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<インタビュー>大型タイアップが控えるアツキタケトモ、自身と時代が考える“いいもの”をとことん追求した「#それな」と趣味性をリンクさせた「匿名奇謀」



アツキタケトモインタビュー

Interview & Text: 矢島由佳子
Photos: 筒浦奨太

 2023年は「NEGATIVE STEP」、「自演奴」、「#それな」と充実の3作を完成させた、アツキタケトモ。ドラマ『佐原先生と土岐くん』のエンディング主題歌に起用されている最新作「#それな」は、今の時代を反映したキャッチーなタイトルである上に、彼の奇才さをはっきりと感じさせる構造になっている。「テレビなどの大型タイアップ」と「TikTokをはじめとするSNS」がリスナーの主な入口となる時代に、最新作で「自分がいいと思うもの」と「時代にいいと思われるもの」のバランスを考え抜いたアツキはどのような答えに辿り着いたのか。

――「#それな」は、ドラマ『佐原先生と土岐くん』の原作や台本を読んで書き始めたのでしょうか?

アツキタケトモ:タイアップありきで作った曲ではなく、6月くらいから作り始めていたもので、楽曲の世界観がドラマとリンクするということでエンディング主題歌として使っていただけることになりました。この楽曲に込めた「目と目を合わせて話す」「まっすぐ伝える」ということとか、作品のテンポ感、振り回される感、展開も色々ある感じとかがリンクしていて、奇跡的な巡り合わせだなと思いました。そういった出会いを引き寄せたという意味でも、僕はこの曲が大好きで。自分が作ったものが音楽以外のところでリンクするということはまさに目指していたところなので、ドラマのお話をいただけてすごく嬉しかったです。

――今年出された3曲にはそれぞれ異なる挑戦があったと思うのですが、「#それな」はどういった発想から作ったものでしたか。

アツキタケトモ:ミネアポリスサウンド――プリンス、ジャネット・ジャクソンとかもやっているプロデューサーチームのJAM & LEWIS、JAM & LEWISが見つけたMint Conditionとか――のサウンド感や、日本でいうと岡村靖幸さん、大江千里さんとか、80年代エピックソニーのアーティストがまとっている雰囲気を今の時代にやりたいと思ってました。あとはSING LIKE TALKINGの「Rise」がすっごく好きで。当時のアーティストたちがリアルタイムで洋楽をJ-POPに落とし込んでいた感じを、令和にやったら面白いんじゃないかと。ただ、それをそのまま持ってきても令和感を担保できないから、「それな」という、令和以降に大衆性を帯びた言葉のリフレインを乗せることで、「当時には存在しないけど、でも音は当時から持ってきている」ということができるかなと。服の着方とかも、サイズ感を変えてみるとか、シャツを入れるか入れないかとか、そういうちょっとした違いで時代感を変えられたりするから。いかに自分が根本的に影響を受けてきたことを今の文脈に乗っけるかを考えて作りました。

――「自分がいいと思うもの」と「時代にいいと思われるもの」のバランスはポップスを作る人なら誰しも葛藤と工夫の大きいポイントだと思うんですけど、わかりやすく今の時代のワードをタイトルにした「#それな」は、アツキさんなりにそこをとことん突き詰めた作品になっていると思いました。

アツキタケトモ:もう常にそことの戦いというか。でも昔よりそれを楽しめるようになってきました。自分ももともとポップスが好きではあるから。「NEGATIVE STEP」(今年4月リリース)は「あの要素もこの要素も入れたいから全部やる」みたいなマインドで制作したんですけど、その反面で、構造の面白さを理解してもらうにはハードルが高くなってしまったなとも感じて、今回は「それな」という言葉のリフレインをサビ頭に持ってくることで、やっていることは同じなんだけど馴染みのあるふうに見せようという意識がありました。チープでシンプルすぎて「わかりやすいけど何回も聴きたいとは思わないな」となるのもよくないけど、自分もリスナーとして、複雑すぎて1回聴いただけだと「これ、いいのか悪いのかよくわかんないな」ってなるとスルーしちゃうから。1回でちゃんと伝わるくらいのわかりやすいよさがあった上で、細かい音や構造美が後々わかってくるくらいのさじ加減がいいかなと。作り手として「魂を捨てる」みたいな気持ちではなく、自分がリスナーとして聴いたときにどういうものを求めるかという意識を持つようになってからは、今のポップスの流れと自分のやりたいこと――今回でいうとエピックソニー的なもののかっこよさを今伝えるためにどういう仕掛けを作るか――を考えるようになりましたね。


