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<インタビュー>神はサイコロを振らない、新曲「May」と勢いが増す春夏ライブシーズンで新境地を開く



神サイインタビュー

Interview & Text: 西廣智一
Photos: 筒浦奨太

 神はサイコロを振らないの新曲「May」が3月8日にデジタルリリースされた。この曲はもともと、メンバーの柳田周作が今から6年前、友人の結婚式のために書き下ろしたバラードナンバーだったが、今回Tomi Yoをアレンジャーに迎えて新しくバンドアレンジをした楽曲だ。昨年のアルバム『心海』や同作リリース直後に開催された初のホールツアーを経て、それまでのモードにひと区切りを付けた彼らが、2024年はどんなモードで歩んでいくのか。今後を占う意味でも非常に重要な1曲と言える。

 インタビューではメンバー4人に楽曲制作の裏側や、この曲で試みた新たな挑戦について、そして3月15日からスタートする新たな全国ツアーに向けた意気込みについて語ってもらった。彼の現在地をこのインタビューから感じ取っていただきたい。

左から:吉田喜一(Gt)、柳田周作(Vo)、黒川亮介(Dr)、桐木岳貢(Ba)

──昨年後半は2ndアルバム『心海』のリリースやそれに伴う全国ツアー【Live Tour 2023「心海パラドックス」】を開催。ツアーファイナルでは東京国際フォーラム ホールAでのワンマンライブも成功させたばかりで、現在バンドとして良い状況にあるのかなという印象を受けます。実際、2ndアルバム以降の手応えはいかがですか?

柳田周作:ありがたいことに、ツアーの動員は着実に増えていますね。あと、濃度高めのファンがだんだん増えている感覚はあるので、今はそういう人たちを大事にしたいですね。

黒川亮介:ライブの動員が増えているということは、フェスとかイベントを通じて自分たちのライブを観て、いいと思ってくれた人たちが多いのかなと思うんです。ということは、そこで演奏している曲も間違いなく刺さっているはずなので、そこがもっとうまいこと噛み合ってくれたらいいですね。

──動員が増えているということは、つまりライブバンドとして認められているという事実の表れでもありますよね。

柳田:それは本当にありがたいことです。昨年末も【COUNTDOWN JAPAN】や【RADIO CRAZY】に呼んでいただいて、この春も【ARABAKI ROCK FEST.】や【JAPAN JAM】、【メトロック】(【METROPOLITAN ROCK FESTIVAL】)、あとは地元福岡の【TRIANGLE】にも出演することが決まっていますし。特に【TRIANGLE】は結構激しめなフェスなんですけど、ずっと出たいフェスでもあったのでひとつ夢が叶っている感もあって。ライブではいい形でステップアップできているので、あとは曲をもっと多くの人に見つけてもらって、もっと聴きまくってもらいたいなって思っています。

──そういう意味では、2024年最初にリリースされる楽曲「May」は、重要な1曲になりそうですね。

柳田:そうですね。この曲、一聴するといわゆるバラードなんですけど、実はかなりこだわりまくった1曲で。今回はアレンジャーにTomi Yoさんを迎えて、一緒にサウンドを構築しているんですが、ピアノと歌だけで作ったデモをTomiさんにお渡ししたら、Tomiさんらしい独特な色の付いたアレンジが施されて戻ってきたんです。これまでも「カラー・リリィの恋文」や「朝靄に溶ける」をTomiさんにアレンジしていただいていて、やっぱりそういう音が入っていたんですが、その中でも今回はわりと洋楽を意識した音作りになっていて。それはアレンジだけじゃなくて、ローをふんだんに出したミックスにおいてもです。

──海外アーティストの作品には、異常にローが出ているものも少なくないですよね。

柳田:まさにそれです。これは僕の見解なんですけど、日本ではそもそも大きい音で音楽を聴く習慣があまりないような気がしていて。でも、海外って土地も広いから必然的にデカい音で音楽を聴く習慣が根付いているんじゃないかな。そういう意味で、日本ではそこまでのローが重要視されていないのかもしれない。だからこそ、今回はウーハーでもないと聴けないロー感を逆にすごく大事にしたいなと。こういうバラードだからこそ音の隙間も多いし、そこをふんだんに出せるように、ミックスもこだわりました。その一方でプレイは本当に繊細で、ドラムなんて羽毛みたいなレベルで叩いていて。そういう音楽的なおもしろみも散りばめられている曲になりました。

──おっしゃるように、僕もイヤホンである程度の音量で聴いたときと、家のスピーカーを通して大きな音で聴いたときの感じ方が全然違ったんですよ。

柳田:ですよね。曲の印象がまったく変わるレベルだと思います。最近はデカい音が正義だと思ってしまうぐらいの感覚があって、それこそ今は防音が施された部屋に住んでいるので100dBまで音を出せるんですよ。100dBっていうと夏フェスの音量規制ぐらいで、実際にその環境で聴くとそれまで見えてこなかった部分も浮かび上がってきて、体で音楽を感じられて。イヤホンとかスマートフォンのスピーカーで聴いても伝わらないものもたくさんあるので、そういう意味でも新たな探究心の兆しが見えた1曲でもあります。


