Special
back number 『blues』インタビュー
哀しみまで知り、それでもまた誰かを好きになる。
清水依与吏(vo,g)が描く憂愁の歌詞世界と、言葉を紡ぐ情感的なメロディで人気急上昇中の3ピースバンド back number。長澤まさみ主演のフジテレビ系土ドラ『高校入試』主題歌「青い春」に続き、満を持して完成させた傑作アルバムを軸としながら、3人の今に迫った。
社会風刺一年生 清水依与吏が描く今
--まず、何といっても10月にリリースしたシングル『青い春』が本当に素晴らしい1曲でした!
清水依与吏:ドラマ主題歌ということでオファーを頂いて、全ての脚本なども見させて頂いていて。イントロの雰囲気や曲のテイストが明確にある中で作れたんですね。タイアップを頂いた作品では、とにかく先方に満足して頂きたいという気持ちがあるので。
昔は“自分の歌いたいことを自分発信でやらなきゃ”みたいな所もあったんですけど、熱意を持っている人たちと一緒に作る手法は嫌じゃないんだなって段々気付いていって。これまでに選んで頂いたタイアップ楽曲も含めて、そういう手応えは感じやすいですね。
--今の日本に対する風刺も含まれている点に驚きました。
清水依与吏:“社会風刺一年生”(笑)。元々、自分から半径何メートルのことを歌う形でやってきたんですけど、その範囲の中にも社会はある。誰かを幸せにしたい、大事にしたいと考えると、環境などにも目がいきますよね? そういう所も少しずつ歌わなければいけない自覚が出てきたのかなって。それにドラマの1話だけを見た上で聴くのと、最終話まで見てから聴くのとでは、捉え方が変化する詞になっているんです。
小島和也(b):恋愛の話だけではないので、広がった印象はありますよね。ただ、依与吏が書いてる歌詞なので、根本で揺るがないものがあり続ける。書かされてる感もないし、芯のある歌だと思いますね。
栗原寿(dr):人生の葛藤や憤りは、誰しもが日常生活の中で感じるものですよね。僕もメンバーですけど、客観的に聴いた時に「そうだよな……」って思わされる言葉がすっと耳に入ってきたので、第一印象から「良い曲だな」って。
--また、シングルとしては初のセルフプロデュースでしたね。
清水依与吏:前作『スーパースター』の時に、セルフプロデュース曲とプロデューサー参加曲とで、それほど優劣なく聴いて頂けた実感もあったんですよ。で、アルバム『blues』の楽曲が全部揃った後に聴き直してみて、「……やっぱりプロデューサーさんのいる曲は凄ぇな」と思い知るという(笑)。
それが音楽に対して一番誠実な形だと思う
--その最新アルバム『blues』では、3曲目の「わたがし」からプロデューサーが参加した楽曲が並びます。
清水依与吏:自分たち的には「やっぱヤラれたな~……」っていう気持ちがありますね(笑)。やっぱりまとめ方が違う! 凄いッス!
小島和也:僕の場合は音作りの面で一番痛感しますね。出すぎず引っ込みすぎない絶妙の音を知っていますよね。「わたがし」はsoundbreakersの大野さんにプロデュースして頂いたんですけど、緻密なフレーズというか「ここでこう動くと歌がこう聴こえる」とか、そういう面で「さすがだな……ッ!」って。
--4曲目「エンディング」のラスト、歌が終わってから寿さんのドラムがフィルインしてくる瞬間の間が完璧だと思いました。
栗原寿:あれは亀田さんの凄い所でしたね!
清水依与吏:亀田さんも凄かったよね~……。それに引き出し方も上手なんですよね。それにビジョンの見え方もはっきりしてるので、……キャリアは嘘を付かないですね。
--また、6曲目「平日のブルース」はシングル『わたがし』のカップリングでした。カップリング曲も名曲揃いのback numberとしては、その選択は悩み所だと思うのですが?
