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<インタビュー>Ken Yokoyamaが全世代に向けて発信する"言葉の強さ”――ニューシングル『These Magic Words』

インタビューバナー

Interview & Text:小野島大

Photo:SHUN ITABA

 Ken Yokoyamaのニューシングル『These Magic Words』がリリースされる。『Better Left Unsaid』『My Own Wish』に続くシングル3部作の最終章にあたる3曲。Ken Yokoyamaらしいポップで疾走感あふれるパンク・ロックから、新境地を開拓した曲まで、彼らの多面性をコンパクトに凝縮した快作だ。来年早々に予定されているというニューアルバムへの期待も高まる。今回、意気上がる横山健(Vo./Gt.)とEKKUN(Dr.)に話を聞いた。

「その風景が忘れられずにいる」

――今回はシングル3部作の最終章ということですね。今年の頭くらいにまとめてレコーディングしたとお聞きしてます。

横山健:今年の2月にシングル3枚分、合計8曲レコーディングをしました。その時に1年かけて3部作に分けて出そうと決めたんです。


――今さらですけど、曲を加えてアルバムにしようとは思わなかったんですか?

横山:最初はそのつもりだったんですよ。でも、アルバムにして出すことの意味というか意義があまり感じられなくなって。やっぱり昔に比べて圧倒的にアルバムの価値が落ちてるんですよ。やっている側としてすごく寂しいことで。なので、無策のまま出すのが嫌だなと。


――CDの売り上げが落ちて、ストリーミング中心になってきていることが関係してる?

横山:たぶんそれが原因でしょうね。でも一概にそればかりとも言えないですけど。Ken Yokoyamaっていうバンドの賞味期限の問題だってあるだろうし。僕らもう、すっかり初老なんで(笑)。初老バンドがね、最前線に長く留まるのはなかなか困難なことで。



横山健

――初老バンドだって痛感することがあるんですか?

横山:ありますね。まず第一に、朝起きて鏡を覗いた時ですね(笑)。初老がいるんですよそこに(笑)。この前までド新人だったはずなのに(笑)。


――(笑)。この間もそんなことを言ってましたね。

横山:はい。いつも抱えているテーマなんですよ。年をとっていくということはリスナーの若い子とどんどん年齢の差、感覚の差が広がっていくということであって。


――自分たちの音楽は、若い子に向けてやりたい想いが強いということですか?

横山:もともと、Hi-STANDARDの頃は僕20代だったんですけども、同じ20代とか、ちょっと下の世代に響いていたので、その風景が忘れられずにいるんですね。で、僕は今50代になって。聴いてくれているのは30代から40代の男性が圧倒的なんですよ。若い子にとってはこの手の音楽ってとっくに古いもので。ストライクゾーンに入ってこないっていうこともわかってはいるんです。それが悔しくて。


――でもバンドとかアーティストが年をとって、それに応じてお客さんも年を取っていく、成長していくっていうのは、極めて自然なことであって、それ自体は悪いことでも何でもないと思うんですが。

横山:でも、それで良しとしていると、新しい人が入ってこない。それはあまりよろしいことではないと僕は思うんですね。ぶっちゃけ、それって思い出商売じゃないですか。ファンクラブで囲ってマネタイズすればミュージシャンは安泰。でも何となく、薄気味悪い状態が続いていくような気がするんです。僕はやっぱり、なるべく自分の過去にやってきたことにアグラをかかずに、現状で勝負したいんですね。ところがやっぱり、こういう音楽性と存在感が、なかなか通じない。


――自分を貫かなきゃいけない。でもなおかつ、若い奴にも聴いてもらいたい。

横山:そうなんです。それで…音楽の聴かれ方もストリーミングに移って、だいぶバイキング方式になっているなと。アルバム単位、ミュージシャン単位で聴いてくれる子もたくさんいると思うけど、やっぱりライト層はつまみ食いというか。今はこういうのが流行っているんだ、はいはい、ていう風にね。



