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<インタビュー>WANIMA、アコースティック作品は必然的だった? 3人のルーツとバンドの核心を捉えた『1Time』を語る
Interview:Tomohiro Ogawa
Photo:Yuma Totsuka
WANIMAが初となるアコースティックミニアルバム『1Time』をリリースした。デビュー作『Can Not Behaved!!!』からの「HOME」にはじまり、バンドの歩みを辿るようにチョイスされた5曲のアコースティックバージョンと、2020年に行われたZOZOマリンスタジアムでの無観客ライブ【COMINATCHA!! TOUR FINAL】で映像ととともに公開され、長く音源化が待たれていた「Feel」、ツアー【Catch Up TOUR〜1Time 1Chance〜】のエンディング曲としてライブ会場で使用されてきた「Fresh Cheese Delivery」という2つの新曲を収録したこの作品は、WANIMAがいかに強靭な“歌”を作り続けてきたかを雄弁に物語っている。
音自体は新鮮に感じる人も多いだろうが、以下のインタビューで語られているジャケットにまつわるエピソードも含めて、WANIMAの原点と芯の部分をもしかしたらいつものバンドサウンド以上に伝えるものになっているのではないだろうか。メンバー3人に今作に込めた思い、そして3月に控える初のビルボードライブ公演に向けての意気込みを語ってもらった。
3人の中で昔から流れていた音をそのまま表現できた
――今こういう作品を作ろうと思ったのはどうしてなんですか?
KENTA:ライブでアコースティックのコーナーを設けたり、インスタライブやラジオでアコースティックギターで弾き語りをしたりということはして来たし、「歳重ねていったら、アコースティックでみんなで全国ツアーしよう」みたいなことも冗談半分、本気半分で言っていました。このタイミングで出したのは、11月から新体制になったのもあって「今まで通ってきた道にリスペクト忘れんとやっていこう」という思いがあります。やから僕らがデビュー作『Can Not Behaved!!』から順を追って、出した順に曲をピックアップしてレコーディングさせてもらってます。
――WANIMAは10月にアルバム『Catch Up』を出したばかりですけど、この『1Time』はいつレコーディングしていたんですか?
KENTA:『Catch Up』を作りながら、それと並行してやっていました。だからやっと出せるという感じです。
――WANIMAというとやっぱり3ピースででかい音を鳴らしているイメージが強いと思うんですけど、こういうアコースティックな音に対してもKENTAさんには馴染みがあったんですか?
KENTA:ありました。僕は島で育ったから、頭の中で流れている音楽はゆったりした民謡が多かった。あんまりバンドサウンドの曲を聴かずにヒップホップやレゲエばっかりを聴いて育ってきたから、アコースティックに対しては馴染みがあったし、早く出したいなという感じがありました。でも、いろんなことを経てからじゃないとここにはたどり着けんやったなと思う。若い時は自分の力不足、技術不足で自分の一番調子がいいキーとか、声色とか、客観して見れんやったし分かっとらんやったから。いろんなことを経て、『Catch Up』っていう土台となるようなアルバムを作れたなかでこれにも挑めました。このタイミングじゃないと、このキーやテンポには落ち着かんやったかなと思います。
――KO-SHINさんはこの作品に挑むにあたってはどんなことを考えていましたか?
KO-SHIN:曲たちが持っている力を壊さずにアコースティックアレンジに仕上げるかということは考えてました。シンプルでありつつも、しっかり曲を……ちょっと難しいですけど。仕上がってみて、そういうものになって、より届きやすいものに仕上がったと思います。
――分かります。アコースティックアレンジとはいっても、単に音をアコースティックに置き換えただけのものにはなっていませんよね。その結果、曲の新しいよさが引き出されてるものになったんじゃないかなと思います。
FUJI:「WANIMA=バンドサウンド」っていうイメージをもっている人も多いと思うんですけど、この『1Time』もすごくWANIMAだなと感じました。そこを崩さないでできたっていうのは、今の3人だから出来たと思います。
――「HOME」や「Hey yo...」ではオリジナルにはない歌詞が追加されていますよね。
KENTA:あの部分はライブ限定でずっと歌ってきた部分です。それをやっと音源化できるなっていう喜びがありました。
当時の制作風景が甦りながらの制作
――実際にアコースティックアレンジをしていく作業はどうでしたか?
