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<インタビュー>THE ORAL CIGARETTESが目指す“カッコいい”バンドの在り方



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 THE ORAL CIGARETTESが新曲「YELLOW」を10月25日にリリースした。
 
 「YELLOW」は、10月24日より放送がスタートしたTVドラマ『マイホームヒーロー』の主題歌として書き下ろされた楽曲。標識や信号では「危険」という意味を持つ一方、太陽やひまわりの色としても使われている“黄色”を、“いきすぎた愛”の象徴として用いたエモーショナルな一曲だ。
 
 現在オーラルは、全国ツアー【WANDER ABOUT 放浪 TOUR】の真っ最中。ドラマタイアップと小中規模のライブハウスをまわるツアー――対照的な活動を同時進行する彼らが目指す“カッコいい”バンドの在り方とは? メンバー4人に話を訊いた。(Interview:蜂須賀ちなみ / Photo:大城為喜)

久々のライブハウスツアーで得たもの

――まず、近況を聞かせてください。今年に入ってから、新たなライブシリーズ【WANDER ABOUT 放浪 TOUR】が立ち上がりました。9月には北海道編を、10月には九州・沖縄編を開催。一つの地域を細かくまわるツアーのようですね。

山中拓也(Vo./Gt.):俺らの地元の奈良と三重は、ツアーで飛ばされがちな県やったんですよ。だから「うちの県にはなかなか来てくれないな」という地方の人の気持ちがすごくわかる。アリーナツアーをやるまでは、自分たちとしては「最短ルートで頑張っていこう」という感じだったので、全国を細かくまわる時間がどうしてもとれなかったんですけど、こういうツアーをやりたいという気持ちはずっとあって。アリーナツアーもやれたし、【PARASITE DEJAVU】もさいたまスーパーアリーナでできたし、一旦初心に帰ってライブハウスツアーをしたいとメンバーやチームのみんなに相談したら、「やろう」と言ってくれて、実現しました。

――なるほど。

山中:俺らファンクラブがあるので、県ごとの(会員の)人数が見えるんですよ。「この県、少ないな」「そりゃライブしに行けてないもんな」「行かなアカン」という気持ちが、ここ数年ずっとあって。こないだ北海道編が終わったんですけど、ライブハウスの人も「道内を細かくまわってくれるバンドは少ないから、オーラルさんがまわってくれて嬉しい」と喜んでくれました。


Photo:大城為喜

――バンドの場合、最初は小さなライブハウスから始まるけど、人気が出るにつれて需要が増えて、大きな会場でのワンマンライブが多くなってくると思います。オーラルもまさにそうだったかと思いますが。

山中:小バコでライブをやるのはもちろん、マイクロバスを1台借りて、チームと一緒に移動するのも、かなり久しぶりでした。インディーズ時代の感覚にすごく近かったです。ライブが終わって、みんなで飲みに行って、そしたら翌朝の5時くらいになっているから、「ああ、明日もライブや。もう移動せな」って。

あきらかにあきら(Ba./Cho.):スタッフの人数を減らして、搬入や搬出も自分たちでやったんですけど、それも本当に久々で。これは演奏者にしかわからないことかもしれないんですけど、自分で替えた弦で演奏するだけで愛着が湧いたりするんですよ。そういうふうに、自分にとっては、忘れかけていたものを取り戻して、「大事なものやったんや」と再確認できたツアーだったなと。一方で、僕らが会場に着く頃にはセッティングが全部済んでいるという、いつもの環境に改めて感謝しましたね。

中西雅哉(Dr.):アリーナやフェスの場合、ライブ直前に初めてステージに行くということもあるんですよ。それができるのは、プロの方々が完璧な準備をしてくれているからなんですよね。

――そうですね。

鈴木重伸(Gt.):機材周りは、今回のツアー用に、今まで使っていたものとはまた別のものを用意しました。持ち運びやすいものがいいだろうということで。今まで使っていた機材は長年使っているもので、もう結構完成されているので、「この音、もっとこうした方がいいですよね」とコミュニケーションをとりながら、一から音を作っていく感じが懐かしくて。


Photo:大城為喜

――あらかじめ作っておいたものを持ち込むというよりは、あるもので勝負するような?

