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<インタビュー>進化と深化を重ねていくMrs. GREEN APPLEの美学――大森元貴が語る曲作りの原点とバンド結成11年目以降のヴィジョン【MONTHLY FEATURE】
Interview:Takuto Ueda
Billboard JAPANが注目するアーティスト・作品をマンスリーでピックアップするシリーズ“MONTHLY FEATURE”。今月は、2023年に結成10周年を迎えた3人組バンド、Mrs. GREEN APPLEのフロントマン、大森元貴(Vo/Gt)のインタビューをお届けする。
2015年にメジャーデビューを果たしたMrs. GREEN APPLEは、その後も精力的なリリースとライブ活動を続け、幅広い世代のリスナーから圧倒的な支持を集め、自身初のアリーナツアーは8万人動員にもかかわらず即日ソールドアウト。デビュー5周年を迎えた2020年に突如“フェーズ1完結”を宣言したのち、しばし活動休止期間に入るも楽曲人気は根強く、多くの作品がヒットチャートでも上位に留まり続ける。2022年3月には新体制で“フェーズ2”の活動を開始、2023年には埼玉・ベルーナドームでの2days公演を成功させ、さらに年末には『第65回 輝く!日本レコード大賞』受賞、『NHK紅白歌合戦』初出場といった活躍を見せ、J-POPシーンを牽引する国民的バンドとしての疑いようもない実力と人気をあらためて証明してみせた。
Billboard JAPANチャートでは計12曲の“ストリーミング1億回超え“を記録、2023年の年間チャートは作曲家チャート“Top Composers”と作詞家チャート“Top Lyricists”の2冠を達成するなど、ソングライターとしても確かな実績を持つ大森。その曲作りの原点を紐解きつつ、“ネタバレ禁止”を謳った直近のFCツアーのこと、映画『サイレントラブ』の主題歌として書き下ろした壮大なバラード「ナハトムジーク」のこと、そして4月放送開始のTVアニメ『忘却バッテリー』のオープニング・テーマで、衝動的なロックサウンドが痛快な最新ナンバー「ライラック」のことなど、大いに語ってもらった。
ハッピーも高揚も寂しさも不安も全部を演出にする
――現在、2023年12月にスタートした【Mrs. GREEN APPLE 2023-2024 FC TOUR “The White Lounge”】が後半に差し掛かったあたりですが、現時点でどんな手応えを感じていますか?(※取材はツアー開催中の時期)
大森:ファンクラブのツアーだからこそできている内容ですよね。皆さんに甘えるかたちというか、肩を借りるつもりで思いついちゃったところが始まりなので。ただ、やっぱり僕らにとってもチャレンジでした。ネタバレ解禁前なので現時点ではまだリアクションが届いていないけど、やってみた感じとしてはアリだなというか、新たな一面みたいなものを見せられている、作られているような実感がありますね。
――そもそもの発端を教えていただけますか? 事前に示唆されていた通り、2019年に同じくネタバレ禁止で開催された【The ROOM TOUR】の延長線に位置づけられるツアーなんですよね。
大森:そうですね。僕らは特にフェーズ2以後、コンセプトを用いてライブを作ることを大事にしていて。例えばフェーズ1のアリーナツアー【EDEN no SONO】に始まり、去年のアリーナツアー【NOAH no HAKOBUNE】やドームライブ【Atlantis】に続く、旧約聖書に基づいたストーリーラインの派手なライブ。あとは、インディーズ時代からずっと続けているロックテイストの【ゼンジン未到】シリーズ。そのなかで【The ROOM TOUR】は、例えばいつもはお客さんから拍手をもらえることは喜びなんだけど、そういうところに甘えないストイックなライブを作ろうというアイデアから始まったもので、今回の【The White Lounge】はその系譜にあるライブです。
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――このタイミングでそれをやろうと思ったのはなぜ?
大森:フェーズ2が始まって、あらためてもう一度、わりと内省的というか、誰かに評価を求めるのではなく、僕ら自身の中でやりがいや評価基準を握るライブをやりたかったんです。というのも、去年はフルアクセルで駆け抜けた一年だったので、表では間口が広い大衆音楽をやりつつ、裏では自分たちの表現を探究している、というのは非常にきれいなバランスかなと思っていて。
――いつ頃から構想を練り始めたのでしょう?
