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<インタビュー>和楽器バンドが完全装備で世に放つ最新アルバム『I vs I』



和楽器バンドインタビュー

Interview & Text: Mariko Ikitake
Photos: 興梠真穂

 和楽器バンドの約3年ぶりのオリジナル・アルバム『I vs I』が7月26日のCD発売に先がけて、全曲配信スタートした。戦いをテーマに、Netflixで世界全話一挙配信されるアニメ『範馬刃牙』(野人戦争編)やゲームアプリ『真 戦国炎舞–KIZNA–』、『スマパチ義風堂々!!~兼続と慶次~3』、ヴァンパイアと人間の葛藤を描いたTVアニメ『MARS RED』といったタイアップ曲から、戦いのその後に焦点をあてた楽曲まで、彼らの真骨頂である和×ロックサウンドが随所に散りばめられている。

 2020年8月発表の前作『TOKYO SINGING』から現在まで、様々な変化がありながらも、和楽器バンドはライブは止めなかった。CD発売の3日後にスタートするツアー【和楽器バンド Japan Tour 2023 I vs I】に向けて、気合いも気持ちも高まっている和楽器バンドから鈴華ゆう子、黒流、蜷川べに、町屋の4人に本アルバムに込めた思いを聞いた。

左から:黒流、蜷川べに、鈴華ゆう子、町屋

――『範馬刃牙』野人戦争編のオープニングを飾る、アルバムのスタートナンバー「The Beast」のイントロがとても新鮮で驚きました。町屋さんは『刃牙』シリーズの大ファンということで、喜びも楽曲に込めた思いもひとしおだったのでは?

町屋:そうですね。アニメで放送される部分の原作を読んでいたのでイメージもすぐつきました。ピクルというキャラクターを主人公にしたシリーズなので、ピクルにフォーカスを当てて、歌詞を書いています。「The Beast」の出だしの新しいアプローチにびっくりすると思うんですけど、そこからどう和楽器バンドのサウンドにつなげていくかは想像の範囲内でしたね。

鈴華ゆう子:アニメのオープニング・テーマということで、この曲は実は2年前に録った曲で、非常に男性色が強いアニメでもあるので、私がどう表現できるかをまっちー(町屋)と相談しました。下で支える感じの音域がいいんじゃないかという話になり、私のキーの中でもかなり低いほうで歌っています。作詞作曲を手掛けたまっちーの意図を汲み取って私なりに歌うことを意識しましたし、サビの英語が出てくる部分やニュアンス、勢いから強いイメージを受けました。

蜷川べに:今回のアルバムには和楽器バンドらしい楽曲と「Starlight」のようなデジタルサウンドが入った、ちょっと新しい試みの楽曲が織り交ぜられています。後半はタイアップのない楽曲が続きまして、それらも和楽器バンドらしい曲だと思っています。去年リリースした『ボカロ三昧2』は、ボーカロイドを和楽器で完璧に再現するために、速弾きができない音域があって難しかったんですけど、「The Beast」はそんなに苦労する部分はなく、三味線らしい、三味線だからできるフレーズを多用していて、三味線の良さをしっかり聞かせられる曲に仕上がっていると思います。

黒流:ロックの中に和楽器が入ってるところが僕たちの魅力の一つですし、「The Beast」は、そこがうまく活かされていると思います。僕も激しい音楽が好きで、和楽器バンドの初期の激しさがこの曲でも出せたと思ってます。この激しい曲でドラムとシンクロして、和太鼓の迫力がよりブーストしているところも魅力です。

 個人的な話なんですけど、実は、この『刃牙』のアニメの本編の劇伴チームに兄貴がいまして……本編で聞こえる和太鼓の音は僕の兄によるものなんですよ。今回、僕たちが主題歌を担当するので負けらんねぇなって。こういう形で兄と初めてクロスして感慨深い気持ちであるのと同時に、負けられない、カッコいいものを出したいって意識しました。作品をより盛り上げたいっていう気持ちもありますし、すごく記憶に残っている曲です。


――ここでもバトルがあるんですね。ちなみに、「The Beast」の出だしのささやきは皆さんの声ですか?

