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柴田淳、山下洋輔&THE BIG BAND ライブレポート
2009.11.02(MON) at SHIBUYA-AX|セットリスト
柴田淳、山下洋輔&THE BIG BAND ライブレポート
暗闇の中でもその存在がしっかりと分かる純白のドレス姿で現れた柴田淳。そして彼女の口から愛しい人への『Love Letter』が綴られると、その悲しくも強いメッセージを穏やかな音色たちが優しく支え始める。絶対的な信頼感を得た声はよりエモーショナルな響きへと成長し、会場は誰よりも幸福を求めてやまない1人の女性の世界に埋め尽くされた。
「改めましてこんばんは、柴田淳です」と挨拶しながら、山下洋輔と云う、本人曰く“雲のまた雲の上の存在”とご一緒できる喜びを語り、彼女は「大切な曲」と『ため息』を歌い始める。緊張の闇を突き抜ける「今はまだここから動けない」と云う苦しくて愛おしくてどうしようもない想い。それを柴田淳はもちろん、全ての音=1人1人の演奏者が表現するものだから、大人びたジャズの空間とは言え、ロックのそれにも似たスパークが生まれる。全席指定席。座っての鑑賞が暗黙の了解とされた夜であったが、彼女と彼らの気持ちのぶつかり合い、煽り合いは自然とこちらの心と体も揺らしていく。
今夜のアレンジを全て担当した狭間美帆を紹介し、その彼女がジャジィに仕立てた『蝶』を歌い始める柴田淳。悲しく響くホーンセクションに狭間のピアノ、そして心の深いところからじんわりと広がる声に、僕らは目眩を覚える。こんなにも愛らしき想いが寂しく切なく響き渡るものだろうか。自由を許す歌が何故にこんなにも胸を締め付けるのだろうか。やがて深く大きく膨らんでいく音楽空間の中で、どこまでも強く遠くへと放たれる『おかえりなさい。』。「その両手で私を抱きしめるその時は 心を込めず 緩く抱いて」今にも燃え尽きてしまいそうな想いが肉体も音楽も凌駕していく。山下洋輔と同じステージに立つことへの緊張や高揚が化学反応を生み出したのか、今宵の柴田淳はその内側にある全てをさらけ出す、衝撃的な表現を成立させていた。
しばしの休憩時間を挟み、山下洋輔&THE BIG BANDがステージを覆い尽くし、まことに鮮やかな、こちらの胸をワクワクさせる煌びやかな音楽をお届けする。あまりの迫力に誰もが思わず舌鼓。世界の山下洋輔に「一騎当千の凄い実力を持った若者たち」と言わしめたTHE BIG BANDの面々であるが、もはや評論不要、誰が聴いても今目の前で繰り広げられている音楽が世界最高峰レベルであることが分かる、太陽みたいな光を放つサウンドに我々はただただ圧倒させられる。また、ラストの『Kurdish Dance』にて山下が魅せた、魂を爆発させながら体の全てを使って鮮烈な旋律を響かせるプレイには、度々興奮させてもらった。
そんな音楽超人の頂とも思われる人に「ミス 柴田淳」と呼ばれ、かなり恐縮しながらステージに再登場した彼女は、優しく穏やかなピアノの音色で静かに踊るように『かなわない』を歌い始める。緊張感は凄まじいのだが、2人の間に生まれるグルーヴはそんなものを超越して静かに唸りまくっていた。 「リハーサルのときから興奮していた」と大喜びの柴田淳に、露骨に嬉しそうな山下洋輔(笑)。そしてTHE BIG BAND全員集合。最強の演奏陣をバックに彼女が『メロディ』を歌うと云う奇跡の時間が始まる。まるで魔法みたいに色鮮やかに生まれ変わったメロディと、明らかに温度を増した柴田淳の声。音楽を自由自在に操りながらも、その音楽によって生かされている事をよく知る者たちによる、最高の瞬間。それを体感、目撃、鑑賞させてもらった幸福に私は心から感謝したい。やはり音楽は素晴らしかった。
セットリスト
【SHIBUYA-AX JAZZ NIGHT with TOKYO FM】
2009.11.02(MON) at SHIBUYA-AX
- 1st Set(柴田淳)
- 01.Love Letter
- 02.ため息
- 03.真夜中のチョコレート
- 04.蝶
- 05.おかえりなさい。
- 2nd Set(山下洋輔&THE BIG BAND)
- 01.It Don't Mean a Thing
- 02.First Bridge
- 03.Dr.KANZO
- 04.Kurdish Dance
- Encore(柴田淳、山下洋輔&THE BIG BAND)
- En1.かなわない
- En2.メロディ
Writer:平賀哲雄
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