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<コラム>SPYAIR 『ハイキュー!!』との再タッグ作にして、バンドの次フェーズを切り開く“新たな代表曲”「オレンジ」――その理由をチャートから読み解く
Text:Maiko Murata
SPYAIRが今、最新曲「オレンジ」で新たなフェーズを突き進んでいる。
“ボーカルの脱退”という、バンドにとって致命的な出来事を乗り越え――なんなら、YouTubeチャンネル『スパイエアー、ボーカル探してます。』やオーディション【君がSPYAIRだ! ~Hey Hey 応えて 誰かいませんか~】によって、ファンと共有する“バンドの物語”の1ページへと昇華し、2023年4月には新ボーカル・YOSUKEを迎えた4人編成で再始動したロックバンド・SPYAIR。「オレンジ」は、2024年2月16日より公開中の『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』の主題歌であり、人気アニメ作品の主題歌、しかも「イマジネーション」「アイム・ア・ビリーバー」「One Day」でも主題歌を担当してきた縁深い作品、『ハイキュー!!』シリーズとの再タッグだ。
そんなエモーショナルなストーリーだけでなく、「オレンジ」はチャート成績でもしっかりと足跡を残している。総合ソング・チャート“JAPAN Hot 100”では、音源リリース後初の集計となった2024年2月21日公開チャートにて初登場19位を獲得。その翌週、2024年2月28日公開チャートでは最高位となる8位までのぼり詰め、“新生SPYAIR”最大のヒットに。名実ともに新たな代表曲となった。
【ビルボード】Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」がストリーミング5連覇達成 SPYAIR「オレンジ」初のトップ10入り https://t.co/79M9DCQ5qj
— Billboard JAPAN (@Billboard_JAPAN) February 28, 2024
「オレンジ」が、SPYAIRの新フェーズを切り開く楽曲である理由はこれだけではない。本楽曲の“JAPAN Hot 100”での成績を詳しく見てみると、主なポイント源、つまりこの曲が主に聴かれているルートが、ほとんどストリーミングであることがわかる。“JAPAN Hot 100”は現在6つの指標(CDセールス、ダウンロード、ストリーミング、ラジオ、動画再生、カラオケ)で集計しているが、そのチャート構成比をみると、チャート初登場週の2月21日公開チャートから、すでに約70%をストリーミングが占める結果に。また、「オレンジ」のストリーミング指標における獲得ポイント推移をみると、“JAPAN Hot 100”で最高位を記録した2月28日公開チャート以降、獲得ポイントの大きな変動がなく安定した成績をキープしている。この「安定したストリーミング成績」というのが肝なのだ。
今のチャートにおいてロングヒットを続ける楽曲は、すべてこのストリーミング指標で高ポイントを獲得し続けている楽曲ばかりである。“JAPAN Hot 100”で何週にもわたって首位を獲得した楽曲を例に挙げても、12週連続(2024年1月31日~4月19日発表)で首位、今も記録更新中のCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」しかり、何度も返り咲きを果たし通算13度の首位を獲得したAdo「唱」しかり、当チャート歴代最長の21連覇(2023年4月19日~9月6日発表)を達成したYOASOBI「アイドル」しかりと、枚挙に暇がない。さらにこれらの曲で共通するのが、いずれも「カラオケ指標」および「UGC」(=User Generated Contentの略。Billboard JAPANチャートにおいては「YouTubeにおける二次創作動画の再生数」)でも高い数字を獲得しているということだ。カラオケおよび二次創作でファンが能動的に楽曲を楽しむことで、これまで楽曲を聴いたことがなかった人にも認知が広がる。そして新しく楽曲を気に入った人がストリーミングでその曲を聴く……という輪が広がっていくのである。