清水依与吏:別に会社の人から言われた訳でもないし、最終的には自分で決めたんですけど今回は難しかったですね。「one room」(シングル『日曜日』収録)と「君の代わり」(シングル『わたがし』収録)は、シングルに入れなければよかったって思うくらい(笑)。……早くB面集出したいッスね!
やっぱりカップリングというのは聴かれ難くはなってしまう。だから自分たちはシングルでもアルバムでも良い曲を入れまくる状況を続けて、自分たちの腕を上げてクオリティを上げる。で、「back numberはシングルのカップリングも全部良いから、常に手に入れていかないと」って思ってもらう。それを続けていくしかないんですよ。差をつけずに1曲1曲一生懸命やって、こうやって言いまくるしかないんです、「全部良いんス! チクショー!」って(笑)。
--そういう意識は、現代のシーンを反映している部分もありますか?
清水依与吏:それが音楽に対して一番誠実な形だと思うんですよね。楽曲の魅力、中身の魅力で売っていく。もちろん、オマケをつけてもいいと思うんですけど、“back numberの存在意義は曲があってこそ”と歯を食いしばって続けて行くことが一番かっこいい。自分たちがかっこいいと思える存在にならなければいけないと思いますね。
リリース情報
blues
- 2012/11/21 RELEASE
- 通常盤[UMCK-1434(CD)]
- 定価:¥3,059(tax in.)
- 詳細・購入はこちらから>>
- 初回限定盤[UMCK-9565(CD+DVD)]
- 定価:¥3,990(tax in.)
- 詳細・購入はこちらから>>
関連リンク
Interviewer:杉岡祐樹
「……俺は本当に音楽やってていいのかな?」
▲back number - Album 『blues』 初回盤DVD特典Music Videoダイジェスト
--では、6曲目の「平日のブルース」はいつ頃作られた楽曲なのでしょうか。
清水依与吏:去年の年末だったかな、ちょっとバンドを辞めようかと思った時があって。その後に福岡でツアーファイナルをやって、そこから帰るまでに良い曲ができなかったら……って時にできた曲ですね。
パーキングエリアに停まった時に雪が降ってた。「あ、雪だ……」って思った時にこのメロディがパッと出てきて、その編曲を考えてたら楽しかったんです。それで「まだ辞めるなってことなのかな」って。ある意味、自分を救ってくれたメロディなんです。
--辞めようと思ったというのは?
清水依与吏:ツアーを4本くらいやって、終わった時にちょっとしっくりこなかったというか。ライブ自体は楽しかったですし自分の思い通りにやったんですけど、だからといって全部納得できる訳でもないとか色々考え過ぎて、「……俺は本当に音楽やってていいのかな?」となってしまって。
--そういう温度感はお2人も気付いていたんですか?
小島和也:付き合いが長いのでアレですけど、色々やってきたので、ね。
栗原寿:僕は年末の打ち上げの時、一緒にいたんですよ。もちろん直接言われた時は動揺しましたけど、僕は清水依与吏が書いてくる詞、曲が好きなので、そうなったらそうなったでしょうがないことなんだろうなって。ただ、もしまた……ってなるなら俺はついていこうって思ってました。
--また、依与吏さんは当時の自分を救ってあげたい、聴いたら救われたであろう楽曲を作りたいという意識を持っていますか?
