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<インタビュー>詩羽加入から2年、ブレない水曜日のカンパネラの“音を楽しむスタイル”



インタビューバナー

Interview:松本侃士
Photo:Yuma Totsuka

 10月18日に配信リリースされる水曜日のカンパネラの新曲「聖徳太子」。歴史上の人物をメタ的な観点から描くシリーズの最新曲であり、シンプルに洗練されたトラックと相まって、詩羽の歌声の魅力がいつも以上にクリアに伝わってくる仕上がりとなっている。今回は、詩羽とケンモチヒデフミに「聖徳太子」を紐解くインタビューを行ったが、早々に話が派生して、結果として、水カンというユニットの本質に迫るような話をいくつも聞くことができた。詩羽の加入から丸2年が経ち、来年3月には新体制になってから初の日本武道館公演を控える彼らの現在地、および、この先のビジョンが伝わるインタビューになったと思う。

「順番守ればいいのになあ」

――歴史上の人物シリーズは、活動の初期から長く続いていますが、これまで意外と聖徳太子は取り上げられていなかったんですよね。今回このタイミングで聖徳太子を選んだのはなぜだったのでしょう?


ケンモチ:そうですね。いくつか候補がある中で、歌詞が出そうだなって思ったのが聖徳太子だったんですよね。

詩羽:いい感じの後付けの理由、考えといたほうがいいですよ。

ケンモチ:たしかに。

詩羽:(笑)。

ケンモチ:ポセイドンが海鮮丼屋をやろうとしてる曲も考えていたんですけど、職業ネタはもうけっこうもうやってるなと思って。一回ちょっとそういうのは置いとこうと思った時に、聖徳太子の10人の相談を一度に聞き分けたエピソードを思い出して。そのすごさが際立ってるけど、「なんでそもそも一気に10人も喋りだすの?」「順番守ればいいのになあ」という切り口で1曲書けそうと思って、今回、聖徳太子を選んだという感じですかね。

――歌詞の1行目<あなたの声しか聞けないわ>だけ見ると、ラブソングのように聴こえますよね。


ケンモチ:そうですね。その部分だけ聴くとラブソングなのかなと思うけど、その後の〈なんで順番守らないかな〉で「あれ?おかしいな」となって、で、曲のタイトルを見たら「聖徳太子」であるという。そういうちょっとした引っ掛けがあったほうが面白いかなとは思いました。「エジソン」がヒットした時に、やっぱ1行目というか、曲が始まって一番最初に耳に入る言葉がけっこう重要なんだなって今更ながらに気が付いて。今回は曲を作り始めた時に〈あなたの声しか聞けないわ〉がすぐに思い付いて、この1行から始めたいなと思ってましたね。

――詩羽さんは、レコーディングの前に歌詞を読み込むタイプですか?それとも、レコーディングの場のフィーリングを大事にするタイプですか?


詩羽:読み込むかな? 読み込まないですね(笑)。

ケンモチ:読み込むほどの深みはない(笑)。

詩羽:読み込んでも、一発目に受け取る感覚以上のものはないと思うので。レコーディングの時は、歌詞の意味よりも音の感じを踏まえて、ここはちょっと切ない感じに歌おうかなとか、逆に<飛鳥時代飛鳥時代>の部分はもうちょっとおちゃらけた声質にしてみようかなとか、そういうのは考えたりしますかね。

――それは、これまでの2年間の水カンの楽曲のレコーディングでも同じですか?


詩羽:基本的に歌詞は読み込まないです。

ケンモチ:(笑)。

詩羽:ファンの方たちが、「きっとこの歌詞はこういう意味なんだろう」とか、「きっとケンモチさんはこういうことが言いたいんだろう」とか、いろんなふうに解釈を広げてくれて、それによってさらに曲の良さが出てくることがすごい多いなと思ってて。ただ、曲を作る時点では本当に単純なことをしているだけというか、私自身、歌詞を読み込んで、ここをこう思ってもらおうとか、そういう意志は入れてないんですよね。パッと受け取ったものを、本当にそのままパッと口から出してるみたいな感じなんじゃないかな?


歌い方の引き出しが増えて成長した、詩羽の歌声

――サウンド面で言うと、今回は特に音数がグッと絞られてて、それによって、詩羽さんの歌声の抜け感がいつも以上に伝わってくるように感じました。


ケンモチ:最近、久しぶりに『ネオン』を聴き返す機会があって、その時に、詩羽の歌い方が当時と比べてすごい成長してきてたんだなって気付いたんです。同じメロディをたどっていく中で少し歌い方を変えたりとか、メロディの落ち方を少し自分風にアレンジしたりとか、そういうのはうまくなってきてるなと、今回の「聖徳太子」と聴き比べて感じましたね。

――今みたいなお話は、お二人の間でしたりするんですか?


