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<インタビュー>bokula.、メジャー1st EP『涙 滲むのは心の本音です.』リリース 変化の先にたどり着いたバンドの現在地とは

インタビューバナー

 広島を拠点に活動する4 人組ロックバンド、bokula.がメジャー1st EP『涙 滲むのは心の本音です.』をリリースする。えい(Vo./Gt.)のアーティスティックな感性が生むソングライティングと、鮮やかなバンドサウンドが見事に混ざり合う一作である。本作に刻まれた、今まさに新たな世界に足を踏み入れようとするbokula.の姿は、この作品を聴いた誰かの勇気ある一歩をそっと後押しするだろう。この充実のEPについてや、地元・広島についてなど、メンバー4人にたっぷりと語ってもらった。(Interview:天野史彬 Photo:石原麻里絵)


収録された6曲それぞれに違った感情や表情がこもっている

――今作『涙 滲むのは心の本音です.』は、メジャー1st EPであり、見事な進化作でもあると感じました。音楽的なバリエーションや表現力も豊かで、聴き手に様々な景色や感情を想起させる一作だと思います。手ごたえはいかがですか?

えい:音楽は好きだし、音楽を追及し続けているので、そういう意味でも更新された一作になったのかなと思います。音楽を作っていると、ドラム、ベース、ギターだけじゃなくてもっといろんな音が欲しくなるんです。音のバリエーションって曲のテイストを表現するうえですごく大切なものだと思うので。もちろんライブでは4人の音にこだわっていますけど、作品に対してはもっと寛容であってもいいんじゃないかと思う。まだ5年目ですけど、レコーディングはどんどん楽しくなっていますし。


――レコーディングは楽しいですか。

えい:楽しいですね。僕がアレンジして持ってきたデモを元に、メンバーでディスカッションをしながら作っていくんですけど、「ここは変拍子の方がいいかな」とか「ここはこういうフレーズに変えた方がいいんじゃない?」とか、作りながら気づくことってすごく多くて。音域もこだわるようになったし、自分が作ってきたものの魅力が、バンドで作り上げていくうえで何倍にも膨れ上がる楽しさが今はあります。


ふじいしゅんすけ:昔はレコーディングをするうえで、「この曲は、このテンポでフィルを打ち込んで……」みたいなことを意識しながら、「ちゃんとした演奏」をすることを念頭に置いていたんです。でも最近は、自分たちの表情や感情みたいなものをどれだけ楽器を通して曲に伝わらせることができるのか、を意識するようになって。それによって、「音楽ってこんなに変わるものなんだ!」ということを知ったんですよね。例えば今回のEPの「いつ失ってもいいように.」は、「悲しい感情で雨に打たれている。でも、どこに感情をぶつけたらいいのかわからない……そのくらいの気持ちで叩いて」とエンジニアさんに言われて。今回は、収録された6曲それぞれに違った感情や表情がこもっているなと思います。


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――かじさんとさとぴーさんも、レコーディングの楽しさは増していますか?

かじ:そうですね、自分もシングルで出した「最愛のゆくえ.」のタイミングから表情の付け方を意識するようになったし、それによって、完成した後の聴き応えは大きく変わったと感じています。他の曲も「どういう表情を出そうか?」と考えながらレコーディングするのが楽しかったです。


さとぴー:そういうニュアンス部分の細かい気づきも多いし、録り方の変化もあって。例えば「不完ロマンス」は4人で「せーの」で音を出して録ったんですけど、それによって4人のグルーヴ感がより出るようになったり。


ふじい:今回は「不完ロマンス」だけじゃなく、「いつ失ってもいいように.」と「高鳴り」も「せーの」で録ったんです。


――かじさん、さとぴーさん、ふじいさんは、えいさんから出てくるデモ自体に変化を感じることはありますか?

