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<インタビュー>鈴木雅之が「ヴォーカリスト」であり続ける理由。B'z松本孝弘/GReeeeN/Billyrromらとの異色コラボが光る新AL『Snazzy』
Interview:永堀アツオ
鈴木雅之が、3月27日にニューアルバム『Snazzy』(スナーズィ)をリリースした。自ら作詞作曲した3曲に加え、松本孝弘(B’z)とGReeeeNという異色タッグによるリード曲「Ultra Snazzy Blues」のほか、大ベテランのつのだ☆ひろ、そしてBillyrromといった新進気鋭の若手バンドまで、バリエーション豊かなコラボレーションが目白押しの本作。デビュー45周年、また古稀を目前に控えつつも、そのフレッシュでしなやかなマインドを持ち続けられるのはなぜなのだろうか? 話を聞くと、そこには彼の「ヴォーカリスト」としてのこだわりが詰まっていた。
ひとりでも多くのミュージシャン、アーティストと
コラボレーションしてみたい
――マーチンさんは世代や性別、ジャンルの垣根を越えたコラボレーションを数多くおこなっていますよね。
鈴木雅之:自分の立ち位置として、“「ヴォーカリスト」にこだわる”っていうのが、ソロ活動を始めたときからのテーマだった。詞を書いたり、曲を書いたりすることもあるんだけど、「シンガー・ソングライター」っていう言葉を使ったら、いろんな人とコラボレーションできなくなるような気がして。ひとりでも多くのミュージシャン、アーティストと一緒にコラボレーションしてみたいからこそ、「ヴォーカリスト」であることにこだわってきて。たぶん、コラボレーションした人数はいちばん多いと思いますよ。
――ソロ活動をスタートされたのは38年前になりますが、同世代の大沢誉志幸のプロデュースから始まって、山下達郎、小田和正と続いて。
鈴木:最初の3年で3作。ヴォーカリストとしての方向性をその3人から学び、自分の中に音楽を取り入れることによって、割と方向性も見出してもらえて。そこからはもう、今「好きだな」って感じている人と、とにかく可能な限りコラボレーションしてみたいなっていう思いに駆られたね。
――2000年代には槇原敬之のプロデュースもあり、ゴスペラーズやSkoop On Somebody、CHEMISTRYをはじめとした後輩アーティストと積極的なコラボを展開していましたが、2000年代に入ってからは、“アニソン界の大型新人”を自称し、伊原六花や鈴木愛理、すぅ(SILENT SIREN)、高城れに(ももいろクローバーZ)とのデュエットが大きな話題となりました。
鈴木:還暦に向かっての3年間を「ステップ1・2・3」と名付けて、ちょうど60歳を迎えるときに「還暦ソウルを届ける」という目標を立てていたのね。でも、実際に還暦を迎えたときに、まだまだ歌わなきゃいけない歌や伝えたい思いがたくさんあるなって感じて。ゴールじゃなくて、リスタートだったんだって思えたときに、レーベルのスタッフが「リーダー、アニソンを手がけてみるとかどうですか」って話を持ってきてくれて。そこで、また新たな挑戦にもなるかなという思いと、一作目のデュエット相手の伊原六花は――朝ドラ『ブギウギ』で頑張っていたけど、当時はまだ19歳だったからね。還暦を迎えたアーティストが、19歳の女の子とデュエットなんてなかなかできないけど、ラヴソングって、同じ目線で歌えてしまうマジックがあるんだよね。
――マーチンさんの懐の深さがすごいなと思うんですよ。前作『SOUL NAVIGATION』には堂本剛や在日ファンク、YOASOBIのAyase、マハラージャンらが参加していましたが、新作『Snazzy』には、町田出身の6人組ソウルバンドBillyrrom(ビリーロム)とのコラボが実現しています。彼らは2020年に地元の同級生で結成されたばかりで、現在23歳ですね。
鈴木:そう。俺がデビューしたのが今の彼らと同じ23~24歳だったから、自分に置き換えると、20歳上が北島三郎さんぐらいで、30歳上は春日八朗さん。そうすると、Billyrromと俺の関係でいうと、40歳離れるってことは、当時の俺が服部良一先生とやるってことだよね。そんなことあり得ないから(笑)。自分たちが、とてもじゃないけどそんな人たちに近づけるわけもないし、ジャンルとしても一緒にやれることなんてないって思うし。それぐらいの年齢差なんだよ。
――服部良一(服部克久の父で、服部隆之の祖父/いずれも作曲家、編曲家)は笠置シヅ子「東京ブギウギ」の作曲者なので、もうほんとに朝ドラの世界ですね。
鈴木:そうだよね。今度は当事者として考えてみたときに、50代を超えて60代の声を聞いてくると、若い20代の連中にしてみればもう、いぶかしい存在になってるわけ。
――あはははは。そんなことないですよ。
鈴木:そりゃしょうがないんだよ(笑)。だから、自分のほうから降りていかない限りは成立しない。自分だって当時、良一先生のとこに行けたかって言われたら、とてもじゃないけど恐れ多くて行けるわけないんだから。でも、もし良一先生に「ちょっと鈴木くん、僕と一緒にやってみないか」って言われたら、嬉しいじゃん。だから(コラボ)できるんだと思う。23歳でデビューして、今年68歳ですよ。いま、古稀に向かっての「ステップ1・2・3 シーズン2」って言ってるんだけど、20代、30代の連中と一緒に同じ目線でやるからこそ、若くいられるっていうのは間違いなくあると思うよね。
――どうしてBillyrromだったんですか?