  

町屋:あれは全部、僕の声です。ケチャというインドネシア・バリの民族音楽があって、“ケ”と言う人もいれば、“チャ”って言う人、“チャッチャ”って言う人もいて、たくさんの人の“ケチャ”で成り立つ音楽なんです。ちゃんとしたケチャではないんですけど、大陸感のあるサウンドとして、ケチャを取り入れてみました。朝、目が覚めて、ふとケチャを思いついて、メモで録り始めたら、のめり込んじゃって17トラックもできまして。デモで作ったトラックをきれいに録り直すのもなんだか違うし、このデモの荒い感じが逆に生っぽくていいなと思って、デモをそのまま使っています。

――「The Beast」で魅せる連打は「藍より青し」でも発揮されていますね。

黒流:はい。まっちーが好き勝手やらせてくれますし、まっちーとディスカッションしながら作ることが多いので、作っていて楽しいですね。あと、全体的に久々に“オリャ”、“ソリャ”ってずっと言ってますね、僕。

蜷川:ここぞとばかりに。

黒流:自分で聞いてみて、うるさいなって思うんですけど、初期とは違い、抜き差しをちゃんと計算して叫んでいるので、それもまた面白いと思ってます。

――5曲目の「修羅ノ義」は“ワァ”で終わり、6曲目の「藍より青し」は“カッ”で始まりますよね。

鈴華:作曲したメンバーが違うので、たぶん黒流さんの声をみんな求めているんでしょうね。曲を作る時のイメージ素材みたいな(笑)。

黒流:山葵がデモを作る時、「ちょっと声入れてもらえますか?」って連絡がよく来ます(笑)。

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――町屋さんが作詞・作曲した「藍より青し」は『真 戦国炎舞–KIZNA–』の合戦テーマで、鈴華さんが書かれた「宵ノ花」は同ゲームのオープニング・テーマですね。

鈴華:戦いの曲が今回多いので、私はあえて儚さをちょっとだけ激しめの曲に入れ込みたいと思ったんです。また、内面の部分をメインに書こうと思った曲でもあります。私が去年、少しお休みする時間をいただいて、自分自身を見つめる戦いをしていた時期に書いた曲で、夢と現実、争いの激しい世界と母なる大地の合間を夢うつつに行き来しているような世界観で、母親の愛も感じさせつつ、命を懸けながら戦うことを歌っています。

――儚さは、9曲目の「そして、まほろば」でも描かれています。「そして、まほろば」と10曲目「時の方舟」は、戦いに敗れてしまった者の後の世界が描かれていて、「そして、まほろば」はこの世にいる方が逝ってしまった方に「いつか会いに行くから待っていてね」と伝えるラブソングのように感じました。

鈴華:アルバムの完成が近づいてきた頃に、バラードがないことに気づいて、この曲を作りました。作品の統一感として共有していたのが、まさに戦いの後の世界で、悲しみに溺れる時間が逆に癒やしになることもあると思って、現代を生きる人たちの支えになる、寄り添える曲を作りたかったんです。私はかなり早くに父を亡くしているのですが、見えていないだけで存在するっていう死生観を私は持っています。いつかまた会うために今を生き抜いて、今度会ったときに報告するというか。自分が立ち直る方法がそれだったので、そういう世界観を書くことが多いです。

蜷川:「砂漠の子守唄」とか「宛名のない手紙」とか、こういうバラードがゆうこりん(鈴華)は得意なんだなって自分のパートのアレンジをしながら思ってました。

黒流:バラードや雰囲気のある楽曲の“どーん”っていう空間音楽を僕が担当することが多いんですけど、「そして、まほろば」は、すごくリズムが複雑です。

鈴華:面白いですよね、あそこ。

町屋:「時の方舟」はドラムと和太鼓とベース、リズム隊がいないミニマムな編成で、戦った後の世界を俯瞰しているような感じで、自然のアンビエント音を入れたいと最初から思っていました。同じゆっくりな曲でも「そして、まほろば」とは全く方向性が違うものができたと思いますし、そのまま「BRAVE」にスムーズに渡せる曲になってると思います。

