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<インタビュー>『ピクサー・ベスト』アルバム応援隊長・ハナコ秋山寛貴が語る、作品と音楽の魅力



ハナコ秋山インタビュー

Interview & Text: 岡本貴之

 世界中で人々を魅了し続けているピクサー・アニメーション・スタジオ作品の音楽にフォーカスした、日本限定の独自企画アルバム『ピクサー・ベスト』が2024年3月20日に発売された。『トイ・ストーリー』から『マイ・エレメント』までの全27作品から感動と懐かしさを思い起こす名曲を収録した今作を、より多くの人にアピールすべく、キングオブコント王者・ハナコの秋山寛貴が【『ピクサー・ベスト』アルバム応援隊長】に就任。かねてからピクサーファンを公言してきた秋山に、ピクサー映画・音楽との出会いやエピソード、その魅力を作品への愛情たっぷりに語ってもらった。

──秋山さんはピクサー作品好きで知られていますが、今回【『ピクサー・ベスト』アルバム応援隊長】に任命された心境をお聞かせください。

秋山寛貴:小さい頃からピクサー作品が大好きだったので、今回【応援隊長】として一緒にお仕事することができて、もう本当に夢みたいです。ラジオでピクサー作品について喋ったり、映画を観に行ったことをSNSに上げたり、勝手に好きって言っていたので、突然任命していただいて驚いています。『ファインディング・ドリー』(2016)から引用するならば、「一番素敵なことは偶然起こるの」ですね。好きなドリーのセリフそのものです。計画されていないからこそ起こるっていう、まさに突然起きた最高の出来事ですね。たまに、芸人さんが声優として出られていて、チョコレートプラネットさんが『トイ・ストーリー4』でダッキー&バニー役をやられたときは、「この先自分も頑張っていれば、もしかしたら……」っていうことが頭をよぎりましたけど、ただただピクサー作品が好きで、ずっと言っていたら、今回【応援隊長】に任命していただいて、本当にありがたいです。

──小さい頃からお好きだったとおっしゃいましたが、ピクサー映画との出会いを教えてもらえますか?

秋山:僕が5歳のときに『トイ・ストーリー』が劇場公開(1996)されて、VHSビデオを買ってもらって観たのが始まりです。その頃はもちろんこの作品がピクサーだという理解はなかったんですけど、『トイ・ストーリー』をきっかけにCGアニメが大好きになって、ずっとCGアニメやCGアニメ映画を見るようになったんです。それで中学生、高校生ぐらいになったときに、好きな映画について友達と話していたら、自分が好きな映画は全部ピクサーだったんですよ。そこで初めてピクサーが好きだったことに気が付きました。CGアニメを好きになったきっかけを作ってくれたのはピクサーだったんだって。それからずっと好きです。

──『トイ・ストーリー』を最初に観たときに、どんなところに惹かれたか覚えていますか?

秋山:初のCG長編作品ということで、観たことがない衝撃がありました。それと、身近なものだけど見えていないおもちゃの世界が描かれていて、子供心にもう刺さりまくって、今観ても面白いです。冒頭でアンディがいっぱいプレゼントをもらって、そのプレゼントのおもちゃが何なのかを偵察に行くシーン(主人公・ウッディのおもちゃ仲間グリーン・アーミーメンが偵察に行く)があるんですけど、自分の知らないところで自分が持っているおもちゃたちがそんなことを行っているのかと思うと、ワクワクが止まらないじゃないですか? ああいうストーリーの魅力が、他の作品では感じたことがないワクワク感だったというか、すごく好きになったところだと思います。


▲「君はともだち」

──『トイ・ストーリー』をビデオで観てからは、映画館でピクサー作品を観るようになったのでしょうか?

