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<インタビュー>20年先も聴かれる曲を作りたい――「全方向美少女」がバズった乃紫、挑戦と分析を重ねた1年半の活動を振り返る【MONTHLY FEATURE】

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Interview:Takuto Ueda
Photo:Yuma Totsuka

 Billboard JAPANが注目するアーティスト・作品をマンスリーでピックアップするシリーズ“MONTHLY FEATURE”。今月は、TikTokを中心にSNSでの発信にも力を入れ、新たなトレンドセッターとして注目を集めているシンガー・ソングライター、乃紫のインタビューをお届けする。

 大学3年の夏にDTMの楽しさに目覚め、それと同時にTikTokでの投稿を開始。コンスタントにオリジナル曲を発表し続け、2023年2月の第2弾シングル「接吻の手引き」は、Spotifyの国内バイラルチャートで最高12位をマークした。そして2023年12月、通算10曲目のシングルとなる「全方向美少女」のデモ音源をTikTokで公開すると、大きなバズを巻き起こし、UGCが一気に急増。TWICE、aespa、NewJeansといったK-POPアイドルたちも反応するなど、乃紫の知名度を一躍上昇させた代表曲となった。現在、TikTok内の動画投稿本数は15万本を超え、ビルボードジャパンによるネクストブレイク楽曲チャート“Heatseekers Songs”では、2024年4月17日付けで初の首位を獲得している。

 “共感”や“憧れ”がキーワードになりがちなSNS時代と巧みに向き合いつつ、あくまで自身の視点を大事にしながら発信活動を続けてきた乃紫に、これまでの歩み、TikTokでのバズをあらためて意識して作ったという「全方向美少女」の手応え、そして5月8日リリース予定の最新シングル「初恋キラー」や、4月25日に控える初のワンマンについて、話を聞いた。

リスナーからの反応は大きなモチベーション

――乃紫さんは2022年夏頃から音楽制作を始めたとか。何がきっかけだったのでしょう?

乃紫:大学が夏休みで、ずっと時間があり余っていたんです。知り合いにLogic Proを使っていた方がいて、それを触らせてもらったことがきっかけでした。

――大学ではどんなことを学んでいたんですか?

乃紫:まったく音楽は関係なくて、国際系の学部だったので語学をたくさん勉強していました。もともと得意な分野だったんです。

――大学生活はどんなふうに過ごしていましたか?

乃紫:本当に普通の大学生でした。コロナ期間が被っていたんですけど、当時は音楽活動に縛られるようなこともなく、しっかり大学生として遊んでいたので、今でも曲作りのときは、その頃の思い出を振り返りながら書くこともあります。

――DTMはどんな部分が楽しいと思ったんですか?

乃紫:最初は何がなんだか分からなかったので、YouTubeを見て逐一調べたりしながら作っていく感じだったんですけど、だんだん上達していくのが楽しくて。世の中に出ている音楽が完成するまでにどれだけの時間がかかっているかとか、そういうことにも興味や好奇心がどんどん沸いていきました。




――作った曲をTikTokなどを通して発表しようと思ったのは何故?

乃紫:こういう活動を始めると同時にTikTokでの投稿を始めていたので、そこで曲が伸びていくのが楽しかったし、どんな曲が流行っているかを見ながら作るというのを繰り返してきたので、SNSの数字から手応えを感じていたところはあったと思います。

――リスナーからの反響をフィードバックとして受け止めつつ。

乃紫:そうです。これは今後も変わらないんですけど、一方通行にはしたくないと思っていて。ただエゴをぶつけるだけじゃなく、みんなが聴きたいものを作りたいし、リスナーからの反応はこの先も大きなモチベーションになっていくんだろうなと思います。今までもずっとそうだったので。

――そういう活動スタイルが自分に合っているという感覚もある?

乃紫:合っていると思います。自分はSNSに向いている性格だと思うんですよね。音楽を始める前は写真を撮ったり、それを投稿したりしていたんですけど、ずっと一緒なんです。トライ・アンド・エラーをしながら、何かを発信し続けたい。

――デビュー曲「杯杯」のミュージック・ビデオは自主制作とのこと。映像も写真も音楽も地続きでつながっているんですね?

