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<インタビュー>上白石萌音が振り返る初武道館公演&11月スタート【yattokosa】ツアーの見どころ



上白石萌音インタビュー

Interview: 渡辺彰浩
Photo: 辰巳隆二

 2023年1月25日に開催された上白石萌音の初の日本武道館公演の模様を収録したライブ映像作品『Mone Kamishiraishi 2023 at BUDOKAN』がリリースされた。歌手として日本の伝統会場に立った上白石の伸びやかな歌声が余すところなく味わえる。

 11月より全国ツアー【上白石萌音『yattokosa』Tour 2023】で再び各地に歌声を届ける上白石に当日の思い出や控えるツアーの見どころを語ってもらった。

――上白石萌音さんにとって、日本武道館とはどのような場所としてありましたか?

上白石萌音:自分とは全く結びつかない場所でした。もともと私は、こういう会場で歌いたいみたいな野心が乏しい人間で(笑)。歌が歌えるならどこでもっていう感じですし、自分にはおこがましいって気持ちもありました。すごいアーティストさんがライブをする場所、武道の大会が行われる場所っていう(笑)。その程度の、庶民的な見方をしていました。まさか、自分とそこが結びつくとは思ってもいなかったです。

――もちろん、お客さんとして武道館に行ったことはあったんですよね?

上白石:初めて行ったのが、ザ・タイガースの再結成ライブで10年前ぐらいでした(2013年12月開催)。映画『舞妓はレディ』でご一緒した岸部(一徳)さんから「観においで」とお誘いいただき、渡辺えりさんたちと一緒に観に行ったんです。初っ端でジュリー(沢田研二)を観てしまった、すごい場所です。あとは、いきものがかりさんや絢香さんも観たことがあります。

――それこそ、今回の公演のアンコールでは「舞妓はレディ」を歌っていましたよね。

上白石:あ、でもあんまり考えてなかったです(笑)。

――そこは繋がってはなかったんですね(笑)。映画『舞妓はレディ』の方々は来られていたんですか?

上白石:周防(正行)監督がいらしてくださいました。監督に「『舞妓はレディ』を歌うのでぜひいらしてください」と。ちょうど監督のお席の近くに私の家族が座っていたんですけど、すごく嬉しそうにされていたというのを聞いて私も嬉しかったです。

――MCではあまのじゃくな萌音さんでも、武道館は「特別な感じ」がすると話していました。実際に武道館に立ってみていかがでしたか?

上白石:あまのじゃくなので、武道館だから今までより一層頑張ろう、みたいなのは絶対嫌だなと思っていました。平常心で、歌を歌うことに集中したいと思っていたんですけど、当日会場入りして廊下を歩いてる時に、「あ、やば。武道館だ」と思っちゃって。絢香さんの武道館公演を観に行った時に、裏にご挨拶しに入った部屋があったりして、私、今からすごい場所で歌おうとしてるんだという、伝統の重みやそこに染み付いているこれまでの面影というものを感じましたね。

――自分も挨拶で裏に入ったことがありますが、武道館特有の威厳さがありますよね。

上白石:重鎮感がありますよね。天井には日の丸もあるし。せっかく武道館でできるからというので、1曲目を全明転でやったんですよ。直前まで議論があったんですけど、「せっかくだから客席を全部見回して歌いな」って言われて、アンコールみたいなことになっちゃって(笑)。見渡した時に、「武道館で歌ってる」って感じました。あと、当日は歴史的大寒波の日だったので、「こんなに多くの人が来てくれた」って感慨深くなったのを覚えています。

――「直前まで議論があった」ということですけど、萌音さんはどちら派だったんですか?

上白石:私は消す派だったんです(笑)。どこを見たらいいか分からないし、お客さんも恥ずかしいんじゃないかなと思って、「消したほうがいい」と言ったんですけど、「新しいし、やったことある人はいないし、大丈夫だよ」と言われて。私、自分のセンスとか感覚を全く信用していないので、ここはプロに委ねようと思って。

――アンコールで全明転になって感動的なラスト、という演出は武道館で何度か観たことがありますが、1曲目からというのは珍しいですよね。

上白石:曲の途中で消すとか、そういう折衷案もあったんですけど、潔くいこうということで。私もナチュラルハイだったのもあり、「いっちゃいましょう!」みたいな感じでやりましたね(笑)。結果、みなさんがどんなふうに感じられたのかは分からないですけど、特殊なスタートにはなったかなと思います。

――井上芳雄さんとのデュエットは、リハーサルなしのぶっつけ本番だったんですよね。

上白石:当日は芳雄さんが福岡でミュージカルをなさっていて、昼公演後に飛んできてくださったんです。リハーサルでも1回も合わせていなくて、始まる前のリハにも芳雄さんはいらっしゃらなかったので……芳雄さんがすごいですよね(笑)! 着いていきなり武道館で歌うっていう。一緒に歌った曲は、これまで作品で何度もデュエットしてきた2曲(「幸せの秘密」「牢番の娘の嘆き」)だったので、私は全面的な信頼をよせていたのですが、ステージングは一切決めていなくて、全てアドリブでした。芳雄さんがステージの端の回廊を見つけて、「行っていいのかな……」って思いながら行ったらしくて、私も「お、行った!」って思ったりして。たくさん共演させていただいたからこそ生まれた時間だったかなと思います。