秋山:映画館で全部観ていると思います。僕は岡山で生まれ育ったんですけど、芸人の養成所に入るために上京したんです。立川の映画館で初めてアルバイトしたんですけど、僕が映画館で働くのを待ってくれていたかのように、『トイ・ストーリー3』の上映が始まったんですよ。「うわっ!『トイ・ストーリー3』が出迎えてくれた!」って(笑)。忘れもしないですけど、「さよならなんて、言えないよ…」っていうキャッチコピーが付いたポスターも自分で設置しましたし、チケットのもぎりもしました。それと、映画館のアルバイトは申請をすればスタッフ特権で映画を観ることができる制度があったので、それを使って『トイ・ストーリー3』を観ました。確か3Dバージョンと普通のバージョンがあって、3Dグラスをかけてバイト先の映画館で観ましたね。もうこれ以上新しいストーリーは観られないと思っていたら、『トイ・ストーリー2』(2000)から10年ぶりに『トイ・ストーリー3』が決定して。映画でまだ観たことのないセリフや動きをするウッディたちを観て、冒頭から涙で3Dグラスが濡れてよく見えなかったです(笑)。それぐらい、感極まってしまったぐらい好きです。


▲「僕らはひとつ」

──素敵なエピソードですね。『トイ・ストーリー3』って、アンディが大きくなっておもちゃたちと遊ばなくなっているっていう成長がストーリーの中心になっていますから、実家を出て上京した秋山さんの心境も重なったりしたのでは?

秋山:まさにアンディが高校を卒業して、大学の寮に入るために実家を出る話ですからね。僕はもう、ドンピシャの超アンディ世代なんですよ(笑)。共に歩んできたっていう気持ちもありますね。

──それはスクリーンで観たら泣いちゃいますよね。

秋山:でも冒頭で泣く人はさすがにいなかったですけどね。「別に泣くシーンじゃないよ!」って言われました(笑)。その映画館では2年間ぐらいアルバイトをして、『カーズ2』(2011)と『メリダとおそろしの森』(2012)も観た覚えがあります。

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──『ピクサー・ベスト』は年代順に作品と音楽が並んでますけど、特に思い入れのある作品、音楽があれば教えてもらえますか?

秋山:音楽でまず思うのは『リメンバー・ミー』(2018)ですね。『リメンバー・ミー』には主人公の少年・ミゲルの歌声と楽曲の良さ、魅力が多すぎます。今回のアルバムには「リメンバー・ミー」だけが入っていますけど、この作品には他にも「ウン・ポコ・ロコ」とか、ガッツリ大きく印象に残る良い曲が3曲ぐらいあって好きなんです。ピクサーってあんまり人間を主人公にしていなくて、『リメンバー・ミー』がほぼ初めてなんじゃないかなと。『レミーのおいしいレストラン』(2007)のレミー(主人公のネズミ)とタッグを組む人間のシェフや、『カールじいさんの空飛ぶ家』(2009)もありますけど、“普通の少年”が主人公は珍しいなと思いました。でもピクサー作品の中でも人気の高い作品ですし、ミゲル自体も人気の高いキャラクターなのは、やっぱりあの歌の魅力が大きいと思いますね。


▲「ウン・ポコ・ロコ」


▲「ごちそう」


▲「幸せな結婚生活」

──ちなみに、こういう曲をカラオケとかで歌ったりすることはありましたか?

秋山:ピクサー作品の曲じゃないんですけど、パークのアトラクションで流れる「コンパス・オブ・ユア・ハート」は、「上手に歌えたらいいな」ってつくづく思う憧れの曲です。「人生は冒険だ」っていうことを高らかに歌っていて、すごく気持ちのいい歌なんですよ。ピクサーで言うと、ベタですけど、「君はともだち」(『トイ・ストーリー』)は、5歳ぐらいからずっと口ずさんでいる曲です。


▲「君はともだち」

あと、『トイ・ストーリー』1作目でバズ・ライトイヤーが、テレビCMを見て自分がおもちゃなんだって気づくシーンがあるんですよ。「僕はおもちゃじゃない。スペースレンジャーだ」ってずっと思っていたのに、シドの家のテレビから自分のCMが流れて、「ちょっと待って。自分はおもちゃなのか?」って半信半疑の気持ちになって、階段の手すりを登って、「無限の彼方へ、さあ行くぞ!」って窓の外に飛び出そうとするものの、当然飛べないから1階に落下して腕が取れてしまう。そのシーンで流れる〈ああ、もう一度 宇宙へ飛び出そう 自由に大空飛べると 信じて 信じても空は飛べない〉(「幻の旅」ダイアモンド☆ユカイ)のパートを小さい頃になぜかめちゃくちゃ口ずさんでました(笑)。

──切ないシーンが忘れられなくなったのかもしれないですね(笑)。主題歌とかじゃなくても、劇中の印象に残っているシーンは音楽と一緒に覚えているものですか?

