Special
<インタビュー>女王蜂 “アヴちゃん”としてはじめて語る「メフィスト」、そして世界を視野に入れた“これから”に迫る
Interview & Text:Itsuki Mori
メガヒットアニメ『【推しの子】』のエンディング主題歌として起用された、女王蜂の「メフィスト」がロングヒットしている。YouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』では、地獄のアイドル=ぁゔちが歌う「メフィスト」の動画が、アップから1週間を経ずに457万回再生を叩き出した。これまではどのメディアでも「メフィスト」についてはアヴちゃんではなく、ぁゔちがインタビュイーとして質問に答える形だったが、今回Billboard JAPANではじめて、女王蜂の中核であり、「メフィスト」の作詞/作曲者であるアヴちゃん(Vo.)が登場。『【推しの子】』と「メフィスト」のみならず、バンドの在り方、そして本格的にスタートする世界進出についてなど、様々な角度から話を聞いた。
ひどいくらいに真実を書いたのに、これだけ受け入れられている状況は驚き
――これまで、「メフィスト」の取材は地獄のアイドル=ぁゔちさんが担当していましたが、今回はアヴちゃんから直接、お話いただけるということで。
アヴちゃん:ぁゔち、まだどこかを彷徨っているらしいです。でも、もう喋るのは飽きたって言っていました。
――(笑)。アニメ『【推しの子】』のエンディングテーマとなった「メフィスト」、大きな盛り上がりを見せていますね。
アヴちゃん:きっといろんな方に「メフィスト」で知っていただけたと思いますし、それ以上に、名前は知ってはいたけれど、「やっぱり女王蜂、ヤバかったんだ」と改めて感じてくださった方が多い気がしています。それと、赤坂アカ先生や横槍メンゴ先生といった原作者の方たちや、アニメのクリエイターのみなさんも絶賛してくださって、それはすごく素敵な出来事でした。わたしたちのこれまでの生き様を評価してもらえたような、不思議な感覚があります。
――改めてバンドの凄みを認識できる契機になったのかもしれません。
アヴちゃん:そうですね。これだけ聴いてくださっている方がいる、ということがすべてだと思います。女王蜂というバンドの火を自分たちで灯し続けてきたなかで、少し大きなものがくべられた機会にはなりましたね。でも、ここで燃え尽きることはなく、何か別の目的のためにそれを伝播させていこうと意気込んでいるわけでもない。妙な高揚もなく、これからも粛々とやっていくだけですね。
――そこで浮足立つようなこともなく。
アヴちゃん:『【推しの子】』とならば相乗効果になるのがわかっていました。そこに対してのありがたさがあります。でも、わたしたちはあくまで面白いもの、素敵だと思うものだけをやってきていて、今後もそれは変わらない。一方で、ひどいくらいに真実を書いた「メフィスト」がこれだけ受け入れられている状況は驚きです。アイドルだけじゃなくて、どんな仕事にも当てはまる内容だし、仕事に対する命の賭け方や、「一回始めたらもう逃げられない」という事実をあられもない言葉で書き切ったこの曲が、「歌ってみた」や「踊ってみた」として楽しんでもらえているとしたら、それはもう大変な事態だなって。
――先日、放送が終了したアニメ『【推しの子】』の感想も聞かせてください。
アヴちゃん:これだけ社会現象になっているアニメ版を、原作者のおふたりが楽しんでいることはとってもすてきなことだと思います。ただ、実際に『【推しの子】』で描かれているのは、芸能界を舞台とした“世直し”というシビアなもので。それが海外でもヒットしていて、「日本、面白いね」と言われているのはすごく皮肉。でも、作品を作っている人たちは愛に溢れているし、わたしたちの音楽もその一部になれているのが一種の救いなのかなと思います。
――制作側の愛と情熱が、社会の“世直し”というシリアスな内容を救いあるものにしていると。
アヴちゃん:そうですね。芸能界にいる人に対して、「表舞台に立ってるんだから我慢しなさいよ」とか、すぐ別の世界の話のようにしたがる人がいますよね? でも、『【推しの子】』は「みんなの話をしてるんだけど?」って直接問いかけている作品だし、(視聴者に)戦いを挑んでいると思います。でも、戦いとして見ていない人も多いから、これだけ流行っている側面もあるのかしら。
