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<わたしたちと音楽 Vol.35>kiki vivi lily 年齢や容姿について、他人が言うことを気にせず自分を信じて
米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。
今回のゲストは、シンガーソングライターのkiki vivi lily。そののびやかな歌声で、ヒップホップ界を中心にさまざまなアーティストとコラボレーションした楽曲でも知られる彼女は、会社勤めを経験したあとにアーティストとして生きていく夢を叶えたのだそう。「大人になってからデビューしたからこそ、できることがあると思うんです」と晴々とした表情で、心境を語った。(Interview:Rio Hirai[SOW SWEET PUBLISHING] l Photo:Megumi Omori)
最近やっと人をエンパワーする
歌詞が書けるようになった
――kiki vivi lilyさんが、音楽の道を志したのはいつからなのでしょうか。
kiki vivi lily:音楽はずっと好きで、2、3歳から机の上をステージにして歌を歌っていたようです。中学生の頃にバンドを組んだのですが、それからしばらくは遊びの延長線という感じで見よう見まねで人の曲をコピーしていました。本格的に「ミュージシャンになりたい」と思うようになったのは、大学生になってから。松任谷由実さんのドキュメンタリー番組を観て、彼女自身が作詞作曲をしたものを元に曲が出来上がっていく様子がカッコよくて、自分も曲を作ってみることにしたんです。
――それから今までご自身で歌詞を書いていらっしゃいますが、歌詞を書くうえで大切にしていることはありますか。
kiki vivi lily:私の好きな松任谷由実さんの歌詞は、曲を聴くと目の前に景色が広がるようなんです。情景描写が素晴らしくて、音楽を通して聴いた人を違う世界に連れていくというか……だから私も、曲を通して、リスナーにそんな体験をしてもらえるように意識して書いています。最近は、音楽を始めた当初と比べると自分自身も成熟してきたので、聴いてくれた人をエンパワーできるような歌詞も書けるといいなと思っています。
女性アーティストというだけで
年齢や容姿を批評される
――その心境の変化は、何がきっかけだったんでしょうか。
kiki vivi lily:これまでの活動を振り返ってみると、私は“女性アーティストであること”を意識することが多かったなと思うんです。音楽を始めたときは、今よりも男性と女性の区別がはっきりあったし、SNSも盛り上がってきて容姿について何か言われるようなこともありました。周りには男性の音楽仲間が多かったけれど、彼らと話をしていても、男性の場合は容姿についてコメントがつくことはあまりないようで……女性のアーティストは音楽面ではなく容姿や年齢について批評される機会が多かったので、ずっと変だなと思ってきました。私はどれだけカッコいい音楽が作れるかにフォーカスして活動をしているのに、表層だけしか見てもらえていない気がしてしまって。その当時は見て見ぬふりをしてやり過ごしてきたんですけれど、自分にいつか影響力がついたら、同じような思いをしている人のために何か発信したいなとは思ってきたんです。
――時が経って、そのときの思いも作品に込めることにしたのですね。
kiki vivi lily:そうですね。当時は、「今の自分が言っても届かない」と諦めてしまっていた部分もあったのですが、それからは時代も変わり、ルッキズムやジェンダーギャップという言葉も知られるようになって、発信しやすくなりましたね。あとは自分自身でも「もう何を言われてもいいや」「伝わる人にはちゃんと伝わるだろう」って吹っ切れた面もあります。
ノイズになる権威とは距離を置き
同年代と音楽に向き合ってきた
――ルッキズムが当たり前に蔓延していた時代から少しは進歩していると思いたいですし、kiki vivi lilyさんのようなアーティストが発信することでさらにその進歩を加速させてるのは間違いないですね。また女性アーティストが活動を続けるうえで、ライフスタイルの変化を受け入れながら、いかに健やかに長く続けられるかもテーマになると思うのですが、何か考えていることはありますか。
