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葵 from 彩冷える 『Surrender Love』インタビュー

葵 from 彩冷える 『Surrender Love』 インタビュー

葵が語る、彩冷えるへの想いと覚悟

2010年夏、ソロ活動を始めた直後に訪れる、自身を除く全メンバーがバンドから脱退という現実。さらに、その4人は“AYABIE”なる新バンドを立ち上げ、インディーズ時代の音源タイトルを冠したアルバムリリースを発表する。シーンを騒然とさせる渦中で、彼は何を感じ、何を想ったのか。初登場となる葵 from 彩冷えるに、事の真相を語ってもらいました。

人間関係や筋を大切にしたい

--最近はドラマ「嬢王3 ~Special Edition~」やコミドラ「あやはとり召喚帖」 など、ミュージシャン以外の活動も盛んになってきましたね。

:ソロワークする上ではチャレンジをしていかないと、バンドの歌に還元できないんじゃないかって思っていて。だから役者や声優への挑戦も表現の場として参加できるのであれば、積極的にやっていきたいと思っていたんです。自分じゃない誰かになりきるっていうか、特に声優さんは声だけで表現する。その部分は一番勉強になりました。ソロの作品においては歌詞も自分発信のリアルな言葉が多いので、どちらかというと役者業と近いかもしれませんね。より、深くはなっていると思います。

--ただ、葵さんのソロ活動を語るには、どうしても今年の夏に起きたことを訊かなければと思います。

:はい、そうですね。

--まずは8月7日、葵さんがボーカルを務めるバンド 彩冷える-ayabie-から、葵さん以外のメンバー4人が脱退を発表しました。

:やっぱり残念……、残念というか、彩冷えるというバンド自体が、自分にとって全てといっていいくらいの存在だったんです。生活の殆どが音楽で占められている中で、バンドにつぎ込んできた時間は凄く多かった。かつ、彩冷えるはあの5人じゃないと成り立たないってことはステージでも言ってきたし、今から誰かを入れて再スタートしようって気もまったく無いです。自分たちが奏でてきたモノが無くなってしまうというか、表現できなくなってしまうのが一番のショックでした。

--そして8月9日、葵さんは自身のブログに、脱退したひとりひとりに対しての素直な想いを綴りました。

:方向性の違いやメンバー間のイザコザが無かったとは言い切れないんですけど、嫌いで別々になった訳ではないんですよ。バンドメンバーって難しい関係だと思うんですけど、友達以上に近いんだけれど、家族でもなくて。特に彩冷えるはメンバーでいる時間が長かったですし、僕だけ年上だったこともあって弟みたいな感じなんです。だけどこういう結果になった以上は後ろを向いていても仕方がないので、自分の率直な気持ちを言葉にできたらいいかなって、(ブログエントリを)書いた部分はあります。
「自由にやりたい」という意思のもと、彼らは自分たちの音楽を始めるんですけど、僕個人としては応援して下さった方を大切にしたいし、歩んできた道を踏み外すのは嫌だし。今まで僕たちを応援してくれたスタッフの方々を大切にしたいんです。

今回、こうやって脱退して一番哀しんだのはファンの方々だと思うし、謝らなければいけないのはまずはファンの方々だと思うんです。だから、ファンクラブ限定にはなってしまったんですが10月にファンミーティングを組んで、各地のファンに“ごめんね”と“ありがとう”って気持ちを伝えてきました。
ファンクラブ旅行も10月にやったんですけど、彩冷えるのファンクラブを立ち上げた時に「必ずやろうぜ!」って話をしていたんですよ。叶えないままでは次に進めない自分がいたので、旅行も実現させてもらいました。11月に入ってひとつの区切りというか、一歩進めた気がしているので、僕はそうやって一歩ずつ進んでいければいいかなって。

--ただ、葵さんのソロ活動は6月頃からスタートしていたこともあり、ファンやリスナーからは色んな見え方があったと思うんです。

:メンバー5人はキャラクターも音楽の好みもバラバラだったので、メジャーデビューした時から、ソロでアプローチできる現場があれば積極的に参加して、バンドに還元しようって考えだったんです。他のメンバーもそれぞれ別の活動をしていましたし、順番で言えば僕は4番目になるくらい(笑)。
そういう状況だったので個人的にはそんなに違和感なかったんですけど、やっぱりバンドのボーカルがそれ以外の活動をすると色んな見え方があるみたいで、誤解を与えてしまった部分があったのは申し訳ないと思っています。