【推しの子】を彩った「メフィスト」の熱量
――「メフィスト」は、ドイツの伝説に登場する願いの悪魔の名前であり、ゲーテが書いた戯曲『ファウスト』にも登場します。以前から楽曲の構想自体はあったそうですね。
アヴちゃん:タイアップが決まったときから「メフィスト」というテーマは合うなと思いました。絶対にかっこいいものになる予感がしたし、エンディングになる嬉しさで涙が出たほどの確信がありました。モチーフは古典から引っ張ってきたという感覚と、ゲーテと同じように幼い頃から嗜んでいた永井豪や三島由紀夫、シェイクスピアの戯曲といった、人間の業や熱量を濃密に描き出してきた作家の影響もあります。例えば、村上龍の『コインロッカー・ベイビーズ』にある爆音感のある文章に惹かれてきたし、わたしはそういうテイストのものが根源に流れているように思います。
――人間の業や熱量を、音楽で表現することですね。
アヴちゃん:さっき挙げたような作家たちの作品と同じような熱量を『【推しの子】』に感じるので、「メフィスト」が適役でした。ただ、作品にある情報よりも熱を抽出した楽曲だったので、ここまで意図を汲んでくださる方が多いとは思わなかったです。
――YOASOBIの「アイドル」が作品の世界を横に広げてくれる楽曲だとしたら、「メフィスト」は奥行きを与えているように思えます。
アヴちゃん:嬉しいですね。ひとつの作品から文脈を見出すのがわたしたちの特技なので。ホント、YOASOBIと女王蜂、今回はお互い大爆発してるもの(笑)。もっと曲のテイストが似ていたら、こうはならなかったと思います。
――サウンド面も、作品を熱量や文脈を読み取ることを意識しながら構築されたのでしょうか。
アヴちゃん:作り方とか、具体的な部分はなかなか説明しづらいですけど、そこは戦って戦って、音で出せたかもしれない。納品したのは1年半以上前だから、今となってはもっとできたんじゃないかという気持ちもあります。ただ、ぁゔちが歌ってくれているので、わたしは客観視できているところはありますね。
――なるほど。
アヴちゃん:わたし自身として「メフィスト」を歌う機会もありそうなのですが、どう響いてゆくんだろうって思いますね。ぁゔちが歌うことで可愛らしく地獄を表現できていたけれど、わたしがやるとみんな怖くて凍っちゃうかも(笑)。もしかしたら、ぁゔちだから伝えられた曲なのかもしれない。
――楽曲そのものもそうですが、MVも『【推しの子】』にインスパイアされたドラマ仕立てになっているのもポイントですよね。
アヴちゃん:アイデアはすべてわたしが出して、そこから監督と一緒に作っていきました。他のメンバーもあんなに良いお芝居ができちゃうから(笑)!
「メフィスト」MV / 女王蜂
――人前に立つ上で、演技をしているという認識が基本にあるんですね。
アヴちゃん:自分にとって演技は憑依と同じなんです。様々な人物を憑依させたことで伸びた枝から、新しい楽曲や発想も生まれる。演技っていう手法はクリエイティブそのものだと思っています。
――演技はアヴちゃんにとって、自身のクリエイティブを司るものだと。
アヴちゃん:だから、演技は自分に嘘を付くということではなくて、憧れを憑依させて、自分の表現を獲得していくことだと思っています。わたしも、三島由紀夫と村上龍と『デビルマン』、そしてPerfumeに憧れた結果、この仕上がりを目指したのかも、だし。
――憧れを消化させて、自分なりのクリエイティブを生み出していく。
アヴちゃん:ただの真似事じゃなくて、憧れに共鳴して、自分の本質を見極めるというか。わたしだったら、“痛み”で繋がりたいと思ったから、喰らうものしか作りたくない。それを美しさにして、スターダムにのし上がれるようにしたいですね。
わたしは人種のるつぼを担える人間だという自覚はある
――スターダムに上がりたいという話に関連するのですが、 今年の4月にアメリカで2本、ライブを開催しています。海外進出を本格的に視野に入れているのでしょうか?