――芳雄さんが、お客さんが「手を振り返してくれなかった」と残念そうにしていましたね(笑)。一つのライブの中で、歌手としてだけでなく舞台俳優としてのキャリアもしっかり見せられるのが、萌音さんの魅力であり、ここまで積み重ねてきた集大成であると感じました。

上白石:そうですね。私の中では“作品の中で歌うこと”のほうが先にあって、小さな時から歌手ではなく、舞台俳優になりたいと思っていたので、役として歌うことのほうが自分の中では身近なんですよね。これまで演じてきた役の好きな曲を、劇場コーナーみたいな感じで入れたんですけど、好評だったので今後もやっていきたいと思っています。

――武道館の2日後、萌音さんの誕生日当日にはビルボードライブ東京での公演もありました。

上白石:同期を一切せず、クリックも誰も聞かずに、生の音だけでやるというのがめちゃくちゃ楽しくて。バンドメンバーのみなさんとも、生音だけのこじんまりした、でもギュッと一つになってやるみたいなコーナーを今後も厚くしていけたらいいねという話になったので、ビルボードライブでやったことで今後のライブにも変化が生まれてくるんじゃないかなと思います。

――武道館では「なんでもないや」を1曲目に披露していましたが、対照的にビルボードライブでは「スパークル」のカバーを初披露しています。

上白石:「なんでもないや」は歌手として歌わせていただく上での出発の曲だったので、そこからスタートして時系列でキャリアを追っていきたいなと思って1曲目に選びました。武道館と対になる、呼応するセットリストにしたいなと思って。ビルボードライブでは逆に、最初に戻っていくような、割と順番はぐちゃぐちゃではあるんですけど、私の気持ちとしては逆行したいっていうのがありました。

――武道館のライブでは70代から一桁代のファンまでを確認する一幕もあり、まさに老若男女と言える幅広い層のファンの方々は、萌音さんにとってどのような存在になっていますか?

上白石:私を我が子のように思ってくれる人もいれば、お母さんになってほしいって言ってくれるちっちゃい子もいます(笑)。いろんなふうに私を見てくださっていて、その視線で気付かされることも多くあります。私以上に私のことを考えてくださっている感じがしてありがたいなって思いますし、自分のことも大事にしてほしいとも感じています。年齢層が幅広いので、私がライブをする時の一番の悩みが立ち座りなんですよ。一辺倒では駄目で、みんながストレスなく、それぞれの欲を満たせる方法がないか、いつも考えているところではありますね。ご意見、ご要望をお待ちしています。

――だから、ライブ中にストレッチもしちゃう。

上白石:そうそうそう(笑)。それは自分がライブに行って、そろそろ身体を伸ばしたいなって時があるので、そういうのも取り入れたりしながら、Eテレみたいな感じでできたらいいなって(笑)。誰が見ても面白い、それぞれの面白さがあるじゃないですか。

――萌音さんのライブでは、ライブ自体今日が初めてなんだろうなという雰囲気のファンの子も多く見受けられます。

上白石:そうですよね。だから、なるべくそういう人たちも流れに乗って楽しめるように私もやっていかなきゃなって思うんですけど、なんせ私も慣れていないので。そこは、お互い一緒に成長していけたらいいですね。初めてライブに行くとか、演劇を観に行くって、人生の中で大事なことじゃないですか。不慣れだろうに、ドキドキしながら来てくれるのはありがたいなって思います。

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――11月からは、今年も全国ツアー【yattokosa】がスタートします。

上白石:“やっとこさ”と言って2021年に始めた時、「日本全部に行けたらいいね」と話をしていたんです。私が育った鹿児島は、アーティストがあまりライブに来ないんですよ。そういうのもあって、あまりライブが開催されないところにあえて行くということが出来たらいいなと思って。主要都市と言われる場所からは、ちょっとずつ外した場所で今回も開催します。旅行のついでにもなったらいいなと思いますし、面白いラインナップだと思うので、しっかり歌いつつ、グルメを楽しみたいです(笑)。

――昨年『name』の際のインタビューで、ツアーについて聞いた時には「行きたい場所に行くツアー」と話していましたが、それは今年も変わらずですか?