――歌詞の書き方についても今年出した3曲においては意識変化が大きかったのではないかと思ったのですが、いかがですか。

アツキタケトモ:めちゃくちゃ変えてますね。ずっと辛辣なテーマで歌詞で描いていて、しかもあまり比喩表現を使わない直接表現が多かったんですけど、いかにメッセージ性を弱くせずにポップスの流れに乗せるのかという意識を持つようになりました。今のポップスの潮流に毒を忍び込ませる、みたいな。わかりやすく「毒です」って言うとみんな手をつけてくれないから、「おいしいものの中にちょっと毒をつけておく」みたいなバランス感を「NEGATIVE STEP」から考え始めました。昔だったら〈それな それな それな〉のリフレインもしたくなくて。単純な繰り返しを絶対しないようにしていたんです。でもそれができるようになったのは、ポップさを意識するようになったからで。TikTokで30秒流れてきたときに覚えてもらうためにはリフレインしたほうがいいよな、みたいなデザインを昔より柔軟にできるようになったかなと思います。

――それにしても、よく「それな」という言葉に着目しましたよね。まだポップスで使っている人をあまり見かけないような言葉だなと。

アツキタケトモ:みんな「それな」って言うのに、「それなと言えばあの曲」というものはまだないから。たとえば「ぴえん」は、「「ぴえん」のうた」とかがあるじゃないですか。そういった曲がまだギリギリないから題材として面白そうだなと。

――「#それな」では、リリックとメロディの関係性へのこだわりや工夫を隅々に感じました。「それな」で会話を終わらせる手軽さと、その代償。短絡的な思考や欲望と、繊細で複雑な人間の感情。そういった二面性を歌詞だけでなく、メロディのアップダウンの操り方などでも表現されていると感じたんですね。

アツキタケトモ:まさにですね。メロディとかアレンジでやりたいことを言語化しているのが歌詞だから。実は音の段階ですでにメッセージを語っているんですよね。作詞はそれに整合性をつけたりストーリーラインを言語化したりすることで、リスナーにわかってもらう作業というか。

――〈手元ばっか見てないで/目と目 合ってない 全然/ちゃんと話したいべいべー〉とか、ストレートなメッセージや主張が書かれているにもかかわらず、「アウッ!」というシャウトや「べいべー」という言葉を混ぜ込ませている、そのバランスもいいですよね。

アツキタケトモ:「そこまで言っていいんだ」みたいなことでドキッとさせるのは、スガ(シカオ)さんとかからの影響も強い気がします。中学生の時は高橋優さんもよく聴いていて、たとえば「ボーリング」でいきなり〈面倒臭ぇ!〉って歌っちゃう強さとか、そういうパンク精神みたいなものは常に僕の中にあるから。だからこれまでもはっきりと言っちゃいがちだったんです。ただ、はっきりさせすぎると、あまりにストレートで受け手からするとウッてなっちゃうことがあるからこそ、表記で遊んでみたり、ちゃんと聴かなければ強いことを言っているように聴こえないようなサウンド感にして中和させたり。キャッチーで気持ちよく聴けるけど、どこかのタイミングで「すごく深いかも」みたいになるような奥行きを作っておきたいなと思いました。

――しかも、今の世の中やSNSを批判しているように見せて、結局自己批評もする構造になっている。それも、強い主張があるんだけど聴いた人が「ウッ」とは感じない大事なポイントだと思いました。

