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<来日インタビュー>Ink Waruntornがタイでシンセ・ポップを牽引、日本で挑戦したいこととは

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 母国タイで“シンセ・ポップの女王”と呼ばれ、押しも押されぬ人気を誇るInk Waruntorn(イン・ワラントーン)が【SUMMER SONIC 2023】出演のため来日した。2016年のデビュー以来、ミュージック・ビデオの再生回数はYouTubeで3億回超え、タイSpotifyでは2021年に最も再生された女性アーティストに輝き、1万人クラスのアリーナ会場をソールドアウト。今やタイで3本の指に入る女性アーティストの座にまで上り詰めた。昨年は全曲を日本語で歌ったEP『Bloom.』をリリースして来日。今年7月には再び日本語に挑戦したシングル「Eye's Don't Lie (JP Ver.) 」を発表。タイのビッグスターがなぜ日本語で歌ったり、日本で活動を積極的に繰り広げるのか。シンセ・ポップやシティ・ポップへの拘り、タイの音楽事情なども併せて話を聞いた。(Interview & Text:村上ひさし / Photo:岩田えり )

9か月ぶりの来日公演を終えて

――昨年の秋にもインタビューをさせてもらったのですが、あれから9か月。日本の夏はいかがですか?

Ink Waruntorn:タイとほとんど変わらない暑さですよね。でもタイでは、この暑さが1年中続いてますから(笑)。


――先週末の【SUMMER SONIC 2023】に出演した感想から教えてください。

Ink:はい、ものすごく楽しくて、ものすごく感激しました。大きなステージに立つのは久しぶりだったので少し緊張していたのですが、一旦ステージに出たら、日本のみなさんが温かく迎えてくれて。すごく嬉しかったです。みなさんすごく盛り上がってくれて、“カワイイ”でした。東京と大阪の2日間出演させてもらったのですが、日本のみなさんからポジティブなエネルギーをもらった気がします。日本ではオーディエンスがあまりスマホで撮影しないのも、いいですね。私はパフォーマンスに集中できたし、みなさんもその瞬間を楽しんでいるようで、とても素敵だと思いました。



――今回は日本語で何曲歌われましたか?

Ink:2曲歌わせてもらいました。THREE 1989のShoheyさんがゲストで出演してくださって、一緒にデュエットした「Last Train」、それと新曲の「Eye's Don't Lie」も日本語で披露しました。


――去年の来日時の単独ライブも観せてもらったのですが、どうやって日本語の歌詞を記憶しているのですか? ずっと気になっていたのですが(笑)。

Ink:アハハハ、そうですよね。でも日本語の歌詞は、レコーディングの時から意味と併せてしっかり教えてもらいながら歌っているので、メロディと一緒に暗記している感じです。けっこう、ちゃんと覚えているんです。ただ、日本語のMCなどの喋りは少し不安なので一応カンペを用意しています(笑)。とはいえ、結局は全然見ないで喋ってますね。持ってると安心という感じです。



――新曲「Eye's Don't Lie (JP Ver.) 」も日本語です。今回、この曲を日本語で歌ってみようと思った理由というのは?

Ink:オリジナルのタイ語バージョンもあって、タイでけっこう人気の曲だったんです。シティ・ポップ風の曲調なので、日本語で歌ったら合うんじゃないかと思って。実際歌ってみたら、メロディ的にも日本語がピッタリ。出来上がりにも満足しています。





「Eye's Don't Lie (JP Ver.) 」ミュージック・ビデオ


――“何考えてるか行ってよぉ。でも一度もないとよ”という歌詞が気になったのですが、“〜とよ”というのは方言ですよね?

Ink:そうなんですか? 私もよくわかってなくて、日本語詞付けてくださった方が、オリジナルのタイ語のニュアンスに合わせてくれたのだと思います。タイ語バージョンも、ちょっと”あれ?”という感じで引っかかる部分なんです。捻くれた言い方をしていて。だから、そのあたりの感じを日本語でも表現してくれたのかなと思います。


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「日本での活動は、ある意味初心に戻ったかのよう」


――昨年発表された日本語のEP『bloom.』は、CD、LPともにソールドアウトとなりました。

Ink:ええ、とても驚きました。5年前に出演したタイフェスで来日してから、ずっと日本で何かできないか、何かしたいと思い続けてきたので感激もひとしおです。日本の音楽マーケットはすごく巨大ですし、国内アーティストが主流です。外からやってきた私の音楽を聴いてくれる人がいるのだろうか? と半信半疑でしたし、不安もいっぱいでした。でも、あのEPを求めてくださる方がこんなに多くいて、とにかく驚きました。それに昨夜も【サマソニ】の後にみんなで食事をしていたら、そのお店で「Eyes Don’t Lie」が掛かっていたんです! もう嬉しくて、すごく興奮しました(笑)。


