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<インタビュー>武道館を夢見る羊=角巻わためが3rdアルバム『Hop Step Sheep』で踏み出した大きな一歩
Interview:Takuto Ueda
2019年12月にホロライブ4期生としてデビューしたVTuber、角巻わため。“吟遊詩人をしながらのんびり旅をしている羊”と自己紹介する彼女は、その美しい歌声がファンから愛されており、活動初期から「クソザコ回線卒業!のうた」や「わための子守唄」といった自作のオリジナル・ソングも数多く公開するなど、積極的に音楽活動を行っている。
今年1月10日にリリースされた『Hop Step Sheep』は、そんな彼女にとって念願の全国流通作品であり、アルバムとしては『わためのうた vol.1』『わためのうた vol.2』に続く通算3作目。全10曲入りで、憧れのポルノグラフィティによる提供楽曲「Fins」や、自身で作詞を手掛けた「Go my way」「君色ハナミズキ」、シンガーとしての新境地を切り開くような「What an amazing swing」「WataMeister」など、個性豊かな楽曲が揃っている。
1月31日には2ndライブ【わためぇ Night Fever!! in TOKYO GARDEN THEATER】の開催が迫っているなか、各楽曲に込められた想い、レコーディングでの挑戦、そしてライブに向けた展望など、話を聞いた。
もっとステップアップしていきたい
――歌の配信枠「わためぇ Night Fever!!」は110回を超え、オリジナル曲もコンスタントにリリースするなど、とりわけ音楽活動には力を入れてきたかと思います。もともとデビュー前から音楽に対する意欲は強かったのでしょうか?
角巻:家でも録音したり音楽活動ができることを知って、それからは趣味程度でずっと続けてきたんですけど、なかなか人に聴いてもらう機会もなかったし、一度は辞めようかと思ったこともあったんです。でも、やっぱり辞めたくないなって涙が出てきて…。どこかで頑張れないかなって考えた結果、たどり着いたのがVTuberとしての活動でした。
――VTuberという活動スタイルを選んだ理由は?
角巻:デビュー前、湊あくあ先輩の仮歌をやらせてもらう機会があって。そこでVTuberとホロライブの存在を知って「なんだこれは」と衝撃を受けたんです。あと、ちょうど戌神ころね先輩と猫又おかゆ先輩の3D配信があって、「すごい技術だな、自分もやってみたいな」と思ったのがきっかけでした。
――歌うこと自体が好きになったのは?
角巻:宅録を始めてから一気にのめり込んでいった感じでした。ただ、もともとカラオケとかでも一人で歌うのが好きで、人前で歌うのは苦手だったので、歌枠も最初はそれを克服するために始めたんです。今でも緊張はしますね。
――何かが原動力になっているのでしょうか?
角巻:武道館が目標なんですけど、それも今では自分だけの夢じゃないというか、みんなとの約束でもあるので。
――同じホロライブの仲間たちから受ける刺激もある?
角巻:ありますね。特にすいちゃん(星街すいせい)はすごいなって思います。切り開いている感じが頼もしいです。
――幅広い音楽に挑戦されているかと思いますが、これまで影響を受けたアーティストや作品があれば教えてください。
角巻:ポルノグラフィティさんですね。音楽を始めた頃、人前で歌うのが苦手だった頃から好きで、ずっと聴いてました。ライブでは「自信持ってけ! 胸張ってけ!」みたいに言ってくれるんですけど、そういう言葉で私も前を向けるようになったりして。あと、一緒に踊るような曲もあるんですけど、そうやってお客さんと一緒に楽しむスタイルにも救われたりするんです。
――今回のアルバム『Hop Step Sheep』も、誰かの背中を押したり勇気を与えるような、とてもポジティブなムードが多くの楽曲で表現されているように感じます。
角巻:今回は特にそういう楽曲が自然と多くなっていった印象です。ライブで盛り上がる作品にしたかったので、たしかに元気な曲を多めに作ってもらったんですけど、歌詞に関してはあまり細かくリクエストは出していなかったので、楽曲提供してくださった皆さんにもそういうイメージがあったのかもしれないです。リスナーさんが教えてくれたんですけど、何曲かの歌詞で“光”って言葉を使っているみたいで。
――わためさん自身、自分の性格はポジティブだと思いますか?