鈴木:そうですね。いつもはイヤモニをしているからどの会場でもモニター環境に大差はないんですけど、今回のツアーではライブハウスに置いてあるモニターを使っているので、それを踏まえて、会話しながら調整して。

あきら:なんかキャンプみたいやったよな(笑)。この不便を楽しもう、みたいな。

山中:(笑)。ライブハウスごとに音ってマジで違うんですよ。ステージの後ろが楽屋なのか、壁が詰まっているのかという違いによって、音も全く違うものになる。

鈴木:低音の鳴りがスッキリしている日もあれば、ものすごく音がまわる会場もある。ライブ中にも「今日はこの音をこう変えたから、お客さんにも聴いてほしいな」というふうにアプローチしたりして。そういう自分の気持ちはこのツアーだからこそ生まれたものなんやろうなと、実感しながらツアーをまわっていましたね。

中西:改めて自分の楽器と向き合うというか、これまで自然と学んできたことを試せるようなツアーやったと思うんですよ。そこで「まだ力不足やな」と感じることもあれば、昔だったら悩んでいたであろう部分に対して、ちゃんと答えを持っている自分の成長に気づくこともあった。元々は、ライブハウスが大好きな拓也の「みんなと近い距離で遊びたい!」という気持ちから始まったツアーやったけど、得るものはすごく多かったですね。それに、アリーナもやれて、こういうツアーもまわれるアーティストってなかなかおらんと思ったんですよ。これは自分たちの強味だと思うし、アリーナも小さなライブハウスも両方できるという振れ幅が、自分たちのパフォーマンスに対する自信になっていますね。

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温かさと危険性が混在した「YELLOW」

――では、新曲「YELLOW」について聞かせてください。TVドラマ『マイホームヒーロー』の主題歌ですね。

山中:監督から「『BLACK MEMORY』めっちゃ好きです」と言っていただいて。そういう縁もありつつ選んでいただいたのが嬉しくて、すごくモチベーションの高い状態で制作を始めた記憶があります。

▲THE ORAL CIGARETTES「YELLOW」

――山中さんは「かねてから大好きだった作品の主題歌を担当させていただけて、大変光栄に思います」とコメントしていますが。

あきら:『マイホームヒーロー』は、アニメをみんなで観てたよな?

山中:うん。知り合いから原作の漫画を勧められたんですけど、その時ちょうどアニメが始まるタイミングやったから、アニメを観てみたら、ハマって。「ドラマ化するんです」と聞いた時は、「え? ドラマ化するんだ。すごっ!」と思いましたね。

鈴木:サスペンスではあるんですけど、漫画やアニメでは結構ショッキングな場面も多いので。実写ではどう描くのか……。

山中:地上波でできる内容なのか?っていう(笑)。


Photo:大城為喜

――一方、「YELLOW」はメロディの美しさが際立つバラード。サスペンス作品から、オーラルがこの曲調を抽出したのが意外でした。

山中:最初にお話いただいた時は「俺らの得意な感じでやればハマるんじゃないか」と思いつつ、激しい曲も作ったんですよ。だけど最初にデモを3つ提出して「この中だと、どれがイメージに近いですか?」と聞いた時に、「この方向性かな」と言ってもらったデモは、もっと落ち着いた曲調のものでした。シゲ(鈴木)が言ったように、ショッキングな描写が多い作品ではあるから、どうしてもそっちに意識がいっちゃいがちだけど、監督いわく「この作品ではとにかく愛を伝えたいんだ」「愛を題材に曲を書いてもらえたら嬉しい」と。それを受けてもう一度映像資料を見直して、「あ、なるほどね。こっちにフォーカスしたらいいのか」と解釈し直して。曲のテーマはどうしようかと思った時に、タイトルにもなっている「YELLOW」というワードが頭の中に浮かびました。

――山中さんの書く曲は、色を表す言葉が歌詞に出てくることが多いですよね。

山中:そうかもしれない。

あきら:拓也は、俺らに説明する時も色の話から入るんですよ。「この曲は何色」というイメージが、だいたいどの曲にもある。多分、ライブで演奏した時の照明のことも考えているのかなと、僕は感じていたんですけど。

