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<対談>来日直前!みの×庄村聡泰がレッド・ホット・チリ・ペッパーズを語りつくす
Interview & Text:黒田隆憲/Photo:Yuma Totsuka
レッド・ホット・チリ・ペッパーズが、およそ1年ぶりとなる来日公演を開催する。昨年3月に東京ドームと大阪城ホールでライブを行い大盛況を博した彼らだが、今回は5月18日、20日に東京ドーム2公演のみ行われる。2022年にリリースされた『アンリミテッド・ラヴ』『リターン・オブ・ザ・ドリーム・カンティーン』という2枚のアルバムでジョン・フルシアンテが完全復帰。前回と同様今回も、この最強のラインナップでレッチリのベストヒット曲を惜しみなく披露する予定だという。
そこで今回、レッチリをこよなく愛するYouTuberみのと、[Alexandros]の元ドラマーで現在はスタイリスト、音楽プロデューサー、ライターとして幅広く活動している庄村聡泰に、レッチリの魅力やライブの見どころなどたっぷりと語り合ってもらった。
ヒレル・スロヴァクからジョシュ、ジョン・フルシアンテまで
強烈な歴代メンバーをみの&庄村聡泰が語る
――お二人は、どんなきっかけでレッチリと出会ったんですか?
みの:初めて知ったのは 15、6歳の頃、ちょうど『バイ・ザ・ウェイ』(2002)がリリースされた時でした。ただ、そこからさかのぼっていって『母乳』(1989)と『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』(1991)こそが至高、みたいな感じでした。
世の中的にはやっぱり、ジョン・フルシアンテが最初に復帰した『カリフォルニケイション』(1999)が人気じゃないですか。イントロやヴァースがヘヴィなミクスチャーサウンドでも、サビはポップみたいな路線に馴染むまでちょっと時間がかかりましたね。思春期を過ぎてからかな、良さがわかるようになったのは。
庄村:俺は、高一か高二くらいで洋楽に興味が出てきて、友達にバーっと借りたアルバムの中に『ワン・ホット・ミニット』(1995)が入っていたんです。そこから入ったので俺も結構特殊で、長らくデイヴ・ナヴァロ派だったんですよ(笑)。このアルバムにはフリーがベースの弾き語りを披露した「ピー」という曲も入っていて、4人が好き勝手やっててちょっと喧嘩腰で(笑)、その危うい感じも好きでしたね。当時の俺は軽音部に所属していて、みんなこぞって「エアロプレイン」のベースを弾きたがってた。そんなこともあって、一番思い入れのあるアルバムです。
――お二人にとってレッチリの魅力はどんなところにありますか?
みの:やっぱり、楽器を弾く人たちからの支持が熱いバンドというイメージですよね。特にベースとギターが人気なのかな。
庄村:ドラマーにもファンは多いよ。いわゆる「一打入魂」系の人は、大抵チャド・スミスが好き。アレキ([Alexandros])の今のドラマー、リアド偉武もチャド大好きだからね。セッティングも一時期真似していたくらいだし(笑)。
みの:そうか、どのパートも影響力は絶大と言うことですね。特にジョン・フルシアンテ。彼のように、ロックの王道をルーツとして紹介してくれるプレイヤーは当時まだ少なかったと思うんですよ。土臭いギターソロとか弾きながら、その後ろにミスフィッツまで感じさせるレアな存在というか。アリス・イン・チェインズとかもっとメタルだし。
庄村:ああ、なるほどね。たとえば「アラウンド・ザ・ワールド」の、あのコーラス部分だけ抜き取ってみると、ちょっと10ccやELOっぽかったりするじゃない? サイケとかドリームポップ的な要素も感じるし、色々ディープなところから抽出している感覚がフルシアンテにはあるんだよね。みのくんが言ったように、ミスフィッツの匂いさえするっていう。フガジとかも好きだからあんなペナペナなギターを弾くのは(笑)、そうやっていろんなジャンルを混ぜているからだろうなと。
『カリフォルニケイション』(1999)収録
――フリーはどうですか?
