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<インタビュー>亀田誠治、100周年を迎えた野音への想いとヒットチャートから見える世界

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 今年100周年を迎えた日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)。4月15日に行われたオープニングセレモニーを皮切りに、様々なアーティストが公演を開催し、まもなくクロージングを迎える。今回、100周年記念事業の実行委員長を務める亀田誠治氏にインタビュー。半年間を振り返りつつ、クロージングイベントや、その2日前に開催される【Billboard JAPAN Women In Music vol.1】、そしてヒットチャートを通じて見える世界など、幅広く話を聞いた。(Interview:高嶋直子 l Photo:辰巳隆二)

改めて感じた野音の価値

――(2023年)4月からスタートした【日比谷野音100周年記念事業】ですが、まもなく11月5日にクロージングを迎えます。ここまで開催されてきて、いかがでしたか。

亀田誠治:何本か100周年記念コンサートを拝見しましたが、アーティストの皆さんが野音を愛していること、そしてファンの皆さんの“このアーティストが野音で演奏するライブが好き”だと思ってらっしゃることが、ステージからすごく伝わってきて。野音でやるライブの価値を改めて感じました。

 この20年の間に音楽を伝えるメディアが大きく変わりましたよね。そのような中、アーティストにとって普遍的な場所として野音があるんだなって再認識できて。100周年記念事業に関わらせていただいて、本当に良かったと思っています。


――特に、ここ数年はコロナ禍もありました。

亀田:僕は、2023年を“接続点”だと思っていて。コロナ禍によって価値観や人との関わり方が、大きく変わりました。2023年になって、また人と人がオフラインで繋がる機会が増えてきましたが、コロナ禍前とガラリと景色が変わったわけではなく、これまでの関係性と、コロナ禍で新しく生まれたオンラインでのやりとり、その両方が組み合わさっていっているなと。そんなタイミングで、この100周年を迎えられたことにも、非常に意義を感じています。


――11月5日には、【祝・日比谷野音100周年 “CLOSING EVENT”YAON FES. ~次の100年へ。】が開催されます。

亀田:コンセプトは、これまでの100年とこれからの100年です。これからを担う若いアーティストの皆さんにご出演いただき、これまでの100年への感謝を伝えられるようなステージにしたいと思っています。僕と共同プロデューサーである武部聡志さんが、これまで一緒に作品を作ってきたアーティストの皆さんにご出演をお願いしていて、年代を超えてフランクに音楽を語りながら、一緒に作り上げていけるようなステージを目指しています。


――アイナ・ジ・エンド、石崎ひゅーい、川崎鷹也、卓真 (10-FEET) 、Tani Yuuki、FANTASTICS from EXILE TRIBE、miwaに加えて、SARUKANI <蔦谷好位置 presents>や、豊島岡女子学園 高等学校コーラス部<水野良樹(いきものがかり) presents>、YAON FES. SPECIAL BANDが出演します。

亀田:若い世代の皆さんに、アーティストと一緒に音楽を作るという体験をしてもらいたくて、豊島岡女子学園の皆さんの合唱では、アーティストとコラボレーションをしていただきます。これまでNHK全国学校音楽コンクールなどで数多く受賞している強豪校なので、楽しみですね。

 FANTASTICS from EXILE TRIBEは、今年の【日比谷音楽祭】で八木勇征さんと、中島颯太さんのお2人に出ていただいたんですが、今回はパフォーマーも含めた全員で出演してくれることになりました。野音でダンスパフォーマンスを見る機会って、あまり多くないと思っていて。野音が、これからのエンタテインメントを発信する場所になっていけばなと思っています。

 これまでも野音から、新しいアーティストが数多く羽ばたいてきました。なので、これからの野音も新しい音楽が生まれる場所になってほしいですし、今回のステージは「ここから世界へ向けて発信していくんだ」という意思表示の場にしたいと思っています。


――11月3日には、SCANDAL、にしな、のんが出演する【Billboard JAPAN Women In Music vol.1】が行われます。

亀田:SCANDALは、同一メンバーによる最長活動ロックバンド(女性)として、先日ギネスに認定されましたよね。


――プライベートレーベルを設立するなど、ガールズバンドの新しいロールモデルだと思います。亀田さんはこれまで何曲かプロデュースされていますが、一緒にお仕事されていかがでしたか。

亀田:初めてご一緒したのは10年近く前ですが、誰か一人がリーダーシップを取るのではなく、メンバー全員が自分の意見を出し合っていて。自立しているというか、精神的に成熟しているバンドだなと感じました。普段バンドのレコーディングをするときは、事前にデモテープを渡しておいてから、リハーサルをするんですが、当時のSCANDALは非常に忙しくて。そんな中でも、みんなちゃんとデモテープをもとに準備してくれて、スタジオに入ったら、すぐにOKテイクが出来上がったことを覚えています。若さの中にも、プロ意識というか、覚悟みたいなものをすごく感じましたね。