大森:夏前ぐらいから話をしていたんじゃないかな。【NOAH no HAKOBUNE】を回りながらこっちの演出も考えていた気がしますね。
――2022年春に始まったフェーズ2。そこからの約1年間は、きっとバンドとファンの関係性を再認識する期間でもあったかと思います。そんなフェーズ2のイントロダクションを経て、ある意味、ファンとの信頼関係をあらためて確信できたからこそ、こういった試みができたという実感もある?
大森:あると思います。活動再開のタイミングに関しては、裏切っていいところと裏切っちゃいけないところがあるなという意識があって、でも、そこで僕らはこれ以上ないだろうというボールを投げられた自負があるので、だったらそこからはなぜ休止したのかを表現や活動で示唆していかなきゃいけないと思ったのが、こういう企画につながったんだという気がしています。
――具体的にショーの内容はどんなテーマやコンセプトのもとで組み立てましたか?
大森:リミナルスペースという言葉があって、例えば図書館とか地下鉄とか学校とか、日中は大衆が集まるのに夜になって人がいなくなるとちょっとゾッとするような空間のことなんですけど、それをライブでやれたら面白いなっていう、訳の分からないところから始まっているんですよね。要は不気味な体験。夜中にテレビを見終わって、黒い画面に自分の顔が映ったときの、あのふっと現実に戻されたような奇妙な感覚を、ライブのブロック単位や曲単位で起こせないかなって。ハッピーも高揚も寂しさも不安も全部を演出にする。そこから真っ白な空間にキャストがいて、開場時には客席を徘徊したり、そういう没入型の舞台みたいなものを作れたら面白いんじゃないか、といった話を夏頃にはしていたと思います。
――確かに没入型だけど、どこか違和感みたいなものが常に付きまとっている感覚でした。
大森:そう。しかもネタバレ禁止にすることによって、それが人と共有できない。自分の感じたものが正しいのか、はたまた自分が受け取れていないだけなのか、というのを極限まで煽ろうという企画ですね。
Photo:古溪一道(田中聖太郎写真事務所)
Photo:古溪一道(田中聖太郎写真事務所)
Photo:金谷 龍之介(田中聖太郎写真事務所)
――そのモヤモヤ含めて、一つのエンタメというか。
大森:めちゃくちゃ逆張りというか、カウンターなんですけどね。昨今のエンタメに対する人の関心の持ち方って、かなりトゥギャザーなものだと思うので。いい意味でもあるけど、「あれ聴いた?」みたいなことの水準が下がってきている。そこを一度、まったくナシにするのが今回のツアーの目的ですね。何を感じたかは自分しか持ち帰れない。それを家に帰って反芻することに意味があるツアーにできたらいいなと思っていました。
――楽曲のリアレンジはYouTubeの『Studio Session Live』が下地になっていましたよね?
大森:その通りです。今回も『Studio Session Live』のときと同じバックバンドの方々がいて、その中の3名の方にそれぞれ楽曲のアレンジをしていただきました。なので、できあがったものに対して、僕が何かを言ったのは最後の段階だけで、他の人の解釈がかなり入ったアレンジになっているんですよ。今回は僕も役柄があって歌うというのが前提だったので、そのほうが自分の中に落とし込めるかなと思って。
Mrs. GREEN APPLE – 05. Feeling from Studio Session Live #2
――自分たちの楽曲に対しても新鮮な発見みたいなものがあったのでは?
大森:めちゃくちゃありましたよ。久々にやった「Coffee」は、もともとジャジーだったけど、もっと崩した感じでやれたし、「Just a Friend」はティーンポップを目指して作った曲で、あそこまでミュージカル・テイストになるというのは新鮮でした。ただ、特に歌詞が届くようには意識していたので、あれだけアレンジが加わったのに印象がまったく変わってしまったという曲がなかったのは、ちゃんと言葉を大事にして作れていたからなのかなと思ったり。
――あくまで詩の世界観を拡張する方向のリアレンジというか。
大森:そうですね。その段階で「このツアーは大丈夫だな」と思っていました。曲がどうこうの話ではなく、僕らの在り方みたいなものが投影されている気がして。そもそも大事にしているものが変わらなければ、いろんな姿に形を変えても大丈夫だというのが、曲を通して思えた部分かなという気がします。
エンタメを極めるには、
ドキュメントを極めていかなきゃいけない
――大森さんはビルボードジャパンが発表した2023年の年間チャートにおいて、作曲家チャート“Top Composers”と作詞家チャート“Top Lyricists”にて1位を獲得。そもそも大森さんの曲作りの原体験ってどんなところにあるのでしょう?