──深く聴けば聴くほど、各プレイヤーのやっていること、作り手がどういうところにこだわっているかがどんどん見えてくると。

柳田:今までのバラードと聴き比べたら、ボーカルのレンジ感がまるで違うことに気づくはずです。神サイは歌を大事にしているバンドなので、これまではボーカルの占める割合がすごく大きかったんですけど、「May」ではそのレンジをわりと上にキュッと持ち上げていて。あと、自分の声の旨みってローミッドの帯域だと思うんですけど、「May」ではそこをあえてスッキリさせることですごくバランスが良くなるだけじゃなくて、そこにほかの楽器の音を入れられた。かつ、今までボーカルはすごくドライだったところをあえてウェットにしているから、今までのバラードと聴き比べても全然違うと思います。エンジニアも初めての方だったんですけど、とても面白い方で。いろいろキャッチボールをしながら、いいミックスといい録り音で完成できたんじゃないかな。

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──ドラムとベースは音数を抑えながらも、繊細さの中にしっかりとした存在感が感じられます。

黒川:ドラムのレコーディングはめちゃめちゃ難しかったです。その繊細さを出すために小さい音で録らないといけないんですけど、叩いている感じと耳の中で聴こえてくる感覚が今までとは全然違って。しかも大きい音だとコントロールしやすいし、勢いだけでいけちゃうところもあるんですけど、小さい音で、しかもテンポもそんなに速くないから、全体のバランスを取るのが難しかったですね。

──大きい音だと強弱を付けやすいですものね。

黒川:そうなんですよね。しかも、小さい音なんですけどエネルギー量は全然小さくない。そういう小さくても伝わる音のことを、よく桐木と“芯の音”って言っているんですけど、その芯の音を常に出しつつ、でも音量は小さいという。自分の中でも新たな課題が生まれて、いい経験になりました。

桐木岳貢:今回、ベースに関してはミックスもおもしろくて。サブローってやつを2つ足しているんです。それも音数が少ないからこそできることで。たぶん音数の多いフレーズを弾いていたらごちゃごちゃしてしまうので、ああいう白玉系のベースで表現できたのはいい経験でした。あと、今回はミックス以前に録り音にみんなこだわったので、ラフミックスの時点でも相当音が良かったのも印象的でした。

柳田:録り音はかなり大事だよね。以前はミックスで全部どうにかなると思っていたんですけど、どうにもならないってことにたくさん直面しましたから(笑)。あと、これは個人的になんですけど、どんなマイクでもいい歌が録れることに気づいて。もちろんマイクごとにいろんな特性があるんですけど、今回のエンジニアの方が「結局プレイヤーのテンションが上がるモニターをどれだけ作れるか」と言っていたことに妙に納得したんです。レコーディングのときは耳中やスピーカーなどで聴く音でプレイしたり歌ったりするじゃないですか。マイクと声の相性もあるとは思うんですけど、究極5,000円ぐらいのマイクでもめっちゃテンションよく録れていたらそれが最高なんですよ。そこに気がついてからは、ボーカルの録り方もいろいろ追求できると思うようになりました。

──ギターに関してはいかがですか?

柳田:アンプを通してではなくてラインで録ろうと思っていたんです。意外とアンプの温かみがないほうがこの曲にマッチしているんじゃないかなと思ったんですけど、実際レコーディングの日にアンプで鳴らしたら、その温かみがうまいことマッチして。最近、SHINOSっていうメーカーのアンプを買ったんですけど、それにトレモロっていう音を揺らすエフェクトが付いていたので、レコーディングで使ってみました。で、そこに吉田のモダンなギターの音が入ってくるんです。

吉田喜一:僕も今回は、サウンドを作る時間がかなり楽しかったです。最近どんなアーティストが好きかっていう話をしたとき、柳田がPuma Blueっていうアーティストを教えてくれたんですけど、「May」に関してはそのイメージが俺は強くて。最初は温かみのあるストラト(キャスター)を使おうかとも考えたんですけど、Tomiさんのアドバイスもあってハイエンドの、ちょっとモダンに寄っている音でうまく絡み合わせて、いい存在感を出せたなと思います。

柳田:僕のSHINOSの音との対極にいるというか。

吉田:そう。キャラが立ったので、結果正解だったと思います。

──繊細な音作りながらも、それぞれの楽器の存在感の強さが遺憾なく発揮されていて、かつボーカルをまったく邪魔していない。なんなら、そのボーカルすら楽器の一部のように感じられるミックスで、本当に絶妙なバランスのもと成り立っているんだなと、ここまでのお話を聞いて実感しました。