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ファンの方には音楽で判断して欲しい

--10年1月リリースのアルバム『彩-irodori-』には、「0010101」というハードなロックチューンが収録されていました。これは今だから言えることですが、ライブで聴いた時にCDを超越する迫力を感じたんです。そして、彩冷えるとしての表現が、音源ではまだ辿り着けていないんじゃないか、と。

:そうですね……、その通りだと思います。『彩-irodori-』はレーベルとも事務所とも話して、自分たち5人らしさを出そうとした作品だったんです。彩冷えるはメンバー全員が作曲できるので、それぞれのカラーが強く出た曲をセレクトしつつ、想いを僕の言葉で伝える。凄い自信作だし、当時の自分たちを切り取れたと思っていたんですけど、作品はライブで育てていってこそだと思うんです。もっともっとライブで良くしていける自信があったので、勿体無いって言い方はおかしいですけど、曲たちがもっと成長できるのになっていう気持ちはありました。

--そして9月に入ると、脱退された4人は“AYABIE”として活動していくことを発表しますが、それでも葵さんは直後のブログで4人に対し激励の言葉を並べています。

:彼らの気持ちっていうのは、正直嬉しかったんですよ。彩冷えるでやり切れなかった部分があるから“AYABIE”を名乗る。その気持ちが嬉しかったっていうのもあるし、想いを大切にするアーティストならば尊敬する。頑張って欲しいって思う自分がいるんだなって。
……やっぱり色んな感情があるんですよ。凄く残念な想いもあるけど、こうなった以上は僕も頑張らないといけない。負けてられないなって気持ちは ―――別に競う訳でもないし音楽は争うモノではないと思うんですけど、彼らは彼らなりに覚悟を持ってやっているので、だったら僕も覚悟を決めなきゃいけない…………かな? って、今は思います。

--では、そのAYABIEが12月にリリースするアルバムのタイトルが、『Virgin Snow Color -2nd season-』だったことへの率直な想いというのは?

:彩冷えるっていうバンドの歴史の中には、新しい第一歩を踏み出す瞬間が非常に多かったんです。かつてメインコンポーザーだった涼平が脱退した時こそ、曲が全部無くなってメンバーが変わってと、殆どゼロに近い状態からのスタートになりましたし……。その時に『Virgin Snow Color』という作品をリリースしたんですけど、その心境に近いんじゃないかなって思うんですよ。
“Virgin Snow Color”には“何もない真っ白な状態から一歩ずつ踏み出していこう”って意味があるんですけど、僕が抜けて夢人がボーカルになって……、本当にゼロに近い状態だと思うんです。そこからのスタートという大きい覚悟をしたんだって分かるタイトルなのかな、って純粋に思います。
まだ作品は聴いてないですけど、周囲の反応は楽しみでもあるし不安でもある。ただ、ファンの方には音楽で判断して欲しい。そのタイトルを付けた以上は、覚悟があると思うんです。その音楽を聴いてもらって、きっとライブがあるのでそれを体験して判断してもらえたらって。

--そうした経緯の中には、相当な喪失感や空虚な気持ちがあったのではないでしょうか?

:僕にはバンドと向き合わなければいけない時間が必要だったんですけど、ソロワークのスケジュールが過密な時の発表だったので、そういう状況でもあって……。「頂いた機会を潰す訳にはいかない」って所からずっと走り続けて今に到るので、空虚を感じる余裕がないっていうのも正直あるんです。
何より応援して下さるファンの方々を大切にしたいので、今はとにかくたくさん曲を作って、そこに想いを込めて届けられるようなツアーを組めるように……。彩冷えるってバンドや作品は凄く大事だし、自分の中で育てていこうと思っているんですけど、ステージで表現する場がないのであれば、皆さんの中でも育てて欲しい気持ちはあります。

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明日死ぬかもしれないのなら、今日最高の音楽を

--彩冷える結成から現在に到るまで、葵さんは進化や成長を急激な速度で求めている所がありますよね?

