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<インタビュー>きっかけは「友達が欲しかったから」――ホロライブの常闇トワが語るデビュー時の想い、多彩な歌声で紡いだ1stアルバム制作秘話
Interview:Takuto Ueda
ホロライブ所属のVTuber、常闇トワが1stアルバム『Aster』をリリースした。
2020年にホロライブ4期生としてデビュー、主にゲーム配信を中心に活動しており、ホロライブ以外のVTuberやストリーマーとも積極的にコラボを重ね、2022年4月にはYouTube公式チャンネル登録者数が100万人を突破。また、広い音域を歌いこなす歌唱力、力強いハスキーボイスも特徴的で、歌ってみた動画やオリジナルソングの再生回数も大きな伸びを見せており、個性豊かなクリエイター陣を迎えた今回の1stアルバムは、そのボーカリストとしてのポテンシャルをついに大きく開花させた、まさにファン待望の一枚となっている。
全12曲入りの本作。そこに込められた想いや制作過程、彼女だからこそ実現できた貴重なコラボレーションの経緯など、話を聞いた。
きっかけは「友達が欲しかったから」
――まずはこれまでの活動について。この数年間はどんな日々でしたか?
常闇トワ:環境はまったく変わりました。やっぱりインターネットでは流行り廃りが激しいじゃないですか。それについていくのがいまだに難しいというか、VTuberとして日々成長していかなきゃいけないなと思います。
――流行り廃りというと?
常闇トワ:例えばゲーム配信でも、そのときにリスナーがよく見ているタイトルがありますよね。ほかにもコラボで盛り上がっているのが好きなのか、ソロでゆったりゲームしているのが好きなのか、ただの雑談が好きなのか、そういう傾向をほかの人の配信を見て勉強したりして、自分から新しいリスナーを集められるように今でも努力してます。
――トワさんはホロライブ内はもちろん、外部のVTuberやストリーマーともよくコラボされていますよね。特に刺激を受けた方はいますか?
常闇トワ:Crazy Raccoonのだるまいずごっどさん、ありさかさんは、すごくポジティブというか、たくさん笑ってくれるし、人にも優しくて場を明るくしてくれて。あの二人とのコラボがきっかけで、自分なりの回答をひとつ導き出せたのかなと思ってます。
――去年の【第8回 Crazy Raccoon Cup Apex Legends】で結成したチームですよね。
常闇トワ:もともと二人のことは知っていたし、別のゲームで遊んだことはあったけど、ああやって1週間ずっと一緒に同じゲームをすることってなかなかなくて。しかも『Apex Legends』はほかのチームと競い合うゲームなので、例えば負けてしまったりすると落ち込んでしまうじゃないですか。お互いのファンも応援してくれるからこそ、「勝たなきゃ!」みたいなプレッシャーもあって。それで口数が減ってきちゃうこともあるんです。でも、二人は何よりも「自分が楽しもう」という気持ちがすごく強かったんですよね。そういうメンタルでい続けるのってすごく難しいので「すごいな」って。自分にとって変化のきっかけになりました。
――ある意味、ゲームを楽しむという初心に帰るというか。そもそもトワさんはデビュー時にどんなモチベーションを持って活動を始めたのでしょう?
常闇トワ:ホロライブに入ったきっかけは「友達が欲しかったから」なんです。その頃からFPSゲームを見るのもプレイするのも好きだったので、ホロライブはアイドルのグループだけど「アイドル兼ゲーマーって面白くないですか?」みたいな。当時から大会にも出てみたいと思ってました。ゲーム配信の良いところって、プレイヤーの成長過程が見られることだと思っていて。
――特にチームゲームだと部活のような青春感も楽しいですよね。
常闇トワ:そうなんです。お互いに意見を交わし合ったりして、切磋琢磨しながら大会に臨む。頑張ることは恥ずかしくない、勝ち負けよりもそれまでの積み重ねが大事なんだということは、活動を通して伝えていきたいなとデビュー時から思ってるんです。
――今回のアルバム『Aster』もある意味、そういった活動の積み重ねの集大成といえるのではないでしょうか。制作時にどんなコンセプトを考えていましたか?
常闇トワ:「これぞ常闇トワだ」みたいな色を出したいと思ってました。一曲一曲にちゃんと自分の想いも乗せたくて。
――「これぞ常闇トワ」を表現するにあたって、あらためて自分のことを見つめ直す時間も多かったのでは?