乃紫:大学時代に映像制作とかウェブ広告とか、いくつかの会社でインターンをさせていただいたんですけど、そこで覚えた技術が今でも役に立ったりしていて、おっしゃる通り、地続きです。

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20年先も聴かれる曲を作りたい

――音楽リスナーとしてはどんな遍歴を重ねてきましたか?

乃紫:もともと広く浅くのミーハーで、一組のアーティストにつき3曲くらい知っていればいいほうでした。そのなかで椎名林檎さんとかRADWIMPSとか、特に好きなアーティストをもっと掘り下げて聴いてきた感じ。

――新しい音楽とはやはりTikTokで出会うことが多い?

乃紫:いや、TikTokを始めたのは音楽を始めたときなので、大学の途中まではSNSで見つけるというより、ドラマとか映画とかアニメの主題歌から出会うことが多かったです。私の世代だとCDを買う文化がギリギリなくなり始めていたので、そういう音楽以外の媒体を経由していましたね。




――ちなみに最近良いなと思ったアーティストは?

乃紫:ヒップホップをよく聴くんですけど、最近はLANAさん、Awichさんみたいなフィメール・ラッパーの方をたくさん聴きます。ヒップホップって、その人の生き様を歌うことが多いと思うんですけど、今の私では絶対にできないことだと思っていて。自分がやっても寒いというか、本物のヒップホップにならない気がする。だからこそ、ラッパーのアーティストが魅力的に見えるんだと思います。

――自分にないものを持っているからこそ憧れる?

乃紫:例えば「杯杯」は、けっこうヒップホップに近いヴァイブスで歌ってはいるんですけど、やっぱり自分がヒップホップのファンなので、「ヒップホップか、そうじゃないか」みたいな論争が起きるのも分かるというか。それで言えば、私はヒップホップにはなれないなと思うんですよね。たぶん声とかビジュアルもそうだし、まだちょっと未熟だなって。これからできるようにはなりたいですけど。

――林檎さんやRADのように、普段は広く浅く聴くタイプの乃紫さんが深くハマるアーティストってどんな共通項を持っていると思いますか?

乃紫:その二組に共通するのは、一度聴いただけじゃ理解しきれないところだと思っていて。でも、曲を聴いたときに「こういうアーティスト」だなというのがなんとなく分かるというか。作る曲のジャンルも幅広いですし、アーティストとしてすごく深みのある方々なんだと感じます。

――自分自身もそういうアーティストでありたい?

乃紫:そうですね。よく言っているんですけど、20年先も聴かれる曲を作りたい。長く最前線で活動されてきたアーティストって、そういう曲をいくつも作ってきた方々だと思うんです。自分もそうなりたいと思っています。

――20年という数字がまた絶妙で、どこかリアリストな性分を感じます。

乃紫:20年って、人間が生まれてから成人するまでなので、なんとなく世代が一つ変わるぐらいの間隔だと思っていて。そういう時代を跨いでも聴かれるアーティストになりたいって感じですね。もちろん100年先も聴かれてほしいですけど。




――そもそもアートやエンタメを通して、自分を表現することの楽しさに目覚めたのはいつ頃でしたか?

乃紫:それこそ写真ですね。「自分にはあなたがこう見えた」とか、そういう“自分の視点”を視覚的に見てもらえるのが写真じゃないですか。それが今は音楽、ジャケット、ミュージック・ビデオと広がっている感じで。

――自分の視点から見たものを表現すること、自分のフィルターを通すことが大事なんですね。

乃紫:そうですね。音楽もそういう考え方のもと作っているんだと思います。

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特にUGCを意識したのが「全方向美少女」

――2022年12月に最初のシングル「杯杯」をリリース。この曲をデビュー曲に選んだのは何故ですか?

乃紫:あの時点では「杯杯」以外にも15曲ぐらいのデモがあって、まだストックしているものもあるんですけど、「杯杯」は自分のパーソナリティが一番出ている曲だと思ったんです。流行りに合わせて作ったわけでもないけど、TikTokでちょっと伸びていたこともあって、自己紹介として出してみようという感じで最初に選びました。




――具体的にはどんな部分にパーソナリティが出ていると思いますか?

乃紫:さっきも言ったんですけど、歌詞がヒップホップ的というか、韻を踏んでいたり、言葉遊びをしていたり、あとはちょっと社会風刺みたいなこと……できているか分からないんですけど、あの時期はそういうことを書きたかったんですよね。

――話せる範囲で構わないので、今の事務所に所属することになった経緯を教えていただけますか?