:ありますね(笑)。正直に言うと、僕はバンドを始めたのが遅いんですよ。彩冷えるを結成した当時も僕以外は大学生だったし、音楽に向き合った時間が本当に少ないんです。そんな中で闘っていくことを考えた時に、凄くストイックにならなければいけない部分はあるし、何より作品を作っていける環境がある中で、同じようなモノを作りたくないんですよ。
結成当初からのコンセプトで“より多くの人に音楽を届けよう”っていうのがあって、ヴィジュアル面はメイクが薄くなっていったし、言い方は悪いですけど音楽の表現の幅も一般向けになったと思うんですよ、正直。メイクを薄くして色んな人に聴いてもらえるような楽曲にしたとしても、自分たちらしさを詰め込める自信があるまま、今に到るんですけど……。

周囲から求められなくなる時期がくるかもしれないし、誰かが怪我をすることだって、僕の声が出なくなることだってあるかもしれない中で、時間を最大限有効に使いたいんです。明日死ぬかもしれないのなら、今日最高の音楽を作らなければいけないって気持ちが僕にはあって、他のメンバーも賛同してくれてたと思うですけど……、「そこだったのかな」って思いますね。今日は最高だったけど、明日が今日に負けちゃいけないって日々が続いているので、その中での進化を感じて頂けたら一番嬉しいんですけどね。

--最近、Twitterを始められましたが、新作リリース前の現在においても、常に新曲の歌詞などを書いていますよね。

:休みが嫌いなんですよ。嫌いというか、不安になるんです。いつの頃からか、自由な時間が苦手になっちゃって……、「今日は休みです」みたいな日があると不安になるんです。その間に何かあったらどうしよう?って、その間も作品と向き合わないと落ち着かない自分がいる。……ホントに職業病だと思います(笑)。

--作詞や作曲が苦しくなってしまう時期もある?

:ずーっと辛いんです、正直(苦笑)。作詞は苦手なんです、僕は。大変だし苦手なんですけど、完成した作品は凄く可愛い。可愛いし、自信がある作品じゃないと出さないので、毎回苦しんでます。分かりやすい言葉は使うんですけど、そこに個性を詰めるのは難しい。小~中学生がある程度理解できるモノで、かつ僕より上の世代の方が聴いても分かるような世界観。時代背景はありますけど、どの世代のリスナーが聴いても楽しんでもらえる音楽が一番素敵だと思うんです。

--そんな中、ニューシングル『Surrender Love』をリリースする訳ですが、完成した時はご自身にもけっこうな手応えがあったのでは?

:今回の4曲は脱退があってからの作品なので、今の自分を全力で詰め込みたいって思ってました。M-01「Surrender Love」では歌詞・歌い方も含めて僕らしさを出しつつ。M-02「恋文」は作詞作曲をしているので、彩冷える時代から大切にしている和のテイストを取り入れたいなと。
で、この2曲は歌詞の世界観を繋げて書いた部分もあって、「Surrender Love」は距離が近い男女間の中で想いを伝えられずに苦悩している。「恋文」は時代背景が昔というか、流行りモノで言うと「大奥」みたいなイメージに近くて、自由に恋ができない世界の中で伝えられない想いがある。両者のもどかしさや関係性を対比して描いたりっていうのは、インディーズ時代からやってきてるんです。

トリックって訳ではないんですけど、「この曲とこの曲は繋がってる」みたいな遊び方は、メジャーデビューしてからはあんまりやってなかったんです。メジャーで得たモノに、インディーズの頃に描いていた自分らしさを融合させたというか、分かりやすさの中にトリッキーな部分も詰め込めたらって思っていたので、分かりやすさと難しさの中間位置くらいにいけたらいいなって。

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いつかまた5人に戻ることを望んでいますか?

