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<コラム>英国音楽の“粋”を知り尽くしたパブ・ロックの偉大なる先駆者――ニック・ロウ
Text: Hidesumi Yoshimoto
ザ・ダムドやエルヴィス・コステロのプロデューサーとしても知られるパブロックのパイオニア、ニック・ロウが4年ぶりのビルボードライブツアーを10月に開催。英国音楽シーンの最重要オリジネーターの一人である彼のキャリアを来日が目前に迫った今振り返ってみたい。
多様なブリティッシュ・ロックの歴史を振り返る時に、パブ・ロック、パワー・ポップ、パンク、ニュー・ウェイヴといった70~80年代のあらゆる動きの中から最重要人物として浮かび上がってくるニック・ロウ。半世紀以上に及ぶ彼のキャリアを振り返ってみれば、英国ロックのひとつの大きな流れを築いてきた先駆者にして音楽性にブレのない才人であることがよくわかるだろう。
70年代前半には、英国版ザ・バンドとも称されるブリンズリー・シュウォーツの中心人物として活躍。古き良き時代のカントリーやブルースといったルーツ・ミュージック全般への造詣の深さと英国ポップ的なエッセンスを絶妙に掛け合わせたサウンドで、パブ・ロックの元祖的存在となった。バンド解散後はプロデュ―サーとしての才を開花させ、ダムド『地獄に堕ちた野郎ども』(1977年)やエルヴィス・コステロの初期傑作群、ドクター・フィールグッドらの作品を手掛けるのと並行して、自身のソロ活動も本格化。後にEGO-WRAPPIN'がカバーした楽曲も収録した初のアルバム『Jesus Of Cool』(1978年)でカラフルなポップ・センスを発揮すると、続く2作目『Labour Of Lust』(1979年)はパワー・ポップ屈指の名曲としても高く評価される「恋する2人(Cruel To Be Kind)」が全米チャートでも12位を記録する自身最大のヒット曲も生み、ソロとしての人気を揺るぎないものとした。
その後は、米国のライ・クーダーと組んだリトル・ヴィレッジなどでも話題を集め、よりルーツ・ミュージックへの傾倒を深めながらも、独自のポップ・センスやひねりの効いたメロディ作りの巧さを失わないスタンスで、コンスタントに健在ぶりを示すアルバムを発表。また、日本のファンにとってはタイトル通りに日本滞在時に書かれた「Tokyo Bay」を含んだ2018年にEP形式でリリースされた楽曲群の充実ぶりも記憶に新しいところだろう。コロナ禍を経て4年ぶりとなる今回の来日公演でも、豊富なレパートリーの中からどのようなセットで楽しませてくれるかに期待が膨らむが、7月には1998年にリリースされた『Dig My Mood』が25周年記念盤としてボーナス・トラックを追加して再登場。改めて耳を傾けてみても、この時期ならではの渋みとポップさのバランスが絶妙でうならされる。
米国のルーツ・ミュージックの豊かさ、ロックンロール~パンクに通底する痛快さ、英国ポップらしい緻密さとユーモア感覚。あらゆる音楽の〝粋〟を知り尽くした鬼才の魅力を、この秋のビルボードライブでたっぷりと堪能してほしい。
▼『Labour Of Lust』(輸入盤)
1979年発表。独自のポップ・センスを開花させた、初期を代表する傑作。
▼「Tokyo Bay / Crying Inside」(配信)
2018年発表。表題曲はビルボードライブ公演で来日した日本滞在時に制作。
▼『Dig My Mood』(輸入盤)
2023年再発。ルーツ音楽志向を強めつつもらしさは健在な90年代の佳作。
公演情報
Nick Lowe
2023年10月4日(水) 大阪・ビルボードライブ大阪
1st:Open 16:30 Start 17:30
2nd:Open 19:30 Start 20:30
2023年10月6日(金) 東京・ビルボードライブ東京
1st:Open 16:30 Start 17:30
2nd:Open 19:30 Start 20:30
2023年10月7日(土) 東京・ビルボードライブ東京
1st:Open 15:30 Start 16:30
2nd:Open 18:30 Start 19:30
2023年10月9日(月) 神奈川・ビルボードライブ横浜
1st:Open 15:30 Start 16:30
2nd:Open 18:30 Start 19:30
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