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<インタビュー>Billboard International Power Players vol.5 藤倉尚 ユニバーサルミュージック合同会社 社長兼CEO

インタビューバナー

 米Billboard誌が、アメリカ以外の国で音楽ビジネスの成功を牽引しているリーダーを称える【Billboard International Power Players】。各国から音楽業界を牽引するリーダーが選ばれた中、ユニバーサル ミュージックCEOの藤倉尚氏が3年連続4度目に選出された。今回、本選出を記念し藤倉氏へインタビュー。ユニバーサルミュージックグループにおいて、日本が期待されていることや、グローバルヒットを生むためのチャレンジについて話を聞いた。(Interview: 礒崎 誠二/高嶋 直子 l Text: 高嶋 直子 l Photo: 辰巳隆二)

常に「Your turn.(次は、あなたの番ね)」と言われています

――King & Princeのミリオン達成などが評価され、今年も4度目の選出となりました。King & Princeはシングル『Life goes on/We are young』、アルバム『Mr.5』ともに初週100万枚以上を売り上げています。CDのミリオンセラーという結果は、ユニバーサルミュージックグループ(UMG)全体で、どのように評価されていますか。

藤倉尚:アメリカやヨーロッパのように日本より早くストリーミングが浸透した国は、その次のビジネスについて考えるフェーズがきています。そんな中、CDがここまで売れるんだという結果は、UMG全体にとって大きな驚きや気づきがありました。CDやアナログ盤など、私たちがフィジカル商品と呼ぶ、実際に手に取っていただける作品は、どんどん進化していますよね。ですので、日本のさまざまな取り組みを含めてフィジカル商品の良さについて話す機会はとても増えました。King & Princeの実績は、数字のインパクトとともに音楽を所有することの可能性を、グローバル全体で考えるきっかけを与えてくれたと思っています。

 UMGでは、四半期毎にグループ全体のトップセラーアーティストが発表されるのですが、King & Princeはテイラー・スウィフトやポスト・マローンらと並んで常に名前が挙がっています。2023年は上半期でトップアーティストとなり、UMG全体の中でも主要アーティストのうちの一組として評価されていますね。



▲「Life goes on」MV / King & Prince

――素晴らしいですね。

藤倉:ありがとうございます。


――UMGにおいて、ユニバーサルミュージックジャパンが期待されていることは何ですか。

藤倉:これはもちろん日本に限ったことではありませんが、「グローバルスターを生み出すこと」ですね。これまではアメリカでレーベルと契約し、北米やヨーロッパで売れるアーティストがグローバルスターだとされてきました。ですが、今はご存じの通りバッド・バニーやBTSなど英語圏以外の出身のアーティストが世界各国で1位を獲得しています。なので、グローバルの会議では常に「Your turn.(次は、あなたの番ね)」と言われています。


――日本への期待は、ここ数年特に高まってきているのでしょうか。

藤倉:日本は音楽マーケットが世界2位ですし、常に期待され注目もされています。今、世界中で音楽を楽しむツールとして、ストリーミングサービスが広く浸透していますが、日本はCDも強いという独自性も持っています。UMGにはグローバルのビジネス戦略が存在する一方、各国それぞれの戦略も尊重されています。我々も日本の強みを活かしながら、グローバルヒットとなる作品づくりを目指していくつもりです。


――グローバルスターを生み出すための、日本ならではの戦略とはなんでしょうか。

藤倉:今は4パターンに分けて考えています。1つは、BTSのようにファンダムと共にスターになっていくアーティスト。2つ目は、IP型と呼んでいますが映像作品とシンクロしてヒットしていくケースです。少し前であればRADWIMPSと『君の名は。』とか、昨年から今年にかけてのAdoと『ONE PIECE FILM RED』、上原ひろみと『BLUE GIANT』ですね。3つ目は、藤井風やimaseのようにローカルのSNSやUGC(ユーザー生成コンテンツ)でのバズからヒットにつながるケースです。藤井風は「死ぬのがいいわ」がタイでUGCを通じて話題となり、タイから南アジア、インド、ヨーロッパ、アメリカへと広がっていきました。imaseは、「NIGHT DANCER」がBTSのジョングクやStray Kidsを通じて広がり、今や日本より韓国での知名度の方が高いくらいです。



▲「NIGHTDANCER」 MV / imase

藤倉:そして最後は、我々が「Functional Music」と呼ぶカテゴリーですね。久石譲が世界的に聴かれているようなケースです。ストリーミングというサービスでは、プレイリストを使ってアーティスト名を意識せずに楽曲を楽しんでいらっしゃる方も多くいらっしゃると思います。その傾向は特に海外では顕著で、久石譲の作品は日本国内で本格的にストリーミングサービスが浸透する前から「Sleep」や「Focus」など、その日の気分や目的によって選ばれる様々なプレイリストを通じて世界中で聴かれていました。言葉の壁がないインストゥルメンタルだったのも功を奏して、久石譲というアーティストの認知を押し上げ、2023年の6月にドイツ・グラモフォンから発表したアルバム『A Symphonic Celebration - Music from the Studio Ghibli films of Hayao Miyazaki』は2023年7月15日付の米ビルボードClassical Albumsと、Classical Crossover Albumsの2つのチャートで首位を獲得することができました。