常闇トワ:めちゃめちゃ多かったです。このアルバムには裏テーマがあって、それはみんなに考察してもらいたいんですけど、それを決めるのにすごく時間がかかりました。「あのときはこういう気持ちだったな」「こういう活動してきたな」みたいなことを振り返ったりして。
――タイトルの“Aster”は花の名前で、収録曲にもいくつか花の名前を冠した楽曲がありますね。
常闇トワ:曲を作るときに何かひとつの軸があったほうがいいなと思っていて。keenoさんが提供してくださった楽曲のタイトルが「サンビタリア」なんですけど、それがすごくいいなと思って、そこから軸が決まっていった感じです。アルバムのタイトルは最後に決めました。
サンビタリア / 常闇トワ(official)
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ありのまま生きていきたい
――そもそも収録曲についてはどんな構想を練っていましたか?
常闇トワ:いろいろな常闇トワを知ってほしいという想いがあったので、いろいろなジャンルの曲を歌いたいと思ってました。
――リスナーとしてはどんな音楽がルーツなんでしょう?
常闇トワ:昔はバンドがすごく好きでした。というのも、私は吹奏楽部に入っていたんですけど、一つひとつの楽器の担当がいて、それぞれが個人で練習して、最後に指揮者のもとに集まって音を合わせる、という過程が好きだったんです。同じような理由で合唱コンクールも好きで、いろいろなパートの歌声が合わさったときのハーモニーが心に刺さるんですよね。そこからバンドにたどり着いて、当時はONE OK ROCKさんとかをよく聴いてました。最近は女王蜂さんの曲をよく聴いてます。あと、ディズニーの音楽は明るい前向きな感じが好きで、いつも元気をもらってます。
――チームで同じ目標に向かって努力していく。先ほどのゲームの話にも通じていそうですね。
常闇トワ:たしかに。昔から人と何かを作り上げるのが好きだったように思います。
――楽曲提供陣のラインナップが多彩な本作。これについてはどのように決めていったのでしょうか?
常闇トワ:個人的に好きな楽曲を作られている方々にお願いさせていただきました。新しいジャンルにも挑戦したかったので、そのジャンルで好きな楽曲のクリエイターさんも調べたりして。
――リード曲「ANEMONE」は、ゆよゆっぺさんの提供楽曲。この曲をアルバムの顔として掲げた理由は?
常闇トワ:これはすごく難しかったんです。いろんなジャンルの曲がありすぎて、もはやリード曲なしでもいいんじゃないかと思っていて。運営さんにも相談したんですけど、太い音でガツンとアタックしていく感じが、ホロライブやほかのVTuberさんにはあまりない常闇トワの強みだと思っていて、それが一番出ているのが「ANEMONE」だと感じたので、じゃあリード曲にしましょうということになりました。
――その「常闇トワの強み」について、もう少し噛み砕いて話せますか?
常闇トワ:まず高音と低音の音域が広いこと。なおかつ、高音が細くならずに太いまま出せるところが強みだと思っていて。この「ANEMONE」や鬱Pさんに書いていただいたオリジナル曲「マイロア」のような、激しいメタルっぽい楽曲はVTuber業界にはあまりないし、そういう曲を太い声で歌えるのが常闇トワらしさなのかなと思ってます。
――何よりも歌声の個性が唯一無二だと思います。
常闇トワ:でも、もともと自分の声は好きじゃなかったんですよ。今はそんなことないんですけど、それもファンのおかげなんです。nikiさんの「-ERROR」をカバーさせていただいたとき、予想以上の反響をいただけて。中でも声を褒めてくれる反応がすごく多かった。それが自信につながって、自分らしさをより一層追求していこうと思えたんです。
――「ANEMONE」に関して、歌詞はどんな想いを込めたいと思っていましたか?
常闇トワ:自分の活動について考えていくなかで、嬉しい言葉をいただくこともあればマイナスな言葉もあって。それで悩んでしまうこともあるけど、最終的には自分自身がやりたいことを決めて、ありのまま生きていきたい。そういう気持ちをゆよゆっぺさんにもお伝えしたら、「めちゃめちゃいいです、それを入れましょう」って。そこから<ありのまま生きていたいと>というフレーズも生まれたりして、歌詞が作られていきました。
ANEMONE / 常闇トワ(official)
――普段の配信活動と今回のような音楽活動は密接に影響し合っている?
