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<インタビュー>milet、『葬送のフリーレン』を想い“いつでも、どこでも” そばにいるような温かさを込めた「Anytime Anywhere」

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Interview:森朋之
Photo:Shintaro Oki(fort)

 miletがEP「Anytime Anywhere」をリリースした。

  初の日本武道館公演、アルバム『5am』のリリース、台北でのワンマンライブ。2023年、アーティストとしてさらなるスケールアップを果たしたmiletから2024年最初のリリースとなるEP『Anytime Anywhere』が届けられた。表題曲「Anytime Anywhere」(TVアニメ『葬送のフリーレン』EDテーマ))をはじめ、「bliss」(TVアニメ「葬送のフリーレン」特別EDテーマ)、「Higher」(日産自動車 90周年 CMソング)、「Wings」(出光興産「四季」「TSUMUGU」篇 CMソング)が収録された本作からは、彼女の音楽の世界がさらに大きく広がっていることが伝わってくる。

 大きな飛躍を遂げた2023年を経て、miletの視線はどこに向けられているのか。EP「Anytime Anywhere」を軸にしながら、彼女自身に語ってもらった。

アニメ主題歌は最高のファンアート

――まずは2023年の活動について。初の日本武道館公演、アルバム『5am』のリリース、台北でのワンマンライブなど、充実した1年だったと思いますが、miletさんにとってはどんな年でしたか?


milet:ライブをかなりたくさんやりましたね。2023年の最初のライブは香港のフェス【Clockenflap Festival 2023】だったんですが、武道館ライブがあって、台北の単独ライブがあって。アルバム『5am』のツアーも今までいちばん多い19公演だったんですけど、めちゃくちゃ楽しかったです。「こんなにワクワクしてステージに向かうのは初めて」というくらい緊張もなく、ぜんぜん疲れなかったんですよ。お客さんの声を聴いたり、一緒に歌えるツアーというのも私にとっては初めてで。ライブに来ていただいた方々には「みなさんのパワーは本当にすごいです!」と伝えたいです(笑)。

――ツアーを通して、アルバム『5am』の手ごたえも実感できた?


milet:そうですね。『5am』は特にお気に入りのアルバムなんです。今まで歌ってこなかったようなパーソナルな部分も表現しているし、攻めた曲調もあれば、シンプルなギターの弾き語りもあって。新たな挑戦を達成できた実感もあったし、ツアーのなかでそれを受け入れてもらえたという安心感もありましたね。去年の武道館からは演出面でもいろいろと関わるようになって。1曲1曲のコンセプトを考えて、映像や照明、舞台装置についてもディレクションさせてもらったんです。関わる時間、スタッフのみなさんとの共同作業も増えたし、ライブに対する思い入れはさらに深まっていますね。



――2024年最初のリリースは、EP『Anytime Anywhere』。タイトルトラック「Anytime Anywhere」はTVアニメ『葬送のフリーレン』エンディングテーマです。


milet:以前から大好きな作品で、原作も読んでいたんです。主題歌のお話をいただいたときはすごく嬉しかったし、より一層深いところでこの作品を理解したいと思い、視点を変えながら何度も読み直しました。その度にどんどん深く好きになって……完全にオタクですね(笑)。主題歌は最高のファンアートだし、その作品を深く理解していないといけないし、好きじゃないといけないと思ってるんですよ。

――miletさんにとって『葬送のフリーレン』の魅力の軸になっている部分は?


milet:本当にたくさんポイントがあるんですけど、いちばんは、長い間生きてきて、強い力を持った主人公が“人の心の理解”を求めていることだと思います。もちろん私たちは魔法なんて使えないから別世界の物語ではあるんですが、フリーレンの旅をじっくり見つめることで、「私だったらどうするだろう?」と自分自身に問いかけてくるものがたくさんあるんですよ。「勉強になるな」と思うのは、提示しすぎない、語り過ぎないこと。メッセージの忍ばせ方もそうなんですが、サラッと見ているとなかなか気づけないものも含まれているし、アニメもマンガも見返すたびに発見があるんです。いろんな捉え方ができる作品なんだけど、「受け取り方はみなさん次第」という優しさや自由度がある。これだけ作り込まれているのに、「そこは託してくれるんだ」と思えるのも『葬送のフリーレン』の素晴らしさだと思います。