上白石:今年もそうです(笑)。私とスタッフが行きたい場所に行くツアー。

――今年は7都市8公演で、初めて訪れるのは石川、宮城、山口、熊本、愛媛になります。

上白石:大阪は堺でやるので、2021年の時とは違う場所なんです。ちょいちょいあまのじゃくっぽいですよね(笑)。山口以外の場所にはそれぞれ演劇で行ったことがあるんですよ。思い出があったりして、また違う生のものを届けられるのは嬉しいです。演劇で行った時はそれぞれの場所で受け取られ方が全く違ったので、その土地柄を感じられるのも楽しみです。熊本には小さい時からよく家族で旅行に行ったりもしていましたし、山口は薩長同盟だし(笑)。愛媛自体にはあまり縁はないんですけど、四国には仲がいい人がいたりして、何回か旅行に行ったりもしています。

――こうしたインタビューでは宮城といえば決まって牛タンという流れになるのですが、萌音さんも?

上白石:やっぱり、牛タン(笑)。あとは、ずんだですね。でも、コアなものも知りたいです。そこはお客さんに聞こうと思っています。

――去年は公演毎にセットリストを変えたりしていました。

上白石:今年もやろうと思っています。前回はそれぞれの場所にゆかりのある曲をカバーしたりして、それが私たちも楽しかったですし、練習したのを1回しかやらない儚さも面白かったので、今は出身アーティストを調べているところです。今回は東京が2DAYSなので、その2日間も変えられたらいいなと思っています。バンドメンバーのみなさんには迷惑をかけますが、まぁプロなので大丈夫でしょう(笑)。

――今回は声出し解禁後のツアーということになりますよね。

上白石:そっか! そうですね。最近、いろんな方のライブに行って、お客さんが歌ったり話しかけたりしているのを聞いて、胸が熱くなっていて。やっぱりライブって双方向なものなんだと思い出していました。MCでお喋りしたり、歌ってもらったりできたらいいですね。時代が前に進んでいるのを感じられるのも、ライブの醍醐味だと思うので。

――また違う意味での“やっとこさ”になる。

上白石:……!(小声で)それ、使います。いろんなものを待ち侘びてますからね。

――武道館では「懐かしい未来」で、いつか歌えるその時がくると話していましたよね。

上白石:そうですね。だから、「懐かしい未来」はやるんじゃないかな。

――ほかに、声出しが解禁になることでライブ映えしそうな楽曲ってありますか?

上白石:あるかな……。あまりないですね。ちょっと歌ってもらうパートを作るか。

――コール&レスポンスのような。

上白石:この間、大橋トリオさんのライブを観に行った時に、コール&レスポンスをやっていたんです。トリオさんが歌ったものを真似する、みたいなもので、めちゃくちゃ難解なものがきた時は、「試されてるな」と思って(笑)。でも、トリオさんのファンの方々は、みんなそれについて行くんですよ。変拍子が来たりして、私は「ヤバい、ヤバい!」って必死でした。

――大橋トリオさんといえば、『探偵ロマンス』(NHK総合)の劇中で萌音さんが“歌劇唄い手”としてボーカルを担当した「叶わぬ夢」が素晴らしかったです。

上白石:「叶わぬ夢」は絶対やろうと思っています。それこそトリオさんのライブでやっていたんですよ。その時はKitriのMonaさんが歌っていたんですけど、めちゃくちゃ良くて。実は、デモをMonaさんが歌っていたんです。それを聴いて歌を入れていたので、私からしたら本家で。ライブで聴けて本当によかったです。その前から「叶わぬ夢」はやりたいなと思っていたんですけど、それで確信に変わりました。異国っぽい雰囲気になる時間で、あの曲が持つ力ってすごいんだなと思って、私も大好きなんです。なので、今回やります。『探偵ロマンス』のサントラを聴いてきてください。

――『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)のチームと大橋トリオさんという、萌音さんと深い関わりのある2つの要素が結ばれたのは喜ばしいことですよね。

上白石:ファミリーしかいない現場で、あれは嬉しかったです。ドラマも面白かったな。その半々みたいなのって今までになかったですし、「叶わぬ夢」は芝居と音楽のちょうど真ん中に存在している曲で、面白い形で歌えたらいいなと思います。

――この取材時点では発表はありませんが、今後新曲などは期待してもいいのでしょうか?

上白石:あります。絶賛準備中です。きっとライブでお披露目になると思うので、楽しみにしていただけたら。まだ私もどんな曲か分かってないんですけど、いろいろと進めている段階です。

――前作の『name』はジャズの要素も強く感じられた作品でした。萌音さんは最近、どんな音楽を聴いていますか?

上白石:『name』からの流れはまだ続いていて、いまだにジャズを聴いています。最近はカーペンターズとかビートルズとか、洋楽のど真ん中を聴いています。今後のお仕事でカバーさせてもらう機会があって、その準備もあって改めて聴いているんですけど、やっぱり確固たるものがあって、シンプルだし飾ってない。あの年代のアーティストって、あたかもオリジナルかのようにちゃっかりカバーしていたりするじゃないですか。「これ、オリジナルじゃなかったんだ!」ってわかった時は、オリジナルを聴くようにしていて、枝葉が広がるような関わり方があります。カーペンターズもビートルズをカバーしていて、そういうのも好きで最近はよく聴いています。

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