ふじい:めちゃくちゃ感じます。最近、もはや音楽として完成した状態といえるくらいのデモを送ってくるんです。もう変更する点がないくらいの。なので、今はシンプルにデモが送られてくるのが楽しみであり……焦りもあります(笑)。


えい:なんで?(笑)。


ふじい:超えるのが難しいレベルのものを送ってくるので、「どうアレンジしようかな?」と悩むんですよ。デモを聴いて「そんなアイディアがあったんだ!」と発見することが最近は多いんです。えいが作るデモのフレーズって、ドラムを知らないからこそ思いつくものも多くて。そういうのを聴くと「うわ、いいね!」と思うことも多いです。


さとぴー:そもそも、デモの音がよくなっているんですよ。きっと、ミックスとかの技術も上がっているんだと思う。もちろん、そこからレコーディングをすることで4人の音になるのが楽しいんですけどね。


かじ:デモが100の状態で送られてくるから、だからこそそれを180とか200にするのを想像するのが楽しいし、「もっと味付けしたろう」と考えたりするのも、すごく楽しいです。


――えいさんご自身は、デモの完成度が上がっている理由はどんな部分にあるのだと思いますか?

えい:やっぱり最初に言ったように、音楽を探求することがすごく好きだからだと思います。元々はパンクやJ-POPしか聴かないような人間だったけど、今はもっと幅広いジャンルの音楽を聴くのが好きになっていて。最初は勉強のためにいやいや聴いていたんですけど、聴いているうちに段々といろんな音楽が好きになった……というか、好きになってきちゃったんですよね。


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「自分にできることってなんだろう?」と考えたときに音楽があった

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――そもそも、えいさんにとって音楽を作る喜びはどのようなものですか?

えい:喜び……。


――「喜び」という表現自体、ちょっと違うかもしれないですけど。

えい:俺はアイドルみたいに顔やビジュアルで評価されたいわけじゃないし、されていい人間だとも思っていないので。そういう意味では、自分のエゴや内面的なものを出した音楽が評価されるのは、嬉しいことだなと思います。


――音楽は自分のエゴや内面を出すものである、という点は曲作りを始めた頃から一貫していますか?

えい:そうですね。小学生くらいの頃から「ちやほやされたい」という承認欲求的なものはあったと思うんですけど、段々と歳をとるにつれて、「自分って世間から見られていないんじゃないか?」ということに気づいていって。「自分にできることってなんだろう?」と考えたときに、音楽があった、という感じです。


――曲を作りはじめて、最初に自分で手応えを感じた瞬間は覚えていますか?

えい:世間的な評価ではないんですけど、曲を作ってみて「自分はこんなことを思っていたんだ」とか「自分の口からこんな言葉が出るんだ」ということに気づいたとき……曲を作り始めてすぐのことなんですけど。曲を作りながら泣いていた時期があって。そのときに「自分の感性とか、自分が思っていることって、信用していいのかもしれない」と思ったのを覚えています。


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――かじさん、さとぴーさん、ふじいさんは、一緒にバンド活動をされてきて、ステージでの姿や、デモ以外の部分でえいさんの変化を感じることはありますか?

ふじい:もう、ビックリするくらい変わりましたね(笑)。そもそも、俺もえいも人を信じることが苦手なタイプなんですよ。なので、昔はバチバチに言い合うことが多かったんです。でも、あるときに「自分は本当にえいを信頼しているのか?」と思って。結局、俺はえいをめちゃくちゃ認めているし、すごいと思っているから。最近はえいも俺らが認めていることを受け入れて、引っ張ってくれている感じがする。お互いの関係も、前は「ライバル」って感じだったけど、最近は「戦友」という感じになってきたと思うし。昔は暗い部分というか、なよなよしている部分も見えたけど、今は全然違う人間だと思います。


かじ:ライブのときに話す言葉も、前は「考えて決めたことを話しているんだろうな」という感じだったけど、ここ最近は、自分が思ったことをそのまま口に出すようになっている気がして。「ありのままの自分を出すようになったな」と思う。


さとぴー:僕も、感じていることはかじくんに近いですね。最近のライブでは、(えいは)ヒーローになったと思う。メジャーデビューも経て、完全に主人公感が出ている。だからこそ、僕自身も自信を持ってライブができるし、安心があるというか……。


ふじい:任せられるよね。


さとぴー:うん。そのうえで、「負けたくない」とも思えるし。


――3人の言葉を受けて、えいさんご自身はいかがですか?