――そこまで深く読み込んだうえで、「Anytime Anywhere」という楽曲はどんなテーマで制作されたんですか?


milet:『葬送のフリーレン』から受け取ったものを踏まえながら、自分の感情も込めたくて。主人公のフリーレンは何百年も生き、私達の100倍くらいの出会いと別れを繰り返して、ようやく「人の気持ちを知りたい」と思うようになった。今も旅を続けている途中ですが、私自身が「いつかフリーレンに感じてほしいな」って思っていることだったり、「彼女が見えている人の死や別れってどうなんだろう?」と問いかけながら作っていました。これからも長い時間を過ごすフリーレンを見守る風のような曲になればいいなと。そこにはいないけど、ずっと支えている、存在していると感じられるような温かい曲。まさに<いつでも、どこでも>ですよね。

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支え合うことで生まれる人間の強さに気づいた

――編曲はアニメ『葬送のフリーレン』の劇伴を手がけているEvan Call。制作ではどのようなやり取りがあったのでしょうか?


milet:最初のデモはギターの簡単なコードとメロディと歌詞だけだったんです。先入観なくアレンジしていただきたかったので、あえてシンプルなデモをお渡ししたんですけど、コード自体もかなり変えてくださって。もともとは“孤独を支える”という雰囲気の曲だと思っていたんです。でもEvanさんのアレンジによって、淋しさを感じさせない、本当に優しい曲になりました。楽器の音も登場人物みたいだし、主人公を支えて見守り、包んでくれるような存在なんですよ。Evanさんの懐の深さみたいなものを感じたし、この曲のあるべき姿に導いてもらえたと思います。

――ストリングスのアレンジも素晴らしくて。


milet:そうなんです。私は普段、打ち込みでストリングスを入れるので、生で演奏するときに(演奏家に)「このフレーズは物理的に弾けないです」と言われることがあって。Evanさんはクラシック畑の方でもあるので、実際に演奏したときに美しく聴こえる旋律を作ってくださったんです。オーケストレーションの面でも勉強になりましたね。



――当然、ボーカルのニュアンスにも影響しますよね?


milet:歌っているとき自然に笑顔になってました。ただ、今までのレコーディングでいちばんこだわったんです。ディレクションしていただいた曲でいちばん勉強になったのは「コイコガレ」だったんですが、「Anytime Anywhere」もすごく時間をかけて。少年感もあるし、子守歌のようなイメージもあって。コーラスもそれぞれ声質を変えているんですよ。イメージ先行というか、頭のなかに世界観がはっきりあったので、それに追いつくためにかなり体を使いました(笑)。

――ライブにおいても大事な曲になるのでは?

milet:そうなってますね、本当に。ライブで歌うと、自分に返ってくる感じがあるんですよ。人生は長いようで短くて、いろんなことが詰まってきて。幸せなこともあるし、立ち止まってしまう日もあって。この曲を歌ってると、大切な人を失うこともあるけど、それでも進んでいかなくちゃいけない……そういうことが思い返されるんですよね。“自分一人の人生だ”と思っていたけど、実はそうではなくて、たくさんの大切な人たちが関わってくれていて。いろんな人とのつながりを考えさせられたし、やっぱり今が幸せなんだなって感じました。