この視点で改めて「オレンジ」の成績をみると、カラオケ指標での獲得ポイントは現在も週を追うごとに伸びており、ついに4月3日公開チャートからはトップ100入りを果たした。また、UGC数はピークを越えた印象があるものの、ほぼストリーミングでの成績と近似する形で数字をキープしている状態だ。この2点を踏まえると、「オレンジ」はこれまでのSPYAIRファンだけでなく、この曲で初めて彼らの音楽に触れた層までも新しく取り込んでいるといえる。総合アルバム・チャート“Hot Albums”(同曲収録のEP『オレンジ』はBillboard JAPANでは“アルバム”として集計している)で、登場4週目(2024年3月13日発表)にしてCDセールス指標のポイントが再度上昇し、その後の減少幅も緩やかになっていることからも、これが事実であるとわかるだろう。
SPYAIRをはじめ、日本での音楽ストリーミング・サービス普及前から活動するアーティストは、今でも主なポイント獲得指標がCDセールス、ダウンロードのいずれかであることが少なくない。彼らの“JAPAN Hot 100”での自身最高順位は「イマジネーション」での3位(2014年5月7日公開)、続いて「アイム・ア・ビリーバー」での5位(2015年10月28日公開)だが、ストリーミング普及前のリリースであるこの2曲はもちろん、同じくTVアニメ『ハイキュー!!』シリーズ第4期『~TO THE TOP』のエンディング・テーマ「One Day」(2020年10月3日に先行配信、11月11日に期間生産限定でCDリリース)や前作「RE-BIRTH」(2023年7月7日リリース)といった近年の楽曲においても、いずれもストリーミングは伸び悩み、CDセールスとダウンロードの変動に総合順位が相関する結果だった。その状況が「オレンジ」においては一変している。つまり、SPYAIRはこの曲でストリーミングでの支持、また新規リスナーの参入を得たことで、楽曲が“チャートで長く存在感を示す”可能性を手に入れた、といえるのだ。
また、ストリーミングでの支持は、国内でのロングヒットだけでなく“世界でのヒット”も導く可能性を秘めている。先に述べた、ストリーミング(&カラオケ)支持の厚い楽曲――「Bling-Bang-Bang-Born」「唱」「アイドル」はいずれも、国内で人気に火がついたとほぼ同時に世界規模でのヒットが巻き起こった。もちろん、その理由には“ダンス”や“ショート動画”などいろいろな要素が絡み合っているのだが、その一つにストリーミング・プラットフォームにおけるプレイリスト・イン、それによる注目度や接触数の上昇が存在することは確実だ。すでに「オレンジ」も、日本を除く世界200以上の国と地域においてヒットしている「日本の楽曲」をランキング化したグローバルチャート“Global Japan Songs Excl. Japan”では最高57位(2024年3月7日公開)、同チャートのデータから、各国ごとに独自の比重をつけて算出する“Japan Songs(国別チャート)”では韓国にてトップ20入り(最高18位/2024年3月7日公開)を果たすなど、韓国を中心にじわじわと認知を確実なものにしている。
そう、SPYAIRを語るうえで「韓国での支持の高さ」は外せない。現在ほど日本アーティストの海外進出が一般的ではなかった2011年に、SPYAIRは韓国のロックフェス【JISAN VALLEY ROCK FESTIVAL 2011】に出演。同年には1stアルバムを日韓同時リリース、音楽番組『M COUNTDOWN』にはYOASOBIより約12年も早く出演を果たしているほか、その後も幾度もの現地フェス出演、ワンマンライブ2DAYSも完売させるなど、長年の活動で着実に韓国のファンを獲得していた彼ら。5月からは、ついに『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』の海外上映もスタートする予定で、さらに「オレンジ」の注目度が世界的に上がるであろうことを踏まえると、日本以外にもしっかりファンダムが存在するということは、特に今後の海外展開において非常にアドバンテージになると考えられる。
SPYAIRはさっそく、3月29日から31日にかけて米・シアトルで開催されたアニメ・コンベンション【Sakura-Con】に出演、5月からはソウル、台湾、上海をまわるアジアツアーが決定している。新生SPYAIRとして、日本のみならずアジア圏、そして世界へ羽ばたいていく彼らに注目したい。
オレンジ / SPYAIR
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