--また、初回限定盤Bに収録のM-03「youth」、通常盤に収録されるM-03「願い」の2曲には、最近の経験が反映された歌詞になっています。

:「youth」はライブチューンなんですけど、彩冷えるは元々ライブバンドだし、僕にとってライブは切っても切り離せないモノなので、そういう曲も絶対に必要だと思って。「願い」はファンの方に向けたメッセージソングです。ファンミーティングで直接伝えてきたんですけど、10か所では全員には伝えられなくて、だったら音楽にして歌で伝えられたらって想いを歌詞に込めました。
事情を知らない方でも楽しんでもらえるようにしてあるんですけど、ファンの方々には分かるキーワードをどうしても入れたくって、「願い」の歌詞に“六花星”って言葉をいれたんです。これ実はインディーズ時代にリリースしたミニアルバムのタイトルになっている造語なんですけど、メンバー5人とファンの方とで雪の結晶みたいに綺麗な六角形の星となって輝いていこうぜって意味なんです。
他の4人とは別の道に進むけど、六花星となって描いてきた思い出は消えないし、きっといつか交わるんじゃないか。交わりたいなって願いを込めているので、歌詞を読みながら聴いてもらって気付いてくれたら嬉しいかなって。

--ただ、一方で“今までの殻を破って、一歩先に進むんだ”という意思をも感じることができました。

:5人で活動してきた者がひとりになるということは、最低でも5人分の期待をされると思うんです。ひとりで5人分の成長をしていかないと負けてしまいますから、最低でも5人分頑張らなければいけない。この数か月で強くなったというか、前へ前への気持ちは強くなったと思います。

--先ほどの“産みの苦しみ”の話もそうですが、葵さんの眼前には壮絶な道のりが用意されていることが想像できてしまいますね……。

:……プライベートでも色々あったんですけど、正直、今年は苦しいですね(笑)。人生って平坦な方が安心できるし、安全なほど落ち着くんですけど、波瀾万丈の方が面白いんじゃないかって思うんですよ。特にこういう職業を続けられるのであれば、これくらいの波乱があった方が面白いんじゃないかって。去年の自分からすれば、予想外以上の今がありますから(笑)。壁は大きい方が超えた時の達成感が大きいですし、きっとSではなくMなんだなって(笑)。ずっとSだと思ってたんですけど、毎回崖から落とされてる気がします(笑)。

--では、シングル『Surrender Love』は葵さんにとって、どんな1枚になりましたか?

:今の自分自身なんですけど、過去でもあるというか……、ターニングポイントといった方がいいのかな。僕の人生において大事な一箇所だと。けっこうな自信作なんですけど、良い作品ができちゃうと、それを超えなければいけないっていう課題もできるので、そのプレッシャーと常に闘っている状況ですね。それは苦しいんですけど、何故かできちゃうような気がしてるんですよ。
僕は高校を卒業しても何になりたいのかまったく分からなかったんですけど、「俺は大丈夫だ」って自信はあったんですよ。海外に行って料理を学んだりとか、戻ってきて運送会社や広告代理店の社員とか色々やってきたんですけど、いつも自分は大丈夫な気がしていて、気付いたら表現する立場にいてプレッシャーと闘っている。……ある意味、怖いですよね(笑)。

--最後になりますが、いつかまた彩冷えるが5人に戻ることを望んでいますか?

:もちろん望んでいます。喧嘩別れではないですし、いつかお互いのヴィジョンが重なる時があるかもしれない。一緒にやれたら良いなって思います。ただ、その時までに僕は凄まじく成長しますので、「4人にも頑張ってもらわなきゃ困るよ? それだけの覚悟があるんだよな?」って。お互いに分かっている部分があると思うので、そうやって活動していけたら交わる時があると思います。

[追記]
なお、彩冷える-ayabie-は11月5日、オフィシャルサイトにて年内をもってバンドの活動休止を発表。

インタビュー写真

葵 from 彩冷える「Surrender Love」

Surrender Love

2010/11/24 RELEASE
TKCA-73583 ¥ 1,257(税込)

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Disc01
  1. 01.Surrender Love
  2. 02.恋文
  3. 03.youth
  4. 04.Surrender Love (Instrumental)
  5. 05.恋文 (Instrumental)
  6. 06.youth (Instrumental)

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