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<インタビュー>仲宗根泉(HY)が後世に語り継ぎたい楽曲とは――初のカバーアルバム『灯 -10 Cover Songs-』

インタビューバナー

Interview & Text:森朋之

Photo:筒浦奨太

 HYのボーカル/キーボード、仲宗根泉が初のカバーアルバム『灯 -10 Cover Songs-』をリリースした。

 彼女自身が愛してやまない楽曲を取り上げた本作には、「Lifetime Respect feat.DOZAN11」をはじめ、HYと同じく沖縄出身のバンドであるMONGOL800の「あなたに」、かりゆし58の「恋人よ」、さらに「I LOVE YOU」(尾崎豊)、「バンザイ ~好きでよかった~」(ウルフルズ)、「TRUE LOVE」(藤井フミヤ)、「もう恋なんてしない」(槇原敬之)、「TRAIN-TRAIN」(ザ・ブルーハーツ)、「ラブ・ストーリーは突然に」(小田和正)、「木蘭の涙」(STARDUST REVUE)を収録。また初回限定盤にはボーナストラック「アイシテル」(清水翔太)が収められている。

 バンド結成24年目にして初のカバーアルバムをリリースした理由、収録された楽曲への思いやレコーディング時のエピソードなどについて仲宗根自身に語ってもらった。

「私が歌う意味をしっかり出さないといけない」

――カバーソロアルバム『灯 -10 Cover Songs-』がリリースされました。ライブやSNSではカバーを披露していましたが、作品にするのは初めて。カバーアルバムの制作に至ったのは、どうしてですか?

仲宗根泉:最近の歌って、消費されるのが早いじゃないですか。自分たちが10代の頃に聴いてたヒット曲は、日本中の人が知っていて、「ファンじゃなくても歌える」くらいのレベルで。一つの曲がたくさんの人に愛されていたなって思うんですよね。今もいろんな曲が流行ってるけど、流れが早いような気がして。早口で歌う曲が多いし、「なにを歌ってるの?」みたいな……まあ、私たちが若かったときも、母親に「あんたの聴いてる曲、わからんよ」と言われてましたけど(笑)。


――なるほど(笑)。

仲宗根:そこは同じなのかなって(笑)。そんなことをいろいろ考えているなかで、私たちが聴いてきた音楽の深さだったり、「残していきたい」と思う曲を今の子たちにも伝えたいなと思って。誰に頼まれたわけではないんだけど、自分が歌い続けたい曲、残したい曲を選ばせてもらったという感じですね。私、小学生の子供がいるんですけど、このアルバムを聴かせたら「知らない曲がたくさんある」って言われて。ぜひ若い人に聴いてほしいですね。


――「あなたに」(MONGOL800)、「木蘭の涙」(STARDUST REVUE)には三線が取り入れられていたり、「もう恋なんてしない」(槇原敬之)はゴスペルの要素があって。仲宗根さんらしいカバーアルバムだなと。

仲宗根:オリジナルを大事にするのはもちろんなんだけど、そのまま歌うとカラオケみたいになりそうだなと思って。「私が歌う意味をしっかり出さないといけない」と思ったし、それぞれの楽曲とアーティストのみなさんを尊敬しているからこそ、自分の色を入れたかったんですよね。沖縄っぽさを感じてもらったり、原曲とは違った雰囲気や物語を出した曲もあって。アレンジはかなり悩みましたね。



――全体を通して音数が少なくて、生楽器の響きを活かしていて。歌詞がしっかり伝わってくるのも印象的でした。

仲宗根:歌詞がいいなと思う曲を選んだからね。もちろんメロディも素晴らしいけど、どの曲も歌詞が本当に良くて。レコーディングのときも、歌詞の持つ力が伝わるような歌い方をしようと思ってました。


――1曲目の「Lifetime Respect feat.DOZAN11」は、<一生一緒にいてくれや>で知られるヒット曲。DOZAN11さん本人が参加しているスペシャルなカバーですね。

