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<コラム>エリック・セラ来日記念特集 ――『DOGMAN ドッグマン』公開直前、ベッソン監督作品を手掛ける映画音楽家のキャリアを紐解く



コラム

 『サブウェイ』『グラン・ブルー』や『レオン』『フィフス・エレメント』といったリュック・ベッソン監督作品をはじめ、数々の映画音楽を手掛けてきたエリック・セラ。ベッソン監督最新作『DOGMAN ドッグマン』の公開も間近に迫る中、3月27日-29日の3日間にビルボードライブ東京で来日公演を開催する。長きにわたるそのキャリアの中から、選りすぐりの楽曲群をバンドセットで披露するというプレミアムな公演を前に、創作のパートナーであるベッソン監督との歩み、そしてフランスを代表する作曲家となった彼の音楽家としてのキャリアを紐解いていきたい。(Text:村尾泰郎)

 フランス映画界を代表する作曲家の一人、エリック・セラ。リュック・ベッソン監督のほとんどの作品を手掛けていることで知られているが、その活躍は映画音楽にとどまらない。ポップスのアーティストのアルバムをプロデュースしたり、楽曲を提供したりとジャンルを超えて活動。ギタリスト/ベーシストとしても才能を発揮してきた。

 ソングライターだった父親のもと、1959年にパリ近郊の街に生まれたセラ。7歳で母親を亡くしたセラにとって、音楽は父との大切な絆でもあった。5歳の頃から父親にギターを学び、11歳で父からプレゼントされたエレキ・ギターを弾くようになったセラは、ベース、ドラム、ピアノ、シンセサイザーなど、様々な楽器を習得。ジェフ・ベックやリッチー・ブラックモアなど、ロック・ギタリストから影響を受ける一方で、スタンリー・クラークやジャコ・パストリアスといったジャズ・ベーシストのカバーもする早熟な少年だった。そして、15歳でバンドを結成。17歳でセッション・ミュージシャンとして活動を始め、20歳の頃に監督としてデビューする前のリュック・ベッソンと出会った。

 ベッソンとセラは同い年。2人は意気投合し、セラの才能に惚れ込んだベッソンは、初めての長編映画『最後の戦い』(83年)のサントラをセラに依頼。それ以降、ベッソンとセラは監督と作曲家という関係を超えた創作のパートナーとなる。ベッソンの出世作『サブウェイ』(85年)では、セラはサントラを手がけるだけではなく劇中に登場するバンドのベーシスト役で出演。ロックやジャズのテイストを取り入れたサントラは、フランスのグラミー賞ともいわるヴィクトワール賞で最優秀映画音楽賞を受賞した。80年代にベッソンはレオス・カラックスやジャン=ジャック・ベネックスらとともにフランスの新世代監督として注目を集めたが、その際にセラが手掛けたモダンなサントラが果たした役割は大きかった。


 そして、ベッソンの監督作『グラン・ブルー』(88年)のサントラの成功で、セラの名前は海外まで知られることになった。サックスをフィーチャーしたジャジーなサウンドは心地よい浮遊感があり、メロディーは美しくて叙情的。『グラン・ブルー』のサントラは海外でも大ヒットを記録して、『サブウェイ』に続いてヴィクトワール賞を、そして、フランスのアカデミー賞といわれるセザール賞も受賞。セラは文化大臣から芸術文化勲章を授与されて、フランスを代表する映画音楽作曲家となった。


 その後もセラは、『ニキータ』(90年)、『レオン』(94年/本作で3度目のヴィクトワール賞を受賞)とベッソンのヒット作のサントラを次々と手掛けて息があったコラボレーションを見せつつ、〈007シリーズ〉の『ゴールデンアイ』(95年)のサントラを担当して世界に進出する。『ゴールデンアイ』はこれまで交響楽だった〈007シリーズ〉のサントラにシンセ・サウンドを導入して、〈007シリーズ〉の長い歴史に新風を吹き込んだ。セラの初期のサントラ作品はシンセ・サウンドが特徴だったが、90年代以降、セラはオーケストラ・サウンドのスコアも手掛けるようになり、『ジャンヌ・ダルク』(99年)では初めて全編オーケストラのサントラに挑戦した。


My heart calling (Official video from "Jeanne d'Arc" original soundtrack)

 セラは作曲家としての新境地を切り開く一方で、オリジナル作品にも情熱を注ぐようになる。そのきっかけになったのが『フィフス・エレメント』(97年)のサントラだ。ワールド・ミュージックの要素を取り入れた本作には、セラが「RXRA」名義でボーカルとギターを担当した「Little Light Of Love」が収録されている。本作以降、「RXRA」はセラのソロ活動時のプロジェクトとなった。『グラン・ブルー』や『ゴールデンアイ』のサントラにもセラのボーカル曲が収録されていたが、セラは作曲家として高く評価されながらも、自ら楽器を弾いたり歌ったりする喜びを忘れてはいなかった。


Little Light of Love (Official video from "Le cinquième élément original" soundtrack)

 そして、セラは98年に初めてのソロ・アルバム『RXRA』を発表。本作では自身のバンドを従えてたっぷり歌っていて、改めてセラの音楽の原点がロックやジャズにあることがわかる。00年代に入ると「RXRA」名義でツアーを行なうようになり、自身の音楽活動にも力を入れていった。セラは1980年から88年まで、作曲の仕事と並行しながら、フランスを代表するシンガー・ソングライター、ジャック・イジュランのバンドにギタリストとして参加していて、バンドで演奏することを楽しんでいた。だからこそ今回の来日も、2016年の初来日公演と同じようにバンド編成になったのだろう。映画音楽のコンサートといえば、作曲家が指揮棒を振ったりピアノを弾いたりすることが多いが、セラの場合はベースやギターを弾くのがユニークなところ。そこでは持ち前のロックやジャズのテイストが出てくるだろうし、バンド編成ならではのアレンジが楽しめるのもセラのコンサートの面白さだ。


 また、来日公演が行われる頃には、ベッソンの最新作『DOGMAN ドッグマン』が公開される。もちろん、サントラを手掛けているのはセラ。本作は家族や社会に見捨てられた男が、犬と心を通わせながら裏社会を生きていく物語で、サントラはブタペスト・スコアリング交響楽団が重厚なオーケストラ・サウンドを演奏している。来日コンサートでは『DOGMAN ドッグマン』の曲をいち早く披露してくれるのでは、と期待したいところ。15歳からステージに立って腕を磨いてきたセラが、プレイヤーとしてのワザを、そして、歌声を披露するコンサートを通じて、彼が手掛けてきた名曲の新たな魅力を発見できるだろう。


『DOGMAN ドッグマン』|30秒予告

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