 作品を世界に届ける方法は確実に増えてきていますので、今現在はこの4つですが、どんどん変化していくのだろうなと思っています。


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日本にチャンスがあるということは、世界中の誰しもにチャンスがあるということ

――御社には海外への輸出を専門とするエクスポートマーケティングという部署があります。藤井風やimaseのような、ローカルで火種が生まれるケースにおいては、特に強みを発揮する部署なのではないでしょうか。

藤倉:我々が契約しているアーティストの国内外の動きは、リアルタイムに社内で共有できるようにしていますし、定期的にグローバルのトップが集まって、各国の戦略や成功を共有する場も設けられています。ですので日本のアーティストや、楽曲のヒットへの道筋がこれまで以上に増えていると感じています。


――SpotifyやNetflixなど、グローバルで使えるストリーミングサービスが一気に浸透したことも、非常に大きな要因なのではないでしょうか。日本の音楽を世界に届けることができ、世界中が同じタイミングで新作を見たり聞いたりできることで、タイムラグなく世界で大きな熱狂を生むことができるようになりました。

藤倉:ただ、日本にチャンスがあるということは、世界中の誰しもにチャンスがあるということですから。ストリーミングが浸透したとしてもグローバルでヒットを生むということは、非常に難しいチャレンジであることに変わりません。中国やインドなどは人口14億人を超える市場ですし、どの国も自国のアーティストを愛する傾向は強いです。ですが、そういった壁をも超えていくのがスーパースターだと思いますし、アーティストの持つ力といった原点は忘れてはいけないと思っています。戦略やマーケティングなどの戦術よりも、まずはアーティストの才能と良い作品がないと広がりませんから。


――ユニバーサルミュージックはグローバルで展開する音楽会社ですから、日本以外のUMGに所属するアーティストを日本でもヒットさせるという使命もありますね。

藤倉:そうですね。2~30年前までは日本でのリリースの割合は洋楽が約30%、邦楽が約70%程度だったと思いますが、今は日本および韓国の楽曲が約90%以上を占めています。アメリカでヒットしていれば、日本でもヒットするというのは30年前の話です。ただし先ほどお話した、邦楽をグローバルに展開するための「IP型」や「UGC」などの手法は、逆に洋楽を国内で展開する際にも有効だと考えており、近々具体化されていくことになると思います。


――少し話が変わりますが、アメリカでは2007年から、日本では昨年から音楽業界におけるジェンダーギャップを埋めるために【Billboard Women In Music】という取り組みを行っています。ビルボードにチャートインする楽曲の男女比を比べると、常に男性が多いという状況に対して、どのように感じておられますか。

藤倉:我々は、豊かな才能を探して世の中に届けることだけを考えているので、性別を意識したことは全くありません。チャートには、ファンダムのような結束力が影響しやすいので、女性のファンダムに多く支持されている男性グループが上位を獲得しやすいのではないでしょうか。アーティスト契約の際に、意図的に性別で分けたりすることはありません。


――ただチャートを見ていると、100位以下には女性アーティストも数多くチャートインしているのですが、20位圏内となると男性が多いのが現状です。チャートは、自分の知らない曲やアーティストと出会う場でもありますので、先日からHot100から女性アーティストだけをピックアップしたプレイリストを、Spotifyさんとスタートしました。

藤倉:人種やジェンダーの壁というのは、すぐになくなるものではありませんし、国によって歴史的な背景も文化も大きく異なります。ですが、世界中で起こっていることや課題などを、音楽やスポーツをきっかけに知ることは重要だと思います。なのでビルボードさんの取り組みなどを通じて、一人一人の意識が変わっていくことが重要だなと思いますね。




――ありがとうございます。日本も世界もストリーミングの売上増によって音楽マーケットのプラス成長が続いています。ただストリーミングの伸び率は鈍化していて、新しい市場の開拓も始まってきています。御社の今後の動きをお伺いできますでしょうか。

藤倉:我々はいつの時代もアーティストの才能を見出して、世の中に届けていくということを愚直にやってきました。ストリーミングの伸びが鈍化したとはいえ、日本はサービス開始が遅かったので、アメリカなどと比べるとまだまだ成長の余地もありますし、冒頭に申し上げた通り、日本にはフィジカルという武器もあります。日本の音楽マーケットにはまだまだ伸びしろがあると感じていますね。

 私は今、50代で初めて買った音楽作品はアナログ盤です。そこからカセット、CD、ダウンロード、ストリーミングへとテクノロジーの進化とともに、音楽を届けるためのフォーマットも変化してきました。この先もテクノロジーが進化し、新しい製品やサービスが生まれてくるでしょう。そうなっても変わらないのは、世界中の人がワクワクするような才能がどこかに存在するということ。我々は、そういったアーティストを発掘し、価値をより高めて世の中に届けるのが仕事です。抽象的な言い方になりますが、届け方が変わってもアーティストの価値や魅力を伝え続けることに、尽力していきたいと思っています。


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