仲宗根:たぶんHYのファンの人は、私がレゲエを歌うのは意外だと思うんですよ。あえてバラードっぽいアレンジにすることで、DOZAN11(三木道三)さんのブルージーな部分を引き出せるんじゃないかなって。私のゴスペル的な歌い方とご本人の声が混ざるのもいいだろうなと思ってお願いしたら、快く引き受けてくださいました。レコーディングは沖縄と大阪でやったんですけど、二人の声が一緒になったときに「めちゃくちゃハマった」と思って。すごくいいカバーになったし、DOZAN11(三木道三)さんの声のパワーもすごく感じられて。自分だけでは絶対にできなかったなと思いますね。



「Lifetime Respect feat.DOZAN11」ミュージック・ビデオ


――「I LOVE YOU」(尾崎豊)の情感がたっぷり込められたボーカルも印象的でした。

仲宗根:尾崎豊さんは私の父親の兄弟が好きで、中学生くらいからよく聴いてたんですよ。「I LOVE YOU」も子どもながらに「いい曲だな」と思ってたんですけど、今回レコーディングで歌おうとした瞬間に、それまで思い描いていた物語とは違う男女の姿が浮かんできて。その二人のストーリーが身体の中に入ってきて、歌ってる途中で涙が止まらなくなったんです。メロディがちょっとハミ出している部分もあるんですけど、「これは直さないほうがいいな」と思って、そのまま使ってるんですよ。


――泣きながら歌ってるんですね……。

仲宗根:そのほうが切なさやハラハラする感じが伝わるかなと思って。そういうレコーディングは初めてでしたね。前までは「泣きながら歌うなんて、あり得ない。歌った後に泣けばいいじゃん」と思ってたんだけど、「I LOVE YOU」を録ったときは、「そういうことじゃないな」と。今回のレコーディング、そういうことが何度かあったんですよ。「TRUE LOVE」(藤井フミヤ)もそう。若くして亡くなった友人がいるんですけど、レコーディングのときに、その人のことがフッと浮かんできたんです。特に<僕らは いつも はるか はるか 遠い未来を/夢見てたはずさ>という歌詞が……。その人、突然亡くなったんですよ。お互いに東京に出てきて、「こんなふうに成功したいんだ」みたいな話をして。「TRUE LOVE」はラブソングだと思いますけど、今回のカバーは、その友人に捧げるつもりで歌いました。声を張るんじゃなくて、ささやくように歌ったのも、友人に向けて歌ったから。あらかじめ考えていたプランではなくて、「この曲はこうやって歌うんだよ」って誰かにディレクションされているような感じもありました。


――「バンザイ ~好きでよかった~」(ウルフルズ)のような男っぽいラブソングはどうでした?

仲宗根:結婚式をイメージして、ストリングスとピアノと一緒に歌いました。この曲にもすごく思い入れがあって。トータス松本さんが歌っている像を崩さないように、でも、私らしく歌いたいなと思ってましたね。人生でいちばんハッピーな日に、大きな声で愛を伝えるというのかな。「こんなに多くの人のなかからあなたを見つけた私って、すごいラッキーだよね」みたいなイメージです。


――かりゆし58の「恋人よ」も、歌詞の良さがしっかりと伝わってきました。「こんなにも人を愛することは/強さでしょうか弱さでしょうか」もそうですが、愛することの本質を描いた歌だなと。

仲宗根:いい曲でしょ? 「恋人よ」の原曲はパンクロックみたいなアレンジなんだけど、その後、アコースティックバージョンが出て。それがすごくいいんですよ。沖縄の音階も入っているし、とにかく言葉が素晴らしい。沖縄のカウントダウンライブとかで(HYで)カバーしたこともあるんですけど、そのたびに「なんて深い歌詞なんだろう」と思ってたんです。今回改めてカバーするにあたっては、あまり沖縄っぽさを出さないようにして。逆に「あなたに」(MONGOL800)は、沖縄らしくやろうと思ってました。そのあたりはかなり細かく調整しながらアレンジしましたね。



――なるほど。かりゆし58、MONGOL800は“仲間”という感じもありますか?