柳田:さっきの話に戻りますけど、今までのバラードはボーカルの占める割合がデカすぎて、そんなに音量を上げて聴けなかったと思うんです。でも、これぐらいのバランスだとボリュームを上げても、ボーカルだけじゃなくて楽器全体の粒が一つひとつしっかり感じられる。そういう意味でも新しい挑戦ができたと思います。

──この曲ですが、もともと柳田さんのご友人に向けて書いたものなんですよね。

柳田:はい。6年前に友達が「結婚式を挙げるから歌ってくれない?」と声をかけてくれて、せっかくだから曲を作ろうってことで書いたんです。こんなに幸せな曲を神サイで書くことは全然なかったんですけど、僕は神サイを始める前は弾き語りをやっていて、そのときに作っていた曲はこれの8倍ぐらいポップで明るいものばかりで。自分のルーツにはJ-POPが根付いているから、どこかでこういう曲もやりたかったんでしょうね。なので、6年越しでこの4人でできたことにすごく意味があるし、完成させられてよかったなと思います。酔っ払ったときの鼻歌とか、こんな感じで埋もれている曲がボイスメモに数え切れないほど存在するんですけど、「意外とこのメロディーすごいな」とか「これ、よく思いついたな」っていうのがちょいちょいあるので、最近はそういう昔の自分に教えてもらうような作業にも取り組んでいるところです。

──普遍的なラブソングなのに、どこか尖っているところもあり、そこが今の神サイらしさでもあるのかなと思いました。

柳田:ありがとうございます。エンジニアさんも「この曲を尖らせたい」って言っていたんですよ。とにかく今回はチームの空気感がすごく良くて、自分が表現したい景色がみんなにも同じように見えていたのがすごくデカかったと思います。

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全33公演、33通りのライブができるぐらい一本入魂で臨みます

──リリース翌週の3月15日には、全国28都市をめぐるライブハウスツアー【近接する陽炎】もスタート。さらに、6月15日からは全国5都市Zeppツアー【開眼するケシの花】も控えています。

柳田:夏までかなりライブ三昧になりそうです。ライブハウスツアーでは新しい試みをいろいろ考えていて。『心海』のツアーで、自分の中であのときまでの神サイは一旦終了しているんですね。とにかく神サイはほかのバンドと比べても“よろずや(=何でも屋)”というか、本当に何でもやれてしまうバンドなので、それを体現できるようなライブにしたいです。

吉田:我々は今まで、常にチャレンジをしてきたバンドだという自負があるんですけど、今回も変わらず新しいことに挑戦したいと思います。

黒川:ツアーをこれだけ長い期間やることも初めてなので、そこもひとつ楽しみというか。絶対になにか起きそうだなというのがあるし、それがまたライブにも影響するんだろうなと感じているので、全会場違うライブにはなりそうですね。

桐木:長いツアーを続けていると緊張感を失う瞬間もゼロではないので、そこをいろいろ工夫して、毎回新鮮な気持ちでいられるようなマインドで臨もうと思います。

黒川:これだけ長期で、かつ本数も多いと、ボーカルは特に大変かもしれないですよね。ここまで連続でライブをすることが今までなかったので、そこはひとつ心配というか。でも、柳田なら大丈夫かなと思っています。

柳田:まあ、ぶっ壊れたらぶっ壊れたで、メンバーがカバーしてくれると思っているので。最近、みんな歌を練習していますし(笑)。

桐木:最悪、パートチェンジしようかと。なので、(柳田には)ベースを練習してもらって(笑)。

柳田:ひとつ言えることは、慣れたくはないっていうことですね。これは毎回ツアーのたびに掲げている自分の目標なんですけど、作業になったら終わりだなと。毎回ただ決められたことをやって、セットリストも同じというのは絶対に嫌なので。ライブはその日にしか会えない人もたくさんいるので、「次があるから、いいや」じゃなくて、Zeppツアーも含めた全33公演、33通りのライブができるぐらい一本入魂で臨みます。

吉田:これだけ長ければ、コンディションによっては自分の中では0点みたいな日も出てくるかもしれない。でも、その0点すら吸収して100点を出したいなっていう気持ちです。

桐木:でも、33公演もあったらとんでもないトラブルもあるんだろうな。【事象の地平線】ツアー(2022年5〜7月開催、全国13都市14公演)のときも何回か大きいトラブルがあったけど、それも今の俺たちだったらポジティブに捉えてモノにできるはずなので、大丈夫だと思います。

柳田:最終的には、シンプルに生きて帰りたいです(笑)。一番大きな目標は、全員が怪我せず無事にツアーを完走することですね。

吉田:そういう意味でも、バンドの生き様が伝わるようなツアーにしたいです。

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