角巻:そうですね、かなりポジティブだと思います。それこそ音楽を辞めようとしたときとか、ネガティブになることもあるんですけど、それ以上に「ここで頑張らないと!」って気持ちが強いんですよね。「逃げていられるか!」みたいな。
――アルバムの制作当初に描いていたコンセプトやテーマは?
角巻:もともとアルバムを作ろうという気持ちではなく、一曲一曲ずつ作っていった感じでした。そのなかでライブが決まって、この曲たちをどうまとめようかを考えて、足りない要素を補っていくイメージでアルバムにしていったんです。
――足りないピースをはめていくような?
角巻:まさにそんな感じでした。
――“Hop Step Sheep”というタイトルの由来は?
角巻:初めての全国流通ということもあって、自分の中では大きな一歩を踏み出す気持ちが強かったんです。ただ同時に「ここで終わりたくない」「もっとステップアップしていきたい」とも思っていて、それで思い浮かんだのが“Hop Step Sheep”でした。
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憧れのポルノグラフィティから楽曲提供
――アーティストとしても過去二作と比べてステップアップできている感覚はありますか?
角巻:過去作ではレコーディングも本当に精いっぱいで、同じ箇所を何時間もかけて録り直したりしたんですけど、今回は比較的余裕をもってできたなって印象があります。ボイトレも続けてきたので、たぶん歌い方や表現力にも成長した部分があるんじゃないかなって。
――特に歌の成長を実感できた楽曲を挙げるとしたら?
角巻:「Fins」かな。ああいうミドルテンポの曲はあまり歌わないので、いつも以上に言葉の一つひとつをどう歌うか、みたいなアプローチが上手くできたんじゃないかなって思います。
Fins/角巻わため【original】
――先ほど名前も挙がったポルノグラフィティのお二人による提供。作詞に新藤晴一さん、作曲に岡野昭仁さんを迎えたナンバーです。このあたりの経緯をうかがっても?
角巻:ずっと昔から、運営さんには「誰に楽曲提供をお願いしたいですか?」と聞かれたときにポルノグラフィティさんのことは伝えていて。ある日、「一度、報告会を設けてもいいですか?」と連絡がきて、そこで「お二人からの楽曲提供が決まりました」と教えていただいたんです。アタックはずっと続けてくれていたみたいで、「今はアルバム制作中みたいです」とか「ツアーがあるみたいです」みたいな進捗状況はちょこちょこ報告いただいていたんですけど、私も「忙しいだろうし、無理だろうな」と諦めかけていたんですよ。なので、楽曲提供が決まった日の夜は眠れませんでした(笑)。
――楽曲に関してはどんな方向性をイメージしていましたか?
角巻:運営さんとも話し合ってめちゃくちゃ悩んだんですけど、ポルノグラフィティさんに「ギフト」って曲があるんです。才能は自分の中にちゃんとあるんだよ、みたいなことを教えてくれる曲で。私もこういう曲を歌いたいとお願いして生まれたのが「Fins」でした。
――届いた楽曲の第一印象は?
角巻:ポルノっぽい。
――本当にそう思います。
角巻:昭仁さんの声が聞こえてくるようでした。これ、歌いこなせるのかなって。でも、気持ちは込められたと思います。
――具体的にはどんな部分に気をつけながら歌入れしていきましたか?
角巻:うーん、レコーディングに(ポルノグラフィティの)プロデューサーの田村さんが来てくださって、めちゃくちゃ緊張していたので記憶がないです…(笑)。とにかく一生懸命歌いました。
――お気に入りのフレーズとかあります?
