Billboard JAPAN


Special

<インタビュー>シャイトープが大切にしている“詩”とは――日常の景色で構成された1stフルアルバム『オードブル』【MONTHLY FEATURE】

インタビューバナー

 Billboard JAPANが注目するアーティスト・作品をマンスリーでピックアップするシリーズ“MONTHLY FEATURE”。今月は、3ピースバンド・シャイトープのインタビューをお届けする。

 シャイトープは2022年6月に大学の音楽系部活動仲間で結成。2023年4月25日にリリースしたデジタルシングルの収録曲「ランデヴー」が、TikTokを中心に歌ってみたや弾き語り動画に使用され、同年8月のチャートデビュー以降バイラルヒットを記録。11月には自身初のストリーミング累計1億回再生を突破した。

 今年2月にリリースされた1stフルアルバム『オードブル』は、ポップネスとセンチメンタリズムを兼ね備えたバンドサウンド、届きやすさと美しさを両立させた歌詞、曲ごとに巧みに色を変えて主人公の心情を描き出すボーカルなど、人の持つ揺らぎを丁寧に落とし込んだ、バラエティに富んだ楽曲群を堪能できる。初の全国ツアーの最中である3人をキャッチし、シャイトープのバンドとしての矜持や美学に迫った。(Interview & Text:沖さやこ / Photo:Yuma Totuka)

「ランデヴー」のバイラルヒットを受けて

――シャイトープは現在初の全国ツアー中だそうですが、調子はいかがですか?

佐々木 想(Vo./Gt.):この取材の段階では3本終わったところなんですけど、どの会場もすごく楽しくて。完走した後に見えるものがあるんじゃないかという期待もあります。

タカトマン(Dr.):土地によってお客さんの雰囲気が違うので、1本1本「今日はどんなライブをしよう?」と考えられているし、「今日はもっといいものを見せるぞ」と言う心持ちで向き合えていますね。この気持ちを忘れずに、どんどん新しいものを見せていきたいですし、そのなかで成長していけるんじゃないかとも思っています。

ふくながまさき(Ba.):セットリストを1曲変えるだけでも、ライブの雰囲気がすごく変わるんです。回数を重ねるごとにいいライブを作れている実感があって、この先も3月31日のツアーファイナルまで楽しみです。

――ライブはバンドの醍醐味でもありますが、佐々木さんはシャイトープを結成する前、ソロで音楽をやってらっしゃったそうですね。決まっていた就職を断って、「これがラストチャンスだ」という決意のもと本腰を入れて音楽をやり始めたのが、バンドでなくてはいけなかった理由とはなんだったのでしょうか。

佐々木:中学高校とバンドをやっていたんです。ずっとバンドが好きだったし、やりたかったんですけど……大学に入学してから音楽以外の幸せが見えてきたんですよね。安定した人生を選ぶ幸せもあるなと思うようになっていて、でも音楽が嫌いになったわけではないので、なんとなくひとりで続けていたんです。卒業後の人生が見えているなかで「音楽を真剣にやってみたらどう?」と背中を押してくれる人がいて、いろいろと考えたんですけど……。その時に「後悔しない人生を歩む」という言葉が頭の中をぐるぐると回り出したんですよね。

――後悔しない選択が「音楽を本気でやる」と「バンドを結成する」であったと。

佐々木:やっぱり心の奥で、ずっとバンドがやりたかったんだと思います。人生一度きりなので、ラストチャンスのつもりで本気で音楽をやるなら「バンド」という選択肢しかなかったですね。

――おふたりも佐々木さんから声を掛けられた時には「バンドをやりたい」という思いでしたか?

