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<インタビュー>ホフディラン、デビュー四半世紀を超えた現在の立ち位置と初のビルボードライブ公演に向けた意気込みを語る

インタビューバナー

 小宮山雄飛とワタナベイビーからなるポップユニット、ホフディランがビルボードライブに初登場することが決まった。しかも、1stステージは名曲「スマイル」が収録されたデビュー作にして名盤『多摩川レコード』の再現ライブ、2ndステージは「生ピディラン」と称し、小宮山雄飛による生ピアノとバンドセットでホフディランの人気曲を披露するという。昨年9月には、前作からおよそ5年ぶりのニューアルバム『Island CD』をリリースするなど、デビューから四半世紀が過ぎた今もコンスタントに作品を発表し続ける彼ら。その近況を語ってもらった。(Interview & Text: Takanori Kuroda / Photo: Masanori Naruse)

デビューから四半世紀、
ファーストアルバム『多摩川レコード』にまつわる思い出

――今回のビルボードライブ、1stステージと2ndステージで趣向を変えるというユニークなアイデアはどのようにして思いついたのでしょうか。

小宮山:ビルボードライブに出演するのは初めてですし、やるなら何かしら特別感があった方がいいなと。それで、1stステージでは1枚目のアルバム『多摩川レコード』を、2ndは当初2枚目のアルバム『ワシントンCD』を再現するのはどうかなと思ったのですが、せっかくビルボードライブには生ピアノもあるし、2ndはラグジュアリーな会場の雰囲気に合わせた内容にしようという話になりました。


――2ndステージは、小宮山さんが全編で生ピアノを弾く「生ピディラン」になったと。

小宮山:このところ、生ピアノがある会場でライブをする機会が多かったんです。それを使うと、普段キーボードのピアノ音源で演奏するのとは全く違う雰囲気になるんですよね。ただ、その場合はセットリストの中から数曲しかピアノを演奏してこなかったので、今回は全曲通して生ピアノを入れたら面白いんじゃないかと。しかもバンド編成に僕のピアノを混ぜたら、いつものライブとは違うスペシャルな内容になると思ったんです。


Photo: Masanori Naruse

――ファーストアルバム『多摩川レコード』がリリースされたのは1996年。当時のことで、何か覚えていることはありますか?

ワタナベ:あの頃はもう、何にもわかってないクソガキ2人っていう感じでした(笑)。ただワクワクしながらアルバムを作っていたことを覚えています。


――当時はローファイがブームになったり、フォーキーなサウンドが再評価されたり、ちょうどビートルズも何度目かのブームというか盛り上がりを見せていましたよね。

小宮山:確かに、ビートルズって評価されている時と、ちょっと古臭く感じる時があって。

ワタナベ:ちょうど前年に『ザ・ビートルズ・アンソロジー1』がリリースされたんだよね。ドキュメンタリーも日本では年末に放送されて。

小宮山:僕らの周りのミュージシャンたちも「やっぱりビートルズっていいよね」みたいな話をしていた記憶がある。それから日本のフォークミュージック、はっぴいえんどとか。新しいものだけが良いわけじゃなくて、古いものやアナログの質感が見直されるようになってきて。ホフディランは、そういう音楽をそれほど意識していたわけじゃなかったけど、当時の空気感にインスパイアされた部分は少なからずありました。


――「ミスターNo.1」などを聴くと、宅録ミュージックやローファイミュージック……例えばベックやフォーク・インプロージョンあたりと共鳴しているように感じます。

ワタナベ:当時の僕らはTR-606という、ローランド製のリズムマシンを多用していました。「スマイル」も最初はTR-606でリズムを組み立て、そこにギターなどの上物の楽器を乗せて、生ドラムを重ねた後もそのまま(TR-606の音を)残したりしているんですよ。別に何かローファイなことを狙っていたわけでもなく、それしかなかったから使っていたような感じでした(笑)。

小宮山:そうだったっけ。当時どんなふうにレコーディングしていたか、正直なところもうほとんど覚えてないなあ(笑)。

ワタナベ:あの頃は、ユウヒの横で僕がエレキギターを弾いて、ユウヒがエフェクターのツマミをグリグリ回して録音する、みたいな。狭いリハスタとかに2人でこもって、そんなことばかりやっていた記憶がありますね。僕はサウンドのこととかよく分からないから、ただギターを弾いてユウヒがサウンドメイクをしていくっていう。

小宮山:それは今も変わらないじゃないですか(笑)。



Photo: Masanori Naruse

――(笑)。「スマイル」を森七菜さんがカバーしたことで、何かご本人たちの状況に変化などありました?

小宮山:小学生とかが「スマイル」を歌っている状況になったのは驚きですよね(笑)。若い人からの再評価どころか、子どもたちに人気っていう状況になるとは思ってもみませんでした。

ワタナベ:「スマイル」を聴いてくれた今の小学生たちに、数年後どんな影響を与えているかは楽しみです(笑)。

小宮山:子どもたちを通して、彼らの親世代がまたホフを聴いてくれたりしているのも嬉しいですよね。子供の運動会へ行って、保護者に気づかれるみたいなことがまた起きるとは思ってもみなかったし(笑)。


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初のビルボードライブ公演に向けて

――ちなみにバンドメンバーは今回、どんな顔ぶれですか?