角巻:たくさんあるんですけど、<そいつとダンスを踊るということさ>とかは、立ち向かうんじゃなく乗りこなしていく感じというか、それが晴一さんぽいなって思いました。
――反響はいかがでしたか?
角巻:最初はめっちゃ怖かったです。ラバッパー(ポルノグラフィティのファンネーム)の皆さんからしたら何のつながりもないだろうし、「ポルノグラフィティとVTuber? なんで?」みたいに思う方もいるだろうって。でも、思っていたより温かく迎えてくれた方がほとんどで嬉しかったです。
――ほかの収録曲についても聞かせてください。1曲目はfhánaの佐藤純一さん作編曲による「Beautiful Circle」。
角巻:まさしくfhánaさんの「愛のシュプリーム!」みたいな方向性でお願いしました。ふんだんに生楽器が入っていて、ハッピーなサウンドというか。イントロがふぁーっと広がっていく感じの音で、全体的にも疾走感があるし、「Fins」とも迷いましたけど1曲目はこの曲だなって。
fhána - 愛のシュプリーム!(TVアニメ『小林さんちのメイドラゴンS』OP主題歌) - Official Music Video
――歌詞については?
角巻:自分が先導するような力強さというより、優しく包み込みながら一緒にいるような曲にしたかったので、そのあたりのニュアンスはけっこう細かく修正してもらいながら出していきました。例えば、1サビ最後の歌詞はもともと<つかまっていて 君のささやく声 僕に勇気をくれる>という歌詞だったんですけど、<君のささやく声>を<伝う君の想い>に変えてもらったり。
――わためさんは作詞にもチャレンジされていますが、そこの経験値が提供してもらった楽曲や歌詞の解釈にも影響している感覚はありますか?
角巻:ありますね。たぶん作詞をやっていなかったら気にならなかっただろうなって部分も多い気がします。「なんか違う気がする」みたいな気づきがある。
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みんなの力があってこそ
――「Beautiful Circle」の疾走感をさらにブーストしていくような2曲目「きっと」。作詞作曲は、2021年の5thオリジナル曲「御伽の詩と永久なるミライ」も手掛けた佐藤陽介さんです。
角巻:「きっと」は“エモロック”をテーマに選ばせてもらった曲です。最初はもうちょっとロックな感じだったんですけど、さらにピアノアレンジを加えていただいて、透明感とかエモさがぐっと増した曲になったと思います。
――歌詞も<動き出す それまでの葛藤>や<灰が降る 時もたまにある>など、ただ前向きなだけではないエモーショナルな表現が印象的です。
角巻:運営さんには「わためさんは壁を一人でぶち壊していくというより、壁をくぐったり、誰かと一緒に壊したり、そういうイメージがあります」みたいなことを言ってもらったことがあって。今作の歌詞はそんなイメージで書いていただいた曲が多かったと思います。
――後ろから背中を押すというより、横に並んで一緒に走ったり、時には一緒に立ち止まったりしてくれる。ファンにとってもそういう存在なんだと思います。
角巻:みんなの力があってこそ成し遂げられたことばかりなので。一人でアルバムを作ったりライブを開催しても意味がない。やっぱりみんなと一緒じゃないと、という気持ちは常にあります。
――「Go my way」はライブでの一体感がとても楽しみな楽曲です。
角巻:この曲は最初に聴いた瞬間から「これはライブ曲でしょ」と思いました。歌詞は自分で書いたんですけど、みんなで一緒に歌っている景色を想像しながら作詞しましたね。レコーディングも激アツで、クラップはもともと打ち込みだったんですけど、生のほうがいいなと思って、みんなで手を叩いたりして。
――その後の「Now on step」からは癖のある楽曲が続きますね。
角巻:「What an amazing swing」はラップが本格的で、最初に聴いたときはびっくりしました。なかなか聞き慣れない言葉も多いので。そういう意味では「WataMeister」も難しかった。
【Animation MV】 What an amazing swing /角巻わため【original】
WataMeister/角巻わため【original】
――ケンモチヒデフミさん提供の「WataMeister」は、どんなやり取りをしながら作り上げていきましたか?