アヴちゃん:もともとはあまり考えていませんでした。わたしは日本語がすごく好きで、日本語で歌っていくことが大事だと思っていたし、それと同じように英語で詞を書く戦いをまた一からやるとなると、それは悩む部分ではありました。
――ただ、以前は英語詞が必須だった北米圏も状況が変わりつつあり、母国語で勝負することも難しくなくなってきました。
アヴちゃん:うん。日本語の熱量や強さもパスポートになるかもしれないと思ったのが、春にあったアメリカでのライブですね。シアトルとロサンゼルスでライブをしたのですが、普通に女王蜂としてできるライブをそこでしたら、会場がぶち上がったんですよ。
――日本語がわからない人たちも多くいたのにも関わらず。
アヴちゃん:そう。あとでライブを絶賛してくれた人たちが口を揃えて言っていたのが、「様々な人種の人がいたよ」ということ。年齢層も、おじいちゃんおばあちゃんからちびっ子までいて、それでこれだけ盛り上がるのなら、「女王蜂、海外でやっていかないといけないね」と思ったんです。もちろん、日本だけでやっていくこと自体が決して小さなことというわけではなくて。ただ、わたしは人種のるつぼを担える人間だという自覚はあるので。今回の2本のライブで、わたしが海外でやるべき理由がちょっと見えました。
――全人種がいる現場で、ステージに立つ人間であると。
アヴちゃん:わたしは自分の心をそのまま出すだけ。海外は海外でまだまだ大きな戦いがあるんでしょうけど、世界規模でカオスな部分が生まれることに今は期待しています。
――世界進出するということで、何かを変えるということも特にないですか?
アヴちゃん:変えたらバレちゃうでしょう? 特にわたしたちの場合は、人気を得るためにやり方を変えても何も残らないと思うし、そういったマーケティングはしたくない。
――それは女王蜂らしくないですよね。
アヴちゃん:わたしたちはそれができない良さがあると信じたい。
――実際に海外での公演予定もすでにあるそうですね。
アヴちゃん:決まりはじめていて、これからどんどん、世界にも出ていくと思います。
――一方で、日本でもフェスやイベント出演、さらに11月からはホールツアー【十二次元+01】も決まっています。
アヴちゃん:ライブでどのように見せるかは決まったので、今はそれを身体に落とし込んでいる段階です。やりたいことはまだまだあるし、常に挑戦するべきことを考えています。どんどん更新して、代謝を促して、脱皮していかないと死んじゃう気がして。その果てにどんな獣になっているのか。
――女王蜂としての進化論というか。
アヴちゃん:進化の最後は破綻だから、それもちょっと違っていて。新陳代謝の果てに何があるのか、そこに見通しを立てているわけでもないけれど、期待をもって臨んでいます。
――現状に満足せず、挑戦を続けていく女王蜂の存在が、励みになっている人も多いと思います。
アヴちゃん:考えてみても、2~3年前からつい最近までタイアップの話なんて全然なくて。でも、そのときも自分たちでMVを作ったり、女王蜂のことを常に考えながら動いていたから、こういうめぐり合わせに繋がったところがあると思います。結果として、今は「メフィスト」を楽しんでくれていますけど、この時間が華だとは思わないんです。わたしたちはどういう状況だろうと、ずっと板の上でやっていく――そこだけに腹をくくっています。
関連商品