――YouTubeにアップされた昨年の日本ツアーのドキュメンタリー映像『EP.1 The 1st “Bloom”in Japan』を観せてもらいました。後半のチャプターで少し神妙な表情でインタビューに答えていらっしゃいましたよね。

Ink:あれは東京でのライブを終えた直後で、ステージを降りてすぐに感想を聞かれて、あまりも感激していて…それに涙ぐんでいたんです(苦笑)。あのライブは本当に特別な体験でした。日本での初めてのワンマンを、ファンのみなさん、スタッフのみなさん、私のチームのみんなの協力で、やり終えたという感謝の気持ちでいっぱいでした。みんなと一緒にここまで来れたという喜びで胸が張り裂けそうでした(笑)。





「Eyes Don’t Lie (JP VER.)」


――母国タイでは1万人クラスの会場をソールドアウトにしているほどの大スターです。日本とのギャップというのは?

Ink:そうですね、日本での活動は、ある意味初心に戻ったかのようでもあり、すごく新鮮に感じています。確かにタイでは、もう7年も活動していて、顔も名前も音楽もよく知られていると思います。でも、その反面少しルーティーンぽく感じことがあります。アリーナツアーは私にとっても特別でしたが、他は大体予想がついてしまったり…その点、日本での活動やライブのオーディエンスのリアクションは、まったく予測がつきません。少しドキドキ。そのチャレンジしている感じがすごく刺激になります。もっとチャンレジしたい、もっと上手くなりたいという向上心や初心が蘇る感じです。


――元々80〜90年代のシンセ・ポップの影響を受けて活動を始められています。この数年間は世界的にもシティ・ポップがブームになっていますが、その恩恵も受けていると思われますか?

Ink:世界的な動向は私には語れませんが、タイに関しては、私が活動を始めた7年前を振り返ると、シンセ・ポップやシティ・ポップをやっているアーティストは、あまりいなかったと記憶しています。2〜3のグループぐらいで。ただ私はブームなどと関係なく、こういったジャンルの音楽をやりたくて始めていたので、いい意味でみんなに刺激を与えたのかな、火付け役になったのかなという気もしています。その後、70〜80年代的なメロディーのグループが多く登場しました。みんな若いんですよね。シンセ・ポップをやる若いグループ、シンガーを目にします。


――あなたにとってシンセ・ポップの魅力とは?

Ink:シンセっていろんな音が出せるじゃないですか。多彩なサウンドを出すことができますよね。ピアノのようにひとつの音色ではなく、サウンドのバリエーションがとても幅広くて、さまざまなタイプの音楽に使えます。自然な形で導入することができます。シンセの音色を少しだけ変えることで、ガラッと曲のイメージが変わったり。いろんなことが可能です。だから多くのアーティストがシンセ・ポップを導入しているのではないかと思います。それにタイのリスナーはジャンルを気にせず、いろんな音楽を聴く人が多いです。だからどんな音楽にも使えるシンセは、アーティストにとっても魅力的だと思います。



――ずっと赤いキーボードを愛用されていますよね。

Ink:はい、ローランドの製品で、ムーデイという名で呼ばれています。タイ語で“赤い豚”っていう意味なので、私のファンは“赤い豚のお友達”と呼ばれています(笑)。デビューシングルを出した7年前から使っているので、ずっと一緒に活動してきた朋友です。だけど、さすがにもうボロボロ(笑)。限定モデルなので故障すると困るのですが、なんとか修理に修理を重ねて使っています。いろんな機能が付いていて、私の楽曲によく使われる“ベル”という音色も、このキーボードで出しています。あとボコーダーなども使えます。


――今後も日本語で歌われる予定ですか?

Ink:はい、もちろん。日本に来る度にいろんな可能性を感じて、チャレンジしたい気持ちが湧き上がります。計画やアイデアも自然と浮かんできます。でも、みなさんともっと自然にコミュニケーションが取れるようになりたいので、まずは日本語の勉強をしたいと思っています。日本が自由に話せれば、もっと活動の場が広がるのではないかと期待しています。


――是非とも期待しています。そろそろニューアルバムの準備に取り掛かっていますか?

Ink:ニューアルバムは来年のリリースを考えています。もう制作に取り掛かっていて、全曲がタイ語になる予定です。でも同時に日本語のシングルもリリースしたいと考えています。今回の「Eye's Don't Lie (JP Ver.) 」のようにタイ語で歌っていた曲を、新たに日本語で歌ったりも計画しています。



――コラボしてみたい日本のアーティストはいますか?

Ink:YOASOBIとコラボしたいですね。具体的な話があるわけじゃないですが、やはり海外にも目が向いているアーティストと一緒に何かできればと思います。異なる国のアーティストのファン同志が、曲を介してお互いに親しくなって、国境を超えて交流できるような、そんなきっかけになれればと願っています。


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