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<コラム>BE:FIRST、異色の楽曲「Mainstream」で定義し証明する“音楽ファースト”の道
Text:小松香里
9月13日、BE:FIRSTの4thシングル『Mainstream』がリリースされた。今作のリリースから約1か月前、BE:FIRSTの総合プロデューサーであるSKY-HIが発表したコメントには「この楽曲をリードタイトルにする事で、“異色の”“まさかの”“ここに来て逆に”みたいな事を言われるかもしれないが、全くそんなつもりはない。Mainstreamに乗っかるのではなくて、Mainstreamを作る存在として、BE:FIRSTは自分自身を定義し、証明する」と書かれていた。
今作は、表題曲としては初めてメンバーが一から制作に携わった楽曲だ。J-POPシーンにおいては異色の楽曲を「Mainstream」と名付け、発表するにあたり、楽曲制作の過程やメンバーが思いを語った映像を収めたドキュメンタリー映像が計3話公開された。その映像は、「Mainstream」がいかにBE:FIRSTにとってエポックメイキングな楽曲であり、かつ今の日本の音楽シーンに風穴を開ける楽曲になるであろう予感を強く感じる内容だった。
第1話では、J-POPのフォーマットから逸脱した楽曲にMainstream=王道というタイトルを付けた理由をメンバー7人それぞれがフリップに書き、思いを明かした。
SOTAは「先頭」。SHUNTOは「中心」MANATOは「根本」。RYUHEIは「独自」。JUNONは「オリジナル」。RYOKIは「まるはだか」。LEOは「覚悟」。7人の言葉からは、「BE:FIRSTは独自であり、自らが好きな音楽を表現するべきグループなのだ」という意志があふれていた。そもそも7人の軸には深い音楽愛があるが、BE:FIRSTとして濃度の高い日々を重ねる中で、強い確信を持った音楽を自らのクリエイティブのもと、世に出す時期が訪れたのだ。楽曲ごとに目覚ましい進化を遂げてきたBE:FIRSTが、結成当初から掲げていた「クリエイティブファースト、クオリティファースト、アーティシズムファースト」という三本柱を本格的に発揮した大きな一歩が「Mainstream」ということだ。
ドキュメンタリー第2話では、総合プロデューサーのSKY-HIと作曲を手掛けたRyosuke “Dr.R” Sakaiとともに、メンバー7人が「Mainstream」を制作する光景が公開された。そこでは、トラックやボーカルのニュアンスといった細かい部分まで7人が積極的に意見を言い、制作が進んでいく様子が見られた。SKY-HIとRyosuke “Dr.R” Sakaiという百戦錬磨のコンポーザーに対して、全く臆することなくクリエイティブに踏み込む姿はアーティシズムファーストそのもの。第1話でSHUNTOが口にしていた「日本の音楽シーンの現状として、僕たちが『明らかにかっこいい』と思っているヒップホップの楽曲の再生回数がそこまで多くないケースがあって、それを変えていきたい。どこか悔しさも感じながら、『Mainstream』はBE:FIRST史上、いちばんこだわってレコーディングした楽曲」というコメントが頭をよぎった。
ジャンルレスな傑作アルバム『BE:1』をリリースし、【BE:FIRST 1st One Man Tour “BE:1” 2022-2023】をまわる中で自らの音楽と深く向き合う一方で、「BE:FIRSTにはもっとこういう曲があったらいいんじゃないか」という新たな探求心が生まれ、日常的に「BE:FIRSTは次にどんな音楽をやるべきか」という会話を交わすようになったと、メンバーは4月にリリースされた3rdシングル『Smile Again』のインタビューで話していた(注1)。
そしてまた、ツアーの追加公演で初披露された新曲「Boom Boom Back」はメンバーのルーツである90年代ヒップホップテイストが色濃い楽曲で、J-POPシーンの中では異色ではあるが、キャッチーな振り付けの力もあり、「#BBBチャレンジ」というハッシュタグが広く拡散され、異例のヒットを記録したことに手応えを感じたということも話していた(注2)。「自らの“好き”を突き詰めた攻めた『Boom Boom Back』がここまで受け入れられたのであれば、もっと攻められるのでは?」という期待は、「Mainstream」に向かうひとつのきっかけになった。
第3話では、SOTAが「音楽を受け取る側でしかなかった時代に憧れていた音楽を表現できる側になった」ということや、JUNONが「様々なフェスに出演したり、いろいろなアーティストのライブを観たりする中で、“こう見られたい”という思いが高まった」と語っていたが、音楽が根っこにあり、“常にトップを狙う”という命題を課せられるだけのポテンシャルを持った7人が、健全かつ急激な成長を遂げる中で機が熟したということが鮮烈に伝わってきた。
「Mainstream」の作詞はSKY-HI。作曲はSKY-HIとDaisuke Nakamura、そしてRyosuke “Dr.R” Sakaiだ。極端に音数を減らした凄みのあるトラックに、まずSOTAの貫禄が漂うラップが乗る。〈またここからそこまでZoom Zoom Zoom 争う気もないのさ全然 東京から直下でZoom Zoom Zoom We’re gonna create the trend〉。誰とも争う気はない、ここ東京からBE:FIRSTはトレンドを作り出す──。「上り詰める、だけど蹴落とさない。媚びない、だけど誰も否定しない。自分である、だから人を愛する」というテーマを宿したBE:FIRSTならではの宣言が、冒頭でなされる。RYOKIの語感の気持ちよさを最大限活かしたようなラップ、LEOのマイルドな歌、JUNONのキレのあるハイトーンボイス、MANATOの奥行きのある歌、RYUHEIの艶やかな声、そして、度々挟み込まれるSHUNTOによる吐息混じりの〈Mainstream〉というライン──。7人のラップ/歌のスキルと個性がいかんなく発揮され、没入感をどんどん高めていく。約3分半、必要な音と言葉だけが凝縮されたような濃度200%のヒップホップチューンだ。〈東京から直下でZoom Zoom Zoom〉というラインが象徴するように、メイド・イン・ジャパンであることを大事にしながらも、RYOKIのラップパートが1番と2番で同じメロディを紡ぎながらも1番は日本語詞、2番は英語詞となっているなど、その目線は明らかに世界にも向いている。
第1話でRYOKIが、「『Mainstream』は今後BE:FIRSTが発表する曲がメインストリームになっていくための第一歩でもある」と話していたが、「Mainstream」は決してゴールではない。ここからBE:FIRSTはよりクリエイティビティを発揮し、クオリティの高い楽曲を生み出すアーティストになっていくはずだ。さらに、「Mainstream」を生み出すことができたからといって、BE:FIRSTがこれからエッジィなヒップホップだけを奏でるグループになっていくわけでもない。第2話でSKY-HIが「今のBE:FIRSTのアートフォームとしていちばん純度の高いものになりそうで、いちばん正当なもの、いちばん本質的なものが『Mainstream』だった。やりたいのはこっちで、やりたくないのはポップサイドというのはBE:FIRSTを語る上でふさわしくない」と言っていたように、“今BE:FIRSTとして鳴らすべき音楽は何か”ということを念頭に、音楽ファーストの道を開拓し続けるのだろう。
(注1)『AERA』2023年5月1-8日合併号より
(注2)『日経エンタテインメント!』2023年10月号より
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