えい:自分の中では何かが急に変わったのではなく、徐々に変わっていったことだと思うんです。でも、確かに曝け出すようにはなったと思います。元々、音楽以外のことも含めて、いろんなものに対して食わず嫌いな性格だったんです。でも、最近は「なんでもいいから、受け入れてみよう」というマインドになっているのかもしれない。そういう部分が、ライブや話す言葉にも出ているのかなと思います。寛容になったというか、広くなったマインドは生まれたのかなと思う。


――それは、ご自身的に徐々に生まれた変化であるという。

えい:そうですね。まあでも、前のツアーは大きかったです。1本目のライブの時点でメンバー間、特に俺としゅんすけの間で分かり合えないことが多くなっていて。その瞬間に、はっきり言っちゃえば「ひとりでやりてえな」と思ったんです。しゅんすけがよく言うんですけど、俺はバンドマンのマインドももちろん持っているけど、世間的な見られ方としてはアーティスト寄りの人間なんだって。自分でも「たしかにそうかもしれない」と思うし、誰かを傷つけるくらいなら、ひとりになればいいのかなって。でもツアーをやっていくうちに、わかりやすく言えば、目を見て話せるようになりました。自分にも逃げている部分はあったと思ったし、まずはメンバーから向き合うことで変化していった部分は大きかったと思います。


――なるほど。

えい:音を作って、歌って、それで生きていけるって、変な話じゃないですか。誰かが便利になれるものを作っているわけじゃないし。それでも、こういう仕事……別に仕事と思ってないですけど、これで自分たちは生かされているんだと思うと、責任は増えたなと思います。


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皮肉的なものをテーマにするのが得意なんです(笑)

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――EP『涙 滲むのは心の本音です.』の内容について伺うと、リードトラックであり1曲目の「涙ばっかのヒロインさん」から、これまでのbokula.像を刷新するようなポップなロックサウンドが響いてきます。でも、そんなキャッチーなサウンドの中で、歌詞はかなり棘があるように感じます。

えい:歌詞に関して言うと、そもそも皮肉的なものをテーマにするのが得意なんです(笑)。これは実体験というよりは創作的に書いた歌詞なんですけど、例えば、駅でいちゃいちゃしているカップルを見て「こいつらはこいつらで幸せなんだろな」って(笑)。「こっちは不幸だけど、あっちは幸せ」みたいな。そうやって、場面をシャッターで切り取るようにして歌詞を書くことが多いんです。


――えいさんは、人間観察というか、普段から人を見る癖がありますか?

えい:そうですね、例えば目の前にいる人の服とかを見て、「この人はこういう性格で、こういう口調の人で、こういう人間関係があって……」みたいなことを想像するのは好きです。気持ち悪いっすよね?(笑)。


――いやいや(笑)。

ふじい:情景とか、人間的な、人間にしかない感性みたいなもの。そういうものを曲に落とし込むことは多いです。


――例えば3曲目の「不完ロマンス」は、どんな情景や人間の姿を描こうとしたのでしょうか?

えい:この曲は……(笑)。簡潔に言うと、いい感じになった人がいて、しゅんすけが言ったようになかなか人を信用できない俺が、ようやく「心を許せるかな」と思った頃に、その人に「私の曲を書いて」と言われて。それで一気に冷めて、書きました(笑)。


――(笑)。「曲を書いて」と言われるのは嫌でした?

えい:もう、めちゃくちゃ嫌でした。「俺がバンドマンだから、そこに憧れて近寄ってきてるな」と思って。俺がバンドマンじゃなくて、普通の大学生だったらこっちを見てなかったんだと思うと、全然本質が見られていないなと思ったんです。


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――今回のEPのタイトルは「不完ロマンス」の歌詞からとられていると思うんですけど、「涙ばっかのヒロインさん」の歌詞にも「好き嫌いが無くなってからが私の本心です」というフレーズがありますよね。「本音」や「本心」というものが、えいさんにとって重要なものなのかな、と思ったんです。

えい:そこまで深く考えて入れたワードではなく……もっと本能的、感覚的な部分での話なんですけど、例えば「2つ並んだ歯ブラシ」みたいな感じで目の前にあることをそのまま歌詞に書く人たちっているじゃないですか。それはそれでいいと思うんですけど、今の自分の感性は、もっと起こる物事の本質的なことを見たい、と思っているのかもしれないです。さっきの人間観察の話みたいな感じで、「じゃあ、なんで歯ブラシは2つあるんだろう?」みたいなことを、より深く掘っていきたい。それが今、自分がやりたいことなんだと思うんです。それが「本心」や「本音」というワードに出ているのかもしれない。



bokula. - 不完ロマンス(Official MusicVideo)