タカトマン:10個上の姉が中学高校と文化祭でバンドをやっていたので、僕も小さい頃からバンドに興味があって。いざ自分が始めたら、ほんと大好きになったんです。それで大学に入って初めて(佐々木の)歌を聴いた時、動揺するくらい感動して。「絶対一緒にバンドを組んでやる!」と何度も一緒にやろうと持ち掛けたんですけど、何回も断られたので途中で諦めちゃって。それで将来に迷って、もうバンドは諦めるしかないのかな……と思っていたタイミングで逆に声を掛けてもらったんです。本当にうれしかったです。

ふくなが:僕はふたりより2つ上なんですけど、中学の頃からバンドを聴いて育って、大学時代は別のバンドを組んでいて。社会人をしながらも、ずっとバンドがやりたいと思っていたんです。だから誘ってくれて、そんなに迷わずに加入を決めましたね。

――3人の「やっぱりどうしてもバンドがやりたい」という熱意が、同じタイミングで重なったんですね。

佐々木:そうですね。バンドを結成する瞬間って、そういうものなのかもしれないですね。

タカトマン:いろいろあったけど、今となってはこのメンバーでバンドができているので、本当に幸せなことだなと思います。



――そして2022年6月にシャイトープが結成されますが、その頃には音楽活動をするうえでSNSを通じたバイラルヒットを無視できないフェーズに入っていました。皆さんはそのような音楽シーンの現象をどのように捉えていたのでしょうか。

佐々木:「バズって一花咲かせようぜ」みたいなことを口に出したことは1回もないですね。曲作りをするうえでもバズりそうな題材やワード、メロディを考えたことはまったくなくて。でもたくさんの人に聴いてもらいたい気持ちは強かったんです。だから「たくさんの人に聴いてもらいたいけど、バズらせたいという気持ちは持ちたくない」と葛藤してました。

――確かに佐々木さんのお書きになる歌詞は、わかりやすい言葉を使っているけれど、美しい筆致にしたいという思いが伝わってきます。

佐々木:もう、その通りでございます(笑)。超どストレートにそのまま書くこともできるはできるんですけど、やっぱり詩的な表現が好きなんですよね。文字として見たときに文章ではなく「詩」と感じるものにしたいんです。でもこういう葛藤は、これからもずっと続くんでしょうね。葛藤や試行錯誤をしながら、前に進んでいくのかなと思っています。

――そのポリシーのもと活動を進め、2023年9月から「ランデヴー」がバイラルヒットしたということですね。

ふくなが:「部屋」や「pink」などで聴いてもらえる機会は増えていたんですけど、さすがに自分たちも知っているいろんなランキングにシャイトープの名前があると、驚きはあって。

タカトマン:でも音楽に向き合う気持ちは何も変わっていないと思います。数字やランキングもこれまでとは違いすぎてちょっと他人事なところがあるのと、こうやって評価してもらえてるのはうれしいけれど、それ相応に力をつけていかないといけないなというプレッシャーが大きくなりました。

佐々木:「ランデヴー」は曲作りの時も、世に放たれた時も「これはすごい名曲ができた!」という感じではなかったんです。でも「たくさんの人に聴いてもらえるってそういうことなんだな」とあらためて気付かされたんですよね。「pink」をちょっと聴いてもらえるようになった時、ネットには自分が意図していなかった反応が多かったんですよ。「この歌詞をそういう解釈するんだ」と驚いて。


――自分はそういう意味で書いた歌詞ではないのだけれど。

佐々木:そうです。でもそういう誤解は、僕としてはありがたくて。歌詞は自分の意図をそのまま受け取ってもらうことがすべてではないし、リスナーさんの解釈で受け取ってもらうことでリスナーさんが救われるなら絶対そっちのほうがいいし、この曲を書いて良かったなと思えるんです。曲作りは自分のためでもあるけれど、僕はそれだけではやっていけない。人間は自分のためだけには生きられないし、誰しもが大なり小なり「自分のやることが誰かのためになれたら」とは心のどこかで思っている気がするんですよね。

――確かに、そうですね。

佐々木:人間は一人ひとりできることが違って、僕の場合はそれが音楽だと思うんです。曲が作れて、歌を通して音楽を伝えることができるという自負がほんの少しだけあるので、そういう自分だからこそできる人の救い方が、聴いてくれる人を歌詞やメロディ、バンドの演奏で少しでも心を楽にしてもらうことだと思うんですよね。だから「歌詞はリスナーのもの」と思っていますし、「たくさんの人に聴いてもらう」というのは、自分の予想の範疇を超えて、自分にとって意外な曲が意外な場所で広がっていくんだなと「ランデヴー」で痛感しました。

ふくなが:「ランデヴー」がきっかけでシャイトープを聴いてくれる人や、実際にライブに来てくれる人が本当に増えたので、あらためて自分たちは変わらずに音楽を通していろんな面を見せていきたいし、一つひとつのライブや楽曲を大事に作っていかないといけないなと感じるようになりました。