庄村:フリーといえば、やはり「発音の良さ」に尽きると思っていて。ベースのフィンガーのタッチ、ミュートピッキングとかすごい音出てるじゃないですか。「パラレル・ユニヴァース」の連打とか、ただルート音を16分音符で弾いているだけなんだけど、めちゃくちゃキレがいいんですよね。彼のベースとチャドのドラムのコンビネーションが、レッチリならではの妙技だと思っています。
で、そんな凄腕プレイヤーたちの高度な演奏力やアレンジ能力を、偉大なる凡才アンソニー・キーディスがあの鼻声の平熱ボーカルで歌うからこそ、レッチリになるんだよなと(笑)。そこもすごく大事な要素だと思っていて。
みの:そうですね。アンソニー・キーディスには「抜け感」があるというか。ものすごく乱暴にいうと、たとえばレッチリのボーカルがクリス・コーネル(サウンドガーデン)だったら成立しない。
庄村:ほんとそう。レイン・ステイリー(アリス・イン・チェインズ)でも成立しない(笑)。彼のあの「いなたさ」や器の大きさ……きっと超音楽オタクとかでもまったくないし、レッチリというと、ギターやベース、ドラムのことばかり取り沙汰されるけど、俺はずっとアンソニー推しだから。なんていったってアンソニーは、ステージングがめちゃくちゃかっこいいからね。
――アンソニーやフリーと共にバンドを立ち上げた、初代ギタリストのヒレル・スロヴァクはどんな印象ですか?
みの:もっと語られるべきギタリストですよね。「ミクスチャー」は和製英語ですが、当時はああいった「ラップメタル」のバンドって本当に少なかったわけで。『フリーキー・スタイリー』(1985)はジョージ・クリントンがプロデュースしていますが、「足し算の理論」みたいなあの荒唐無稽のデコトラサウンドは、もろPファンクのノリじゃないですか。
庄村:確かに(笑)。今のファンクってもっとお金がかかっているしモダンで洗練されたサウンドだけど、その真逆をやっているのが当時のレッチリだったよね。『ジ・アップリフト・モフォ・パーティ・プラン』(1987)とかまさにそう。
みの:そこでのヒレルのギターは、フリーのベースと共に要だったし、亡くなってからもその「精神性」はずっと引き継がれてきてるんじゃないかと思います。
――デイヴ・ナヴァロはどうでしょう。
庄村:さっきも言ったけど、あの人って常に喧嘩腰というか(笑)。超目立ちたがりなんですよね。
みの:ウッドストックでのライブ映像とか見ると、「俺様」感ハンパない。フルシアンテのパートとか、ガッツリ変えて弾いてるんですよ。たとえば「ブラッド・シュガー・セックス・マジック」のメインリフを、ナヴァロは3度を足して弾く。めっちゃ細かい話ですけど(笑)、「俺はそのまんまやらないよ?」という意志を感じるんですよね。ナヴァロからしたら、フルシアンテなんてまだまだ若造という印象だったんだろうし。
庄村:ナヴァロってシアトリカルなパフォーマンスを好む、歴代レッチリメンバーの中でも最高にナルシストなやつだったわけじゃないですか(笑)。彼の美意識に他のメンバーも引っ張られたのか、一連のミュージックビデオもすごくいいんですよね。「ワープト」とか「エアロプレイン」とか、ああいうド派手でサイケデリックな色彩感覚は、ナヴァロ加入時期のみだった気がする。そのあとフルシアンテが戻ってきて、『カリフォルニケイション』で一気にアーシーな方向へシフトするという。
みの:なるほどね。よく『カリフォルニケイション』は枯れたロックの路線とか言われるけど、その前段としてナヴァロとグラマラスなことをやり切ったのは大きかったのでしょうね。
『ワン・ホット・ミニット』(1995)収録
――ジョシュ・クリングホッファーの印象は?
