Billboard JAPAN


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<わたしたちと音楽 Vol.25>にしな 自分自身を好きでいるために、伝えたいこと

インタビューバナー

 米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。

 今回ゲストに登場したのは、ミュージシャンのにしな。高校時代に音楽活動を始めた彼女は、ライブハウスやSNSを通じて伸びやかな歌声を披露し注目を集めてきた。11月3日(金・祝)に日比谷公園大音楽堂で行われるライブイベント【Billboard JAPAN Women In Music vol.1】への出演も決定。等身大でリアルな気持ちを綴った歌詞も共感を得ている彼女は、どんなことを考えながら歌ってきたのか。これまでの軌跡を辿った。(Interview & Text:Rio Hirai[SOW SWEET PUBLISHING]/ Photo:Miu Kurashima / 撮影場所:Amazon Music Studio Tokyo)

変化していく体と心に戸惑い、 受け入れられない時期もあった

――11月3日(金・祝)に日比谷野音で行われる【Billboard JAPAN Women In Music vol.1】に出演されます。まずはオファーを受けたときの感想からお聞かせいただけますか。


にしな:この企画に参加することができて、とても光栄です。ライブでは何か特別なことをやるというよりも、自分らしさをちゃんと届けられたら良いなと思っています。

――キャラクターの異なる3組がそれぞれどんな自分らしいライブを披露してくれるのか、今からとても楽しみです。にしなさん自身は、小さいときにはどんな女性に憧れていましたか?


にしな:憧れていた女性像というのは特になくて、正直に言うと思春期には自分が女性らしくなっていくことが恥ずかしかったのを覚えています。それが嫌だという訳ではなく、体の変化などが照れ臭かったんでしょうか。なんだか不思議な感じでしたね。ただ男女問わずミュージシャンには憧れていました。歌うことは好きだけれど人前に立つのは恥ずかしかったので、堂々とパフォーマンスをするミュージシャンが当時の私にはとてもカッコよく見えたんです。

――その憧れていた存在に、今ご自分がなっているのはすごいことですね。


にしな:とてもありがたいですよね。今の自分自身のことは、けっこう気に入っているんです。

――それはとても素敵なことですね。中にはコンプレックスが強くて自分自身を認められない人もいるとは思うのですが……。


にしな:そうですよね。私自身も「気に入っている」と言いながらも、もちろんコンプレックスもたくさんあるんですよ。男女を問わず、日本では「痩せているほうが良い」などビジュアルに対するあらゆる理想の条件が強く残っていますよね。「自分をもっと好きになるために、もっとこうありたい」と変化を望むのは良いと思うけれど、その前にまず今の自分を認めてあげてほしい。幸い、今私はメッセージを伝えられるお仕事をしているから、「自分がちゃんと自分を愛するべきだ」と伝えたいと思っているんです。

環境を変えれば常識も変化する それに気付くと自分を認められる

――なるほど、人に「伝えたい」と思うメッセージが自分にも返ってきているような面もあるのでしょうか。何か、自分自身を気に入った状態を続けていくコツのようなものはあると思いますか。


にしな:例えば「痩せているほうが綺麗」というような考え方も、育ってきた文化の影響だったり他人から与えられた思考ですよね。違う国ではまた違うものが美しいとされているかもしれないし、一見して常識とされているようなことでも必ずしもどこでも絶対正解という訳じゃないと思うんです。だからその常識を一度疑ってみるために、環境を変えるのも大切だと思います。

――今いる自分の世界が全てだと思わないようにするということですかね。にしなさん自身は、どうやってその考え方を導き出したんでしょうか。


にしな:私は昔からちょっとひねくれているところがあるので、物事を違う角度で見てみる癖がついているのかもしれません。例えば自分のことが気に入られていないような状態だったとしても、他人に否定されたら「なんであなたにそんなこと言われなきゃいけないの」って、逆に自分では肯定したくなったり……具体的なエピソードが出てこないけれど、何かコンプレックスを刺激されるようなことがあったら、それをきっかけに自分自身を認めてあげようという方向に意識が向かっていくようなところがあるんです。

――他人が認めてくれないからこそ、自分が自分を認めてあげる。そう考えられるようになると、周囲のノイズの聞こえ方も変わってきそうですね。では、音楽活動において“女性であること”は何か影響はあると思いますか?