――なるほど。で、今回は「愛」というテーマを受けて、黄色をイメージしたと。

山中:そうですね。愛はそもそも美しいものだという漠然としたイメージがありますけど、一方で、気持ちがエスカレートすれば歪んでしまって、「美しい」とは違う形で放出されてしまうこともある。『マイホームヒーロー』のストーリーではそういうことが描かれているので、「温かさと危険性が混在しているようなものって何やろう?」と考えていった時に、自分の中で黄色がしっくりきたんですよね。黄色は、信号や道路の標識では危険を表す色として扱われているけど、太陽やひまわりの色でもあるので。


Photo:大城為喜

――ホーリーな雰囲気であると同時に、バンドのフィジカルがしっかりと感じられるのがいいなと思いました。制作はスムーズに進みましたか?

山中:いや、スムーズではなかったですね。テーマを決めてからデモを作っていったんですけど、自分の中でちょっと限界を迎えたというか、「ヤバい、俺一人だったらこれ以降進まんかも」と思ったタイミングがあって。結構悩んでいたんですよね。自分の中では「エモーショナル」がすごく大事なワードやったんですけど、「構成次第ではもっとエモくなるはず」「でも出てこうへん」という感じで。それで、AメロもBメロもできる前の、曲の全体の雰囲気とサビのメロディだけのデモを、とりあえずメンバーに送りました。

あきら:僕らはそのデモを聴いて、サビのメロディがめちゃくちゃ綺麗やから、「これは絶対いい曲になる」と思って。

中西:拓也らしい、メロディアスなサビだよね。

鈴木:サビメロの美しさはホンマに印象的。

あきら:拓也が作ってくれたデモを聴いて気分が乗る瞬間が、僕的には一番嬉しい瞬間なので、「ぜひこれで行きましょう」みたいな感じで、すごく前のめりな気持ちになりました。

山中:さっきも言ったように、自分は結構悩んでいたんですけど、こうやってみんなが「このサビ、超美しいから」と言ってくれたことにすごく背中を押されました。でも自分の中では「もう一歩」という感じがする。メンバーと制作部屋に集まって、「この展開、こうじゃない気がするねんけど、どう思う?」みたいな話し合いを、パソコンの前でやったりしたんですけど、それでも答えが出ず……。結局深夜の3時になっちゃって、シゲと「もう眠いから、帰ろ?」って言いながら制作部屋を出る……みたいなことが連日続いて。

中西:いろいろやりましたね。 監督から「第1話のここから流れます」という話も事前にいただいていたので、動画編集ソフトを使って、実際に音を当ててみたり。

鈴木:ギターのアレンジを考えていた時に思ったのが、自分の場合、エモーショナルというよりも、シリアスになりがちやなということで。拓也が言うんですよ。「ほら、夜中で、街灯しかついていない道を走っているような……ああいうエモーショナルってあるやん?」って。それに対して、「あー、あるね!」と返しつつ、「こういうイメージかな」とアレンジを作るんですけど、拓也からは「いや、ちょっと怖いな」って言われるという(笑)。

山中:シゲとはずっとそういうやりとりをしてました。「これでどう?」「いや、まだ怖いわ」って(笑)。


Photo:大城為喜

鈴木:そうやっていろいろとやっていたんですけど、途中で「これは多分、パソコン上でやっていてもダメだ」「一回スタジオに入ろう」と拓也が言い出した瞬間があったんですよ。そしたら、ものすごくスムーズに進んで。「あ! 今のそのフレーズ、覚えておいて!」という感じで瞬発力でやりとりしながら、すごいスピード感で決まっていくという。

中西:この曲を作ったのは、ツアーの北海道編の前のタイミングだったから、ライブハウスツアー直前ということで頭がバンドモードになっていて、生のサウンドを欲していたのか……スタジオに入った途端スムーズに進んだ要因は、自分たちでもはっきりとは分からないんですけど。