仲宗根:仲良くなったのは、意外と最近なんですよ。HYのメンバーはぜんぜん社交的じゃなくて(笑)、フェスとかでもメンバーだけで固まりがちで。それくらいシャイで、あまりバンドの友達がいなかったんです。かりゆし58、MONGOL800も初めて一緒にライブしたのは5~6年前くらいかな。そんななかで人間性にも触れて、「恋人よ」「あなたに」もさらに好きになって。今回改めてカバーできてよかったですね。


――「もう恋なんてしない」(槇原敬之)は、ゴスペル的なコーラスが素晴らしいですね。

仲宗根:いちばん大変でした(笑)。この曲にゴスペルの要素を入れるのは最初から決めていて。自分が好きなブランアン・マックナイトっぽくしたい気持ちもあって、アレンジャーの方にもお伝えしながら、ピアノのフレーズなども決めていったんです。ただコーラスだけは、レコーディングの場で作っていくしかないんですよ。まずメインの歌を録って、「ハモリ、どうしますか?」ってなるじゃないですか。自分の歌を聴いて、実際に歌いながらコーラスのメロディを決めて、それを何本も重ねて。もちろん違うラインを探すんだけど、別のルートを辿ったら、「さっき別れたはずのあいつ(別のハモリ)と出会ってしまった!」みたいなこともあって(笑)。かなり時間はかかりましたけど、自分のやりたいゴスペルの感じになって、すごくよかったですね。


――三線を取り入れた「木蘭の涙」(STARDUST REVUE)では、独特のこぶし回しを活かしてますね。

仲宗根:「木蘭の涙」は、いちばん最後に二胡みたいな音が入ってるんですけど、あれは私の声なんですよ。歌ってるうちに二胡っぽい声になって、この音を活かしたいなと思って。スケジュール的に奏者の方に来てもらう余裕はなかったので、自分で二胡の音を真似て歌ってみたっていう(笑)。そうやって楽しみながらレコーディングできたのもよかったと思います。それが自分らしい歌にもつながってると思うし、声で表現するのが好きなんですよね。


――なるほど。「TRAIN-TRAIN」はちょっと意外な選曲でした。

仲宗根:そうかも。この曲がリリースされたのは小さい頃なんですけど、中学の頃にザ・ブルーハーツが再ブームになったことがあって。周りの友達もみんな聴いてましたね。大人になると、それぞれいろんな人生があるし、「あいつ、今こんな感じになってるらしいよ」みたいな話を聴くこともあって。中学のときだったら何も考えずに駆け付けて、「大丈夫?」「きついときは支えるよ」って言ってたと思うんだけど、今はいろんな関係性や事情があって、それがなかなかできない。そんなときに思い出すのが「TRAIN-TRAIN」なんですよ。自由を叫んでいるし、「大人になるのは嫌だ」という気持ちも伝わってきて。今回のカバーでは、草原のなかで叫ぶように歌いたかったんですよね。「人生とは何か?」「自分とは?」という思いを優しく、でも芯はちゃんとあって伝えられたらいいなと。


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HY25周年イヤーに向けて


――深い思いが込められているんですね。「ラブ・ストーリーは突然に」については?

仲宗根:この曲はリアルタイムで聴いてました。リリース当時は小学生だったんですけど、ドラマ(「東京ラブストーリー」)は見ちゃダメというか、「9時までには寝なさい」というウチだったんですよ。でも曲が聴きたいから、その時間になったら用事があるフリをしてリビングに行くんですよ(笑)。もちろん子どもだから、恋愛のことも理解できないし、切なさとかもわからないんだけど、「すごくいい」と思ってて。


――感性が反応してたんでしょうね。

仲宗根:大人になってから思ったのは、サビの歌詞のすごさですね。「あの日 あの時 あの場所で 君に会えなかったら」って、普段の会話に出てくるような言葉だと思うんですよ。それがあのメロディに乗ることで、スリリングな感じが生まれてるんですよね。小田さんのすごさが出てる曲だなって思います。


――なるほど。ちなみに小学生のとき、シングルCDは買いました?