みの:彼にはほんと、幸せになってほしい。レッチリにとってめちゃくちゃ功労者であるにもかかわらず、フルシアンテ復帰までの「腰掛け」みたいに思われているじゃないですか。フルシアンテこそが、4つのピースの重要な要素という認識はどうなんだろう、後加入なのに(笑)。
庄村:とにかくフルシアンテは日本でもめちゃくちゃ人気だけど、ジョシュ加入後の『アイム・ウィズ・ユー』(2011)と『ザ・ゲッタウェイ』(2016)も、個人的には好き。かなりニューウェーブ的な思考も持ったギタリストじゃないですか。それに残りの3人が引っ張られ、ちょっと若返った結果デンジャー・マウス(ブライアン・バートン)をプロデューサーに迎えて『ザ・ゲッタウェイ』が出来たんじゃないかな。
みの:なるほどね。
庄村:さっきのナヴァロの話じゃないけど、「80年代っぽい下世話ファンク」ではなく「オシャレなニューウェーブ」という観点で聴くと、あの2枚はめちゃくちゃいい。フルシアンテの「いなたいサウンド」ではなくジョシュの都会的なアプローチが聴けるのはあの2枚だけだから。
『ザ・ゲッタウェイ』(2016)収録
公演情報
The Unlimited Love Tour
2024年5月18日(土)東京・東京ドーム ※SOLDOUT2024年5月20日(月)東京・東京ドーム
https://www.hipjpn.co.jp/live/rhcp2024/
リリース情報
アルバム『アンリミテッド・ラブ』
<収録曲>
1. ブラック・サマー
2. ヒア・エヴァー・アフター
3. アクアティック・マウス・ダンス
4. ノット・ジ・ワン
5. ポスター・チャイルド
6. ザ・グレイト・エイプス
7. イッツ・オンリー・ナチュラル
8. シーズ・ア・ラヴァー
9. ジーズ・アー・ザ・ウェイズ
10. ワッチュ・シンキン
11. バスターズ・オブ・ライト
12. ホワイト・ブレイズ・アンド・ピロー・チェア
13. ワン・ウェイ・トラフィック
14. ヴェロニカ
15. レット・エム・クライ
16. ザ・ヘヴィ・ウィング
17. タンジェロ
18. ナーヴ・フリップ (ボーナス・トラック)
アルバム『リターン・オブ・ザ・ドリーム・カンティーン』
<収録曲>
1. ティッパ・マイ・タング
2. ピース・アンド・ラヴ
3. リーチ・アウト
4. エディ
5. フェイク・アズ・ファ@ク
6. ベラ
7. ルーレット
8. マイ・シガレット
9. アフターライフ
10. シュート・ミー・ア・スマイル
11. ハンドフル
12. ザ・ドラマー
13. バッグ・オブ・グリンズ
14. ラ・ラ・ラ・ラ・ラ・ラ・ラ・ラ
15. カッパーべリー
16. キャリー・ミー・ホーム
17. イン・ザ・スノウ
18. ザ・シェイプ・アイム・テイキン (ボーナス・トラック)
レッド・ホット・チリ・ペッパーズ 関連リンク
最新2作の聴きどころ/東京ドームライブへの期待
――その2枚を経て2022年にリリースされた2枚のアルバム『アンリミテッド・ラヴ』(2022年4月)と『リターン・オブ・ザ・ドリーム・カンティーン』(2022年10月)は、どんな印象ですか?
みの:フルシアンテが戻ってきて、再びリック・ルービンがプロデューサーで。再放送感もあり、ジャケもわかりやすくバンドロゴ。ヒリヒリした緊張感で作るより、ちょっと同窓会的なノリで年に2枚も出しちゃった、みたいな。言葉を選ばずに言えば、この2枚はそういう「軽さ」がありますよね。だって、もうレッチリも60歳を過ぎてますよね?
庄村:フルシアンテが50代半ばで、他の3人はもう還暦を超えてる。
みの:ローリング・ストーンズで言えば『ア・ビガー・バン』あたりでしょう? だから、そのくらいのテンションで聴くのがいいと思う。「オヤジロックバンドがまだやってくれてる」っていう。
庄村:だから許せるところもあるし、聴けるアルバムと言えるかもね。俺は正直、『アンリミテッド・ラヴ』はリハビリのための作品にしか聴こえないし(笑)、そういう生々しさが聴きどころにもなっているのかなと。
みの:確かに「リハビリ感」はある。
庄村:で、2枚目の『リターン・オブ・ザ・ドリーム・カンティーン』の方が、『アンリミテッド・ラヴ』のリハビリを経て、ソングライティング的にも外に向けて聴かせようという意志を感じる。個人的にはこちらの方が好きですね。
『アンリミテッド・ラヴ』(2022)収録
『リターン・オブ・ザ・ドリーム・カンティーン』(2022)収録
――ところでお二人は、レッチリのライブは見たことありますか?