――「bliss」は『葬送のフリーレン』特別エンディングテーマ。アニメのなかの印象的なシーンで使われていますね。


milet:ここぞとばかりに素敵な映像とともに流していただいて、すごくありがたいです。「bliss」はEvanさんが作曲してくださって。メロディを聴きながら歌詞を書いたんですが、そういう作り方は初めてでしたね。メロディ自体に思いが込められているし、そのなかに歌詞の方向性も含まれていると思うので、それを読み解くところから始めました。これは私の感覚なんですけど、「管楽器にはこういう言葉の響きが合う」「打楽器が強く出ているところは、濁音を使いたい」みたいなバランスもあるんですよ。メロディを再構築して、そこに言葉を乗せていくのは大変でしたけど、すごくやりがいがありました。



――“あなた”を大らかに包み込むような歌詞ですよね。


milet:『葬送のフリーレン』の世界のなかで、ずっと昔から歌い継がれているような曲として書いてほしい、というお話をいただいて。「どういう目線で書けばいいんだろう?」と考えたんですが、いちばん大事なのは普遍性と抽象性なのかなと。あまり具体的に描くと時代によってはそぐわなくなるし、ずっと存在するもの、どんなときも人々が共感できるものといえば、やっぱり“自然”だと思うんですよね。星空だったり、大地だったり、漂っている風だったり。そういう視点で書いてみようと思って、初めて“自然”になりました(笑)。歌詞を書くときに、原作の背景だけを見直してみたんですが、背景にもいろんな情報が含まれていて、すごく読みごたえがあるんです。その作業もすごく新鮮だったし、原作の深さを改めて感じました。あと、人の脆さや弱さみたいなものも見えてきたんです。支え合うことで生まれる強さや、弱音を吐ける強さもあるし、言葉を紡いで思い出を残せるのも人間の強さじゃないかなって。

――なるほど。壮大なメロディもmiletさんの歌声によく映えていて。歌うのにはエネルギーが必要じゃないですか?


milet:そうかも(笑)。でも、すごく気持ちいいんですよ、歌ってると。出し惜しみなくエネルギーを放出して歌えるし、メロディはもちろん、いい言葉を紡げたなって思います。この曲でも「コイコガレ」のときに受けた梶浦由記さんのディレクションが活かされていて。たとえば“あなた”という歌詞の“あ”の発声によって、その言葉がどの方向に向いているかが決まってくるんですよ。今までやってきたことを出せたし、新しい挑戦でもありました。

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挑戦するからこその失敗は、前に進んでいる証拠

――カップリング曲についても聞かせてください。「Higher」はRyosuke“Dr.R”Sakaiさんとのコライトによるダンスチューン。ライブでも踊れる曲になるのでは?


milet:踊ってほしいですね(笑)2023年はライブが多かったこともあって、そこから逆算して曲作りすることが増えているんですよ。「Higher」は、ライブの空気感をガラッと変えてくれるようなパンチのある曲にしたくて。ステージの照明やバンドの配置などもイメージしながら制作していたし、ビートを効かせつつ、90年代のポップス感もありますね。

――特にベースラインがめちゃくちゃカッコよくて。


milet:カッコいいですよね! 「Anytime Anywhere」「bliss」は生のオーケストラの音を取り入れていたので、この曲のベースはもっと人工的というか、人が演奏するのは難しいようなフレーズにしたかったんですよ。ライブではメンバーにがんばって弾いてもらおうと思ってるので、楽しみです(笑)。歌詞に関しては、挑戦し続ける姿勢だったり、強気でいたいという気持ちも込めました。

――リズムを重視したボーカルも印象的でした。ちょっとマイケル・ジャクソンの雰囲気もあるような……。


milet:マイケル入ってますね(笑)。私はもともとマドンナが好きで、この曲は「ジャンプ」にインスパイアされているところもあるんですけど、制作時期にけっこうマイケルの曲も聴いていて。ちょっとマイケルっぽく歌ってみようかなと思ってやってみたら、上手くハマったんです。

――素晴らしい。ちなみにmiletさんがマドンナを好きになったきっかけは?


milet:気が付いたらという感じですね。「ジャンプ」「ヴォーグ」は映画「プラダを着た悪魔」の挿入歌だったし、いろんなところで耳にしていて。今もカッコいい曲を出し続けているし、ずっと刺激を受けてます。