山中:やっぱり爆音でアンプから流れてくる音を聴くと、全然違う感覚になるんですよね。生で鳴らしているからこそ、4人で共有できるものもあるし。そこからは早かった。ホンマにスタジオで一気に固まった感じやったし、俺は4人で鳴らすTHE ORAL CIGARETTESの音を聴いた時に、自分の中でこの曲が生まれたような感覚がありました。弾き語りから始まるんですけど、そのあとのビートをどう持っていこうか、ずっと悩んでいたんですよ。だけど、あきらから「とりあえずやってみよう」と言われて、イントロを鳴らしてみたら、次どう行けばいいかが感覚的にわかった。「ビートはこっちの方がいいかも」「まさやん(中西)、叩いてみて」みたいなこともすぐにできたし、「2番のイントロこんなに要らん」「確かに」という“削ぎ落とす”判断も、4人でスタジオに入ったからこそできた感じがある。多分そういうアイデアはDTMでやっていても浮かばなかったもので。俺の中では、4人の音を聴いて生まれた感がめっちゃ強いですね。

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「あえてやってんねんで」という感じがカッコいい

――久々のバラード、ライブで聴ける日を楽しみにしています。今後の活動についても伺いたいのですが、まず、来年2~3月に【東名阪 Zepp Tour 2024 "MARBLES”】を開催。東京、大阪、名古屋、それぞれ2デイズ公演ですね。

山中:1日目はファンクラブ限定公演です。俺らファンクラブの人たちにすごく支えられているので、ファンクラブイベントをしようという話になって。ライブはもちろん、トークもちょっとできたらいいなと思ってます。ファンミーティングみたいな感じですね。

あきら:2日目は対バンライブです。“ありそうでなかった”という感じの対バンで。

山中:学生時代によく聴いていたとか、いろいろなストーリーがあって呼んでいるので、そういうストーリー含めて楽しんでもらえたら嬉しいです。

――もっと長期的な、バンドの在り方の話も聞かせてください。前回のインタビュー(https://www.billboard-japan.com/special/detail/3623)では「仲間とともに、やりたいことを続けていきたい」「売れる/売れないよりも、自分たちにとって幸せな環境を作る方が大事なんじゃないかというところに着地した」という話をしてくださりましたし、実際に2023年のオーラルは、「外に出ていく」というよりかは「内を充実させる」ための活動が多かったと思います。一方、今回の新曲はドラマ主題歌ということで、リスナー層がますます広がりそうなタイミングでもある。みなさんの中には、「“村”を充実させたい」という気持ちも、「自分たちの音楽をマスにもしっかり届けたい」という気持ちもあるということでしょうか?

山中:確かに、両方とも思います。それはなぜかというと、THE ORAL CIGARETTESはバンドであって、4人分の意見があるからで。俺は今、「好きなことを」「仲間のために」という感覚がどんどん強くなってきているんですよ。現状に満足しているわけではないんですけど、「仲間と、自分たちの“村”を作っていきたい」という気持ちが強い。だけど、あきらは「これからもちゃんとアリーナアーティストでい続けたい」と会議でよく言ってます。

あきら:たとえば【WANDER ABOUT 放浪 TOUR】のようなツアーを企画するにしても、「人気がないから小さい会場でしかできません」と「アリーナでもできるけど、あえてこういうツアーをまわっています」では話が違ってくると思うんですよ。その「あえてやってんねんで」という感じがカッコいい。

山中:アリーナの景色を見たことがないのに、アリーナアーティストをバカにするのはダサいと思うんですよ。そういう話はメンバーと昔からしていて、だからこそ、アリーナツアーを最短ルートで実現できるように、頑張っていたんですけど。

――大きな会場でも小さな会場でもできる環境と実力を持っておいて、自分たちの気分やバンドのモードに応じて、選択できる状況にしておきたいということですか?

山中:そうですね。

あきら:それに、バンドの知名度とか「アリーナでライブやれてますよ」という実績から生まれる安心感や説得力が、自分たちのやりたいことを踏まえると、やっぱり必要なのかなという感覚も正直あって。

山中:後輩をツアーに誘ったり、地元に恩返しをしたいと思って動いた時に、「え、オーラル? あのバンド、もうあんまりよくないやん」と思われちゃうと、自分らのやったことが上手く機能しない可能性もあるし。だから、アリーナアーティストでい続けることも考えなあかんねんなと思っているし、自分たちの活動にお客さんがついてきてくれて、ゆくゆくはドームでできたら、それはそれでハッピーですよね。「アリーナアーティストでい続けたい」というのはあきらの希望ですけど、同じようにまさやんの希望も、シゲの希望もあって、俺はメンバーの意見に新しい視点をもらっている感覚がある。それはバンドやからこそだと思います。

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