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<インタビュー>かつしかトリオ 大人げないオトナの最新アルバム『M.R.I_ミライ』
正確無比なテクニックを持つレジェンド・ミュージシャンの櫻井哲夫(Ba)、神保 彰(Dr)、向谷 実(Key)によるトリオバンド、かつしかトリオ。フュージョン・バンドの先駆者であるカシオペアの初期メンバーとして名の高い3人が、“大人げないオトナの音楽”をテーマに、テクニックをさらに進化させた究極のアンサンブルでデビューアルバム『M.R.I_ミライ』を完成させた。アルバムを聴いてみると、これが本当にトリオだけの音数なのか? トリッキーかつテクニカルな楽曲は、カシオペアもJIMSAKUも超えて、新たに進化したフュージョンへ昇華していた。そんな彼らの結成エピソードから、エモーショナルかつトリッキーでグルーヴィーな超一流のプロのワザを惜しみなく披露した今作のアルバム制作&間も無くはじまる2023 年のツアー『かつしかトリオ LIVE TOUR 2023 出発進行!』について。さらには、12月に行われるBillboard Live YOKOHAMAでのライブの思惑について語っていただいた。(Interview & Text: 井桁学 / Photo: 関口佳代)
正確無比なフュージョン・バンド「かつしかトリオ」結成秘話!?
――早速ですが、バンド結成のキッカケを教えてください。
神保:京成電鉄の青砥駅の近くにあるコンサートホール、かつしかシンフォニーヒルズで“神保彰ワンマンオーケストラ”のライブを毎年やらしていただいているんです。初めて4年目を迎える2019年のときに向谷さんをゲストとしてお呼びしたら、そのライブがすごく盛り上がって。その翌年には櫻井さんに来ていただいたんですけど、それもとても盛り上がったんです。さらに翌年の2021年には2人をお呼びして“神保彰ワンマンオーケストラ featuringかつしかトリオ”としてライブをやったら、みなさんとても喜んでくださったので、2022年からは”かつしかトリオ”という名前でパーマネントにバンド活動していこう、という形になりました。
――バンド名“かつしかトリオ”の由来は?
神保:ライブをしたコンサートホールが葛飾だったということですね。でも櫻井さんは縁があって…。
櫻井:僕はね、幼いころに少しだけ葛飾に住んでいたことがあるんですよ。かつしかシンフォニーヒルズのアイリスホールは、小学校のときにピアノの発表会で出たことがあるんです。それがかつしかトリオの命名のキッカケではないんですけど(笑)。神保くんに20数年ぶりに誘ってもらったセッションが、たまたまその会場だったのは縁を感じましたし、通っていた幼稚園が柴又にあったので「柴又トワイライト」という曲ができたのは個人的に嬉しかったです。
神保:僕自身は、葛飾で毎回ワンマンオーケストラをやっていて、スタッフの方のホスピタリティやお客様のあったかい感じにすごく特別な思いがあったので、“かつしか”という名前をつけたいなと思っていました。それに、当時まだCASIOPEA 3rdのサポートをしていたので、なるべくカシオペアから一番遠いところのバンド名にしたかったんですよね。それで、二人に「かつしかトリオでどう?」って確認をとったら、「いいよ」って返事をもらったのですんなりと決まりました。
――2021年の初ライブ、2022年からのライブはどうだったのですか?
神保:最初のライブでは、カシオペア時代に我々が書いた曲やカバー曲を演奏していたんですけど、それじゃ発展しないし、結局、同窓会的な集まりで終わっちゃうなと思って、新曲を3曲書いたんです。そしたら、最初にリリースされた「Red Express」がすごく話題になって。再生回数もすごく回ったんですよね。
向谷:世界中の人が見てくれたので、視聴者数も多く、話題になりましたね。
神保:こういう音楽を求めている人がすごくたくさんいることを改めて再確認できたので、オリジナルのフルアルバムを作っていこう、という流れに自然となりました。
公演情報
かつしかトリオ★X'mas Special Acoustic Live
2023年12月14日(木) ビルボードライブ横浜
1st:Open 17:00 Start 18:00
2nd:Open 20:00 Start 21:00
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――曲作りはどうでしたか?