佐々木:「ランデヴー」が入り口となって僕らを広めてくれてるのは、チャンスはチャンスだと思うんです。だからほんと、僕らがやっていかなきゃいけないことは、今も昔も変わらず「目の前のことをしっかりやる」だと思います。僕らの手を離れていろんな場所で頑張ってくれている「ランデヴー」を超える曲を作らなきゃなとも思いますし、「ランデヴー」1曲で片付けられるバンドにはなりたくないですね。


NEXT PAGE
  1. <Prev
  2. 「書きたいことを書きたい言葉で書いて、やりたい音楽を追求する」(佐々木)
  3. Next>


「書きたいことを書きたい言葉で書いて、やりたい音楽を追求する」(佐々木)



――その「ランデヴー」も収録されている1stフルアルバム『オードブル』は、ふくながさんがおっしゃっていたようにシャイトープがいろんな面を持っていることがわかる内容でした。アルバムとしてのバランスも大事にされていると感じます。

佐々木:今の時代、アルバム単位で聴くことが少なくなってるのかなとはうすうす感じていたんですけど、それが悪いこととは全然思っていなくて。でも自分たちはこれから先も、アルバム単位で聴いてくれる人のために曲順も大事にしたいし、アルバムの表題曲を最後に入れてみたり、そういう面白いことをやっていきたいとは思っていますね。

ふくなが:音楽を好きになったきっかけは、親が車の中で流すCDやアルバムだったんですよね。曲をかいつまんで聴くことも全然あるんですけど、アルバムの良さはわかってると思うので、彼の意見には賛同しています。

タカトマン:アルバムを実際に手に取ってみると、プレイリストみたいな電子の上では表現できないアーティストが大切にしてるものが感じられると思うんです。だからすごく大事にしていきたいんですよね。


――アルバムという表現媒体を大事にしているからこそ、様々なタイプの楽曲を作りたいと思われるのかもしれませんね。

佐々木:僕が曲作りをするうえで「バランス」というテーマを大事にしていて。バラードを作り続けてバラードのイメージのまま活動を続けていきたいわけではないし、「ランデヴー」きっかけで『オードブル』を手に取ってくれた人に「Burn!!」みたいなちょっと毛色の違う曲を聴いてもらいたいし、「このバンドはいろんな曲でバランスを取りながら活動していくんだぞ」という意志を表した選曲ですね。だからパーティーのオードブルみたいにバラエティに富んだバンドであり、“前菜”という意味でも「この先の未来にもまだまだ料理が待ってるよ」ということをタイトルで伝えたかったんです。求められる期待にも応えたいし、「僕らはいろんなことができるぞ。書きたいことを書きたい言葉で書いて、やりたい音楽を追求するんだぞ」という姿も見せていきたい。うまいことバランスを取って、両方育てていきたいんです。


――なるほど。双方のバランスを取りたいというのは、どちらも諦めたくないということかもしれないですね。

佐々木:あははは。そうなんだと思います。

ふくなが:僕らの曲のなかで皆さんに一番聴いていただいてるのは多分バラードだと思うんですけど、実際にライブに来てくださった方には「結構ロックなんやね」と言っていただいていて。自分たちのやりたいことをやることがいろんな面を見せられることとイコールになっているので、やりたいことやりたいがゆえの「バランスを大事にしたい」かもしれません。

――シャイトープのサウンドデザインは、3人それぞれのキャラクターが出ていると思います。リズム隊にギミックの効いたフレーズも多いので、それがロックだと思われる理由のひとつなのではないでしょうか。

ふくなが:最初に(佐々木から)送られてくるデモはギターと歌だけなんですけど、声の抑揚や音数から、彼の一番伝えたいところ、一番聴いてほしいところは伝わってくるので、それを軸にベースフレーズを作っています。歌を引き立たせることが一番大事なので、特別個性的なフレーズを弾こうとは思っていなくて。自分のベースラインによって歌が引き立てばいいなと思いながら、フレーズは練っています。