EKKUN

――プレイリストだけ聴いてね。

横山:そう。昔からそういう層ってたくさんいたけれども、そういう層を無視していたら広がっていかない。今そういうところにリーチしていくには、シングルがもしかしたら良いんじゃないかなって僕なりに考えて、今年はそういう動きをしてみました。


――アルバムを作ってツアーをやって、ちょっと休んで、また2年くらい経ったら新しいアルバムを作って、っていう、その繰り返しだけだと、現状維持はできても上に上がってはいけないし、ファンも広がらない。

横山:そうなんですよ。それが許されるのはもうちょっと突き抜けた売れ方をした一部のバンド達だけですよね。僕たちそれほどでもないので。もっと前線に留まる努力をして、頭を使わなきゃいけない。


――そのためにはシングルをコンスタントに出して、常に闘っているのを見せていかなきゃいけない。

横山:はい、そういうつもりでしたね、今年一年は。前線に残れているかどうかっていうことはまだ全然検証できていないんですけども。ただ最初の1枚目は、PIZZA OF DEATHの通販でCDのみ限定販売したんですよ。CDの価値っていうものを確かめてみたくて。で、1万枚売れたんですよ。

EKKUN:1週間後に配信開始。すぐ配信を開始するってことはお客さんも知っていた。


――1週間待てば聴けるけど、でも1万人のリスナ−は音だけじゃない価値を認めてくれたってことですね。

横山:そうですね。モノとして持っていたい、このバンドのものは持っていたいと思ってくれた人がそれだけいた。


――それはやっぱり心強いですよね。

横山:そうですね。ただね、絶対数は減っていると思うんですよ。今から15年ほど前にあるアイテムを出した時に、2万5千から3万くらい売れたんですよ。その時にスタッフと話したのは、「横山さんが何をやっても買ってくれる人がそれだけいるってことですよ」と。ところが今回は1万枚なわけですよ。それが世の中の流れなのか、バンドの力が単純に落ちているのか。これから時間をかけて検証をする必要がありそうですね。まあ検証も何も、両方だよって思いますけど(笑)。



――それは状況のせいだとしか言いようがないような気がするけど。

横山:でも状況のせいにするのは簡単なので。誰かのせいにはしたくない。悪いんだとしたらサブスク業者が安い値段で聴き放題にしたのが悪いんですよ(笑)。価格と価値の崩壊を起こしたのは、彼らの価格設定だと思うので。


――例えばサブスクをやらないという選択肢もあるわけじゃないですか。

横山:そうすると若い人へリーチできない。やっても変わらないかもしれないけど、可能性は追いたかったですね。


――それは横山さんが音源というものにこわだる気持ちが強いから、そういう風に考えちゃうんですよね?

横山:はい。そうですね。


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「90年代のHi-STANDARDの時から思っていた」


――アーティストによっては、音源はある種の販促物だと割り切って、ライブやライブの物販に傾注してマネタイズしていくというのが一つのあり方だと思うんですけど、そういう風には考えられなかった?

横山:いや、もう事実、そうなっていますね、僕らも。悲しい話、今回の3部作の1枚目は、極めてグッズ的な扱いだったなと思います。ただそれが音なのかTシャツなのか、というところはだいぶ違うと思うんですよ。若いバンドなんてCDを単独で売るよりTシャツと一緒に売った方が、全然実入りが良いのでそういう風にやっているみたいですけど。PIZZA OF DEATHは原盤会社だと思っているので、そういうグッズ化は非常にこう、自分たちのアイデンティティが崩れる思いなんですよ。まぁでも、時代の流れには敵わないのでやむなしという感じですね、今は。


――今さらなんですけど、作品を音源、CDなりなんなりに残す意義はご自分なりにどういう風にとらえていますか?