清水依与吏:ありますね。特に今作は多いと思います。
--7曲目「笑顔」に出てくる“絵にも歌にもならない毎日”という歌詞なども、正にそうですよね。
清水依与吏:この前、生まれて初めて沖縄に行って良い景色を見た時に思ったんですけど、住んでいる人からしたらそれが日常なんですよね。そう考えると、ありふれた毎日の中に綺麗なモノがあると教えてくれた人だとか、仲間が大切だってことだとか、まだ歌ってないことはたくさんあるって気付いたんですよ。
失恋とかって自分の中では派手なエピソードなんです。でも、長い時間の中での変化とか、それこそ家族への感謝みたいなものとか、気付き始めたなら歌わなければいけない。そういう変化は大きくありますね。
--8曲目「ささえる人の歌」がそれですよね。
清水依与吏:もちろん、色んな角度から捉えて欲しいから限定したくないんですけど、例えば俺が歌えなくなって、色んな部分が欠けて、心も体もぶっ壊れても一緒に居てくれる。まったく変わらずに、っていうのはたぶん親だけだろうなって。それは優しさとかではなく血として遺伝子として、そういうものだと思うから母親の言葉は無視できないし。あ、父親は陶芸家なんですけど、よく分からないです(笑)。
ただ、今現状だと照れ臭かったんですよね、目の前の人にありがとうとか、母親に対して産んでくれてマジ半端じゃないよとか(笑)。だから相手から見える自分を歌うというか、相手の視点から描いてみました。「ささえる人の歌」は歌っていても一番泣く人が多いですし、みんな何処かに持ってるんでしょうね、恩返しできてないな、とか。
結果的にライブはみんなで作るもの
--そういう歌を求めているリスナーが、例えばZepp DiverCity TOKYOを埋めてしまうくらいに集まるのが現状です。会場の規模や観衆の数によって変化するものは?
小島和也:始めたての頃はもっと喰い付いてた感があったかもしれないですけど、今はもうちょっと自分のテリトリーでやれているというか。広範囲に響かせるようなやり方はできないと思うし、「ココでやっているよ」という心象は変わってないですね。
栗原寿:僕は一番後ろからみんなを見る訳ですよね。そういう中で泣いてる人もいて、その感情を受け取っている2人の背中を見れる。アップな曲でお客さんが一斉に手を挙げてくれれば、やっぱり2人を通して僕に入ってくるんです。
そうやって僕自身も上がっていきますし、お互いが相乗効果で高まっていくから、結果的にライブはみんなで作るものなんですよね。いる人が違えばリアクションも違いますし、受け取る側である僕らも変わる。だから同じ会場でやったとしても、同じライブは1つとしてないと思うんですよ。
清水依与吏:まァ疲れますよね、人数が多いと。みんな尋常じゃないテンションで来ているので、何か分からないけど吸い取られる。自分が同じ気持ちでやっていたとしても、1曲1曲の疲れは半端じゃないんですよ。やっぱり1人1人と手を繋がなければいけないので、やっていることは変わらないんですけど心の体力が要ります。漠然とした全員に対する“幸せにするよ”じゃなくて、2500人だったら2500手観音になって、自分の意思で1本1本を動かして手を差し伸べるくらいの勢いなので。
--となると東京ドームとかでやったら相当疲弊しますね。
清水依与吏:マズいですね、この計算でいくと確実にマズいです! 腕1本くらいは確実に持ってかれます(笑)。
リリース情報
blues
- 2012/11/21 RELEASE
- 通常盤[UMCK-1434(CD)]
- 定価:¥3,059(tax in.)
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- 初回限定盤[UMCK-9565(CD+DVD)]
- 定価:¥3,990(tax in.)
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Interviewer:杉岡祐樹
名曲「助演女優症」の凄味
--あと、9曲目の『bird's sorrow』はベースかっこいいですね!
小島和也:ありがとうございます。
清水依与吏:……でもですね、この曲は随分前に作ったんですけど、その時に弾いてた凄ぇかっこいいベースフレーズをコイツは忘れやがったんですよ!(笑) レコーディングの時、別のフレーズを弾いてたから「ちょ……和也くん、ちょっとごめんね? そのフレーズじゃなかったよね!?」って訊いたら完全に忘れてて。仕方ないから昔の音源を見つけてきて聴かせたら、「あー……、ん? あ、ああー……」って。結果的にはかっこいいベースになってるんですけど、コイツは超ダサいです!(笑)
--言われてますよ和也さん!?(笑)
小島和也:(無言の笑顔)
清水依与吏:サビの入りのベースラインとか、めちゃめちゃかっこいいのに全然思い出さないし……。
小島和也:(飄々と)けっこうあるんですよねぇ~、最初のフレーズに戻せって言われることが。
--もうこの話は止めましょう(笑)。そして10曲目「助演女優症」、この曲は本当に素晴らしいですね!
