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<来日記念:コラム>ウェストコーストが生んだAORの貴公子ネッド・ドヒニー、時代を超えて輝きを放ち続ける名曲と音楽家としての軌跡
Text:福田直木(ブルー・ペパーズ)
ウェスト・コーストを代表するシンガー・ソングライター、ネッド・ドヒニーの5年ぶりの来日公演が11月にビルボードライブで行われることになった。日本ではAORファンを中心に不動の人気を誇り、海外でも近年の再評価が著しい彼のキャリアを、来日が迫ったこのタイミングで振り返ってみたい。
ネッド・ドヒニーは1948年、ロサンゼルス生まれ。曽祖父のエドワード・ドヒニーは石油ビジネスで成功し、南カリフォルニアの多くの地名にその名を残す大富豪で、ネッドは財閥家の御曹司として恵まれた環境で育った。ギターを手にしたのは8歳の頃で、学生時代はサーフィン・ミュージックにのめり込み、出入りしていたクラブでは無名時代のジャクソン・ブラウン、J.D.サウザー、グレン・フライらと親交を深めていたそうだ。
音楽活動を本格化させると、デイブ・メイスン、キャス・エリオットとネッドの3人でグループを組む話が持ち上がるも、結局は破談となり、デヴィット・ゲフィンが設立したばかりのアサイラム・レコードから、旧知のジャクソン・ブラウンらと共にアルバム『NED DOHENY』で73年にソロ・デビューを果たした。売上は芳しいものではなかったが、フォークやカントリーの流れを汲んだ当時のシンガー・ソングライター・ブームの中において、ソウルやファンクの音楽性を柔軟に取り入れた彼のスタイルは、非常にユニークかつ先進的だった。
76年にコロムビアへ移籍すると、ブッカーT&ザ・MGズのギタリスト:スティーヴ・クロッパーをプロデューサーに迎え、第2作『HARD CANDY』を発表。こちらも米本土ではヒットとはならずも、日本ではボズ・スキャッグス、マイケル・フランクスらとともに、AOR(76年当時は「ソフト&メロウ」あるいは「シティ・ミュージック」と呼ばれていた)の新たな担い手として注目された。アヴェレイジ・ホワイト・バンド(以下AWB)、マキシン・ナイチンゲール、デヴィッド・キャシディ、椎名林檎らもカバーした「Get It Up For Love (恋は幻)」、ソウル系アーティストに多く取り上げられたAWBのヘイミッシュ・スチュアートとの共作「A Love Of Your Own」など、名曲を多数収録した傑作で、人気写真家モシャ・ブラカによる眩しいアートワークも語り草だ。
『HARD CANDY』発売後の77年頃には、ほぼ同様の陣容で3作目『PRONE』を完成させるも、レーベルとのトラブルからお蔵入りとなってしまい(79年に日本のみで発売された)、ここから約10年は表舞台から姿を消すことに。80年代前半の活動としては、チャカ・カーンやAWBが録音した「What Cha' Gonna Do For Me」、ジョージ・ベンソン「Never Too Far To Fall (恋のリメンバー)」、レスリー・スミスやロベン・フォードが取り上げた「Love’s A Heartache」などの楽曲提供が知られている。
80年代も終盤に差し掛かると、シーンの前線に立ち続けていたスティーヴ・ウィンウッドらに感化され、久しぶりの第4作『LIFE AFTER ROMANCE』を発表し、88年にカム・バック。同時期にリリースされたボズ・スキャッグス『OTHER ROADS』(88年)、ボビー・コールドウェル『HEART OF MINE』(89年)とともに、AORのリヴァイヴァル・ムーヴメントを彩った。90年代前半には、それまでのブランクを取り戻すように、『LOVE LIKE OURS』(91年)と『BETWEEN TWO WORLDS』(93年)、アコースティック・セルフ・カバー集『POSTCARDS FROM HOLLYWOOD』とリリースを重ねた。ちなみに、現時点での最新作『THE DARKNESS BEYOND THE FIRE』(2010年)は、自主プレスによる入手困難状態が続いたが、現在は国内盤が流通しており容易に入手できるはずだ。
2010年代に入ると、再発レーベルNumeroが出した発掘音源を含む編集盤『SEPARATE OCEANS』(2014年)のリリースを機に、知名度の低かった本国アメリカでネッドの音楽が「再発見」され、新たなリスナーを獲得。ネッド本人は戸惑いつつも、自分の作品が広く認知されていることを喜んでいるようだ。
これまでの来日公演を振り返ると、2010年に16年ぶりの来日を果たしてからは数年おきに日本公演を行っており、2015年には『HARD CANDY』の再現ライブを、2018年には盟友ヘイミッシュ・スチュアートとのジョイント公演を開催しており、今回は5年ぶり。スティーリー・ダンらのサポートで知られるマイケル・ホワイト(Dr.)、リー・リトナーを長年にわたって支えているメルヴィン・デイヴィス(Ba.)ら、豪華なサポート・メンバーによる演奏にも注目で、2015年の来日時には不在だった2人のバック・コーラス参加も嬉しいところ。アコースティック・ギターを軸とする半世紀以上もブレない音楽性と、リスナーの期待に応えるサービス精神を持つ彼の最新ステージに、大いに期待したい。
公演情報
【Ned Doheny
Ned Doheny plays his all time hits - new band new grooves】
2023年11月10日(金) 東京・ビルボードライブ東京
1st:Open 17:00 Start 18:00
2nd:Open 20:00 Start 21:00
2023年11月11日(土) 東京・ビルボードライブ東京
1st:Open 15:30 Start 16:30
2nd:Open 18:30 Start 19:30
2023年11月13日(月) 大阪・ビルボードライブ大阪
1st:Open 17:00 Start 18:00
2nd:Open 20:00 Start 21:00
リリース情報
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