にしな:「ないです」と言いたいけれど、何かしらの影響はあると思います。自分が「にしな」と名乗っているのは、あまり性別を限定したくなかったから。性別に引っ張られるのではなく自分らしさを大切にしたかったという意図があります。

――「にしな」を名乗り始めてから思考の変化もあったように感じられますが、自分の個性を認めて大切にする意識はどのようにして育まれたのでしょうか。


にしな:どういう経緯なんですかね……心が成長したということだと思うんですけれど。年齢を重ねていく中で分かってきた事柄もあると思います。「自分はこういうものだ」というのが幼い頃からハッキリしている人もいれば、私のように経験を重ねるうちにだんだんと理解を深めていくタイプの人もいますよね。ここ最近は特に、自分自身の内面が形成されていく感覚が強いんです。

ガッツリ落ちた時期を経て、 また歌うのが楽しくなった

――最近は良い変化のときなのですね。考えがアップデートされるのはどんなときでしょうか。


にしな:1回ガッツリ落ち込んだときですかね。私の場合は本格的に活動を始めた1年目が新型コロナウイルスの流行とも重なっていて、ライブ活動や曲の発表もままならず、ただ制作だけ粛々と続けなくてはいけない時期がありました。やってもやっても手応えが感じられなくて辛くて行き詰まってしまい「もう無理、続けられない」と思ったことも。でもそういう時期にマネージャーさんに心境を共有して、制作から離れてダラダラしてみたり、思いっきり遊んでみたりして一度ガッツリ落ちるところまで落ちたら、また「歌いたい」と思えるようになりました。パタリと辞めずにどうにか続けていくことでなんとかトンネルから抜け出せて、また歌うことが楽しいと思えるようになったんです。今振り返ると、良い経験になったと思います。

――なるほど。落ちるところまで落ちるのにも勇気もいるような気がしますが……。


にしな:そうですね、ただそのときは限界だったんだと思います。あとは、中学生くらいのときに読んだ本で「自分は何のために存在しているんだろう」という悩みに対して「みんなが一度はぶつかるような悩みだけれど、考えても仕方がないよ」というようなことが書いてあって。まさに私自身が近いことを考えていたので、「え、みんな似たような悩みがあるの!?」と驚きました。渦中にいると気が付けなくても、離れてみると見えてくるものがある。視点を変えて、俯瞰してみる大切さに気が付いてからは、思考回路がちょっと変わりました。物の見方は1つじゃなくて、上から見たり下から見たり、楽な見方を探してもいいんだなって。

――小さい頃から憧れていたミュージシャンという道に歩みを進めることには、迷いや躊躇はなかったのでしょうか。自分自身を気に入っていない人や一歩踏み出す勇気が出ない人に何か声をかけるとしたら?


にしな:不安はあったけれど、迷いはなかったですね。「こうなりたい」と思っている時間も長かったから、せっかく得たチャンスを手放すわけはないだろうという気持ち。あとはさっきお話しした通り、視点を変えてみること。右を選ぶか左を選ぶかで死ぬ訳じゃないし、案外踏み出せないと思っている一歩は大したことないかもしれない。その小さな一歩を踏み出したら、意外と大きな変化に繋がるかもしれないし……自分を気に入らない人に対しても、内面でも外見でも1つでいいから好きになれそうな部分を見つけること。1つ見つかったらそれを大切にしていく方法を、輝かせるための方法を考えると良いと思います。

――最後の質問です。この企画は、Billboard JAPANのチャートにおいて毎年男性が過半数を占めていることをきっかけにスタートしました。これについて、にしなさんの感想を聞かせてください。


にしな:このインタビューのお話をいただくまでは、その事実に全く気が付くことはありませんでした。私自身男性ボーカルの作品ばかり聴いていた時期もあるし、女性が男性を応援する力が強い結果かもしれないし、そこまで悲観しなくても良いかもしれないと思うんです。男性ファンが多くて女性ファンが参加しづらいムードがあったらもったいないけれど、今回の【Billboard JAPAN Women In Music vol.1】のようなイベントも開催されるようになってきましたし、今はSNSで曲を聴いてもらう機会もたくさんあります。今後、性別関係なく誰もが自由に好きな音楽と出会えるチャンスが増えていくと良いですよね。

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