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<コラム>大手レーベルがこぞってオファー、カナダ出身の注目歌手テイト・マクレーとは

インタビューバナー

Text: 最込舜一
Introduction: Mariko Ikitake

 テイト・マクレーの最新アルバム『シンク・レイター』が、米ビルボード・アルバム・チャートで4位に初登場し、デビュー・アルバム『アイ・ユース・トゥ・シンク・アイ・クッド・フライ』(2022年)の13位を上回る自己最高位と初のトップ10入りを果たした。本作に収録される「グリーディー」は、米ビルボード・ソング・チャートで最高7位を記録し、今をときめく若手シンガーの人気と注目度の高さをしっかり数字でも証明した。Z世代共感度No.1アーティストと呼ばれる彼女の魅力を、キャリアを振り返りながら紹介する。

 無人のアイスホッケー場で整氷車を乗り回し、ロッカールームではダンサーを従えて、ブロンドヘアーを振り回しながら激しいダンスを繰り広げる女性。「グリーディー」のミュージック・ビデオでのテイト・マクレーはまるでアスリートのようだ。全編タイトな振付が施されたこのMVは、ブリトニー・スピアーズやクリスティーナ・アギレラといった2000年代のセクシーかつダンスもキレキレな歌姫の再来を思わせる。

 リリース前から主にTikTok上で注目の的となっていた本楽曲は、昨年9月の配信開始から12月までにSpotifyで総ストリーミング数5億回を突破し、Spotifyグローバルチャートでは1位に輝いた。


 続いてリリースされたシングル「エクシーズ」も強気で大胆な楽曲。ボクシングのリング上で、大人数で踊るMVの雰囲気からも明らかだが、2000年代のブリトニーやアギレラからの影響は本人も米ローリングストーンで語っている通りだ。テイトはよりスポーティな印象で、ダンス・パフォーマンスはストイックに汗を流すワークアウトのようにも見える。


 同い年で交流もあるオリヴィア・ロドリゴを筆頭に、メインストリームではロックやインディ方面に向かうアーティストが多い中、テイトは大胆なほどポップに振り切ったサウンドにも取り組んでいる。そこに実体験を基にしているという挑発的で皮肉の効いた歌詞と大きな強みでもあるパワフルなダンスが加わる。欧米のティーンを中心に人気が高い理由はこのあたりにあるのだろう。

 これらのヒットの勢いに乗るようにして12月には2ndアルバム『シンク・レイター』をリリースした。トラップ以降のラップ的な歯切れの良い歌唱を聴かせる楽曲が多く含まれている一方、囁くような声で物憂げに歌うインディーポップ的な表情も垣間見せるポップ作品だ。2010年代後半をティーンとして過ごしたテイトは、ポップ・ミュージックの様々な要素を極めて自然かつ柔軟に取り入れる新世代でもあるのだ。

 しかし、彼女はデビュー当初からこの路線だったわけではなかった。

 2003年、テイト・マクレーは弁護士の父とダンス講師の母のもとに生まれた。6歳からダンスを始め、7歳の頃には自身のダンス動画を投稿するためのYouTubeチャンネルを開設し、日々ダンスの練習に明け暮れた。競技ダンサーとしてすでに名を馳せていたテイトは、13歳で米国のダンスオーディション番組『アメリカン・ダンスアイドル/So You Think You Can Dance』に出演。カナダ人として初めて決勝に進出し、見事準優勝に輝いた。

 これをきっかけに米国で様々な番組やアワードに出演することになる。そして2016年にはジャスティン・ビーバー本人に選ばれたキッズダンサーの1人として、ジャスティンのワールドツアーに出演したのだ。米ピープルのインタビューで、かつては「私はバックダンサーになるんだと思っていた」とテイトは語るが、2017年に自身のチャンネルで公開した初のオリジナルソング「One Day」がYouTubeを中心に大ヒットする。ピアノの弾き語りで傷心を歌ったこの曲は多くの支持を集め、それ以降も自主で楽曲のリリースを重ねていった。そして2019年にレコード会社11社による争奪戦の末、ダンサーとしてのキャリアのサポートもしてくれるという理由で米RCA Recordsと契約を結び、アーティストとしての道も歩み始めた。

 翌年1月には1st EP『all the things i never said』をリリース。その3か月後のシングル「ユー・ブローク・ミー・ファースト」がTikTok経由で爆発的にヒットを記録する。しかし、世界はパンデミックに突入してしまっていた。ロサンゼルスからカナダへ戻ったテイトは、本楽曲の大ヒットを受けてレーベルから急遽MV制作を迫られ、地元の友人とともにiPhoneで一発撮りしたという。そのMVは現在2億回再生を超えている。


 この時期のテイトは、マイナー調のピアノに重低音を重ね、少し掠れた声で切なげに言葉を並べるように歌っている。そのスタイルはまさしくビリー・アイリッシュに重なる。ちなみにビリーが『ドント・スマイル・アット・ミー』でデビューしたのはテイトの「One Day」と同年の2017年だ。そしてテイトがRCAとの契約発表日に公開したシングル「tear myself apart」はビリーとその兄フィニアス・オコネルによる提供曲である。

 そうした事情からテイトは、一時は「カナダのビリー・アイリッシュ」と呼ばれることになる。このラベルによってビリーと対比して捉えられたり、単なるフォロワーとして見られたりしてしまうこともあっただろう。

 しかし、ツアーは欧米でも完売が続出するほど人気は盤石で、2021年リリースの2nd EP『トゥー・ヤング・トゥー・ビー・サッド』はSpotifyでその年最も再生された女性アーティストのEPとなった。さらに2022年にはデビュー・アルバム『アイ・ユース・トゥ・シンク・アイ・クッド・フライ』をリリース。大半はインディーロックからバラード調の曲であるが、ここには現在のテイトの作風にも通じるトラップを取り入れたサウンドも一部見られる。

 そしてようやく「グリーディー」に至る。ここまでの流れを踏まえると、「グリーディー」はダンサーでもありアーティストでもあるテイト・マクレーの積み上げてきたキャリアが見事に相乗効果を生んだ作品であると言える。自室でアコースティックな雰囲気で傷心をハスキーな声で歌っていた少女が、鍛え抜いたダンススキルを存分に披露して強さをアピールする大人の女性へ。新たな路線でも再度爆発的なヒットを巻き起こしたのだ。

 『シンク・レイター』を支えたのは、ワンリパブリックのライアン・テダーを筆頭に、SZAの『SOS』でのコラボレーターであるロブ・バイゼル、アリアナ・グランデの共同作業者のイライヤなど、ポップシーンの第一線で活躍を続けるプロデューサーたちだ。それでも作品の方向性を示しているのがテイト自身であることは、今作についてApple Musicに語った発言からも分かる。

「私がとにかく強くこだわったのは、前作とは全く違うサウンドでこのアルバムを始めることだった。」

 そんなアルバム冒頭を飾る「カット・マイ・ヘアー」は前作までと比べるとトラップの要素を全開にした振り切った作風で、テイトの変化への決意が感じられる。

 今年は北米と欧州を巡る大規模ツアーも控えており、テイト・マクレーは今、最も勢いのある女性アーティストに違いない。アヴリル・ラヴィーン、カーリー・レイ・ジェプセンなどに連なるカナダ発のポップスターとして名が知れ渡る日も近いのかもしれない。

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