向谷:レコーディング1曲目の「Red Express」のときに、初めて3人で共作というプロセスを形にしたんです。メンバー3人の素材データをやりとりしながらデモを作っていって、アレンジも共同で行いました。3人イーブンな関係で、それぞれリーダーであり、メンバーであるやり方にして、かつしかトリオが作るものはすべて共作にしようと。去年出した「Red Express」が評判良かったので、同時に「Shining Blue」と「柴又トワイライト」の2曲書いて、去年のツアーをやりました。そして、今年は、新しいアルバムでツアーをしようと。
――アルバムでは、キメや音数の多い複雑なセクションも多く、テクニカルな楽曲で、緻密なフレーズが多い印象がありましたが。
櫻井:緻密に作るパートとかハプニングで作っているところとか、ルールはないのでみんなから集まったいろんな要素をそれぞれの曲で調理した感じですよね。「M.R.I_ミライ」と「Red Express」にある、すごいユニゾンのフレーズとか、ここ確実に緻密ですよねっていうパートのところは僕が担当しています。カシオペア時代のスリル、テクニック、スピードっていうイメージがありますけど、それに負けないものを作りたいなって気持ちでかなり緻密に作りました。
――確かに、カシオペア以上にさらに複雑で難しいフレーズが増えた印象はあります。
向谷:それぞれのカラーがありますからね。櫻井さんからは半端ない緻密なフレーズがきますし、神保さんはメインのリフを考えてくれます。そのメインメロディをどう展開したらいいかというのはみんなでアイディア出し合いつつ、僕はハーモニーやコードを変えたり…。そんなやりとりをしているうちにどんどん仕上がっていくんです。ある程度仕上がってきたら神保さんのスタジオで実際に音を出すんですけど、神保さんがドラムを叩いたら、突然の爆裂するようなドラムでね(笑)。こんなイントロ?って(笑)。そういう驚きもありましたよ。
神保:途中で「大人げないオトナの音楽」っていうキャッチコピーみたいのが浮かんできて。その後にレコーディングした曲っていうのは、大人げなさが全面に出てきているんですよね。
向谷:最初の3曲以降の7曲がそうですね。「M.R.I_ミライ」以降はどこかに必ず大人げない部分がありますし、なんでこれがスカなんだろうっていう「Katsushika De Ska」のような曲もあります(笑)。
櫻井:すごく心地よいメロディもあったり、ハーモニーの展開だったり、共作したことによっていろんな要素が混じり合ったので、こういう音楽を求めている人がすごくたくさんいることを改めて再確認できたので面白い音楽ができたなって思いますね。
――アルバムはバラードやラテン、AOR、スムースジャズなどバラエティーに富んでいますよね。
神保:今回、3期に分けてレコーディングをしたんです。前回録った曲じゃないタイプの楽曲を、という感じで順番に作っていきました。
向谷:それぞれ鮮度を保ちながら時間をかけて曲を作れたので、楽曲のクオリティも熟成されて、結果良かったと思います。
――複雑でトリッキーなフレーズが多い楽曲をトリオだけで演奏しているのがすごいです。
向谷:そうなんですよ。トリオだし、シーケンサー使わないし、手弾きだし(笑)。どうしても音数が足りない部分は神保くんのパッドを使ってシンセの音を出しているんです。
神保:ドラムからもキーボード音色が出たりするんですよ。もともとワンマンオーケストラから始まっているので、ドラムセットもワンマンオーケストラ仕様を使っています。
向谷:とはいえ、やはり神保さんの素晴らしさはドラムテクニックですから、今回のアルバムは神保さん大活躍で、これでもかっ!というドラミングが聴けます。もう…拍のアタマがどこだかわかんねぇぞって(笑)。
櫻井:ワンマンオーケストラとの世界観の違いとかもお客さんは楽しめるんじゃないですかね。こんなに今でも叩くんだって(笑)。それがライブでは観られると思いますよ。
向谷:今回本当にずっと叩くよね。びっくりしたもん(笑)。
神保:すみません(笑)。アルバムの曲順を考えているとき、最初にアグレッシブなものを持ってこようとみんなで並べて聴いたら、全員途中で具合が悪くなっちゃって(笑)。この並びは激しすぎるからダメだって(笑)。真ん中にちょっと休むところを作らないとね、と今の曲順になりました。
――神保さんが叩きまくるのが、「かつしかトリオ」ならではドラムスタイルだとしたら、キーボードやベースのスタイルはどうなのでしょうか?
向谷:キーボードは、メロディ楽器としての出番がすごく多いので、音色やライブパフォーマンスに適する最善のキーボードセッティングを考えています。今度のツアーでは楽器が増えそうなので、昔していた3段積みとかにちょっと近づくかなと思います。かつしかトリオでは、ほぼ全曲メインメロディを自分で弾かなければいけないので、音色を面白く変えたいと思いますね。そういうところで、アルバムを聴いていただいた方がライブに来てくれた時に、“え!こういうふうにいくの?”ていう驚きがあればもっといいかなって。ツアーの始まるころには、今年の秋に発表される予定の新しいキーボードをメイン機に使っていると思います。ライブを見に来てくれた人たちに音色的な違和感はないけど、さらに攻撃的に聴かせる、アグレッシブな音にできるようなシステムを構築中ですので、乞うご期待。
――櫻井さんはいかがですか?
