Billboard JAPAN


Special

<インタビュー>「シンデレラボーイ」がストリーミング4億回超え、初の紅白出場、メンバーの休養――激動の1年を経て、Saucy Dogが完成させた最新作『バットリアリー』を語る



インタビューバナー

 Billboard JAPANが注目するアーティスト・作品をマンスリーでピックアップするシリーズ“MONTHLY FEATURE”。今月は、今年で結成10周年を迎える3人組バンド、Saucy Dogのインタビューをお届けする。

 石原慎也(Vo/Gt)、秋澤和貴(Ba)、せとゆいか(Dr/Cho)からなるSaucy Dog。秋澤、せとが加入した2016年には、THE ORAL CIGARETTESやフレデリックらを輩出したMASH A&Rのオーディション『MASH FIGHT! Vol.5』でグランプリを受賞。以降も精力的な作品のリリースやツアーを重ね、着実に活動の規模を拡大している。2021年8月にリリースした5thミニアルバム『レイジーサンデー』の収録曲「シンデレラボーイ」は、イラスト仕立てのミュージック・ビデオも話題となり、ストリーミング累計再生回数は4億回を突破。同年末には『NHK紅白歌合戦』初出場を果たすなど、名実ともに日本の音楽シーンを代表する存在になりつつある。

 そんなSaucy Dogの最新作にして7thミニアルバム『バットリアリー』が完成した。『第101回全国高校サッカー選手権大会』応援歌の「現在を生きるのだ。」、北村匠海×中川大志のW主演映画『スクロール』主題歌「怪物たちよ」など、計7曲を収録している。飛躍の1年となった2022年について、そして新たな手応えを感じたという本作について、メンバー3人に語ってもらった。(Interview & Text:Takuto Ueda)

“ミニアルバム”にこだわる理由

――通算7作目のミニアルバム『バットリアリー』。収録されている7曲の制作期間はいつ頃からスタートしましたか?

石原:それが様々で。「サマーデイドリーム」や「紫苑」は映画のために書き下ろしたので3年前ぐらいだし、「魔法が解けたら」は、元々楽曲提供していたのですがバンドとしてレコーディングしたのは去年です。毎回そうなんですけど「自分たちが今出したいものを出す」というのがポリシーというか、僕らのやり方なんですよね。

▲「紫苑」MV

――ミニアルバムという形態にこだわり続けているのは?

石原:自分自身もあるんですけど、すごく好きなアーティストでも13曲ぐらいのフルアルバムだと「こんな曲あったっけ?」みたいなことがあったりするんですよ。それってちょっともったいないなと思っていて。だったらその半分ぐらい、自分たちがいいと思う7曲を1年間ぐらいのスパンで出そうって。僕自身はけっこうコレクターなので、CDという文化をなくしたくないんですよ。なので、作品をモノとして出す意味としても、7曲入りのミニアルバムをSaucy Dogのブランドみたいな感じにしてます。ジャケットのデザインも揃えてみたりして。もともとゆいかが提案してくれたのかな。

せと:私もサブスクにしろCDにしろ、曲数が多いと手を出しづらいんですよね。でも、好きなアーティストなら全部ちゃんと聴きたいし。7曲ぐらいならボリューム的にも値段的にも手に取りやすい。それで1作目のときに提案して、気づけば毎回ミニアルバムでリリースしてますね。

石原:たぶん効果はあったよね。若い世代にとって、3,000円を超えるフルアルバムは手に取りづらい。Saucy Dogも若いファンが増えてきて、どんどん年齢層が広がっているので。

――「若い世代に聴いてもらいたい」というのはバンドの始動時からあった想いですか?

せと:いろんな人に愛されるバンドにはなりたかったです。ただ、誰にでもウケるポップな曲を作ろうという気持ちはまったくなくて。あくまでライブを主体にしつつ、自分たちが気に入る曲、作りたい曲という軸からは外れないようにしてきた感じです。

石原:そうだね。多くの人に愛されるバンドにはなりたいと思っていたけど、音楽の芯はブレずに自分たちがやりたいことをやっていこうって。

秋澤:ミニアルバムの曲数に関しては、たまたま時代に重なった部分もあると思います。曲の幅もどんどん広がってきたので、幅広い世代の人に聴いてほしいという想いはありますね。

――あくまで“Saucy Dogが思うグッド・ミュージック”を作り続ける。その過程でより多くのリスナーと接点を持てればいい、という考え方ですね。特に2022年は「シンデレラボーイ」のロングヒット、初のアリーナツアー、そして『NHK紅白歌合戦』初出場などもあり、ファン層が一気に広がったのではないかと思います。飛躍の1年を経て、皆さん自身は今のSaucy Dogをどんなバンドだと思っていますか?

せと:まだまだ頑張らなきゃいけないと思ってます。

石原:そうだね。

秋澤:どこまでいってもそう思う気はする。

せと:もちろんライブのキャパが上がったり、曲を聴いてくれる人が増えてきたことは感じつつ、「売れた!」みたいなことはまったく思っていなくて。いい音楽を作って、いいライブをする。それは今でも変わっていないし、この先もたぶん変わらないんじゃないかなと思います。

▲「シンデレラボーイ」MV

――プレッシャーを感じることもない?