秋山:今回のアルバムに収録されている曲がどこで流れているのか再確認したい作品もあったので、色々見返してみました。久々に『バグズ・ライフ』(1999)を観たらすごく面白くて。ピクサーの全作品は冒頭からすごくワクワクする始まり方が多いんです。『バグズ・ライフ』も、アリたちが会話しながらいっぱい食料を運んでいて、「アリたちってこうやって会話してるんだ!?」って子供ながらにワクワクしながら引き込まれて行く中で、「フリックの収穫機」が流れて初めて主人公のフリックが映るんです。フリックは他のアリたちより一枚上手で、草木を組み合わせて作った収穫機で枝葉を切ったりするんですよ。「フリックの収穫機」を小さい頃に聴いていたことは覚えていたんですけど、見返してみたら、ワクワク感がもう一段階上がる瞬間にこの曲も演出としてすごく良い働きをしていると思いました。大人になってから見てもワクワクしますし、コントをやっているからか、演出にも目が行ってしまうというか(笑)。このタイミングで主人公を出して、この曲をかけて、冒頭5分ぐらいでバッタたちがやってきて、いきなり大ピンチが訪れるっていう流れが完璧すぎて。改めて曲も含めてすごいなと思いました。


▲「フリックの収穫機」

──なるほど、最近は展開や構成とかに「これすごいな」っていうコント師の視点も持ちつつ観ているわけですね。

秋山:今そうやってまとめられて聞くと、ちょっと大層なことを言い過ぎなんですけど(笑)。でも気になったピクサー作品のドキュメンタリーも観るのが好きで、それも観ているからかもしれないですね。ドキュメンタリーを見た上で改めて作品を返すと、「すごいな」って。それも楽しみの一つになってますね。

──芸人さんとして、ピクサー作品から影響を受けているところもご自分の中にあると思いますか?

秋山:「これがそうです」って言えるものはないんですけど、絶対にあると思います。これだけピクサーが大好きで、深く共感したり、面白くてたくさん笑ったりしたので、自分が考えて作る面白いものに絶対に影響していると思います。言葉選びも優しめにすることが多くて、それはもしかするとピクサー作品から影響されているのかもしれませんね。

──コントのキャラクター作りの着想を得たりすることもあります?

秋山:自分はキャラクター作りが苦手で、ピクサー作品のキャラクターは、サブキャラクターまで、本当に魅力的なキャラクターが多くてすごいです。見返しているときに気付いて楽しくなっちゃったんですけど、キャラクターのネーミングがめちゃくちゃ良くて。『カールじいさんの空飛ぶ家』の(カール・)フレドリックセンさんとか、『モンスターズ・インク』(2002)のサリーの本名のジェームズ・フィル・サリバンとか、バズ・ライトイヤーとか、呼びたくなる名前が多いんですよね。コントで架空の人物の名前を考えたことがあって、ネーミングの難しさを実感してはいるので、それを経験した上でこのネーミングを見ると、「なんでそんないい名前が思いつくんだろう?」って、すごく感心します。でもさっき、スタッフさんたちと喋っていたら、どうやらピクサー社の社員からキャラクターの名前を取っているみたいなんです。ジェームズ・フィル・サリバンの「サリバン」も、ピクサー社の食堂のスタッフの名前がサリバンだったからとか。身近にいて語感がよくて愛着が湧いている方の名前を借りてキャラクターにつけてるっていう。それだけでもう愛着が湧くよなぁって思いました。僕も今日をきっかけに探すかもしれないです(笑)。

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──こうしてお話していても、秋山さんからピクサー愛が溢れてる感じがします。ぜひおすすめ作品や見どころを教えてください。

秋山:教えてくださいなんて、そんな……あ、そうか! 【応援隊長】ってそういう役割ってことですね(笑)。きっと観る人やそのときの心情によって心にグッとくるものは変わると思うんですけど、僕は毎回ピクサー作品が描く世界が好きなんです。例えば最新作の『マイ・エレメント』(2023)は、「今回は“エレメント”(要素・成分)の世界で行くんだ!?」っていう、ピクサーの中での新しさがあると思いました。『2分の1の魔法』(2020)もそうで、一見すごくファンタジーな世界で、遠い世界の話だなって最初に思っても、共感できる要素が多いのがピクサーの魅力だと思うんです。『マイ・エレメント』だと、「風」のエレメントが風の動力を利用して気球で通勤通学していたり……知らないファンタジーの世界の社会なんだけど、バスや電車で移動する我々の生活と近いものがあって、不思議と共感できるっていうか。『2分の1の魔法』も、もともとは誰もが魔法を使う社会だったのに、あるとき1人のおじさんが電球を開発したら電気のほうが便利になって魔法が衰退した社会の設定で。現実の世界に近くて、僕ら人間が普段使っているものが「実は魔法よりすごいものなんだ!?」っていう気持ちから入れる。その導入がすごく面白いですし、そういうところもピクサー作品の面白いところだと思います。