アツキタケトモ:そこが伝わっているのは嬉しいです。僕はステートメントを出しているわけでも、何かを否定や肯定するわけでもなく、ただ置いているだけで。SNSを悪く言いたいんじゃなくて、「そういうことあるよね」と置いておくことで考えるきっかけになってほしいというか。「そういうこともあるよね」というのが救いになったりすると思うんです。「こうならなければならない」みたいな紋切り型に当てはめようとするから人は比べて幸福を決めちゃうけど、「あるよね、だからお互い気をつけるほうがいいよね」みたいなスタンス。それが自己批評性と他者への批評性の両方を感じるというふうに思っていただけたのなら、ちゃんと成功しているなと思います。

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音の楽しさを意識して作った曲だから、どんどん真似して踊ってほしい

――今回、共同アレンジャーに宮田“レフティ”リョウさん、ミックスエンジニアに小森雅仁さんを迎えられています。この音像には二人の役割も重要だったと想像するのですが、まずレフティさんとの作業はいかがでしたか。

アツキタケトモ:自分が作ったデモと、レフティさんと一緒にやってできた音源を聴くと、踊れる感が全然違うんです。音の切り方とか、位置を若干ずらしてスウィングさせるとか、キックが鳴っている瞬間は上モノの楽器に聴感上では感じられないくらいの程度にサイドチェインコンプをかけてキックを沈ませないようにするとか、「そこまでこだわっていたんだ」みたいな衝撃が多くて。僕の場合、「まだ踊れないな」と思ったら音を足す方向にいっていたんですけど、すでにある音の音価とかスウィング感を調整するだけで全然変わるんだということを気づかせてもらいました。

――小森さんについてはいかがでしょう。

アツキタケトモ:小森さんも、トラック数の多いものに対して圧倒的な整理力があって。一つひとつの音の置き場所とか処理の仕方で、いろんな音がちゃんとリスナーにも届くんだけどごちゃごちゃはしてない、というふうにできる整理力が小森さんの魅力だと僕は思います。トラックダウンのときに「歌のディレイを強めにかけて派手にしたい」みたいなことを言ったんですけど、「もうアレンジでこれだけ遊んでるから、加工しすぎてオーバープロデュースっぽくなってしまうかも」と言ってくれて、結果、そうしなくてよかったなと思うし。妥協という形ではなく、引き算の美学みたいなことで、アーティストがやりたいことに対して的確なアプローチを考えてくれる方だなと思います。これだけ音よく作っておけば、仮にTikTokで「それな」の部分だけが回ったとしても、聴く人が聴けば「音がいい」ってなる自信もあるから、どんな文脈に乗っても大丈夫だなと思えてますね。

――そういったクオリティから、バズったあとに聴かれ続ける音源になるかどうかが変わってきますよね。

アツキタケトモ:音源としての耐久度になってくる。いい音でちゃんと作っておけば、僕自身が80年代の曲を聴いてかっこいいと思うように、30、40年後に聴いてもかっこいいと思ってもらえるものになっていると思うし。すごくいいものができたからこそ、ちゃんと広めたいし、装いを「それな」という言葉も含めて令和にしたこともあって、今まではTikTokバズに前向きではなかったけど、今回はそこも含めて表現に落とし込みたいと思っています。曲名をつぶやこうとするとハッシュタグを付けてつぶやかされることになるという、投稿した人を巻き込む構造自体に面白味があると思って、タイトルをハッシュタグにしました。ドラマの主演キャストのお二人(岐洲匠、八村倫太郎)も踊ってくださっているんですけど、僕のやりたい音楽性とTikTokの共通項は「踊れる」というところにあると思っていて。ダンスという身体表現は、音楽の楽しみ方とか聴かせどころを理解してもらうためのガイドラインになるという意味でも面白さがあるなと思って、最近ダンスに対する興味もすごく湧いています。たとえばこの曲だったら、〈メンドクサイもんだ〉でキックを5回打っているんですけど、それを耳だけで聴いて、本能的にはその気持ちよさに気づいていたとしても、頭では理解しきれないと思う。でも、ダンスでキメたものを視覚的に見れば、勝手に情報として吸い込まれる。「#それな」は音の楽しさを意識して作った曲だから、TikTokとかでどんどん真似して踊ってほしいなと思いますね。