KENTA:シンプルに、最初はアコースティックギターと歌から作っていきました。KO-SHINにアコースティックギターを弾いてもらって、僕が頭の中で組み立てて作っていくんですけど、それぞれの曲を作った時の情景まで思い出すぐらい、そこにまた気持ちを持っていけたからすごく新鮮でした。再確認するポイントみたいなのが沢山ありました。作りよった部屋の間取りとかまで全部思い出してすごく懐かしくなったし、なんか「全然薄れてないんやな」って思いました。
――記憶が甦る感じだったんですね。
KENTA:「HOME」を作ったのは東京に来て最初に住んだ場所で作った曲やったり、「Hey yo...」は東日本大震災が起きた頃に届けたい想い、「りんどう」は地元熊本が大変な時に作った曲やったり……ちゃんと1個1個思いや忘れたくない歴史がある。新曲として入れている「Feel」も、コロナで緊急事態になって、みんなと会えん時期に作った曲。星野源さんのオールナイトニッポンでも歌わせて頂いたり、ちゃんと思いが繋がりました。
――それは普段ライブでここに入ってる曲たちをやるときに感じるものと違いますか。
KENTA:違いますね。歌ってるときは目の前に人がおるから。入り込む瞬間とかもあるけど、曲作りよるときはもっと深いところまでこもってやるから、それとはまたちょっと違うかな。
――KO-SHINさんやFUJIさんもそうやって思い出す感覚はありましたか?
KO-SHIN:僕はありましたね。
FUJI:僕“は”って(笑)。
KENTA:人によって過ごした時間と温度が違うから。1番のリスナーですから、FUJIくんに関しては(笑)。
FUJI:そう、一番近いリスナーです。アレンジは任せきりですし、リズムパターンに関してもKENTAの中で鳴っている音を表現できるようにしました。ただ、新しい音を入れていってもその時の曲のよさがしっかり表現できたので、そういった意味では曲自体が昔からよかったんだなって思いながら演奏しました。上からに聞こえるかな……。
――2014年、2015年というともう今から8~9年前ですけど、こうやって曲を今振り返るからこそ感じられたものもあったんじゃないですか?
KENTA:本来こう伝えたいのに、自分の力不足、技術不足でそこがうまく伝えられてなかったなっていう部分もあるし。期限がある中で今回はその本当に伝えたいニュアンスみたいなところは伝えられるようにしたいなと思っていました。きっと、これも「2024年バージョン」で、年を重ねていくとまた変わってくるかなと思うんですけど、その「2024年バージョン」として本当に100届けたかったっていうところに濁りはないからいいかなって。自分が聴きたいなって思うようなアレンジにできたと思います。
――このアルバムのジャケットは? 写真がイラストになっていますけど。
KENTA:このジャケットに写ってるパチンコ屋は、僕らがずっとバンド練習しとった原点の場所です。高校のときはここに毎日溜まって音楽していました。ライブの練習したり、お客さん呼んでライブしたり。今回、そこで映像を撮ってきました。何もない時から支えてくれた仲間の連中と当時を再現して。ここで諦めんとバンド練習しよったから今に繋がってるんやなっていうのを確認できたし、ここに対しても僕は感謝を忘れちゃいけないなって思いました。このジャケも含めて全部繋がっています。
――そういう意味でもこの『1Time』を作るというのは、これまでアルバムを作ってきたのとは違う手応えや達成感があったんじゃないですか?
KENTA:歌にもちゃんと気持ちを乗せることができたから、大きかったです。単に何の思い出もない曲を2024年バージョンで出すっていっても、きっと気持ちが乗らんから歌い方のニュアンスも単調になってしまうと思うんですけど、今回は1曲、1曲振り返る瞬間がありました。
――アコースティックだからこそ、その気持ちの部分のウェイトが大きい感じは聴いていてもしますよね。
KENTA:もう逃げ場がないから。本当に歌を伝えたいんやったら、アコースティックバージョンが一番理にかなっとるかなと僕は思います。それをごちゃごちゃせんとやれたかなって思います。
アコースティックライブは、肩の力を抜いて音楽を届けたい
――KO-SHINさんは今回のレコーディング、どうでした?
KO-SHIN:楽器は違うんですけど、その曲に対してのギターの弾き方とか、そういうのは変わらなかった気がします。ニュアンスとかそういうのでちょっと苦労した部分はありましたけど、「こういう感じに仕上げたい」っていうイメージはその手前で自分たちの中にあったので、そこに向かって自分が納得するまで弾くっていうだけでした。
――FUJIさんは今回ドラムではなくカホンを叩いていますが、やってみていかがでしたか。
FUJI:音数はやっぱりバンドサウンドでドラムを叩くよりは少ないので、その中で曲に合った色味をどうやったら表現できるかっていうのを、自分だけじゃなくてKENTAやKO-SHINに相談しながらやっていきました。その1個1個が全部新しい発見でしたし、「音を楽しむ」っていう音楽の原点をこのミニアルバムではすごくできたので、奏者としてすごい成長できたと思います。次こうしたいなっていうのもやっぱり出てきたし、自分が表現できない部分でちゃんとした楽器奏者の方にも入ってもらったところもあったんですけど、そういう方とも会話をして、その楽器の一番いい表現の仕方っていうのがまだいっぱいあるんだなっていうところも発見できました。苦労も楽しかったです。やってよかったなって思います。
――こうやってアレンジを変えて聴くと、ずっと聴いてきた身としても改めてWANIMAの曲のよさに気付かされるようなところがありました。自分たちでもそうやって気づき直したところはあったりしますか?