大森:歌ったり踊ったり、そういうのは幼い頃から好きでしたね。いつからか鼻歌交じりで曲を作るようになったのは小学生ぐらいの頃で、小学6年生のときにバンドを組んだんです。自分だけの誇れるものがこれといってなく、承認欲求みたいなものを満たせなくて悶々としていたんですよね。
――例えば勉強ができたり、運動が得意だったり、そういうシンプルな長所が小さい頃はすべてだったりしますよね。
大森:本当におっしゃる通りで、まさにそういうものがなかったので、自分って何なんだろうと思ったとき、おうちの中でも華やかな妄想をしたり、「こういうふうにあれたらな」をぐるぐる考えたりしていたので、そういうところが起源だと思っていて。そこからMONGOL800をきっかけにバンドという形態を知るわけですよね。で、コピーをしていくうちに「なるほど、こうやって曲を作るんだ」というのが感覚でなんとなく見えて、試しに作ってみた、披露してみた、そしたら褒められた、みたいな。
――小学生でバンドを結成する行動力とスピード感もなかなかすごいですよね。
大森:サッカークラブとか野球クラブとか、そういう活動にも憧れるけど、自分はその類いに入っていける人間じゃなかったので。チームで何かを成し遂げるとか、連帯で何かを背負うということに常に憧れがあったんですよ。
――最初に作ったオリジナルってどんな曲だったか覚えていますか?
大森:卒業式の謝恩会みたいな場で披露したんですけど、「僕が君だけのヒーローだったら」みたいなことを歌っていた気がします。『ENSEMBLE』に収録されている「はじまり」は、モンパチのキヨサクさんをフィーチャリングさせていただいているんですけど、その中の一節を最初のオリジナル曲から引用していますね。
Mrs. GREEN APPLE – はじまり feat. キヨサク from MONGOL800
――その後、音楽を生業にしていこうと思ったタイミングは?
大森:その初披露のときに思っていました。謝恩会なので親御さんたちもいるわけですよ。友達はクラスメートが急に曲を作って、バンドを組んで披露するということが、当時はまだよく理解できていなくて。逆に父兄の方たちにすごく褒められたのを覚えていますね。自分はすごいことをしたんだ、ちょっと面白く見えてんだ、みたいな体験が、ずっと悶々としていた時期からのちょっとした解放だったんだと思います。もうこれなんだなと思っていました。卒業文集とかで夢を語るみたいなのも、音楽家になると書いていたはずですね。
――それからミセスを結成して、10年続けてきたなかで、曲作りの意義やスタンスに変化してきた部分などはありますか?
大森:意外と変わっていない気もするんですよね。曲を作るときのワクワクは、一番最初に曲を作ったときからいまだに変わらないし。ただ、当時はギターロックとして結成したバンドだし、自分がそのときに思っていることを書いたら、同年代の人たちがたくさん聴いてくれて、ちょっと代弁者みたいに受け取ってもらえたりして、なんとなく同じ目線の人たちに届けているような感覚だったんですけど、最近は幅広い方々に聴いていただけるようになったこともあって、5年後、10年後に自分が聴いても恥ずかしくない曲を書かなきゃいけないなって。当時はその一瞬を断片として切り取っていたけど、今は自分が思い描けるものの最大値を切り取ろうとしている、みたいな感覚が強くなっている気がします。
――より普遍的というか。
大森:間違ったことを言っちゃいけないな、みたいな。それは別に世間に対してではなく、自分に対して。5年後も「そうだよね」と思えるような曲を書きたいなって感じですかね。
――むしろ今のほうが自分に正直に書いている感覚?