常闇トワ:普段言えないことを音楽で出しちゃおう、みたいな想いはありますね。アルバムの収録曲「タイダナワンダー」は、「めんどくさい、何もしたくない、だるい、眠い」みたいな日もやっぱりあるので、そういう気持ちを可愛らしく伝えられたらいいなと思って書いていただきました。
――楽曲提供はぼっちぼろまるさん。
常闇トワ:がっつり激しいバンドサウンドは歌詞に合わないと思っていて。そんなときにTikTokで「おとせサンダー」を聴いて、軽快で爽やかなサウンドがすごく合いそうだなと思ったのでお願いさせていただきました。
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仲間たちと歌った物語
――続く「Whose thorns?」は、Co shu Nieの中村未来さんによる提供。こちらも作家のシグネチャーがくっきり刻まれたサウンドで、前述の2曲とは違った歌声のアプローチも印象的です。
常闇トワ:実はこの曲はめちゃめちゃ録るのが早かったんですよ。みんなの前にいる常闇トワとありのままの常闇トワという、二人の自分のあいだでせめぎ合う感じを歌詞にしていただいたんですけど、すごく気持ちを込めやすかったので、言葉をストレートに表現できたというか。気持ち良く歌えました。
――逆に歌のレコーディングが大変だった曲は?
常闇トワ:「Purple Disease」ですね。まずラップ調の歌い方に苦戦して。滑舌があまり良くないので、早口が苦手なんですよ。かめりあさんもレコーディングに立ち会ってくださったんですけど、そのディレクションがあまり譜面にとらわれない歌い方だったというか。普通、メロディーがあって、そのラインにばっちり沿って歌うじゃないですか。なので、どう歌えばいいんだろうって。考えながら歌うのが難しかったです。
――試行錯誤しながら?
常闇トワ:はい。この曲のレコーディングはすごく時間がかかりました。何度も何度もトライして、何度も何度も不安になって、何度も何度もメンタルケアされて(笑)。
――そして、本作における大きなトピックがコラボレーション。「Antares」はアステル・レダさん、ハコス・ベールズさん、ムーナ・ホシノヴァさん、ラトナ・プティさん、渋谷ハルさん、橘ひなのさん、万象院ハッカさん、星街すいせいさん、cptさんといった総勢9名のゲスト歌唱者が参加しています。
常闇トワ:私はホロライブの中でも特殊なタイプで、箱外の方とコラボさせていただく機会がすごく多いんですね。そういう活動は運営さんも認めてくれていて、自分でも売りになる部分だと思うので、今回のアルバムでもコラボしたいと思っていて。それでいろんな事務所の方やホロライブ内のメンバーに声をかけさせていただきました。
――それを踏まえて「Antares」にはどんな想い、メッセージを込めたのでしょう?
常闇トワ:そもそもコラボを前提に作ってもらった楽曲で。シンガロングをしたかったんですよね。ライブの開催も決まっていたので、そういう曲があったらお客さんとも一緒に歌えるなと思って。ライブで映える合唱の曲、というリクエストはさせていただきました。
――歌詞については?
常闇トワ:最初に曲ができていたので、歌詞は自分からもいろいろと提案させていただいて、けっこう修正を重ねて作っていきました。最初は一人だったけど、どんどん仲間が増えていって、今はこんなにたくさんの人に囲まれているんだ、みたいなイメージで。メロディーがすごく素敵で、聴いたときに映像が思い浮かんできたので、物語を描いていくような感じでした。
――トワさんが様々な方とコラボしているのは、まさしく最初のお話にあった「友達が欲しかった」という活動のモチベーションとつながっているのでしょうか?