タカトマン:僕もドラムで前に出ようというよりは、歌をメインにしたいという思いで作ってますね。そのなかでベースが出たり下がったりとリズム隊のなかでメリハリを考えて、バランスを考えて……。各々がバランスを取ることでアレンジが完成しているというか。

――「バランス」という言葉、タカトマンさんからも出てきましたね。

タカトマン:自然と出てきてました(笑)。「天使にさよなら」は冬の冷たくて乾いた空気をどうやって表現しようかを考えて、3人のいいと思ったものをがっちゃんこして作ったりもして。やりたいことは多分それぞれあったうえで、この楽曲をどうやって盛り上げられるか、いいアレンジにできるかをこの先もずっと試行錯誤し続けるんだと思います。

佐々木:ふたりがどんなフレーズをつけてくれるのか、いつも楽しみなんですよね。だから今のところは、シャイトープにはこの作り方がすごく合っているんだと思います。


――佐々木さんは曲作りで日常をテーマにしているそうですが、なかでも“恋愛”と“夢や目標を追いかけること”、“日々の暮らしのなかで見える風景”で構成されていて。

佐々木:僕の日常が突き詰めていくとその3つなんでしょうね。だからすごく等身大だと思います。

――「tengoku」は愛する人との未来に思いを馳せる様子が描かれているので、シャイトープにおいて新鮮な切り口だと思いました。

佐々木:確かにシャイトープにそういう曲は少ないかも。純粋に大切な人のことを思ってラブソングを作りたかったんですよね。だからライブでは、僕らの音楽を好いてくれる人への思いを重ね合わせて歌っていて。目の前にいるファンの方々からも、そういう僕らの気持ちを汲み取ってくれてるんだろうなというのが伝わってくるんですよね。それもあって「tengoku」はより一層好きになったところもあるんです。

ふくなが:すごく繊細な曲だから綺麗に鳴らしたいんですよね。でも後半は気持ちを入れて演奏したい。でも力を入れすぎても曲の良さが失われてしまうので、演奏がすごく難しい曲です。デモが届いた時は、ほんとにその時点で一番いい曲だなと思ったけど、やってみると一番難しい曲でもあって……。

タカトマン:本当にそうだね(笑)。ぬくもりを伝えるって難しいんだな……とつくづく思います。だからドラムの音やプレイ、コーラスをライブごとに微調整してますね。

佐々木:だから「tengoku」はまだまだライブで伸びる曲だと思ってます。こういう強い思いを伝えたくて作る曲もあれば、自分が見た景色、吸った空気を、どうにか美しい表現でリスナーの人に届けたいという気持ちから作る曲もあれば、「ランデヴー」みたいにふとしたインスピレーションから生まれる曲もあるし、出していない曲には夢や感動した景色を歌っているわけでもなければ、美しい表現にしようともしていない「なんだこれは」と思うようなひどいやつもあって(笑)。

ふくなが:ういう曲もたまに聴かせてもらうんですけど、多分僕らに共有してないもっとえげつないものもあると思います(笑)。

佐々木:出すか出さないかは要検討です(笑)。


――まだシャイトープは“前菜”を出し、それを日本各地の皆さんに振る舞っているところですから、まだまだお楽しみがたくさんあるということですね。

佐々木:どういう曲を作っていくべきなのか、どういう曲を作りたいのかは、その時その時によって変わってくると思うんです。変化さえも面白く捉えて、それが曲に表れたらそれはそれで面白い気がするんですよね。僕が憧れているMr.Childrenも、自分たちのやりたいことと期待に応えること、どちらもバランスよく世に放っているバンドだと思うので、僕らも一つひとつ怠らずに、しっかり調べて想像して、楽しみながらも悩んでいきたいです。

ふくなが:やりたいことをやるためには、実力が必要だと思うんです。だからもっと楽器のフレーズを吸収して、いろいろと影響を受けながらやりたいことできるように力をつけていきたいですね。

タカトマン:この先楽しいことだけでなく、いろんなつらいこともあると思うんです。だからこそプレイヤーとしての技術だけでなく、人間的な成長が必要なんだろうなと思っています。人として成長していかないと、好きなことを続ける力、音楽を続ける力は失われてしまうような気がしていて。だから今回っているツアーもこの先も、バランスを保ちながら成長していけたらなと思っていますね。



関連キーワード

TAG