 アルバムの前半に戦いの楽曲をまとめて、後半は未来に向かって気持ちも前向きに、希望のほうへ持っていっています。美しく終わりたいと思っていたので、わりと早い段階で「BRAVE」が本編最後のナンバーだと決めていました。そこに向かって「Starlight (I vs I ver.)」からどうやって方向転換していくかを考えましたね。

鈴華:いい流れですよね。まほろばという言葉も希望の言葉ですし。

――<誰かが落としてった夢の片道切符>など、すごく切ないワードがあって、三味線の音色も美しかったです。

蜷川:前半の楽曲は三味線のフレーズを8分でバチバチ弾いていますけど、この楽曲はずっと2分で、ゆっくり船を漕いでいる感覚で弾きました。

町屋:箏と三味線のバランスがいいところにあって、ギターで支え、尺八がその上に乗っかるイメージがもともとあったので、箏と三味線はあらかじめ作り込みましたね。

蜷川:「そして、まほろば」はわりと自由度が高くて、「宛名のない手紙」だったり「砂漠の子守唄」とか、ゆうこりんが得意とするバラードをイメージして三味線パートをアレンジしています。

鈴華:私、バラードで出てくる三味線のいい具合のおどろおどろしさが好きなんです。ただリズムを打つような存在ではなく、ここぞというときに映えるサウンドが和楽器バンドならではのバラードだなって感じるんです。箏のタララランとか、箏らしいけどすごく映えるポイントは和楽器バンドでしか出せない部分ですね。

――違う作品のタイアップ曲を一つのアルバムとしてまとめることの難しさもあると思いますが、戦いを軸に見事にまとめられていて、これをライブで再現する皆さんの姿も想像できます。

蜷川:前半戦でちゃんと「これぞ和楽器バンド」みたいなものが出せて、逆に良かったよね。

町屋:今回は3年分のシングルが食い込んでいるので、「どうまとめようかな?」とは考えていたんですけど、うまくまとまりましたね。ただ、ライブでみんながヒイヒイ言ってるのが目に浮かぶ。

蜷川:去年とは全然違うよね。

鈴華:え、どこが?

町屋:だって全部早いんだもん。

蜷川:前半で息切れしちゃうよ。

黒流:早いし、長い。

鈴華:でも、ボカロより気は楽だよ。

町屋:ボカロは尺が短いけど、1曲1曲にそこそこのボリュームをかけて丁寧に作っていくのが和楽器バンドのベーシックなサウンドだよね。時代遅れって言われるかもしれないけど。

蜷川:そう思えるのは、去年『ボカロ三昧2』を出したからだと思います。トレンドというか、そこを攻め切ったというか。短くて速くて、弾くのも歌うのも大変なボカロをやり切ったからこそ、「やっぱりここ!」って原点回帰ができた気がしてます。

鈴華:和楽器バンドの楽曲は難しいってよく言われるんですけど、『ボカロ三昧2』の後は、どれも簡単に感じるというか、なんでも来いやって。いい経験でしたね。

黒流:最近、和の音が入ってる楽曲がかなり増えていますし、ロックと和楽器の融合は他では出せない僕らの強みだと思っているので、配信で単曲ずつ聞けちゃう時代ですが、ぜひアルバムとして最初から聞いてもらいたいです。

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コロナ前の和楽器バンドよりもいろんな部分で進化している

――本編のラストナンバー「BRAVE」はライブアンセムですね。前作『TOKYO SINGING』も「Singin’ for...」で締めていたので、3年という月日の変化を感じました。

蜷川:初めて「Singin’ for...」をライブで披露した時は、手を上げることしかできなくて。声出しをできるようになったことが、とにかくライブでは大きい部分だと思うので、「BRAVE」はがっつりみんなで歌える方向に持っていっています。コーラスはみんなでレコーディングしました。思ったより歌わされて、「山葵、めっちゃ歌わせるな」って思った(笑)。