横山:ミュージシャンのエゴですね。音だけならデジタルで済んじゃうわけじゃないですか。でもそれじゃ寂しいから欲しいわけですよね。あと、やった証が欲しいんですよ、僕たちからしたら。机に並べておきたいんです、自分のライブラリーを。買う側ってそこの情緒は関係ないじゃないですか?


――いや、そこは共有、共感できる人は多いと思うけど。

横山:そうですね。でも共有できる人ってもはや少数派なんですよね、うん。


――……うーん。

横山:でも僕、これは妥当な現状認識だと思っているんです。その上でどうしようかなっていうのを、考えてやったのが、今回の三部作です。今の手ごたえとしては、やれてよかったなぁと。頑張った状況を作って、レコーディングしてよかったなと思ってます。


――今回の3曲の話に移ります。若い人にリーチしたいという今の話の流れにも関係しているかもしれませんが、若い人たちに向けて語りかけている、ともとれる歌詞ですね。

横山:この歌詞を書いたのは去年の暮れから今年にかけてなんですけど。その時に、こういうモードだったっぽいんですよね。子供とか、若者に向けて。メンバーの子供がそろそろ高校を出るとか、そういう風な歳になってきたんですね。僕の長男も来年の春先に高校卒業ですし。そういう世代に向けて…これから世間の荒波に揉まれて、いろんなことを体験するだろうけど、言っておきたいことがあるっていうのが、「Bitter Truth」ですかね。





シングル『These Magic Words』ティザー映像


――「Bitter Truth」も「These Magic Words」も、年下の人に向けて言っているようでもあるし、でもそれだけでもない。色んな人達に向けて背中を押してあげるとか、力づけてあげるとか、そういうニュアンスも汲みとれる。例えば歳のいった人でも、ちょっと困難な立場にいるような人が勇気づけられることも、絶対にあると思うんですよ。そういう意味で普遍的な表現になっていると思いました。

横山:そうですね。「These Magic Words」なんか、僕も勇気づけられますからね(笑)。


――<オーイエー 大丈夫さそのうちオッケーになる>って歌詞は、あまり根拠はないけど辛いことがあっても何とかなるよってことを言っているのかなと。自分自身に言い聞かせている感じも。

横山:そうですね。でも実は僕はないんですよ、それ。根拠がないとダメなんです。解決しようとするんですよ。なんですけどこの曲は……僕、この歌詞を書いたころにはまだ2歳にもなっていない子供がいるんです。それと母親のふれあいを見て、すごく素敵だなって思ったんです。俺だって生きている上でこういうことを言われたいなぁって。だから僕自身、こういう歌詞を書いてちょっとびっくりしていますね。


――何か不安があったら解決しないと気が済まないというのはすごくわかるんだけど、でも、自分自身だけではコントロールできないことっていっぱいあるわけですよね。それはどうにもならないことだけど、でも信頼する人や愛する人に抱きしめてもらえれば、それだけで安心して元気が湧いてくるみたいな。それはもしかしたら、何の解決にもなってないかもしれないけど。でも、音楽って、そもそもそういうものじゃないですか?

横山:あぁ!うん、そうですね。




――音楽って別に具体的な解決策を与えてくれるものじゃないから。

横山:そうですね。


――だから、音楽が出来る精一杯のことを、この曲では表現できている気がします。

横山:(嬉しそうに、EKKUNの脇腹をつつく)おぉー。おぉー(笑)。


――すごく優しくて良い曲です。

横山:「These Magic Words」が出来た時、これは間違いなく良い曲だ…推し曲にしたいって僕は思ったんです。で、後はカップリングをどういう組み合わせにしようかというので、バランスを見ながらこの2曲になりましたね。「Bitter Truth」と「Sorry Darling」は。


――「Sorry Darling」は、誰に謝っているんですか?