乃紫:まさに「杯杯」をリリースする前、2022年の夏秋頃からありがたいことにいろんなところからお話をいただいていて。一人でオフィスに行って、こうやってお喋りさせていただいたんですけど、結局どれが一番良いお話なのかも分からないし、大人はみんな嘘を言っているようにも聞こえるし(笑)、「音楽業界なんてそんなもんだよな」と思っていたんです。そんなときに今の事務所の社長さんと会って、熱量とか現実的なこととか、いろんなことをお話ししてくださって、最終的に所属させていただくことになったんですけど、その当時に感じた「この人に搾取されるんじゃないか?」とか「上手いこと言っているけど結局、何をしてくれるの?」みたいな気持ちが「杯杯」の歌詞につながっているので、「私はこの事務所でやっていきますよ」という自己紹介の意味でも「杯杯」を最初に出したっていう。

――ひたすら中華料理を食べ続けるミュージック・ビデオはどんなところに着想を得たんですか?

乃紫:あれは三茶の中華料理屋なんですけど、単純にお金がなかったのでiPhoneで撮りました。今見ると恥ずかしいです(笑)。ちゃんとしたリミックスver.みたいなものもいつか出したいですね。




杯杯 MV


――でも、あのDIYな感じも乃紫というアーティストの特性をよく表していると思います。

乃紫:たぶん大学を卒業するまでに10曲ぐらい出したんですけど、そのあいだは手作り感を徹底しようって、事務所の方とも話していたんです。大学生の等身大というか。別にiPhoneでミュージック・ビデオを撮ってもいいし、トンマナとしてみんなが真似できるような雰囲気を守ろうって。それがたぶん、今のSNSとも相性がいいと思ったんです。

――大ヒット中の「全方向美少女」は、まさにSNSでのバイラルを目指した楽曲とのことでしたが、それは全曲に言えることなんですね。

乃紫:そうですね。「全方向美少女」までに作った9曲も、キャッチーなものにしてきたつもりなんですけど、特にUGCを意識したのが「全方向美少女」でした。

――あの曲が狙い通りの結果を出した要因は何だと思いますか?

乃紫:深く分析したことだと思います。バズりについて、もう一度ちゃんと考えてみた。例えば「ヘントウタイ」もキャッチーな曲で、動画も作りやすいタイプなのかなと思うし、「接吻の手引き」もバズったほうの曲ではあるんですけど、「音源としてバズりやすいものは何なのか」をあらためてちゃんと考えて作ったのが「全方向美少女」だったんです。

――そのタイミングで「バズる曲とは?」を見つめ直したのは何故なのでしょう?

乃紫:それまでに出した9曲も新人アーティストとしては良い感じだけど、そのペースじゃ自分の目指しているところには行けないかもしれないから、もう一度、本当にUGCを意識した曲を作ってみようって、去年の11月頃に事務所の方と話していたんです。

――「目指しているところ」というのは?

乃紫:明確な規模とか数とかじゃないんですけど、私は当時、そのときの活動に全然満足していなくて。事務所やレーベルの方々にもサポートしていただいているけど、みんなが期待してくれている自分と、私自身が期待している乃紫というアーティストにはまだ追いつけていないなと思っていたんですよ。だからこそ、2024年も始まるし、新しい風を吹かせようって感じでした。




――そういう意味でも「全方向美少女」のヒットは大きな自信になったのでは?

乃紫:そうですね。ちゃんと考えて作らなきゃいけないんだなと思いました。それも「一方通行にはしたくない」という部分につながるんですけど、曲をバズらせるという前提があるなら“ユーザーの視点”に立たないと、それに見合った曲は作れないですね。

――その一方で、先ほど「乃紫さん自身の視点で表現すること」の大切さもお話しされていました。その“二つの視点”のバランス感はどんなふうに考えていますか?

乃紫:「全方向美少女」で言うと、バズに着目して作った曲ではあるんですけど、ちゃんと私の曲だと思っているし、歌詞にも「杯杯」みたいなヴァイブスはちょっと流れていると思っていて。自分で書く以上、自分は出てくるし、あまりバランスとかは気にしなくてもいいのかなと思っています。

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どんどん大きいところでライブしたい

――「全方向美少女」の作詞はどんな工程で進めていきましたか?