庄村:すごく印象に残っているのはアレキも出た【SUMMER SONIC 2011】でのライブ。確かジョシュが加入した直後だったと思うんだけど、メンバー4人で一緒に観たのが印象に残っていますね。
みの:僕は残念ながら生ではまだ観ていないんですけど、映像ではめちゃめちゃ観ています。今さら言う必要もないことだと思うけど、やっぱりレッチリはライブが魅力的なので。
庄村:最高だよね。しかも、いまだに肉感的なライブをやってくれるじゃないですか。裸一貫で勝負する、みたいな(笑)。
みの:しかもライブごとに全く違うアプローチをするところも好きです。「どのライブ映像を見ても、作り込んだ同じような内容」の対極にあるバンドですよね。常にどこかしらインプロビゼーションをやるセクションを用意している。ポップな楽曲の中に、そういうものを混在させているのは親切だなと思う。レッド・ツェッペリンみたいに延々とジミー・ペイジがギターソロを弾いて、みんなトイレタイムだと思って席を立つ、みたいなことにならないですよね(笑)。
――ジャムやインプロも、ちゃんとエンタメとして魅せてくれるというか。
庄村:そして、ライブにおける「ジャムやインプロの破壊力」という意味においてはジョン・フルシアンテをおいて他にいない。きっと他の3人も、ジョンと一緒にやるライブが一番気持ちいいんだろうね。
――そういう意味でも、来たる東京ドームライブへの期待が高まりますね。
庄村:あんなアナログなライブを東京ドームで見られるってすごいことですよね。
みの:僕はレッチリみたいなアナログ系のバンドが大好きだから、でかいハコとの相性をどうしても気にしちゃうんですよ。でも、先日クイーンを見に東京ドームへ母親と一緒に行ったら、ブライアン・メイのギターがサラウンド降り注いでくるんです。今、こういうアナログなバンドでも東京ドームめちゃくちゃいいなと思ってるので、そこからレッチリへの期待値もぐんと高まりましたね。
庄村:去年見たコールドプレイの東京ドーム公演もすっげえ音が良かった。それはきっと、みのくんが言ったPAシステムの技術向上が少なからず影響していると思う。そういう観点でレッチリのライブを見るのも楽しいかもしれないね。もちろん彼らの素晴らしい演奏と、偉大なる凡才アンソニーのボーカルがあってこそだけど(笑)。
公演情報
The Unlimited Love Tour
2024年5月18日(土)東京・東京ドーム ※SOLDOUT2024年5月20日(月)東京・東京ドーム
https://www.hipjpn.co.jp/live/rhcp2024/
リリース情報
アルバム『アンリミテッド・ラブ』
<収録曲>
1. ブラック・サマー
2. ヒア・エヴァー・アフター
3. アクアティック・マウス・ダンス
4. ノット・ジ・ワン
5. ポスター・チャイルド
6. ザ・グレイト・エイプス
7. イッツ・オンリー・ナチュラル
8. シーズ・ア・ラヴァー
9. ジーズ・アー・ザ・ウェイズ
10. ワッチュ・シンキン
11. バスターズ・オブ・ライト
12. ホワイト・ブレイズ・アンド・ピロー・チェア
13. ワン・ウェイ・トラフィック
14. ヴェロニカ
15. レット・エム・クライ
16. ザ・ヘヴィ・ウィング
17. タンジェロ
18. ナーヴ・フリップ (ボーナス・トラック)
アルバム『リターン・オブ・ザ・ドリーム・カンティーン』
<収録曲>
1. ティッパ・マイ・タング
2. ピース・アンド・ラヴ
3. リーチ・アウト
4. エディ
5. フェイク・アズ・ファ@ク
6. ベラ
7. ルーレット
8. マイ・シガレット
9. アフターライフ
10. シュート・ミー・ア・スマイル
11. ハンドフル
12. ザ・ドラマー
13. バッグ・オブ・グリンズ
14. ラ・ラ・ラ・ラ・ラ・ラ・ラ・ラ
15. カッパーべリー
16. キャリー・ミー・ホーム
17. イン・ザ・スノウ
18. ザ・シェイプ・アイム・テイキン (ボーナス・トラック)
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