大森:そうですね。今のほうが自分のことを書いている気がします。
――そういう曲作りをするようになったきっかけって何かあるのでしょうか?。
大森:難しいな。ミセスが「メジャーデビューできるようなバンドを組もうぜ」というところから始まっているので、そもそも大衆化を前提としていたんですよね。「自分たちのやりたいことをやっていって、いつか認められたらいいね」ではなく、「認められるためには何をするべきか」にずっと重きを置いて活動してきた。だからこそ、当時の僕は僕なりに「僕だけの話をしていてもしょうがない」という、わりとクレバーな感覚で作っていたとは思うんですよ。自分との共通項は測りつつ、同世代の子たちが聴いたらどう思ってくれるか、みたいな。でも、やっぱり『ENSEMBLE』ぐらいからかな。ホールツアーを回れるようになって、幕張メッセでファイナルをやって、何万人というお客さんが目の前に広がっている光景を見たとき、「このまま外に向かって書き続けていたらおかしくなっちゃうな」と思ったんです。
――なるほど。
大森:認められたくてやっているけど、それだけだとものすごく虚しいかもしれない、みたいな危惧感というか。目標だったメジャーデビューはできたけど、それだけでは決して胸の穴は埋まらなかったというか。自分が次に次にって性格だからというのもあるけど、エンターテインメントに振り切った華やかなアルバム『ENSEMBLE』を作って、そのツアーをやってみたときに「エンタメを極めるには、ドキュメントを極めていかなきゃいけないんだろうな」とも思ったんですよね。進化と深化をしていかないと、見せ物として軽いなって。好きなバンドが華やかになっていったら僕だったら心が離れていくかもしれない、でも華やかな表現はしたいから、それをもっと深めないといけない。「この人たちはなぜこれをやっているのか」をもっと伝えていかなきゃいけないな、というのを直感的に思ったという感じですかね。
――ポップスとしての強度を上げていく。
大森:本当にそうだと思います。
――たぶんその到達点の一つとして「Soranji」という楽曲が生まれたわけですよね。
大森:そうですね。行ききった曲だと思います。ちょうどドキュメントを強く歌いたいと思っていた時期だったので。そんなときに映画のお話をいただいて、こんなぴったりな機会はないだろうって。もちろん映画があって生まれた楽曲ではあるけど、ああいうエネルギーを持った楽曲を世に放つタイミングはずっと見計らっていたんです。なので、話が早く進んでいったのはそういう理由なのかなって。あの曲は1週間で書けたので。
Mrs. GREEN APPLE「Soranji」Official Music Video
“間口と奥行き”
――そして、2024年の第1弾シングル「ナハトムジーク」が1月にリリース。同じく1月に公開された映画『サイレントラブ』の主題歌です。ということは、制作はけっこう前からスタートしていますよね?
大森:そうですね。去年の夏のドーム公演を終えてすぐ、9月頃に作ったのかな。
――曲を作るにあたり、映画のどんな部分を表現したいと思いましたか?
大森:これはまったく後ろ向きな意味じゃないですけど、どの登場人物に対しても「なんて身勝手なんだ」みたいな感覚を覚えたんですよね。でも、恋をするとか、愛を知るとか、誰かを想うとかって結局、そういうことだよなって。身勝手だけど、コントロールできない自分の何かがあって、でも、それに生かされている。そういう人間の性みたいなものを書こうとしたところが取っ掛かりですね。語弊があるかもしれないけど、『サイレントラブ』のことを書いたというより、あの作品が表現しようとした人間の愛に寄り添ったというか。そこからインスピレーションを受けた感覚ですね。
――それを“ナハトムジーク=夜の音楽”として表現したのは?
大森:夜って平等じゃないですか。どれだけわちゃわちゃした人でも、どれだけ内向的な人でも、夜って絶対に一人だし。誰しも眠りに落ちる瞬間は、その日にあったことを反芻したり、反省したり、明日に期待したり、それってすごく平等だと思うんですよ。誰にも干渉されない時間みたいな。そこにその人の美しさがあると思う。
――誰もが自分のことだけを想える一人の“身勝手な”人間になる。
大森:だって、僕らもどれだけきらびやかなステージに立っても結局、夜は一人ですからね。だからこそ、頭がおかしくなったり、狂わされたりする瞬間があるけど、同時に正されるような感覚もある。そういう意味では、夜ってすごくアンバランスな時間でもあるなって。でも、それが人だよなって。
――サウンドのアレンジはどんなふうに作り込んでいきましたか?