詩羽:いや、全くしないです。

ケンモチ:(笑)。

詩羽:初めて聞きました。でも当時よりは、「この言葉はこんな感じの歌い方をしてみようかな」とか「こんな声が合いそうだな」とか考えるようになって、前よりもずっと自分の歌い方の引き出しが増えているなって感じるので、面白みがどんどんどんどん増していっているんじゃないかなと思いますね。

――そうした成長は、レコーディングの経験数によるものなのか、それともライブの経験数によるものなのか、で言うとどうでしょう?


詩羽:やっぱりライブじゃないですかね。それこそアーティストによっては、良い意味でCD音源と同じ歌声をライブパフォーマンスとして届ける人もいると思うんですけど、水カンの場合は、それこそ特に「エジソン」とかは音源とけっこう歌い方を変えていたりとか、ライブの時は声を遠くに届けなきゃいけないから、声の出し方もわりと変えていて。いろいろやってく中で、歌い方や声のバリエーションがどんどん増えていって、それがレコーディングにも響いているみたいな感じなんだと思います。

――詩羽さんの加入から今年の9月で丸2年が経ちましたが、水カンの主演・歌唱を担う上での自覚や覚悟は、どんどん強くなってきているものなのでしょうか。それとも、詩羽さんとしては常にフラットな感覚なのでしょうか。


詩羽:そうですね。あんまり深く考えてなくて。もちろん責任を持って一つひとつのレコーディングやライブをやりたいと思っていますけど、それこそ2年前の時からわりとフラットで、すごく気負ってるタイプじゃなかったので。水曜日のカンパネラの主演・歌唱担当になるんだ、みたいな感覚で、あっという間に1年が過ぎて、なってるのかもなって感覚で2年が経った、みたいな。なんかそのくらいの緩い気持ちのままかもしれませんね。私の中で水カンは、詩羽としての自分が一人の人間として成長するための一つの場所なのだと思っています。

――今のお話を聞いてすごく面白いと思ったのは、水カンは、異なる個性や強みを持ったメンバーが、それぞれの客観性を持ったまま一つの同じ船に乗って進んでいるグループで、こういうグループって他にあまりいないなと思いました。


詩羽:みんな自分たちの目標がそれぞれあって、それをポンと持ち寄って水カンという船に乗って、みんながお互いのやりたいこととか、お互いが求めていることをやりながら、一緒に次に進んでいく。そうしながら、自分たちの目標をもっともっと高めていく、みたいな感覚で活動しているグループなんじゃないかなって思いますね。

ケンモチ:最初に水カンを始めた時から今の音楽性や活動スタイルを想定していたわけじゃなくて。例えば、こういう音楽性になっていったのは、単に僕が赤裸々に歌詞を書ききれないという、ちょっとした照れ隠しがあって。今回の「聖徳太子」とかも、歌っている人の気持ちでもなく、曲を書いた人の気持ちでもなく、別に聖徳太子本人の気持ちでもなく、という、もう誰の感情も乗っていない曲なんですよね。水カンは、そういう曲を永遠に作り続ける一つのシステムのようなものとして、今に至るまで続いてきたわけです。

――2年前に歌唱・主演が詩羽さんにバトンタッチした後も、そうした水カンの根本は変わっていないですよね。


ケンモチ:そうですね。時代の流れに合わせて、ちょっとずつマイナーチェンジしていたりもするんですけど、根本的なところでは変わっていないですね。一人ひとりが自分ができる最善の方法をそれぞれ持ち寄りながら進み続けている感じですかね。


武道館にも、気軽な気持ちで来てほしい

――2024年の3月には、新体制になってから初の日本武道館公演が控えています。


詩羽:武道館は、コムアイさんの時にも一度やっている場所だから、そこは通りたいし、通るべきだよなっていうのは思っていたので。武道館が新体制の水カンの新しいスタートの日になるんじゃないかなと思っていますかね。

ケンモチ:皆さん、「武道館、2回目やるんだね、おめでとう」みたいにすごくいいふうに見ていただくところもありつつなんですけど、一方で、そこがピークになるのもすごい怖いなと。来年、武道館に行く時には、もう一個次の目標が見えている状態で行きたいなと思っていて。

――既に、来年の武道館公演の次の目標は明確に見えているのでしょうか?


ケンモチ:いや、包み隠さずいうと特にはないです。

詩羽:(笑)。わりと、武道館がポンと決まっていましたね。私的には、「武道館やるかも」って聞いて、「マジですか?」みたいな。

ケンモチ:いや、なんか、取れたらしい、みたいな。「張っていたら取れた」みたいな。

詩羽:やったーみたいな。

ケンモチ:やっぱりでも、他のアーティストの皆さんは、武道館を節目として位置付ける方が多いんですかね。

詩羽:たぶん、私たちってだいぶ早いじゃないですか。新しい体制が始まって2年半のタイミングで武道館やることになるので。良い意味でちょっと軽いというか。

ケンモチ:とてつもないインタビューだ。

詩羽:(笑)。というのも、今2年活動してて思うのは、私としては、「この音楽で世界を救う」とは思ってなくて。「この音楽で、この言葉で、あの人の心を救うんだ」っていうよりは、水曜日のカンパネラって根本的にまず音を楽しむ音楽かなって私は思っているので。なので、武道館にも、仕事終わりに寄ってやるかぐらいの気軽な気持ちで来てもらいたくて。「あそこの歌詞のあそこが熱くて」っていうよりは、「楽しかった」「幸せだった」「明日もじゃあ頑張ろうか」くらいの、良い意味で軽い気持ちで楽しんでほしいんですよね。武道館に限らず、いつもの一つひとつのライブもそうなんですけど、武道館も本当に良い意味で軽いから、皆さんも軽い気持ちで来てよ、くらいの感じで今の段階では考えています。