 にしなさんも、天性の歌声はもちろん、一人の女性として心の内面を曝け出す歌詞、そしてSNSを通じて地に足の着いた発信をされていて、すごく未来を感じさせる素敵なアーティストだと思います。あと、のんさんは声の表現力がとにかく素晴らしいですよね。ボーカリストとしてはもちろん、映画「この世界の片隅に」では、声優として映画の世界観を広げましたし、一方ではFenderのエレキギターもかき鳴らすというマルチな表現も、とてもかっこいいなと思って拝見しています。


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音楽メディアが社会問題に取り組む意義、そしてチャートが表す世界とは

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――今回のライブは、ジェンダーフリーな世の中になることを目指したプロジェクトの一環で開催されます。このような社会問題に、ビルボードという音楽メディアが取り組むことについて、どう思われますか。

亀田:僕は子供の頃から、アメリカのビルボードの大ファンで、チャートをずっと見てきました。なので、世界の音楽マーケットの指標とも言えるチャートを発表しているビルボードが、こういった問題に取り組むということには、すごく意味があると思っています。常日頃から発信されていることと、このプロジェクトに向き合う姿勢が同じですし、グローバルな目線で発信されているのも、とても素敵ですね。

 実は、先日コンテンツプラットフォームのリスペクト・トレーニングに参加してきました。作品を作るために、全てのスタッフが安心して働ける環境を目指して行うワークショップなんですが、出演者の方も監督もプロデューサーも、皆で同じ会場で話し合うんです。僕は音楽を制作する立場なので、皆さんと一緒に現場で撮影するわけではありません。なので、もしかして5年前だったら、「僕も参加する必要があるのかな?」って思ってしまっていたかもしれない。でも、ここ数年アメリカのチャートを通じて感じる女性のパワーや世の中の動きによって、なんの違和感もなくトレーニングを受けることができました。そのトレーニングでは、一方的に話を聞くのではなく、参加者全員が意見を出し合いながら進めていきます。なので「色んな考え方がある」ということを知って共有できることも、すごく大事で。人の価値観を一夜にして変えることはできませんが、こういったことの積み重ねが大切ですし、ビルボードさんが提案するジェンダーフリーの概念も11月3日のライブを経て日本でも少しずつ浸透していくんだと思います。

 少し話が逸れるかもしれませんが、アーティストやファンの皆さんによって感じ方は様々だと思いますが、同性のアーティストを支持する理由が男性と女性とでは、少し違う気がしていて。男性はパフォーマンスの素晴らしさや、技術力の高さによって惹きつけられることが多い一方、女性は生き様に共感してファンになることが多いんじゃないかなと。なので、年を重ねても支持されている女性アーティストからは、真の強さのようなものを感じます。


――ただ、日本の女性はアーティストに限らず、若いことが美しいとされている風潮があるような気がして。年を重ねることを怖いと思っている人が多いようにも感じます。

亀田:僕は来年でもう還暦ですし、親子以上に年の離れたアーティストと仕事をすることも多くなってきました。僕より年上の妻とも、年を取ることに対してよく話しあいますが、決してネガティブに捉えてはいません。

 コロナ禍でキャロル・キングが自宅のピアノで弾き語りをしている映像を見たんですが、めちゃくちゃ良くって。公開当時78歳で、もちろん白髪も皺もたくさんありますが、生き生きと音楽を届けている姿に尊い美しさを感じました。時代を作ってきたレジェンド達と一緒に作品を作れるということは、若いアーティストにとって、アーティスト冥利に尽きる体験だと思いますし、音楽を通じて世代を超えて人がリスぺクトし合う、そんな流れをもっと活性化していけると良いですね。


――ヒットチャートを通じて、そういうアーティストの生き様を感じることはありますか。

亀田:チャートは、アーティストが作ってきた時代を映す鏡だと思っています。コロナ禍で世の中が分断された時にチャートインしたヒップホップからは、様々なメッセージを感じましたし、その時代に何が起きたのかをすごく反映しています。それにオリヴィア・ロドリゴやデュア・リパ、アレッシア・カーラといった新しい才能がチャートを席捲すると、ワクワクしますよね。僕にとって、チャートはパラダイスです。

 そんなビルボードによる【Billboard JAPAN Women In Music vol.1】が野音で行われるということにも意味を感じています。伝説的なライブや、学生運動、ジョン・レノンの追悼集会など、様々な歴史的な出来事が開催されてきた野音で、ジェンダーバランスについてのメッセージが発信されることは素晴らしいことだと思いますし、100年後の日本のエンタテインメントが、このステージをきっかけに動いていけばと期待しています。


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