大森:まさにアンバランス感みたいなものは大事にした気がします。小さなベッドの中で目を閉じたら、無限大にいろんなものが広がっていく、みたいな。なので、サウンドもすごくミニマムなところから始めて、最大限のところまで描けたらいいんだろうなと思っていました。
Mrs. GREEN APPLE「ナハトムジーク」Official Music Video
――どこか【The White Lounge】の設計思想ともつながる発想と世界観だなと感じました。今のミセスの深い部分を表現しているような。
大森:これは常にそうで、まさに「Soranji」を作ったときも思っていたけど、僕らは間口を広げては奥行きをつけていく、というのをずっと繰り返しているんですよね。それこそ『レコ大』や『紅白』の裏で【The White Lounge】を回っていたり。“間口と奥行き”って、僕らにとってすごく大事なキーワードなので、このタイミングに「ナハトムジーク」みたいな楽曲が出ることに意味があるし、こういう曲をリリースできるところに自分たちの精神状態が持っていけたことも、すごく大事なことだなと思っていますね。
――ポップ・ミュージックにおいて、そのバランス感は本当に大事だと思います。
大森:僕がそういうのに敏感なので。久々に会った友人に「変わっちゃったな」と思ったりする一方で、「変わってないな」と思える部分があるのもすごく大事。でも、人は絶対に変わっていくし、バンドは変わっていくし、世の中も変わっていくから、変わらないことで安心させるのではなく、変わることへの恐怖をなくす、みたいな考え方は大事にしていますね。
――変わっていくからこそ、絶対に変わらない深い部分をちゃんと表現し続ける。実際、反響はいかがですか?
大森:こんなに聴いてもらえるとは思っていなかったですね。ちょっとチャレンジだったので。言い方が難しいですけど。難しい楽曲じゃないですか。難しいし、派手じゃない。僕は「Soranji」のときも同じように思って、プロモーション会議とかでも「たぶんヒットしないよ」ってスタッフに話していて。「ナハトムジーク」って、舵取りである僕の立場からすると、このタイミングでリリースするのが大事な曲なんですよ。でも、ファン的にはどうなんだろうとか、そういうことを考えてしまうんですけど、でも、みんなは楽曲そのものはもちろん、「僕らが次に何を仕掛けようとしているか」みたいなところも見てくれている。だから、自分たちの活動に対して背筋が伸びるというか、間違ったものを作っちゃいけないなと思うんですよね。これはまったく驕りとかではなく。
――むしろ甘えないスタンスですよね。
大森:そういうふうに受け取っていただけたら本当に幸いですね。昨年末はずっと「ケセラセラ」と「ダンスホール」でテレビに出させてもらっていたのに、次に出てくるのが「ナハトムジーク」って全然優しくないじゃないですか。
――でも、これも間口と奥行きのバランスですよね。
大森:やろうとしてることは本当にそうですね。しかも「ナハトムジーク」は9月に書いているので、そういうバランスは無自覚でもとっているんだなと思いました。
――それでいうと新曲「ライラック」も、ここぞというタイミングで世に放たれる楽曲なんだろうなと思います。
大森:「ナハトムジーク」の次はこれじゃなきゃ駄目だろって感じでしたね。
――4月放送開始のTVアニメ『忘却バッテリー』のオープニング・テーマ。アニメのタイアップは「インフェルノ」以来、5年ぶりです。
大森:そうか。5年ぶりか。
――オファーをもらったときの第一印象は?
大森:嬉しかったです。アニメ、やっぱり好きだし。それこそバランス感のことも含めて「次はやっぱりギターロックやるだろ」みたいな。若井(滉斗)が泣くようなギターを作ってやろうと思ってワクワクしましたね。
TVアニメ『忘却バッテリー』メインPV|オープニング・テーマ:Mrs. GREEN APPLE 「ライラック」
――『忘却バッテリー』の物語に対してはどんなことを思いましたか?
大森:自分と対峙して戦っているんだけど、それが自分ではコントロールできない範疇外まで越しちゃって、なんとか自分を奮い立たせている、みたいな不思議なスポーツ作品だなと思いました。スポーツ作品と言い切っていいのかも分からない。でも、素直にすごく面白いなと思いました。
――すごく人間ドラマですよね。
大森:そうなんですよ。人の弱さがちゃんと描かれていて、ちょっとファンタジックな要素もあるんだけど、みんなに通ずるような共通項もある。だから、楽曲が書けるイメージも湧いたし、ありがたいお話だなと思いましたね。
――率直にどんな曲にしたいと思いました?