乃紫:最初はTikTokにサビだけ投稿して、それがバズり始めて、みんなの投稿やコメントを見ながら進めていったんですけど、もともとキャッチコピーが必要だなと思っていたので、キャプションに「自己肯定感ブチ上げる曲作ったよ」と書いたんですね。それが予想外に取り上げてもらえたので、歌詞もそこをベースに書いていきました。




乃紫 (noa) - 全方向美少女 【Official Music Video】


――様々な反響が寄せられたかと思いますが、特に印象に残っている声などはありますか?

乃紫:とあるK-POPアイドルの可愛いところを集めたショート動画があって、音源は「全方向美少女」ではなく、まったく私と関係ない別の曲が使われていたんですけど、コメントで「〇〇ちゃん、やっぱり全方向美少女だね」と書いてあったんですよ。それ、すごくうれしくて。新しい概念というか、流行語大賞みたいな感じ。草食系男子とか、ちょっと前だと蛙化現象とか。これが本当のバズだなと思ったんですよね。私の曲が使われていない場面でも、その表現が浸透しているというか。

――この「全方向美少女」を取り巻く一連の現象から学んだことはありましたか?

乃紫:どれだけの人に聴いてもらえるようになっても、リサーチを欠かさないこと、ですね。「全方向美少女」が広がったのもこの時代だからこそだと思っていて。また20年後、例えば美意識とかも変わると思うし。だから自分が年を重ねても、若い世代が何を思っているのか、ずっとユーザー目線で認識し続けないといけないなと思います。

――ほかの曲についても聞かせてください。「全方向美少女」以前にリリースした9曲の中で、特に手応えを感じている曲を挙げるとしたら?

乃紫:「先輩」はけっこうオススメの曲で、最近はミュージック・ビデオが100万回再生を達成しました。去年の夏ぐらいに出した曲で、「全方向美少女」ほどキャッチーなわけではないけど、コンセプトで戦いにいった曲ですね。キャッチコピーは「年上のお姉さんに弄ばれる後輩の曲」なんですけど、ちょうど『チェンソーマン』が流行っていた時期で、デンジとマキマみたいな感じならみんなに分かってもらえるんじゃないかなと思って。でも、最初は思ったより伸びていないなって感じだったので、「全方向美少女」がバズったとき、その波に乗ってくれるんじゃないかと思っていたら、案の定、カバーしてくれる人が増えたりして、自信がついた曲でした。




乃紫 - 先輩 【Official Music Video】


――そして、最新シングル「初恋キラー」が5月8日にリリース決定。すでにTikTokでは一部が配信中で、早くも広がりを見せています。

乃紫:この曲は中毒性がテーマで、そういうサウンドや言葉の言い回しを意識しました。作り方としては珍しくビートから考えた曲で、まだ一部のメロディだけを使った部分しか公開していないですけど、そこから意外性のある展開になっていて、何度も聴きたくなるような曲になっていると思います。

――1年半の音楽活動の経験が生かされているなと感じる部分もありますか?

乃紫:ありますね。TikTokで公開している部分の歌詞には渋谷とか下北とか新宿みたいな地名が出てくるんですけど、固有名詞を使うとコメント欄が盛り上がるんですよ。例えば<渋谷で捕まえたハンサムボーイ>って歌詞に対して、「いや、三茶のほうがいる」とか「中目のほうが多い」みたいな(笑)。あと、替え歌にしてくれる人もけっこういて、数日前にインスト音源を公開したりして。そういうことも今回はしてみましたね。




――4月25日には1stワンマンライブが渋谷WWWにて開催決定。ネタバレにならない範囲で教えていただきたいのですが、どんなライブにしようと思っていますか?

乃紫:めちゃくちゃ演出に凝っています。来たら絶対に後悔させないライブにするつもりです。お客さんと会うのも初めてなので楽しみです。

――4月の【JAPAN JAM 2024】にも出演が決まっていますね。

乃紫:そうですね。今後いろんなところでライブがしたいです。アーティストとライブは切っても切り離せないのかなって。今まで自分が聴いてきたアーティストもそうだったし、この時代、ネットだけで活動することもできるだろうけど、個人的にはオフラインで実物を見るうれしさがあると思っていて。直に会ってこそ、会場に人を呼べてこそだと思っているので、どんどん大きいところでライブしたいです。

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