ケンモチ:全く同じ気持ちです。

詩羽:(笑)。

――例えば、ライブハウスでは、詩羽さんも観客も、お互いに距離の近さを感じられると思うのですが、いつもよりも大きな会場である武道館ではどのようなライブをしようと考えていますか?


詩羽:私の中で、お客さんとの距離が、心の距離的にも物理的にも近いっていうのはすごく大事にしているので。だから武道館でもできるだけのことはしたいよねって話しています。もちろんライブハウスと違って制限もあると思うんですけど、「え、こんなことやるんだ」って思ってもらえるような面白いことをやっていきたいですね。

――先ほど、ケンモチさんから、来年の武道館をピークにはしたくないというお話があったじゃないですか。武道館のその先に見据えているビジョンについて、現時点での考えについて聞かせてください。


詩羽:それこそ今年の秋にリリースパーティーで2度目の台北に行かせてもらうんですけど、来年はもっと海外に行きたいねっていう話はしています。

ケンモチ:けっこう意外だったなって思ったのが、最初の時って、詩羽は、そんなに海外のライブとか前向きじゃなかったんですよ。

詩羽:私、海外むしろ行きたくなかったですもん。

ケンモチ:そうなんですよ。最初はあんまり家から離れたくないみたいな感じだったんですけど、今年の初めに1回目の台北に行って、たぶん行く前はあんまり海外は好きじゃないんだろうなと思ったんですけど。

詩羽:楽しかったですね。

ケンモチ:なんなら一番楽しんでた。

詩羽:海外での活動っていうのは、それこそ、Dir.Fが一番大事にしてて。それぞれが大事にしているものをお互いが大事にしなきゃ一緒に前に進んでいけないなと思っているので、だからDir.Fの気持ちをまず私も尊重したいと思って。それで実際に台北に行ってみたら、すごく楽しくて。音楽を通して言葉の壁を越えて愛が伝わるっていうのをすごい感じられて。今後はもっと海外行きたいなって思って、今年の秋のアジアツアーもすごく楽しみになりましたし、それより遠くは想像がつかないから怖いけど、たぶん一度行ってみたら、じゃあ次はもっと遠くにってきっと思うんだろうなと思います。

――3人が、それぞれ異なる目標や大事にしていることを持ち合う水カンだからこそ、きっとこれからも今はまだ想像もできないような新しい可能性が開かれていくのだと感じます。


ケンモチ:逆にバンドとかね、スタジオ入って、みんなで曲作って、その後打ち上げ行ってわー、みたいなものに対する羨ましさもあるんですけど。

詩羽:ありますね。私たちって、意外とお互い関与してない時間が長くて。私、最近ドラマ出させてもらったりしたんですけど。

ケンモチ:時期によっては、直接会うよりもドラマで観るほうが多かったですもんね。

詩羽:「観たよー」みたいな感じで連絡くれたりとか。でも、一人ひとりが別々だとしても、それぞれの役割を果たしていて、それで結果的に水カンという船が良い方向に行っているんじゃないかな。

ケンモチ:例えば、ミュージックビデオやジャケットなどは、わりともう自由に詩羽やスタッフに任せていて。僕は歌詞と曲は書かせてもらっているんですけど、それ以外のことに関して特に僕から言うことはないんです。ミュージックビデオは、リスナーと同じタイミングで、どういうものが出てくるんだろうと楽しみにしていたりしていて。で、もちろん自分が当初思い描いていたものとは違うものが出てくることもあるんですけど、それはそれで「あ、こういう捉え方があるのか」「あ、ここ、そういう意味じゃなかったんだけど面白いな」と思うことばかりで。水カンって結局、音楽性自体もそうなんですけど、みんなのちょっとした勘違いみたいなものが連鎖していって、もともと考えていたところから大きく外れて、でも結果としてそれが面白くなっているという現象がけっこう起こったりしているんで。

――3人だけでなく、スタッフや、他のクリエイターが加わっていったとしても、水カンの軸がブレないどころか、逆にそれが新しい魅力に繋がっていく。そういう状況を作ることができているのは、とても奇跡的なことのように思えます。


詩羽:「水カンって、(~が)大事だよね」っていうことを理解している人が集まっているからこそ成り立っているのだと思います。

ケンモチ:そうですね。それと、まあ、うまくハンドリングできてないところも含めて、水カンの良さなんだと思いますね。

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