KENTA:「なんで俺、こんな激しいバンドサウンドなんやったっけ」って思い返したくらい(笑)、本当に歌が好きなんだなって思いました。別にバンドサウンドじゃなくてもよかったのになって、やってて思いました。また幅を拡げて違う角度から歌を伝えて行きたいって思いましたね。
――ああ、でもそうだと思います。それ以前のところの純粋さみたいなものが伝わってきますよね。
KENTA:FUJIくんがずっとバンドシーンの端っこにおったから、FUJIくんとの出会いは大きかったのかなって思います。「なんでこんな激しいんだろう。激しいだけがロックじゃないのにな」っていう瞬間がありましたね。
FUJI:僕のせいかもしれない(笑)。
KENTA:でも、このアコースティックバージョンの中にも激しさや温度を感じる瞬間ってあるから、そこをもう1回再確認できたというか。こっちもできて、あっちもできてっていうのがWANIMAの強さかなって思う。どこに行ったって、軸が歌にあるから。あとアコースティックだとよりごまかしが効かんから、すごくメンバーそれぞれの成長にもつながるんです。どうやってギターを鳴らすか、どうやってカホンを鳴らすか、体をどう使って歌のニュアンスを伝えるかっていうのはすごく勉強になります。爆音やったらごまかせる瞬間がたくさんあるから。正直下手でもバレない。そこがごまかせんから、本当に音楽の細かいところを伝えられるように向き合う瞬間が多いのが弾き語りの良さでもあるから。
――じゃあ、今後もこういうことはやっていきたい?
KENTA:やっていきたい。『1Time 2』なのか分からないですけど、アコースティックはどんどんやっていきたい。アコースティックでツアーを1年とかやってもいいかもな……よくないか(笑)。でもそういう年があってもいいのかなと思う。アコースティックやりすぎて、アコースティックで一発当てて(笑)。
――それぐらい、WANIMAにとって大事なものであるっていうことですよね。
KENTA:アコースティックも大事にしたいし、バンドサウンドも今また新曲を作っていて、やっとWANIMAが出したい音を出せている途中やから。どんどん続けていこうと思います。
――そして、3月には東京・横浜・大阪のビルボードライブで初のアコースティックライブもあります。どんなライブにしたいですか?
KENTA:今【Catch Up TOUR】の追加公演を回らせてもらってるんですけど、本当に誰も予想がつかないセットリストで、1本も被りなくやらせてもらっています。かなりヒリついた、自分たちの中でもドキドキとワクワクを忘れんとやれてるライブになってます。でもアコースティックライブはそれとは別で、もうちょっと肩の力を抜いて。お客さんも食事したりお酒飲んだりできるから、僕らもリラックスした状態でWANIMAの音楽を届けられたらなと思っています。またそこで感じることもあると思うから、すごく楽しみです。不安よりもちょっと楽しみが勝ってる。そういう時って、いざやってみると結構グチャグチャする時があるから、しっかり準備していこうと思います(笑)。
――ビルボードライブに行ったことはありますか?
KENTA:何度か遊びに行かせていただいたことはあって。いつかWANIMAでもやりたいなと思っていたので、やっとやれるなと思って。70分の2セットなんですけど、70分アコースティックって……楽しみしかないやん。
――(笑)。でも実際、『1Time』に入っている曲だけでは足りないわけですから。何をやるのかなっていうのがすごく楽しみですね。
KENTA:カバーとかもやりたいですけど、WANIMAの曲だけでも膨大な数あるから、どうしようかなと。
FUJI:僕も本当に楽しみで、ちょっと新しい機材を買おうかなと思ってます。新しいチャレンジなので、グチャグチャにならないように準備をしたいなと。
KO-SHIN:観ることはあっても実際やることって今まで想像できていなかったんで、そこに向かって気持ちを持っていくことがすごく大事だなと思って。だから本当に準備をきっちりやって、「本当に来てよかったな」って思わせるライブにしたいですね。
KENTA:この『1Ttime』のジャケットのパチンコ屋もそうですけど、ここで昔から自分たちで自分たちの居場所を作ってたなっていうのがあったから、今回もまた一緒に「居心地の良い居場所」居場所を作っていけたらなって思います。普段のライブと違うところを楽しめていけたらなって思います。ちからー。
Catch Up
2023/10/11 RELEASE
WPZL-32086/7 ¥ 5,940(税込)
Disc01
- 01.Catch Up
- 02.名もなき日々
- 03.1988
- 04.Do you get it now?
- 05.遠くまで
- 06.夏暁
- 07.FLY & DIVE
- 08.Chasing The Rainbow
- 09.曖昧
- 10.Damn away
- 11.This That Shit
- 12.Oh!? lie! wrong!!
- 13.扉の向こう
- 14.眩光
- 15.あの日、あの場所
- 16.バックミラー
- 17.サシヨリ
- 18.遠ざかる声に
- 19.Midnight Highway
- 20.舞台の上で
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