kiki vivi lily:本当に、私にとってもそれはすごく大事なテーマです。長く続けるために気をつけているのは、自分を安売りしないってことかなぁ。自分が長く聴いていたいと思う曲を作るアーティストは、良い音楽を作るために地に足をつけて活動をしている人たち。自分が思う良い音楽を着実に作り続けることが大切なのだと信じて私も活動をしています。私、活動を始めたのが20代中盤なのですが、当時は「けっこう年齢いってるからね」というような言われ方をすることもあって。スタッフの人から直接言われたり、人伝てにそう言われているのを聞かされたり……そのたびに悲しかったけれど、だからこそ年齢や容姿でジャッジしてくるタイプの権威性のある人には近付かないようにして、同年代のアーティストたちと一緒に曲を作ってきました。今となっては、あのとき言われたことなんて何も気にしなくて良かったなと思うし、自分がやりたいことに真摯に向き合っていれば、ちゃんと時間が解決してくれるんだってわかりました。あれからさらに年齢を重ねたことで、「なんだ、歳をとるのって、怖くないじゃん」と思うようになって。
年齢を重ねて経験を積み、
なんでもやれると思うように
――そんなkiki vivi lilyさんがロールモデルにしているような女性アーティストは、どんな方々なのでしょうか。
kiki vivi lily:【グラミー賞】を毎回楽しみに見ているのですが、女性の活躍は素晴らしいですよね。特にヴィクトリア・モネが素敵だなと思って、社会に対してメッセージを発信し続ける彼女の活動についていろいろと調べてみて、自分が目指していきたい姿の1つだなと思いました。国内ではもちろん松任谷由実さんですし、CharaさんやUAさんが妊娠・出産を経て今もなお最前線で活躍されているのを見ると、「私も挑戦してみたい」と思います。30代になって、周りの女性たちもライフステージがいろいろで。アーティストの友人たちはすごく精力的に活動していて、私自身も今すごく楽しいし、一方で家族を持っている友人たちも充実して見える。私は大学時代からオーディションを受けていたけれど、卒業後は一度就職して会社勤めを続けながら活動していましたが、コロナ禍で音楽一本に絞りました。デビューが遅かったからこそ、これから長く続けるには、ということをよく考えてますし、「やりたいことは全部やろう」という気持ちです。
――さまざまな経験を経てきたからこそ、今は吹っ切れて活動に集中できているのですね。今kiki vivi lilyさんが音楽を通して伝えたいのはどんなメッセージでしょうか。
kiki vivi lily:人生にルールなんてないんだよってことですかね。何かを始めるのに「遅すぎる」というのもないし、女性アーティストは容姿が魅力的でなくちゃいけないというルールもない。みんな、やりたいことをやれるようになったらいいなって思っています。人に前向きなメッセージを発信するには、私自身が良い時間を過ごして良い気持ちで満たされていないとパワーも出てこないと思うので、これからも広い世界を見て、いろいろな体験をしていきたいです。
プロフィール
2015年にkiki vivi lilyの名前で活動を開始し、2019年6月に1stフルアルバム『vivid』でデビュー。スペインでの海外初公演を実現させた。2020年12月にはEP『Good Luck Charm』をリリースし、収録曲の「ひめごと」が三井アウトレットパークSURPRISE SALEのCMソングに抜擢される。2021年10月、2ndフルアルバム『Tasty』をリリース。収録曲の「Lazy」が、若者を中心にスマッシュヒットを記録。2023年にはEP『Blossom』を発表するなど、精力的に活動を続ける。
関連リンク
ビルボード・ジャパン・ウィメン・イン・ミュージック イベント情報
【Billboard JAPAN Women In Music Sessions vol.1】
2024年3月26日(火) Billboard Live YOKOHAMA
1stステージ「“ジェンダーギャップ”はどうして問題なのか?」
OPEN 17:00 / START 18:00
出演:SIRUP/Furui Riho
モデレーター:長谷川ミラ
2ndステージ「メディアが作り出す“ジェンダーバイアス”とは?」
OPEN 20:00 / START 21:00
出演:SIRUP/Furui Riho、高嶋直子(Billboard JAPAN 編集長)
モデレーター:辻愛沙子
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