鈴木:今回のアルバムのレコーディングの最中に、うちの制作スタッフから紹介されて。その前に、俺のアイドルであるつのだ☆ひろさんとコラボすることは決まってて。中学のときに「メリー・ジェーン」を聞いて、そこから俺は「第2のつのひろになるんだ」と思って、アマチュアバンドでドラムボーカルを担当したのが音楽の始まり。そのときに「メリー・ジェーン」もよくレパートリーにしていたし、ラッツ&スターになった1983年に、大瀧詠一さんプロデュースでアルバム『SOUL VACATION』を作ったんだけど、そこでもつのひろさんとデュエットしていて。いろんな思いを成就させながら前に進んできている中で、去年でちょうど『SOUL VACATION』から40年だなと思って。久々につのひろさんと一緒にやりたいなと思って声をかけたわけです。そしたら彼、もう70代でしょ。だから、今度はそれと真逆の若い子とやりたいなって。
――あはははは。74歳のつのだ☆ひろさんの対抗として。しかも、この2曲が続いているのが面白いですよね。
鈴木:そう。つのひろさんがあったからこその20代代表(笑)。そこで、こんなバンドいますよって、Billyrromの音源を聴かせてくれて。俺が好きなマルーン5のサウンドの雰囲気を感じてちょっと面白いかもって思って、1曲作ってもらったんだよ。そういう意味じゃ、(石崎)ひゅーいが30代ぐらい、水野が40代で、いろんな世代を網羅している。決して年齢で決めたわけじゃなくて、音楽性があった上でなんだけどね。
――「Magic Hour」を受け取ったとき、どう感じましたか。
鈴木:デモのタイトルがもう「Magic Hour」だったんだよ。実はね、これも偶然なんだけど、去年、17枚目のアルバム『SOUL NAVIGATION』をリリースしたときに、俺の詞のテーマの中に“マジックアワー”があったの。太陽が沈んで夕日になり、夜に切り替わっていくときの時間帯の綺麗な光があって。でも、それは一瞬の輝きだっていう“マジックアワー”を人の出会いにリンクさせながら、「Blue Magic」っていうタイトルで曲を作っていて。『SOUL NAVIGATION』に収録しようと思っていた。アルバムの裏ジャケットを見てもらうと分かるんだけど、綺麗な色合いの要素があるでしょ?
――ほんとだ、夕陽の写真が載ってます!