――2曲目の「怪火」は、これまでのbokula.にはなかったタイプの楽曲ですよね。ヘヴィで、グルーヴィで、そして歌詞は言葉の羅列のようである、という。

えい:この曲は、作ったときのエピソードがイレギュラー中のイレギュラーだったんです(笑)。友達が広島にライブに来ていて、せっかくだから夜一緒に居酒屋に行ったんですけど、居酒屋に行く道中でレーベルの代表から電話がかかってきて。「こういうタイアップがあるから、やってみないか?」と。しかも明日か明後日までに曲が欲しい、と。とりあえず「わかりました」と言って電話を切って、居酒屋に行って。そのとき店内には延々とマキシマム ザ ホルモンが流れていたんですよね。で、結構酔っちゃって、夜中の3時くらいに帰って、曲を書かなきゃいけないことを思い出して。それで、酔拳みたいな感じでこの曲が生まれたんです。普段はワードに気を使うタイプなんですけど、この曲は本当に語感だけ、感覚だけで書きました。


ふじい:送られてきたときは衝撃でしたよ。


かじ:デモと一緒に歌詞も送られてきたんですけど、まず「漢字が読めん!」となりました(笑)。


さとぴー:僕もビックリしたけど、「新しいな」と思ってすんなり受け入れられました。サウンドもかっこいいし。

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自分の感性をひとつの正解として音楽に出すことができている

――居酒屋の店内に流れていたという、マキシマム ザ ホルモンの生き霊が乗り移っている感じもするサウンドと歌詞ですよね(笑)。今回のEPは4曲目の「いつ失ってもいいように.」の最後で「忘れたいんだ」と歌ったと思えば、次の5曲目「最愛のゆくえ.」が「忘れてないよ」というフレーズで始まる。そして、「忘れてないよ」の終盤で「泣かないで」と歌い、6曲目「高鳴り」の冒頭が「悲しくて泣いてるんじゃない」で始まる。EP後半はまるで曲が連鎖しているようですよね。

えい:それ、本当にたまたまなんですよ(笑)。


――でも、こうして曲同士がまるでリンクしているように思えるのは、それだけ作り手がその時その時の生きている感覚をリアルに、曲に落とし込んでいる部分があるからなんだろうな、と聴き手としては勘ぐってしまいます。

えい:これは俺だけじゃなく、他のアーティストやバンドの場合もそうですけど、やっぱり作っている人間の人生観みたいなものは出るだろうな、と思います。それは必然的なことだと思うし、「そりゃあそうだろうな」と思うくらいで、深く考えてはいないです。歌詞のつながりも、自分の引き出しからワードを出しているわけだから、起こりうることが起こったんだなと思うくらい。でも、それだけ着飾らずに作れているのかな、とも思います。自分の感性を、ひとつの正解として音楽に出すことができているのかな、と思う。


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――bokula.は広島を拠点に活動されていますが、広島で活動されることにはどのような思いがありますか?

ふじい:僕らのホームは広島ALMIGHTY というライブハウスなんですけど、そこの店長さんは本当に広島を変えようとしていて。その店長と話していても「広島自体を変えることができるかもしれない」と、今は本当に思っています。もしbokula,が東京に行くとしたら、それは広島を変えたあとになるのかな、と思います。


――今年も4月20日、21日の2日間にわたり自主企画イベント【ASOVIVA FES】がBLUE LIVE広島で開催されますが、このイベントにはどのような思いがありますか?

えい:大前提として、「やりたいことをやっている」ということの表れですね。そのうえで、さっきしゅんすけが言ったとおりのことかな。地元愛であり、「広島に来てほしい」と思うし。でも、俺個人としては「広島を変える」というワードは俺には似合わんかな、とも思います(笑)。


ふじい:そうだろうね(笑)。でも持っている思いは近いです。新しく音楽シーンが変わる起点となればいいと思うし、起点どころか、常にシーンを動かし続けるものであれればいいなと思います。


bokula.「涙 滲むのは心の本音です.」

涙 滲むのは心の本音です.

2024/04/17 RELEASE
TFCC-81066 ¥ 2,200(税込)

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Disc01
  1. 01.涙ばっかのヒロインさん
  2. 02.怪火
  3. 03.不完ロマンス
  4. 04.いつ失ってもいいように.
  5. 05.最愛のゆくえ.
  6. 06.高鳴り

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