角巻:「ギリギリわるくないわため」というシリーズの動画を出してるんですけど、ああいうネタっぽい動画や曲を参考にしながら作っていただきました。かなり遊び心が詰まった曲になったと思います。面白い要素もありつつ、でもサビはちょっとエモい、みたいな。普段の配信もけっこうそんな感じかもしれないです。
――浮遊感のある「WataMeister」から、ノスタルジックな雰囲気のミドルバラード「君色ハナミズキ」へ。全体的に曲順もよく考えられていると思いました。
角巻:曲が一通り揃ってから、聴いていて一番気持ちいい流れになるように決めていきました。「君色ハナミズキ」は難産でしたね。作詞は自分で担当したんですけど、曲調的に恋愛要素を入れたいなと思って。でも、気の利いた言葉がなかなか出てこなかったんですよね。
君色ハナミズキ/角巻わため【original】
――エンディングの2曲「夢見る羊」と「Happy day to you!」もわためさん作詞。そして作編曲はどちらも堀江晶太さんです。
角巻:堀江さんにバースデーソングをお願いしていて、提案してくださったのがこの2曲だったんです。なので、どっちもサウンドはハッピーな感じなんですけど、「夢見る羊」は私が誕生日っぽい歌詞を書けなくて。なので「Happy day to you!」のほうでバースデーソングを作ることにしました。
――レコーディングはいかがでしたか?
角巻:堀江さんの曲は難しいです。音程が行ったり来たりして、地声と裏声の使い分けが多いんですよね。なおかつリズミカルだし。でも、この2曲は本当に自分を体現しているというか、これを聴けばわためがどんな羊なのかが分かるんじゃないかなって思います。なので、この2曲を最後に持ってくるのは満場一致で決まりました。
夢見る羊/角巻わため【original】
――その“自分らしさ”って言葉にすることはできますか?
角巻:<君と話した 未来を 掴みに行こう>とか<来年も再来年も一緒に/ここで、笑ってお祝いしよう>とか、みんなと一緒みたいな部分がそうなんじゃないかなって思います。ライブに向けて準備もしているんですけど、振り付けの先生には「わため、これ泣くんじゃない?」と言われてます(笑)。
――それだけ想いが込められるということですよね。ネタバレにならない範囲でけっこうですので、まもなく開催の2ndライブ【わためぇ Night Fever!! in TOKYO GARDEN THEATER】について、見どころなどを教えていただけますか?
角巻:お客さんはめちゃくちゃ忙しくなると思います。一緒にダンスしたり、タオルを回したり、歌ったり。あと、エアギターもやってもらいます。今まさにバンドリハをみっちりやってるので、一緒に最高の時間を過ごせたら嬉しいです。
――前回の1stライブはコロナ禍まっただ中で、いろいろな規制があったので、そういう意味でも念願の光景が待っていそうですね。
角巻:そうですね。わためが喋ってもシーンみたいな。「これ、ウケてるのかな」って不安もあったし、やっぱり歓声や掛け声も浴びたいので、気持ちとしても満を持してって感じです。
――最新アルバムを引っ提げた2ndライブ。それ以降のことはどのように考えていますか? 思い描いている活動の展望があれば聞かせてください。
角巻:わための音楽をもっとたくさんの人に聴いてもらえるようになりたいですし、さらに大きいところでもライブがしたいです。今回のアルバムはかっこいい系の曲が少なかったような気がするので、次はクールとかダークな感じの曲にも挑戦してみたいです。
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Hop Step Sheep
2024/01/10 RELEASE
HOLO-10 ¥ 3,300(税込)
Disc01
- 01.Beautiful Circle
- 02.きっと
- 03.Fins
- 04.Go my way
- 05.Now on step
- 06.What an amazing swing
- 07.WataMeister
- 08.君色ハナミズキ
- 09.夢見る羊
- 10.Happy day to you!
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