ。


――実は新曲のヒントが出ていたということですね。従来のバニラズの曲は、Aメロ-Bメロ-サビという、いわゆるJ-POP的な構成を採っていました。一方この曲は、ヴァース-コーラス形式ですね。

:バニラズにしては珍しくコード進行をループする曲なので、自然と洋楽ライクな構成になっていったんですけど、結果的にそれがよかったなと思っていて。今ってみんな刺激を求めているから、どんどん展開していく曲が多いと思うんですよ。


――J-POPはそういう傾向ありますよね。DメロどころかEメロ、Fメロまである、みたいな。

:そう考えたときに、自分にとってはこっちのスタイルの方が自然かも、って。わりと無意識でしたけど、自分が日頃いろいろな音楽を聴きながら思っていたこと、時代の匂いがこの構成に反映されていると思います。


――最後に再びヴァースが登場するのも効いていますね。

柳沢:この部分は最後に追加したんですよ。ロンドンから帰ってきて、ツアーをまわっている最中に牧さんが「この部分足したいんだよね」って持ってきたんですけど、この部分が入ることによってフィナーレ感が生まれるというか、曲が一気にスタジアムクラスになる感じがあって。

セイヤ:俺も初めて聴いた時は「来た!」って思いました。ここができるまでは、シンプルに繰り返しって感じだったので。

柳沢:多分、お客さんもこのセクションがいちばんぶち上がるところなんじゃないかな。



Photo:Akari Yagura

――レコーディング時のエピソードを聞かせてください。

セイヤ:実は、ロンドンに行って最初に録ったのがこの曲だったんですよ。「よし、『SHAKE』やるぞ!」って感じでロンドンに行ったのに「うん、こっちから録ろう」と言われたから「OK、OK!」ってなって(笑)。メトロポリス・スタジオは天井が高くて、音の反響の具合もいいので、この場所の良さを活かしたマイクセッティングをしようとアレックスと話しました。


――こういうシンプルかつ力強いドラムって、今までの曲にはなかったですよね。

セイヤ:なかったかも。イメージ的にはデイヴ・グロールのような感じで、思いっきり。アレックスからも「ドラムヘッドを破るぐらい叩いていいよ」と言われました。昨日初めてリハをしたんですけど(※取材は4月中旬に実施)、サビの重い感じをどう鳴らすかは気持ちの持ちようというか、テンポに対してリズムをどうとるか次第で。プリティとも「やり方次第でかなり印象が変わりそうだよね」という話をしました。自分としては、体重が50キロぐらい増えたような感覚で、がっつり叩くという感じですかね。

プリティ:レコーディングの時に普通に座って弾いてたら、進太郎から「プリさん、これは立って弾きましょう」「頭ぶん回して弾きましょう」と言われて。それでやってみたら、アレックスもめちゃめちゃ頭振ってたんですよ。あれはすごくよかったな。「お前も振るんかい」っていう(笑)。

セイヤ:イントロのスライスギターは、なんか改造されたギターで録ってたよね?

柳沢:向こうで借りたギターで録ったんですよ。よく分からない、フライングVみたいなやつで。普段弾かないギターだったので、それも面白かったです。


――ラストのセクションは帰国後に生まれたと先ほど言っていましたね。ということは、この部分は日本でレコーディングを?

柳沢:そうですね。あのセクションが新しく追加されたことによって、他にもいろいろと変更したことがあったんですけど、そういう部分は自分の家で録ったりしています。

セイヤ:あと、tsuboiさん(ミックスエンジニアのillicit tsuboi)にエディットしてもらったので、特にドラムの音はレコーディングからけっこう変わっています。tsuboiさんがめっちゃ遊んでくれたからこそ、曲がまた面白くなったなって。

:アナログな感じで録りつつ、録った音をあとからエディット処理をするような作り方は今回初めて試しましたね。



平安 / go!go!vanillas

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人生の起爆剤になるような強さのある曲を作りたい

――歌詞についてはいかがでしょう? やさしく声を掛けたり寄り添ったりするのではなく、聴く人の尻を叩くような歌詞を牧さんはこれまでにも書いてきましたが、世に出るのは案外久々な気がします。

:今の時代や社会に対して僕が思うことを書きました。コロナ以降、世界との距離感の取り方についていろいろ考えさせられたんですよ。痛ましい事件とか、ネットで起きる炎上とかいろいろありますけど、サビで〈君も渦中の人〉と言っている通り、離れた場所から見ているつもりでも、結局自分もそこに加担していることってあるよな、と。みんないろいろな解釈をしているし、正解はない。ということは、自分の人生の答えを持っているのは当然自分だけだという話になると思うんです。「正解のない社会の中でしっかりと立てるように」「自分らしくいられるように」というメッセージをこの曲には込めました。生活における音楽の比重が大きくて、精神の支柱みたいになっている人っているじゃないですか。俺はそういう人をホッとさせるような曲よりも、人生の起爆剤になるような強さのある曲を作りたい。特にファンに対してはいつもそう思ってます。


――時代の曲と言えば、2017年リリースの楽曲「平成ペイン」を思い出すファンも多いと思います。〈この暗闇に目が慣れているのは僕らさ〉と歌う「平成ペイン」よりも〈源氏名に繋がれたままで死ねるか〉〈町内会止まりの祭りもういいよ〉と歌う「平安」の方が口調が強いですが、7年前よりも今の時代には強い言葉が必要だという感覚はありましたか?