@drama_mbs #ドラマ佐原先生と土岐くん 🐺ED主題歌 「#それな」本日配信スタート🐰佐原先生のことを知りたくてたまらない土岐くんのもどかしい気持ちがこもった #アツキタケトモ さんが手がけるED主題歌「#それな」 リリースを記念して #それなダンス#さはとき の2人も踊ってみました🐺🐰🎧 皆さんも真似してみてね🙌 📺𝟏𝟐/𝟕(木) 放送 𝐭𝐯𝐤 𝟐𝟓:𝟎𝟎/𝐌𝐁𝐒 𝟐𝟓:𝟐𝟗 #岐洲匠 #八村倫太郎 #アツキタケトモ ♬ #Sorena - Chorus Version - ATSUKI TAKETOMO

――トキチアキさんのアニメーション映像もいいですよね。

アツキタケトモ:meiyoさんのMVをトキさんがやられていたりしますけど、僕にとって、一発聴いて「いいかも」と思えるようなポップさや間口の広さと、音楽的な引き出しが両立している存在の代表格がmeiyoさんで。meiyoさんもTikTokのイメージが強いかもしれないけど聴けば一目瞭然でルーツがわかる方ですし、学ばせてもらっているところがありますね。トキさんのアニメーションがmeiyoさんのポップさを担っているとも思っていたから、今回の曲でご一緒できたのは必然性があった気がするし、動画とかジャケットを見ても「もうかわいい」「好きだな」って(笑)。

――来月には、映画『BLOODY ESCAPE -地獄の逃走劇-』の主題歌「匿名奇謀」のリリースも控えています。一足先に聴かせていただきましたが、これまでの楽曲とはガラッと違うロックど真ん中なサウンドで、歌い方も同じ人とは思えないくらい、リスナーを率いていくロックスター的オーラをまとったボーカルになっていますよね。

アツキタケトモ:「匿名奇謀」に関しては、まず映画のお話があって作った曲で。最初は自分がロックをやるべきかをちょっと悩んだんです。でも今年の夏に【ROCK IN JAPAN FESTIVAL】でTHE ORAL CIGARETTES先輩とかのライブを見て、自分が普段聴いているジャンルじゃなくても完全にここ(心)を掴まれちゃって、ロックの強さは現場で出るなと思って。音源を作ることに特化している自分からするとロックのアプローチって難しいんですけど、ライブを見て「この感じかっけえ、やっぱ俺もやりてえ」ってなったんですよね。もともと僕は大学時代にロックバンドやっていたり、Mr.Childrenから稲妻に撃たれるような衝撃を受けた要素が歌ではなく「Printing」から「Dance Dance Dance」の流れと「Dance Dance Dance」のギターリフで、エレキギターの音が原体験だったりするし、それを映画主題歌という舞台でやるのは必然性があるなと思って。BAD HOPがロックサウンドに乗せてラップをしているのを聴いて惹かれたミクスチャーロックをやってみたり、スネアの音をハイパーホップやエクスペリメンタルなニュアンスにしてみたり、自分の中のやりたい趣味性と映画の世界観をリンクさせて作りました。今、アルバムを作っているんですけど、自分の中で「匿名奇謀」のポジションも明確にあります。映画主題歌として聴いたときは映画に合ったロックサウンドとして聴いてもらえて、アルバムの中で聴けばアツキタケトモの引き出しの中で「こういうことをやりたかったんだな」と伏線回収してもらえる、そういう曲にしたいと思って作りました。

――来年は「匿名奇謀」から始まって、アルバムのリリースも控えていると。他に何かやりたいと思っていることはありますか。

アツキタケトモ:来年からライブ活動を始めようと思ってます。僕のキャリアが少し特殊で。17歳のときに弾き語りシンガーとしてデビューして、年間100本以上ライブをやる時期があったり、バンドとして下北沢のライブハウスで月2、3本ライブをやる経験もあったりした中で、ここ数年は「いや、俺は音源を作るのが好きだし」となっていたんですけど、やっぱりライブという表現フォーマットでしか伝えきれないものや爆発力があるから必要だということを心の底から思えたので、来年からはやっていきます。アルバムに関しては明確に作りたいものが浮かんでいるので、なんとしてもそれを完成させてリリースしたいというのが来年の野望ですね。

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