ワタナベ:1stと2nd、どちらのステージもドラムが元ブルー・トニックの田中元尚、ベースはSyrup16gのキタダマキ、ギターがユウヒの友人・堀内順也。『多摩川レコード』からのメンバーです。もう27年一緒にやっている仲間ですね。

小宮山:もう一人、ヒロヒロヤくんというマルチプレイヤーにも参加してもらいます。今回のような再現ライブではたくさん楽器が登場するため、ヒロヒロヤくんの助けが必要なんですよ。


――ビルボードライブはどんな内容になりそうですか?

小宮山:実は『多摩川レコード』の再現ライブは今回が2回目。前回は会場が渋谷CLUB QUATTROだったのですが、その時はMCも入れず曲順もそのまま再現しました。あれから6年、リリースからは27年だから四半世紀以上経つわけですよね。そうすると、当時リアルタイムで聴いてくれていた人たちは27年分の歳を重ねているわけじゃないですか。その人たちがビルボードライブみたいなラグジュアリーな空間で、アンチョビポテトかなんか食べながら、同じく27年分歳を重ねた僕ら2人の演奏する『多摩川レコード』を聴くという。そのシチュエーション自体が最高に面白いと思うんですよね(笑)。まさかそんなライブが実現するなんて、27年前は思いもしなかったわけですから。なので今回は、当時の衣装を着て当時のまんま再現するというより、「27年経った『多摩川レコード』」を聴いてもらった方が楽しいんじゃないかと思っています。



Photo: Masanori Naruse

――2ndステージの「生ピディラン」は、どんな感じになりそうですか?

ワタナベ:俺、2ndステージのためにエレキギターを買ってきたよ。ちょっとやりたい曲があってさ。

小宮山:お、おう(笑)。

ワタナベ:「歳とることさえ」(2020年)をライブで演奏するとき、ずっとEpiphone Casinoの音色をイメージしながらアコギで近づけてるんだけど、それを今回はちゃんとCasinoで演奏したいですね。

小宮山:わかりました。リクエストとしては受け入れます。


――(笑)。昨年リリースされた、通算10枚目のアルバム『Island CD』についても聴かせてください。アルバムには小宮山さんが作詞作曲を手がけた「生まれ変わり続ける僕たち」と、ワタナベさんが手掛けた「キミが生まれたから feat かもめ児童楽団」という曲が入っています。「キミが生まれたから feat かもめ児童楽団」でワタナベさんは、〈キミが生まれたから 僕は生まれ変わる〉と歌っており、どちらの楽曲も「生まれ変わり」がテーマになっていたのが印象的でした。こういう、2人のいわゆる死生観が反映された楽曲が入っているのは、どんな理由からでしょうか。

小宮山:そういう、死生観みたいなものはもともと関心があったんですけど、やっぱりコロナ禍になったり戦争が始まったりしたことで、よりそういうことを考えるようになりました。環境問題もそう。今、地球は結構ヤバイところまで来ていると思いますし。まあ、前からヤバかったことがようやく表に出てきたとも言えるかもしれない。

ワタナベ:いやもう、人類ダメでしょ(笑)。僕自身はずっと「地球なんて、僕が生きている間だけあればその先のことはどうでもいいや」と考えているような、どうしようもないバカだったんですけど(笑)、さすがに子供が出来ると「この子が生きている間だけは、なんとか地球に持ちこたえてもらいたい」くらいは思えるようになってきました。僕が歌っている「生まれ変わり」は、ユウヒのそれよりもっと程度が低いんですよ。単に2人目が生まれたことで、「もっとちゃんとしよう、自分自身がもうちょっとマトモに生まれ変わらなきゃ」くらいのレベルなんです。



Photo: Masanori Naruse

――でも「ガンバレ小中学生」を聴くと、ご自分の子どものことだけじゃなくて、その周りの子どもたちへの優しい視線を感じます。

ワタナベ:そうですね。上の子が今年で小学校5年生。「ガンバレ小中学生」を書いたときは小4で、塾の送り迎えを僕がやっているんです。そうすると、自分の子供以外の頑張っている小学生にも目が行くのですが、みんなとても大変そうなんですよ。夜の8時とか9時とかに塾から一斉に出てくるのを見ながら、「みんな大変だなあ」としみじみ思ったことがテーマになっています。僕は、これまで他人の子供に愛情を持てるような器もなかったんですけど、最近はそこも生まれ変わってきましたね(笑)。

小宮山:ワタナベくんにとっては、とんでもなく大きい変化ですよ。

ワタナベ:変化でいうと、「デジャデジャブーブー」ができる数年くらい前までは、ある意味プロとしての責任というか。「ホフディランのワタナベイビーは、私小説的な歌詞を書かなければならない」みたいなことに縛られ過ぎていた気がしていて。

「デジャデジャブーブー」以降、他にも「スレンダーGF」とかもそうですけど、自分でも全く理解できないような訳のわからない曲がいくつも出来て(笑)。自分自身なんかどうでもいいというか、むしろ「自分」というものを消し去ったような曲が書けるようになったのは、ここへきて一周しつつあるのかもしれないですね。「2020年代のホフディランができた」という感触もあるので、ぜひそれを見にライブへ足を運んでもらいたいです。



Photo: Masanori Naruse

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