せと:ただ、「シンデレラボーイ」の一曲で終わるのではなく、ちゃんと次に続くような曲を作らないといけない、という気持ちもあります。

石原:「シンデレラボーイ」は一昨年リリースしたミニアルバムの収録曲で、ありがたいことにたくさんの人が聴いてくれて、その話題を受けて2022年、いろんなお仕事も決まっていった。だからこそ、2023年は踏ん張り時だなと思ってます。それこそ「シンデレラボーイ」を超える曲なのか、何か明確なヴィジョンがあるわけではないけど、頑張らなきゃいけないことは自分たちも分かっていて。でも、何がウケるかなんてわからないじゃないですか。

せと:そうなんだよね。

石原:「シンデレラボーイ」も、俺たちはウケると思って出したわけじゃないので。「いい曲だし出してみる?」ぐらいの感じ。いろんなことがはまって上手くいっただけで、例えば今回の7曲もどれがウケるかなんて分からないんですよね。

毎ツアーごとに感じる成長、団結力

――では、皆さんが活動を通して達成感や手応えを感じる瞬間は?

せと:いいライブができたとき。

石原:たしかに。そうだね。

――Saucy Dogが思う「いいライブ」とは?

せと:すごくシンプルだけど、メンバー3人が最後まで楽しめて、お客さんにも楽しんでもらえたライブだと思います。どんなライブが“いいライブ”なのか、自分たちもずっと悩みながらやってきて、この2年ぐらいでようやく分かってきた気がします。あまり余計なことを考えず、素直な気持ちでやるのが一番伝わると思うし、そういうときに「成長できてるな」と思えますね。

石原:たくさんの人の聴いてもらえるようになれば、もちろん賛否も出てくるし、それでちょっと余裕がなくなったり、心が苦しくなってしまった時期もあったけど、最近はそれぞれが気持ち的にも大人になってきたというか、メンバー同士の絆もさらに強まって余裕が生まれてきたのは成長だなと思いますね。

――昨年6月には初のアリーナツアーを開催。その点でもバンドの成長を実感したのでは?

せと:そうですね。やっぱりツアーをやると波があったりしたけど、そういうのもなくなってきてアベレージが上がっているなって。アリーナツアー後は私がコロナに感染したり、身体の不調で休養させてもらったり、けっこう苦しい半年間を送っていたんですけど、それも経てメンバー間の絆も強まった。今振り返ると、ちゃんと全部が成長につながる時間だったなと思います。

秋澤:6月のアリーナツアーは分岐点で、けっこう分かりやすく変化を実感したけど、10月からの対バンツアーもまた全然違って、毎ツアーごとに成長してるなと感じます。

石原:会場が大きくなると関わってくださる人も増えるし、それもけっこうプレッシャーに感じたりもして。「どんなライブをしようか」というより「どんなライブをしなきゃいけない」みたいな気持ちが出てくるんですよね。期待に応えなきゃいけないという。去年はそれが今まで以上にプレッシャーになってしまった時期で、そのなかでゆいかは身体の不調もあったりして、対バンツアーは「よく完走できたな」と思います。ただ、そのあたりから3人とも穏やかになってきたというか、まさしく団結力も生まれてきたように感じますね。

NEXT PAGE
  1. < Prev
  2. 最新作は「シンプルにいい曲が集まった」
  3. Next >


最新作は「シンプルにいい曲が集まった」

――あらためて最新作『バットリアリー』の仕上がりについて、皆さんはどんな手応えを感じていますか?

石原:すごくいいアルバムができたんじゃないかと思います。自分たちでも思うし、けっこう周りからの評判もよくて。和貴は友達に聴かせたりしてるもんね。

秋澤:職業は違っても誰もが思っていることを表現できた作品というか、いろんな世代の人にリアルだなと思ってもらえる作品にできたと思っていて。自分もそういう音楽が好きで影響を受けてきたのでうれしいです。

せと:自分でも聴きたくなるアルバムになったかなと思います。曲の幅も広いので聴いていて飽きないし、全曲ちゃんと気に入っているというか、シンプルにいい曲が集まったなって。

石原:いつもは完成した自分たちの作品って、なんとなく「大丈夫かな?」と思いながら聴き返すんですけど、今回は聴きたくて聴くというか。

せと:たしかに。「大丈夫かな?」って感覚はなかったかも。

▲『バットリアリー』トレイラー

――楽曲ごとに制作時期がばらばらとのことでしたが、例えば1曲目の「夢みるスーパーマン」は?

石原:この曲と「そんだけ」は最後に作りました。締め切りまで2週間ぐらいで残り2曲を作らないといけなくて。本当にしんどかったけど、意外と歌詞はスムーズに湧いてきました。「夢みるスーパーマン」は昔の自分を見ているような感じなんですよね。けっこう本音の部分を書いたというか。自分のことをいい人間だと思いたいという、理想と現実のギャップを自分の中で埋めていくことが生きるってことなのかなと思うんですけど、この曲は理想に縋って生きていた昔の自分に向けて書いた感じです。

――サウンドについてはいかがですか?