清水依与吏:ありがとうございます! この曲のベースも良いですよね、2番のサビ前とかハイライトだと思いますね。
--バンド全体のグルーヴ感が気持ちいい上に、歌詞はちょっと面影ラッキーホールを感じさせる世界観で、隠し切れない慕情を巧みに利用されてしまう女性の悲哀を切なく描き切れているんですよね。
清水依与吏:それを歌いたいと思っていた時には2人がある程度、土台を作ってくれていて。しかもアコギ、エレキ、ベース、ドラムと本当にバランスよく録れてるし、それぞれが絶妙に出てる。ギターソロも上手くいきましたし、結構凄いなって思います、カップリングでしたけど(笑)。
--ダンスミュージックが好きな人にも聴いてもらいたいグルーヴがある上に、心地良いメロディから刺さる歌詞まで用意されている。凄い1曲だと思いますよ。
清水依与吏:けっこうハイブリッドなんですよ。……でも、最初はメンバー以外の評価が低かったんですよ(笑)。誰も評価してくれなかった! 全部を作り上げたらみんな気に入ってくれましたけど。
--最後のフェイクが、主人公の女性の喘ぎ声に聴こえてくる感じも好きです!
清水依与吏:お恥ずかしい!(笑) 哀愁が漂い過ぎてるんですよね。歌詞にも色んな仕組みがあるので、じっくり読んで頂きたいです。
「恋」で終わるアルバムって何か良い
--そして最後は、それこそ今の3人だからこその1曲「僕が今できることを」から「恋」で締め括る。この「恋」はストーカー的というか……
清水依与吏:ちょっと重いゆえに、みたいな所はありますね(笑)。
--前作の最後を飾った「幸せ」と対をなすような、男性視点からの一方通行な恋慕の歌ですよね。
清水依与吏:確かに対をなす所もあるんですけど、綺麗に終わっているアルバムほどかっこ悪いのもないと思うし、「……ま、結局そうだよね?」って。「恋」は何にも言えてない曲ですからね(笑)。ある意味オチというか、ほんわかした気持ちというか、そういう所から曲順を選んでいったら和也がけっこう褒めてくれて。今回は曲順に関して悩まずに決められましたね。
小島和也:「恋」で終わるアルバムって何か良くて、自然と言いましたね。マスタリングの時も言ってたんですけどシングルで聴いていた頃と違うんですよ。凄く広がった感じになってて。
清水依与吏:たぶん「恋」の歌詞だけを見ると“俺は君のことを何も分からないし、大した経験もないけど好きだ!”って感じに捉えられると思うんですよ。でも、『blues』っていうアルバムを踏まえて、それこそ「助演女優症」みたいな哀しみまで知った上での「恋」というか。色んなことを踏まえて、それでももう一回誰かを好きになる。それでも笑っている人、前に進む人が素敵だと思います。
--では、そんな1枚を“blues”と名付けた理由は?
清水依与吏:正直、ブルースっていう音楽に対して知識がある訳ではないんですけど、たまたま知り合いからブルースの起源みたいな話を聞いたことがあって。昔のアメリカで虐げられてきた方々が、夜の酒場で「何で空はこんなに青いのに、自分たちはこんな仕事をして、虐げられて……」と歌っていたと。社会や世間から何かをされて出てくる音楽、後だしの音楽というか、常に誰かがいる音楽。
それは「あの子が好きだけど何も言えない」っていうのと一緒で、けっきょく俺のやってることはブルースなんだなって。前から思っていたことではあるんですけど、今こそこのタイトルだと思ったし、このアルバムに“blues”という言葉は必要不可欠だった。“自分の中に溜まっていることを歌っているだけなんだよ俺は”っていう角度から聴いてもらいたかったって気持ちもあって、『blues』と付けました。
Music Video
リリース情報
blues
- 2012/11/21 RELEASE
- 通常盤[UMCK-1434(CD)]
- 定価:¥3,059(tax in.)
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