横山:これね、わからないんです。僕、自分で歌詞を書いておきながら、この歌詞がわからないんですよ。視点は定まっていたんです、この曲に関しては。社会生活とか世俗を断って隠遁生活をしている人なんですよ。主人公は僕だと思うんですけど、それでどうしてこうなったかは、わからないです。


――ふだん隠遁生活をしているんですか?

横山:していないです(笑)。だから多分心のどこかで、この社会のシステムから逃げたいって思っているんでしょうね。この曲の歌詞に関して言えば、いつもだったら僕はもっと具体的に書くはずなんですよ。もう、百人いたら百通りの解釈があるみたいな歌詞なんで。でもこれはこれで良いかな、って思えたんですよね。


――今回に関しては言葉の強さを求めていくというよりは、曖昧な言い方をして、多義的な解釈を受け入れるという感じなんですかね。

横山:そうですね。なんで歌詞をしっかり目標を定めて書くのが好きかというと、日本で、英語で歌っているからだというのはありますね。これで和訳した時に、ぼやけていたら嫌だなって昔から、それこそ90年代のHi-STANDARDの時から思っていたんです。そうじゃないものができたなっていうのが、「Sorry Darling」ですね。


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ニューアルバムについて

――なるほど、新境地ということですね。Ken Yokoyamaらしい曲とのバランスの良い3曲だと思います。来年早々にはアルバムが予定されているということですが、制作進行具合はどういう感じなんですか?

横山:あ、もう完パケしました。今はジャケットを作っています。


――素晴らしい。言える範囲で、どういう感じになりそうですか?

EKKUN:もちろんシングル3部作で出ている曲も入っていたりするので。

横山:リードトラックの3つはアルバムに入れるんですよ。

EKKUN:で、シングルに入っていない曲も新曲が間に入っているので。凄くバラエティに富んでいると思います。





Better Left Unsaid(OFFICIAL VIDEO)





My One Wish(OFFICIAL VIDEO)


――シングルの寄せ集めではなくて、アルバムのトータリティを考えて構成していったと。

横山:そうですね。僕は曲を作りながら、自分の部屋の机の前に、手書きのエクセルみたいなのを書いて、毎晩ずっと見つめて、“この曲はシングルに入れて…そうするとこの曲はアルバムだな…”とか、そういう風にして全体のバランスはとったつもりです。



――へえ。そうやって決めてるんですね。単なる気分で衝動的に決めてるんじゃないと。

横山:だから、シングルの収録曲は多少、飛び道具的なレゲエ調の曲があったり、「Sorry,Darling」みたいな、あまりやってこなかった曲調があったりすると思うんですけど、アルバムの方がちょっとこう、キュっと焦点が絞れたみたいなモノになっているはずです。過去の自分のアルバムの何とも似ていないなという感じがするんです。


――おお。期待できそうですね。

横山:良いのが出来たんですよ、ふふふ(笑)。

EKKUN:言っていいですか?この、シングル『These Magic Words』の中ジャケが凄いことになっているので、そこも見どころとして(笑)。


――なんですか、それは(笑)。

横山:今回の3部作、全部僕がジャケットを描いていて、せっかく手に取ってくれる人に、喜んでもらいたいなという気持ちで。


――何か下品なことをやっているんですか(笑)。

横山:いや、下品ではないです(笑)。下品なのはBBQ CHICKENSです(笑)。僕が脱いじゃうのは、BBQ CHICKENSです。あ、でもKen Yokoyamaでも脱いでたか…でも大丈夫です、下品ではないです。


――年を取ってくると、脱ぐのもいろいろと勇気が必要になってきますね。

横山:そうなんですよね。ほんと、30代、40代の頃はホイホイ脱いでいたけど、最近は脱がなくなったなぁ(笑)。



Ken Yokoyama「These Magic Words」

These Magic Words

2023/11/29 RELEASE
PZCA-105 ¥ 1,320(税込)

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Disc01
  1. 01.These Magic Words
  2. 02.Bitter Truth
  3. 03.Sorry Darling

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