櫻井:かつしかトリオでは、神保くんもすごく叩くようになりましたし、ベースはグルーヴを重視して向谷さんのメロディやハーモニーに絡んでいくというバランスにしています。今回のアルバムでは「Red Express」だけが6弦ベースで、あとは全部5弦ベースを使っているんです。「M.R.I_ミライ」はすごく緻密につくったので、6弦ベースのハイポジションを使って「Red Express」みたいにしようかなって思ったんですけど、逆にパンチのある5弦の音でその緻密なフレーズを作ってみました。
――プレイスタイル的には神保さんとの2人のユニットJIMSAKUに近いのでしょうか?
櫻井:ドラミングとベースラインがかなりアグレッシブになっていますので、JIMSAKUに近いですね。カシオペアのときは4人でバランスをとっていたので、あんなにやっていませんし。JIMSAKUではメロディをかなり弾いていたんですけど、かつしかトリオでは向谷さんの華やかなシンセサイザーサウンドとキャラクターが加わるので、JIMSAKUのパワフルなリズム隊と相まって新しいバランスになったトリオだなって思いますね。
――なぜ、ここまで音数やキメが多く複雑でトリッキーなフレーズ満載の楽曲へと進化したのですか?
向谷:レコーディングをやっているときに「大人げないオトナの音楽」を掲げてから、自分たち3人で自分に火をつけだしちゃって(笑)。“ならとことん行こうか!”って進化しちゃいました。カシオペア時代は、スリル、スピード、テクニックという1つのキャッチコピーがあって、いろんなことに挑戦していたことは確かなんですけど、リーダーの野呂さんという素晴らしいギタリストがいらっしゃったので、メンバーの個性と求めている音楽をそれぞれが解釈しながら演ってきた部分もあったと思うんです。今回のアルバムでは、櫻井さんが難しいところいっぱい作ってきてくれたんで「大人げないオトナの音楽」になりましたけど(笑)。かつしかトリオは共同代表なので、将来に向けていろんな可能性を秘めていると思います。
――アルバムの聞き所を教えてください。
神保:20代から一緒にやってきた3人のアンサンブルから、自然に醸し出している絆のようなものを感じていただけたら嬉しいです。
櫻井:今回ものすごく楽しいレコーディングだったんです。その楽しさが音に出ていると思います。みんながリーダーシップをとりながら協調していく、不思議なバランスが今回のアルバムの音楽になっていて。3人でやったメリットがすごく詰まった作品ですね。
向谷:アルバムのタイトルが『M.R.I_ミライ』。僕たちの年齢でミライという言葉にいろんな気持ちを込めているんですけど、僕たちが未来に向かって新しいことをやっていくぞ!って気持ちを音で伝えられているようなアルバムだと思います。演奏するのが難しい曲もあるんですけど、僕たち自身が楽しんでいろいろトライしてやっているんだなっていうのが、聴いている人に伝わることも大切だと思うので。結果的にはワクワク楽しみながらやっているのが伝わるアルバムだなと思います。
――Billboard Live YOKOHAMAで12月14日に行われる “かつしかトリオ★X'mas Special Acoustic Live”があります。どんな感じなりそうですか?
向谷:完全にアコースティックライブにします。シンセも使わず僕はピアノを弾きます。
神保:ドラムは3点セットですね。
櫻井:僕がイメージしているのはアップライトベース。
向谷:それで「Red Express」弾くの?(笑)大丈夫?
神保:いや、逆に面白い(笑)。
櫻井:3点セットのドラムだから、ドラムとベースの相性も結構大事で。エレキベースよりは、アップライトベースやアコースティックベースで弾くほうが面白いかなって思いますね。
向谷:楽器がシンセからピアノになることで全体的なバランスが大きく変わるので、単音でやっていたところに和音をつけたりだとか。曲がもう少しシンプルになるので、それに少しフィルをつけてもらうかもしれません。全貌は10月28日から始まる3度目の全国ツアー“かつしかトリオ LIVE TOUR 2023 出発進行!”が終わって、アコースティックライブのリハーサルをやってみないと分からないですけど。でも、確実に面白い展開をすると思いますので、ぜひお越しいただければと思います。
▲かつしかトリオ・ファーストアルバム「M.R.I_ミライ」発売日決定!のお知らせです
公演情報
かつしかトリオ★X'mas Special Acoustic Live
2023年12月14日(木) ビルボードライブ横浜
1st:Open 17:00 Start 18:00
2nd:Open 20:00 Start 21:00
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