鈴木:あえて入れたんだけど、ちょっとリズムがAyaseと作った楽曲(「道導」)とダブっちゃったから、俺の曲のほうをお蔵入りにした。でも、そのテーマが自分の中で好きだから、アルバム・ジャケットのビジュアルにはさりげなく入れておいたんだ。そしたら、何のインフォメーションもなしに「Magic Hour」っていうデモがきたから、運命的なものを感じて。すぐに「この曲やろう」って、入れたんだよね。
――Billyrromがそのまま演奏も担当していますが、レコーディングはどうでしたか。
鈴木:とってもいい子たちだったね。本当に音楽が好きなんだなってのがわかるのも嬉しかった。音楽で繋がっているほど強いものはないから。町田出身の連中で、京浜工業地帯城南地区の我々と(笑)、何となく近いノリを感じて。自分に通じる何かをもってくれている子たちってのは、何かの縁だなって。「縁を大事にしたい」っていうのは俺の口癖でもあるんだよ。
「Magic Hour feat. Billyrrom」Lyric Video / 鈴木雅之
――歌詞も「出会い」がテーマになってますもんね。石崎ひゅーいさんはレーベルメイトですね。
鈴木:ひゅーいはもうそんなに新人ではないんだけど、レーベル最古参の鈴木雅之と若手が一緒にやるのが美しいんじゃないかな、という思いがあったのと同時に、菅田将暉くんとかに楽曲提供しているのはずっと見聴きしていて。そんな中でね、このアルバムに絶対に必要なピースだなって思えたんだよ。今回のアルバムに俺は自分の曲を3曲、入れているんだけど。
――オープニングを飾る「Hey you ?, Hey sup ?」、SNSに対する皮肉とユーモアを込めたニューソウル~ジャズファンク「Psychedelic City」、そしてR&Bバラード「Dreams Come True」の3曲ですね。
鈴木:今回はまず自分の作品からレコーディングに入ったんだけど、その3曲を3部作として、そこに足りないピースをコラボで当てはめることで、ひとつにするというやり方をしていて。それまでは、「ヴォーカリスト」っていう立ち位置だから、コラボ相手がいちばん大事で、次は誰とやるんだろう?っていうところがまずメインだったのね。その人との曲を作り終えてから、そこに準ずるような形でアルバムを作っていたから時間もかかったんだけど、前回『SOUL NAVIGATION』や今回のように、自分が思ったテーマ性の中でピースを当てはめる、とするとすごくやりがいがあるし、やりやすいところもあって。制作においては、このやり方は自分に合っていたし、そういうような形でチョイスしていたっていうのもあるかもしれない。
――ひゅーいさんに求めたピースは何ですか。
鈴木:最初はね、バラードを書いてもらおうと思ったの。そうすると想定内だから、ひゅーいに「いい意味で裏切るために、ちょっとビートものを書いてみない?」って言ってみた。あいつはバラードでも書かせてくれるのかなぐらいの気持ちだったと思うんだ。でも、俺がいきなり、ちょっとアッパーな曲……お前が今まで出さなかったようなお尻を出してほしいって言って(笑)。そこからの出発だったから、結構驚いたと思うけど、最初の打ち合わせがちょうど、彼がニューヨークに行く1週間ぐらい前だったの。そしたら、「じゃあ向こうに行って、マーチンさんに贈るものを何か見つけてきます」って言ってくれた。それで出来上がったんですよ。
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大切にしている“トライアングル”
――アレンジはトオミヨウさんですね。
鈴木:彼は、玉置浩二の番組『玉置浩二ショー』に出演して、「メロディー」をカバーしたとき(2022年2月放送)のアレンジをやってくれて。ひゅーいとはアマチュアの頃から一緒にやってたっていう経緯もあったけど、これも必然というか、偶然じゃないんだよね、きっと。そうやって、一つひとつのプロジェクトの中でもちゃんとトライアングルのような形ができている。大滝さんがね、達郎さんと(伊藤)銀次さんと作った『ナイアガラ・トライアングル』ってあるけど、やっぱり3人いたら強いんだよね。これは大事なんだよ。楽曲によっては、いろいろなアーティストをかませてみたり、作詞作曲を入れてのトライアングルにしてみたり、制作のアレンジの部分でのトライアングルだったり。そういうことはね、とっても大事な要素だなっていうふうにいつも思ってる。
――「Beautiful」の鈴木雅之×水野良樹×本間昭光のトライアングルは、お馴染みの。
鈴木:完全にアニメ『かぐや様は告らせたい』プロジェクトだよね。水野と本間と一緒に『かぐや様は告らせたい』シリーズ4作をやり続けてきて。でも今回、水野が俺のライブを見た後にね、楽屋で「バラードを書かせてくれませんか?」って言ってきたんだ。俺のライブを全部観た上で、鈴木雅之という人にバラードを歌ってほしいって思ったのかもしれないし、俺がライブを通して、彼に何かを提示していたのかもしれない。だから今回、現実にしたいなと思って。そのときに、『かぐや様』を4期連続で歌ってるから、最後の特別映画編のあと「2人がどうなったかを曲にしてみよう」って水野に伝えた。そういう話をしているときに、能登で大きな地震があって。日本がピンチになった時に勇気を持たせてくれるようなメッセージを刷り込むことも作り手としては大事なことだから、“最愛の人との別れ”を踏まえたバラードにしようと話していました。