――そして「Wings」は大らかなメロディが印象的なミディアムバラード。


milet:「Wings」の原型は3年くらい前からあって、お気に入りの曲だったんです。CMのお話をいただいて歌詞やメロディを書き直したんですよ。サステナブルや循環性がテーマだったんですが、社会の社会にとっても大きな問題でもありつつ、自分自身にも置き換えることができて。心の内側を表現した歌にもしかったんですよね。

――“変化することにトライしたい”“折れた翼であっても飛べる”という強い意思も込められていますね


milet:失敗したり立ち止まってしまうのは、挑戦したからだと思うんです。それは前に進もうとしている証拠だし、がんばっている証拠でもあって。自分自身にも言い聞かせたい歌詞だし、聴いてくれる人の経験とマッチしてくれたらいいなと。停滞している状態も肯定したいというか……。「bliss」ともつながるかもしれないけど、最近、“弱いけど強い”みたいなことをよく考えるんですよ。

――miletさんも常にトライ&エラーを続けていて。もちろん上手くいくことばかりではないと思いますが。


milet:たくさん失敗してます。挑戦し過ぎていて、何が挑戦なのかわからなくなってる感じもあって(笑)。音楽を続けている限り、挑戦じゃないことは何もないと思うんですよ。やっていることはすべて公にあるし、みなさんに聴いてもらえるし、観てもらえる。だからこそ絶対に手を抜きたくないんですよね。音楽は自分の生き写しでもあるので、いいものを作る努力も続けないと……もちろん、楽しいからやれているんですけどね。

――楽しさは失われない、と。


milet:はい。今年でデビューして5周年なんですけど、ずっと楽しいし、やめたいと思ったことは一度もないんですよ。もちろん大変なことはあるんですけど、みんなに支えてもらっていることも実感していて。向いているんだと思います(笑)。デビューした頃は右も左もわからなかったんだけど、ちょっとずついろんなことがわかってきた気がしますね。

――2024年3月には、大阪城ホール、横浜アリーナで初のアリーナ公演【milet 5th anniversary live “GREEN LIGHTS”】が開催されます。


milet:ぜひ来てほしいですね! 去年の武道館から1年しか経ってないけど、私はたぶん、すごく成長したんですよ。音楽の聴き方、作り方、届け方も変わってきたし、この1年は本当に大きいと思っていて。自分自身にもリスナーのみなさんとも向き合うことができたし、これから自分がどういうものを作っていけるかがすごく楽しみなんですよ。アリーナ公演に関しては、ちょうど今、どういうライブにしようか計画中です(笑)。5周年のライブではありますが、「ここから行きます! よろしく!」というアグレッシブな気持ちで臨みたいですね。

――5周年のアニバーサリー、どんな年にしたいと思っていますか?


milet:どんな年になるんでしょう?(笑) まだ言えないこともたくさんありますし、わかりやすく「すごい挑戦だな」と思ってもらえる活動もあるので、ぜひ楽しみにしていてほしいです。ライブもできるだけやりたいですね。いろんな場所でみなさんにお会いできたらいいなって。

――制作やライブを通して、いろんな刺激やインプットもありそうですね。


milet:ちゃんとしたインプットは必要だと思ってるんですけどね。一緒に制作しているみなさんがどんどんレベルアップしてるので、制作中に感化されることもあるんですが、大事なのは五感で感じることだと思っていて。たとえば自然の音にしても、音源で聴くのと生の音を聴くのはまったく違う。去年は環境音を録るのにハマっていたんですけど、今年もいろいろな場所に出かけて、いろんな経験をしたいですね。





milet「Anytime Anywhere」

Anytime Anywhere

2024/01/31 RELEASE
SECL-2940/1 ¥ 2,200(税込)

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  1. 01.Anytime Anywhere
  2. 02.bliss
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