:今回は集団じゃなくて個人に向けて歌っているから、その違いですかね。「平成ペイン」では「これから日本という国で暮らしていく中で、みんなで助け合っていこう」ということを歌っていたけど、今は日本人の“和”がいい方向に働かなくなっちゃっていると思うんですよ。みんなで助け合うには、他の人の心に土足で踏み込まないこと、相手を理解することが必要なのに、それがどんどんできなくなっちゃっている。人を怒らせて動画撮って拡散して、というような自分本位の物事ばかり目に入ってくるし、相手のことを考えられる日本人の美徳ってもう全然ないなと思うんです。同調圧力とか管理社会とか、人が集まることには悪い側面もあるんだということが、令和になって分かったこと。外からいろいろなレッテルを貼られたり、自分自身を押し殺したまま死んでいったりなんて嫌じゃないですか。


――そうですね。

:そういう息苦しさを解決するには……まあ、最初の話に戻りますよね。ブームとか、大きな波に入っていくとしんどいことが多い。それなら余計な団結はしなくていいし、信頼できる人と一緒にいることや、「好きなものが偶然一緒だった」みたいな、何気ない会話の一つひとつを大事にしていけたらいいんじゃないか、と。


――今話していただいた通り、この曲で歌っている「余計な団結をしなくていい」「自分が違うと思うなら、ブームに乗らなくていい」というのは、バニラズが今までやってきたことなんですよね。だからこの曲には説得力がある。そしてこういう曲をこのタイミングでリリースすることが、「これからも俺たちは俺たちらしくやっていくよ」という表明になっている。

:うん、そうですね。



Photo:Akari Yagura

――「自分を押し殺したまま死んでいくなんて嫌だ」という気持ちにはもちろん共感できますが、一方で、我が道を行くことには孤独がつきもので、その孤独が怖いし不安だからなかなか進めないという人も少なくないと思うんです。みなさんは我が道を行くことが怖くなった瞬間はありますか?

セイヤ:ない!

柳沢:僕もないですね。小さい頃から両親が好きにやらせてくれたし。

プリティ:これ言うと「嘘だろ?」って思われるかもしれないけど、僕もないんですよ。

柳沢:いや、別に「嘘だろ?」って思わんわ(笑)。

セイヤ:全然普通にそうだろうなと思ってるよ。

:あんだけ漫画読んで、最高の人生だよ。本棚びっしりでね。


――音楽やバンド活動に対しても、同じ気持ちですか?

プリティ:そうですね。というのも、僕は「牧達弥の作る曲がいちばんかっこいい」というところからバンド活動を始めているので。それがブレることもなかったから、不安になることもなかったです。

:何? 持ち上げてんの?(笑)

プリティ:えっ、わりと何回も言ってるよ?

:いや、そうだけど、最初に作った曲から?

プリティ:そうだよ。

:それは相当な青田買いしてる(笑)。あの頃は俺ですら悩んでたのに。

セイヤ:はははは。4人とも自由なので、最初の頃はぶつかることもありましたよ。でも今はちゃんとお互いの性格を分かって、尊重しあって。

柳沢:そうですね。それにプリさんの言うように、牧さんの曲がカッコいいからみんな集まっているというのが僕らの大前提で、柱で、いちばんの拠り所なので。牧さんはいい曲書いてくれるし、俺ら3人は自分のスキルや人間を磨くことに集中できているから、バンドの幹がどんどん太くなっているという話なのかなと思います。

:まあ俺は、曲を作ることが生活の一部になっているというか。仮に売れなくなったとしても、バンドがなくなったとしても、きっと曲を作るんだろうなっていう人間ですからね。そう思えるほど俺は音楽が好きで、好きなものを見つけられたから、恐怖を凌駕したり傷を癒したりすることができた。同じように、今自分の好きなことをやれているという人は孤独を乗り越えられるかもしれないけど、それだけではいられない社会のしくみというのがあるじゃないですか。だから僕は、自分が音楽から得たものを、聴いてくれた人たちにちょっとでも渡したい。それが音楽家としての自分の役目だと思っています。



Photo:Akari Yagura

――来年、2025年3~4月にはアリーナツアーが開催されます。最後に、このツアーへの意気込みをお願いします。

:日本武道館2DAYSは前から「やりたい」と言っていたので、有言実行ですよね。2022年以来の大阪城ホールもすごく楽しみ。お客さんをワクワクさせたいのはもちろん、自分たち自身も常にワクワクしていたいので、予定調和抜きで、これまでのアリーナよりもすごい日にしたいなと思っています!


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