せと:あまり考え込まず、勢いで作った感じでした。なので、ライブでも盛り上がりそう。素直に勢いでやれる曲という印象です。私は基本、歌メロでイメージを湧かせるんですけど、この曲はサビの歌メロが最後のほうにできたので、そういう意味では難しくて。そういう部分はストレートに8ビートを叩きましたね。

秋澤:ベースも勢いでしたね。結果的にそれでよかったのかなと思います。やっぱりサビのメロディーがストレートじゃないですか。そのあたりはSaucy Dogっぽいなって。1曲目という感じはすごくするな。

――同時期に作られたという「そんだけ」については?

石原:まず最初にUKっぽいギターリフができて、そこからコードを考えました。ちょっと奇をてらった感じというか、今までのSaucy Dogにはないおかしな感じを表現できたと思ったので、歌詞はSaucy Dogっぽい恋愛の曲にしてみようと思ったんですよね。曲名に使われている言葉って基本、サビの頭や終わりに歌われるじゃないですか。それをBメロの最後に入れようと思って、そこから「そんだけ」という言葉を思いついたんです。この曲はタイトルを決めてから歌詞を書いていきました。

――歌詞カードではCメロの最後の一節<ふざけたキスよりも愛が欲しかった。>に打ち消し線が引かれているのが面白いです。

石原:そこが一番最初に書いたフレーズでした。一番最初に思ったことを消す、というトリッキーなことをしています(笑)。この曲の主人公は伝えたい言葉を手紙にしているんだけど、一番伝えたかったことを手紙では言えなかった、という。

せと:「面白いものを作ってきたな」と思いました。ライブのリハーサル中に「こういうのよくない?」って急に弾き始めて、私たちも適当に合わせて。「自由に面白いことをやろうぜ」のテンションでした。レコーディングも楽しかったです。

秋澤:事前に「こういうふうにしよう」と決めていたんですけど、それをレコーディングではあえてやらず、1番と2番のサビで変えてみたりして。たぶんライブでも遊べそうな曲になってます。

石原:まだ3人の音楽の可能性があるなって感じでしたね。

▲「魔法が解けたら」MV

――6月28日に先行配信された「魔法が解けたら」は、声優の梶原岳人さんへの提供楽曲のセルフカバーですね。

石原:たしかスタジオで自分たちがプリプロした音源を岳人くんに渡したんですよ。なので、もともと「いつかセルフカバーするんだろうな」というイメージはあったんです。レコーディングは去年したんですけど、前作がバラード多めになってしまいそうだったので、この曲は次の年のリリースしようって。

――前作『サニーボトル』の収録曲「魔法にかけられて」ともリンクしますよね。もともと対になる楽曲として制作したんですか?

石原:いや、あまり考えてなかったんですよね。歌詞も続きのように見えるけど偶然で。これは本当にSaucy Dogっぽい曲だと思うんですけど、その要因の一つとして、人物像がすごく偏っているというか。同時に自分の理想像でもあるかもしれない。あとは、曲調的にも本領発揮な感じがあって。

せと:あったか切ない感じ。あと、誰が聴いても同じ物語を思い浮かべられるような、一度聴くだけでストレートに入ってくる感じもある。

秋澤:今の僕らの王道というか。自分で聴いても切なくなります。

石原:Saucy Dogの曲、Cメロがかっこよくなる説ない?

せと:バラードとかミドルテンポの曲、歌メロだけで成り立つぐらいの曲って余計なことをしないんですけど、Cメロってすごく感情のこもった歌メロがくるので、そこでちょっと遊びたくなるんですよね。


――このミニアルバムを引っ提げ、11月からは自身最大規模のアリーナツアーを開催。どんなツアーになりそうですか?

石原:もちろん不安はありつつ、たくさんの人に自分たちのライブを見てもらえる喜びもあります。みんなと遊びながら演奏できるのがライブの醍醐味だと思ってるので、それを楽しみにして頑張りたいなと思います。

せと:あまり気負わず、今まで積み上げてきたものをしっかり出して、いいライブをするしかないなと思います。

秋澤:Saucy Dogのライブって自分たちだけじゃなく、関わってくださる方々やお客さんも含めて、みんなで作っている感覚があって。それをより多くの人たちと一緒にできるのが楽しみですね。いろいろ苦労はあると思うけど、このツアーを通して成長できると思うし、これでまたバンドの先が見えるんじゃないかなと思います。

Saucy Dog「バットリアリー」

バットリアリー

2023/07/19 RELEASE
AZCS-1118 ¥ 1,980(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.夢みるスーパーマン
  2. 02.現在を生きるのだ。
  3. 03.サマーデイドリーム
  4. 04.紫苑
  5. 05.魔法が解けたら
  6. 06.怪物たちよ
  7. 07.そんだけ
  8. 08.星になっても (Bonus Track)

関連キーワード

TAG

関連商品