――そして、トライアングルでいちばん驚いたのが、「Ultra Snazzy Blues」です。松本孝弘(B’z)とGReeeeNとのコラボが意外で、びっくりしました。
鈴木:そうだね。まず、去年のツアーの最後のほうで、「来年はちょっとブルージーなものを届けるから」って宣言したんですよ。そう宣言したらさ、やらなかったら嘘つきになるから、確実に現実にしなきゃいけない。自分の背中を押す意味でも、宣言したがり屋なんだ(笑)。それで、俺はもともとアンサンブルの中でギタリストと一緒にやることがすごく好きで。布袋(寅泰)もそうだし、Charさんもそう。ギタリストがどうリフを弾いて、どういうソロを弾いてくれるか。その心地よさに自分がどう乗っかっていけるかっていう。そういうことをとっても大事にしている中で、B'zは同世代で、ずっと同志のような気持ちでいたけど、これまでそんなに接点がなくて。でもギタリスト松本孝弘としては、ブルース・アルバムを作ったりしていて、「おや?」っていう気持ちにさせてくれていた。だから、次にやりたいギタリストは松本かもしれないなっていう思いになったんだよね。そこで、さっき言ったようなトライアングルで考えると、「誰か面白い人いない?」って聞いたときに、松本が「GReeeeNのHIDE、面白いかもしれませんよ。懇意にしてるところもあるんで」って言ってきて。「じゃ、繋げてくれる?」とお願いして、このトライアングルが出来上がったところがある。でも「Ultra Snazzy Blues」っていうタイトルは俺が決めたんだけどね。
――(笑)。「ultra soul」を想起させますよね。
鈴木:B'zに対する敬意を持って、「Ultra」は絶対使いたかった。〈人は未完成/愛は未完成〉っていうサビのフレーズがあるんだけど、最初はタイトルが、その〈未完〉を果物の「蜜柑(みかん)」にしたものだったんだ。
――あははは。GReeeeNらしくはありますね。
鈴木:そう、GReeeeNだったらいいんだけど(笑)。何度もやり取りをしている中で、HIDEのいちばんいいところを吸収して、俺が当てはめたいピースは、ちょっと(自分に)やらせてほしいっていうのを伝えて。絶対にHIDEの世界を崩さずに、自分の思いみたいなものをさりげなく入れさせてもらって。『Snazzy』っていうタイトルはもう俺の中にあったし、やっぱり松本とやるからにはリード曲にもしたい。俺の気持ちを前面に押し出したいっていうのもあって、このタイトルに置き換えた。
Ultra Snazzy Blues / 鈴木雅之
重ねてきた生き方みたいなものを
“Snazzy”という言葉で届けられたらいいな
――よかったです、このタイトルになって。アルバムのタイトルにもなっている『Snazzy』にはどんな思いを込めていますか。
鈴木:1930年代初期にハリウッドの若手女優やスターが見せた、ちょっとエレガントで、だけども派手さもあるスタイルが、スラングで「Snazzy」と呼ばれていたらしい。だいぶ前から言葉としてあたためていて、いつか使いたいなって思ってた。今、みんながコロナ禍を経験して、能登で大地震があったり、世界的にはいろんな戦争が起きたりしている。みんなが苦しんだり、悲しんでいる日にだって、喜びを感じる瞬間があったりするから。そんな人たちに対して今、鈴木雅之が届けられる音やメッセージは必ずあるはずだなって思った時に、おのずと「Snazzy」っていう言葉が降りてきて。“粋”や“お洒落な”っていう意味合いもあるから、鈴木雅之が重ねてきた生き方みたいなものを“Snazzy”という言葉でくくって届けられることができたらいいなっていう思いを込めていますね。
――【~step123 season2 “Snazzy”】というタイトルがついた全国ツアーも始まります。
鈴木:言ってみれば、それぞれの街にジューク・ジョイント「House of Snazzy」が出現した、というような心地よさで楽しんでもらえればって思いはあるね。
――4月末から8月頭まで、約3か月におよぶホールツアーです。毎年アルバムを1枚出して、全国ツアーを回るっていうのは、かなり精力的ですよね。
鈴木:そうだね。毎年のようにツアーを回って。後半に差し掛かると、次はこういうことをやってみたいなっていうのが、漠然とおぼろげながらに降ってくる。気がついたら1年にアルバム1枚+ツアーを回るっていうペースが、ルーティンになっていて。意外に大変なんですけど(笑)、最初に“還暦ソウル”の話をしたけど、人間っていうのは、歳を取ることが怖いんじゃなくて、目標を失うことが多いんだっていう気持ちになれた。シャネルズとか、グループで活動していた頃に10代だった子たちが同じように60代になって、みんなそれなりに歳を重ねている。みんなにも、何かひとつの目標を掲げながら前に進んでいってほしいからさ。まずは自分が率先して、体験して、先陣を切っているような思いにもなっているし、ヴォーカリストとして、今の自分の思いを素直に形にして、作品として残していく意義も感じている。だから、いいことも悪いことも、楽しいことも悲しいことも、ひとつの作品としてみんなに届けることによって、少しでも明日に向かう気持ちや新しい思いが湧いてきたらいいなと思うし、だからこそ、やり続けられるんじゃないかと思うかな。
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