鈴華:すごく山葵っぽい曲だよね。

蜷川:「みんな一緒に歌ってください」ってみんなを巻き込むスタイルは山葵らしい。それに「ようやくこれができるな」っていう感じです。

――コーラスや手拍子など、観客との掛け合いも楽しめると思います。これこそファンが待っていたものかなと。

町屋:山葵本人がこの曲の最後をどうやって終わろうか悩んでいて、最後は声だけで終わるのがいいんじゃないかと思って、あのアレンジになりました。

鈴華:ぜひ歌詞を覚えて一緒に歌ってほしいですし、覚えられなかった方は、もう一回ライブに来てください(笑)。

蜷川:思ったんだけど、アルバムが26日発売で、ツアーが始まるのが29日じゃないですか。「必死で叩き込まないと、みんな大変だよ」って言っておかないとね。

鈴華:間に合わないよね(笑)。

――山葵さんと黒流さんのバトルは今後も続けていくんですか?

黒流:もちろん。今回やっと声を出せますし、一体感のあるライブが僕らの初期からの魅力でもあると思ってるので、やっとピースがはまるというか、完全体のライブができるなっていう気はしますね。

蜷川:ハリセンを使ったり、拍手の大きさで勝負したり、いろんな試みをやってきましたよね。

――どういったライブにしていこうと考えていますか?

鈴華:皆さんが期待されているもの、飢えていた部分に対して、いっぱい返せるものがあるんじゃないかと個人的には思っています。戦いって言っているぐらいなので、刀でも振り回そうかな。

黒流:僕たちのことを名前しか知らない方も絶対に楽しめるパーツがそろってますし、和の静かな部分、ロックやバラードの部分を、全部完成した形でお見せできると思います。コロナ前の和楽器バンドよりもいろんな部分で進化しているので、僕らのライブを初めて見る方たちにもオススメしたいです。

蜷川:9公演しかないので、一つ一つ大事にやっていきたいですね。

――コロナが落ち着いて、海外からの観光客も増えてきましたし、皆さんの準備がまた整えば、海外公演の機会もあるのでは?

蜷川:ここからが和楽器バンドの本領を発揮できる時なんじゃないかなって思ってます。台湾とかインドネシアのファンの方も多くて、アジアツアーができたら行きたいですし、日本以外で待ってくれてる人たちに向けてライブだけじゃなくて、いろんな発信もしていきたいです。

――2020年8月に制限付きで初めて有観客アリーナ公演を行ったのが和楽器バンドでした。当時はとてもセンシティブな状況でしたが、今だから話せることはありますか?

鈴華:MCをする立場だったので、精神的にも不安だらけだったのは覚えてます。でも、「あのときにライブをやってくれてありがとうね」っていうお声をいただくたびに、結果としてあのタイミングでアリーナでやったことが、アーティストとしても、これから生きていく人生の中でも、忘れられない大きな体験として残っていくんだと、3年経ってもなお、強く思ってます。

――あれ以降、皆さんは全然ライブ活動を止めなかったですよね。

蜷川:そういうのも含めて、私たちは戦ってきたと思ってます。

鈴華:「やらなきゃダメなの?」って心配する人もいたんですけど、仲間がいるからこそやれたことですね。最初はマスクをずっとするのも大変だったのに、声を出さないことに慣れてしまった今、一気に声出しを解禁したら、今度は声の威力に気がつくことができました。コロナ前に当たり前だった状況に戻ってきているのに、今では違って見えるというこの過程は意味のあるものですね。

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和楽器バンド「戦-ikusa-/なでしこ桜」

2015/02/25

[Blu-ray Disc]

¥1,987(税込)

戦-ikusa-/なでしこ桜
和楽器バンド「戦-ikusa-/なでしこ桜」

2015/02/25

[DVD]

¥1,650(税込)