──アルバムの最後には、Superflyが歌う『マイ・エレメント』の日本語版エンディング曲「やさしい気持ちで(マイ・エレメントver.)」が収録されています。

秋山:最近は日本のアーティストが歌う楽曲がよく使われていますよね。ピクサーをずっと観ている身からすると、すごく不思議な気持ちと、「すごい、エンドロールで日本の楽曲が流れてる!」っていう嬉しい気持ちが混ざってます。


▲「やさしい気持ちで (マイ・エレメントver.)」

──日本人アーティストでは、昨年お亡くなりになった八代亜紀さんが歌う「アンフォゲッタブル」(『ファインディング・ドリー』)は意外性がありますね。

秋山:八代亜紀さんは歌だけじゃなくて、作中でも重要な役どころで出演してますよね。海洋生物研究所館内放送のアナウンサー役で、英語版だとシガニー・ウィーバーが声優をやっていました。日本語吹き替え版だと八代さんが「八代亜紀役」として出演されていましたけど、ご本人役で出られるのも珍しいですよね(笑)。

──ちなみに、秋山さんは普段どんな音楽を聴いているんですか?

秋山:音楽には疎いんですけど、J-POPが多いですね。映画で流れてる曲が気になって聴くことも多いです。アーティストで言うと、チャットモンチーさんとか、最近だとズーカラデルさんとかが好きですね。ズーカラデルのみなさんは僕が1人でやってるラジオ「レコメン」にゲストで来てくれて。もともとファンだったので、今までで一番緊張しました(笑)。ベースの鷲見こうたさんが、ピクサーと『Mr. ビーン』が大好きっていう、僕と2つ共通の趣味があって嬉しかったです。『Mr. ビーン』好きと会うことって結構珍しいんですよ。

──日本語吹き替え版の声優さんの中には、共演されている方もいらっしゃると思いますが、『モンスターズ・インク』、『モンスターズ・ユニバーシティ』(2013)のサリー役・石塚英彦さん(ホンジャマカ)、マイク・ワゾウスキ役の田中裕二さん(爆笑問題)たちと作品の話をしたりしたことはありますか?

秋山:それが不思議と田中さんをマイクだと思ったことがないんです。それは田中さんがめちゃくちゃ声優として上手だからなんでしょうね。石塚さんもそうです。チョコプラさんは、仲良くなってから『トイ・ストーリー4』に出演されて、声を聴いた瞬間に「あ、チョコプラさんだ!」って思っちゃったので、これは出会った順番が関係しているのかもしれないですね。でも、たぶん僕、唐沢(寿明)さんに会ったら「ウッディだ!」と思っちゃうはずです(笑)。

──改めて『ピクサー・ベスト』応援隊長として、このアルバムをどんな方に聴いて欲しいですか?

秋山:全作品27曲が年代ごとに並べられていて、「この作品を観たときは〇歳だったな~」とか、ピクサー作品と共に歩んできた思い出を振り返りながら楽しめるアルバムになっているので、ピクサーが大好きな方はもちろん、何気なく作品を観ている方にも、ぜひ聴いてもらいたいです。ピクサー作品を観たことがない方も、日本のアーティストが歌っている最近の楽曲も入っているので、「この曲入ってる!」っていう入り方もいいと思います。ピクサー作品の音楽には素敵な曲がたくさんあるので、先に音楽に触れて、その後に映画も観てもらえたら嬉しいですね。3月15日から2週間ごとに全国劇場公開されている『私ときどきレッサーパンダ』と『あの夏のルカ』、『ソウルフル・ワールド』の3作品も、CGがめちゃくちゃ綺麗なので、ぜひ劇場で観てください!


▲『ピクサー・ベスト』全曲試聴動画

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