大森:大人が思う青春みたいなものを書きたいと思いました。ライラックって青というより、ちょっと渋みの加わった青紫みたいな色の花で。「青と夏」がピカピカの青だとすれば、ちょっと年齢が上がっているんだけど、それでもまだ僕らの中に残っている青い部分みたいなことを歌いたいと思ったので、わりと「青と夏」のアンサーソングみたいな感覚に近いですね。だからギターロックにしたかったし、<青に似たすっぱい春とライラック>とも歌っているし。
Mrs. GREEN APPLE - 青と夏
――バンドとしてもストーリーがありますね。
大森:僕らも当時、「青と夏」がきっかけで同世代の人たちに伝わったなという実感があったので。Mrs. GREEN APPLEは知らないけど「青と夏」は知っている、みたいな。それはもう作家として、ミュージシャンとして一番嬉しい状況なわけですよ。僕ら自身がうんぬんではなく、曲が知られているという状況は。そういう特別な楽曲でもあるんです。今は楽曲のスケール感も大きくなっていって、オーケストラが入っていたり、死生観を歌っていたり、大きく、大きく、大きくなっちゃって、もう説教くさくなるギリギリ。立て続けに大きいものを出したら、もう説教になるんですよ。それが嫌で、だったら僕らがワクワクしながらギターを持って、かき鳴らすというのをやろうよ、みたいなところが「ライラック」の始まりだったと思います。
――バンドの原点に立ち返るような。
大森:別に「ギターロックじゃなくなっちゃったよね」とか言われるの、全然慣れてるんですけど、単純に今、こういうサウンドを鳴らすの、きっと面白いよね、みたいな。再現ができるか分からないようなスーパーテクニックのギターリフを入れて、若井を泣かそう、みたいな。そんな感じで作っていった気がします。非常にバンドらしいなっていう。
――イントロから炸裂していますけど。
大森:学生の頃にコピバンやっていたときの「これ弾けんのかよ。でも、弾きたい!」みたいな。そういう衝動的なものを自ら起こそうとした感じだった気がします。若井さん、泣いてましたね。家で練習しすぎて、家に帰るのが嫌になったと言っていました(笑)。
――でも、新たなライブアンセムになりそうな曲ですね。
大森:こういう場所で演奏して、みんながこういう顔で聴いてくれたらいいな、みたいな絵はいつも想像していますけど、僕らがどうやって弾くかは意外と最近、あまり想像してこなかったんですよね。だから、意識が外に向いていない、自分の内側の衝動みたいなものは久々に感じながら作りました。
――例えば巨大なドーム空間をいかに使うか、とかではなく。
大森:別にどこでもいいっていう。キャパで左右されるのではなく、うちらがどうあるかのみ。この曲はどこで歌ってもきっと大丈夫だと思います。
――10周年を超え、ますます深化しながら進化していくバンドの躍動感がありありと伝わってくる楽曲でもあります。11年目以降のミセスはどんなバンドになっていくのでしょう?
大森:地に足つけて良い楽曲を作っていくというのは変わらずです。あと、僕は作詞をしているので自分の言葉を伝えるツールがあるけど、他の二人はそういう手段がないので、もっと二人が前に出られる機会を作っていきたいなとは思っています。それは二人が真ん中に立つとか、そういう簡単な意味ではなく、メンバーがそれぞれ立っていて、例えば世間の誰もが名前を言えるとか、そういうところを目指していきたいなって。そのために間口は広げていくけど、同時にポップスとしての強度も上げていく。ポップスとして、どれだけいろんな人を裏切りながら、いろんな人に届けることができるか。11年目以降はそこが試されるだろうなって感覚がありますね。
――その先に思い描く理想のバンド像は?
大森:何にも例え難い存在になるのが目標ですかね。僕らはバンドなんだけど、じゃあ何をもってバンドとするのか。始めた形態がバンドであるし、それぞれが楽器を持っているのがバンドだと思うけど、それで何かが制約されるなら、バンドと言いたくないし。別に呼び方は自由でいいんだけど、でも、僕らにしかできないこと、僕らにしか持っていないもの、それぞれ絶対にあると思うので、それを僕ら自身が定義づけられたら強いんだろうなって気はしています。
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