仲宗根:買ってもらえなかったです(笑)。その代わり、1位から10位まで全部レンタルしてくれてたんですよ。もちろんネットやパソコンはなかったし、レンタルしてきた曲を聴くのが本当に楽しみで。もちろん「ラブ・ストーリーは突然に」も何度も聴いてたし、ずっと音楽に支えられてきたんだなって思いますね。


――そして初回限定盤には清水翔太さんの「アイシテル」のカバーも収録。清水さんとは以前からつながりがありますよね?

仲宗根:お友達ですね。彼が「HOME」でデビューしたときに、「すごいアーティストが出てきた!」と衝撃を受けたんですよ。R&Bのテイストがすごくあって、しかも歌謡曲の雰囲気も持っていて。「絶対に会ってみたい」と思ったし、実際、一緒に話したり歌う機会もあって、友達になって。関係は近くなっても、ずっと尊敬できるアーティストだし、すごく好きな「アイシテル」をカバーしたいなと。彼もデビューして15年経って、下の世代にもリスペクトされていて。すごいアーティストだなって改めて思ってますね。


――仲宗根さんのルーツや思いがたっぷり注がれたカバーアルバムですよね。この作品を中心にしたソロライブも観たいですが、予定はないんですか?

仲宗根:ないないない(笑)。一人でライブなんて、絶対無理。


――Billboard Liveなんてピッタリだと思いますけどね。

仲宗根:私も「いい感じになるだろうな」と思うけど(笑)、一人でMCして、10曲くらい歌うのは無理ですね。「嘘つけ」って思うかもしれないけど、目立ちたくないんですよ。ヒデ(新里英之)とかはめっちゃプラス思考だから「やりたい」って言うだろうけど、私はそういうタイプじゃないので。10年後くらいに、自信が付いたらやるかもしれないです(笑)。12月にトークショーをやるので、まずはそっちを楽しみにしていてください。



――最後にHYについて。来年は25周年イヤーですね!

仲宗根:そうなんですよ! まず来年3月の【SKY Fes】(HY主催の音楽野外フェス)ですね。大きい会場でワンマンをやれる人たちが出てくれることが決まっていて。


――HYをはじめ、加藤ミリヤさん、川崎鷹也さん、気志團、水曜日のカンパネラ、スガシカオさん、ちゃんみなさん、DISH//さん、槇原敬之さんなど、超豪華なアーティストが出演が決定しています。

仲宗根:ありがたいです。【SKY Fes】は“世界一クリーンなフェス”を謳っていて、来てくれた人が「こんなに温かいフェス、見たことない」って言ってくれるんです。場内の飾りつけはHYメンバーがやってるんですよ。廃材や流木を使って、デザインして、装飾して。お客さんが泊まるテントも自分たちで張ってるし、開催中もゴミ拾いのボランティアをやってるんですよ。あと、「子どもたちに夢を持ってほしい」という気持ちもあって。「学生ドキュメンタリー映画制作プロジェクト」「こども新聞」「こどもカフェ」というプロジェクトに参加してもらってるんですよ。アクセシビリティ(聴覚・視覚に障害がある方へのライブ鑑賞サービス)にも力を入れていて。まだまだ小さいフェスなんですけど、これからどんどん大きくしていきたいと思ってます。


――素晴らしい取り組みですね。人気アーティストがたくさん出演するフェスは数多くありますけど、HYがやる意味がしっかりあって。

仲宗根:そこが大事だと思ってるんですよね。HYはもともと“自分たちがやる意味”を強く持っているバンドだと思っていて。今回のカバーアルバムも「私が一人でカバーをやる意味って何だろう?」とすごく考えて、アレンジや歌い方をいろいろ試して。そういうこともHYの活動から自然と学んだことかもしれないですね。


仲宗根泉「灯 -10 Cover Songs-」

灯 -10 Cover Songs-

2023/11/22 RELEASE
UPCH-2262 ¥ 3,080(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.Lifetime Respect feat.DOZAN11
  2. 02.I LOVE YOU
  3. 03.バンザイ ~好きでよかった~
  4. 04.恋人よ
  5. 05.TRUE LOVE
  6. 06.もう恋なんてしない
  7. 07.あなたに
  8. 08.TRAIN-TRAIN
  9. 09.ラブ・ストーリーは突然に
  10. 10.木蘭の涙

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