常闇トワ:そうです。VTuberとして、ストリーマーとして、良い部分はどんどん取り入れていきたいし、それ以前に楽しいことをやりたいんですよね。いつもファンに向けて言ってるんですけど、配信も楽しいときにやりたいと思っていて。あまり義務でやりたくないし、自分が楽しいことを伝えることでみんなも楽しくなってもらいたいと思ってるから、そこは箱内も箱外も関係なく、面白ければなんでもいいという考え方なんです。
――トワさんのファンにとっては、知らなかったVTuberやストリーマーと出会うきっかけにもなるでしょうし、逆もまた然りですよね。コミュニティ同士の橋渡しというか。
常闇トワ:それはありますね。ホロライブは詳しくないけど、常闇トワなら知ってると言ってくださる方もいて。あと、コラボが増えたことで女性ファンも増えたように感じます。コラボは男女関係なくやっているので。例えば切り抜きでふざけているトワを知ってもらって、そこから歌を聴いてもらえるようになったり。そういうときの反響が一番大きいかもしれないです。
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1stソロライブに込めた想い
――同じくコラボ作であり、アルバムのラストを飾る「二人三脚」は、ぶいすぽっ!所属の猫汰つなさんを迎えたデュエットソング。こちらの経緯は?
常闇トワ:歌とFPSゲームは、常闇トワとして確立している二つの柱だと思っていて。そのFPSゲームで大会に出させていただく機会が多いんですけど、つなと組んだとき、一緒に泣いたり笑ったりしてすごく友情が深まって、私にとっては思い出深い親友みたいな存在になったんですね。なので、つなと一緒に一曲歌いたいと思って運営さんに相談したんです。
――ファンも嬉しいコラボですよね。
常闇トワ:3Dデビューすることも聞いていたので、何か一緒にできたらいいねという話もしていて。そういう関係性は、たぶんお互いのファンも知っていると思うので、いつかステージで共演できたらいいなと思います。
――ハーモニーの手応えはどうですか?
常闇トワ:めっちゃいいです。最近、毎日一度は必ず聴いていて。感動しながら作業してます(笑)。
――楽曲に関して、つなさんからの意見も取り入れたりしたのでしょうか?
常闇トワ:この曲の制作を依頼するとき、二人でお互いに対して思ってることを長文にして送りあったんです。「私が強くなれたのは君がいたからなんだよ」みたいなクサいことを書いたりして(笑)。つなも 「一緒に歌えて嬉しいし、これからもたくさん遊びたい。ずっと仲良くしたいから、これからもよろしくね」みたいな感じで書いてくれて。そんなふうに手紙みたいな文章を用意して、クリエイターさんに送って歌詞に反映していただきました。
――思いの丈をぶつけ合った。
常闇トワ:はい。その感じは歌でも表現できたんじゃないかなと思います。掛け合いをするパートがあるんですけど、お互いに想いを乗せながら気持ち良く歌えたんじゃないかなって。
――アルバムを締めくくる感動的なエンディングだと思います。曲順も熟考して決めたのでは?
常闇トワ:曲順は裏テーマに沿って考えたらスムーズに決まりました。
――その裏テーマがちゃんと伝わるような順番になっている?
常闇トワ:というより、裏テーマが分かれば「たしかにこの曲順だな」って理解してもらえるというか。点と点が線につながる感じ。
――10月13日には1stソロライブ【Break your ×××】が開催決定。どんなステージになりそうですか?
常闇トワ:生バンドでやることは決まっているので、激しくて楽しいステージになると思います。バンドの音にトワ自身の声が負けないように、気持ちをみんなに伝えられるように、現地に来てくれる人にも配信で見てくれる人にも「最高だった」と思ってもらえるように、今は頑張って準備してます。
Tokoyami Towa 1st Solo Live 『 Break your ××× 』 Teaser movie
――公演タイトルにはどんな想いが込められているのでしょう?
常闇トワ:これまで自分なりにマイペースに活動してきて、不安になったり落ち込んだりしたこともあったけど、ファンのみんなや運営さんのおかげでこういうステージに立てることになって、だったら重い気持ちを乗り越えて自信を持ちたい、自分に打ち勝ちたいという意味を込めて“Break your ×××”にしました。みんなも苦しいとき、つらいときがあるかもしれないけど、今回のライブで一緒に壊そうよ、というメッセージも込めてます。それぞれが“Break your”のあとを自由に埋めてほしいです。このライブはみんなで作り上げるステージなので。
――では、この1stアルバムと1stライブを経て、その先にトワさんが思い描いている活動の展望について、最後に聞かせてください。
常闇トワ:もちろん2ndライブもやりたいですし、海外のステージにも立ってみたいです。自分が行き詰まったとき、海外のファンの方々もすごく応援してくれていたので、それに対する感謝を伝えにいきたいですね。
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