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<インタビュー>米津玄師 クリエイターとして、ゲーマーとして――『FINAL FANTASY XVI』に添い遂げる新曲「月を見ていた」の挑戦とこだわり
Interview & Text:柴那典
米津玄師が新曲「月を見ていた」をリリースした。
「月を見ていた」は、6月22日より全世界同時発売となった『FINAL FANTASY XVI』のテーマソングとして米津玄師が書き下ろした楽曲。米津は『FINAL FANTASY』シリーズに子供の頃から強い思い入れを持ち、アーティストとしても多大なる影響を受けたという。制作にあたっては、『FINAL FANTASY XVI』プロデューサー吉田直樹とも綿密な話し合いを重ね、ゲームで流れるこの曲が物語に深く寄り添うべく作り上げた。
この曲にまつわるインタビューが実現。楽曲制作の背景やゲームへの愛情、自身の音楽の海外での人気の広がりなどについて、語ってもらった。
オファーを受けての印象
――「月を見ていた」は『FINAL FANTASY XVI』のテーマソングとして書き下ろされた楽曲ですが、オファーを受けての最初の印象はどんなものでしたか。
米津玄師:子供の頃からずっとやってきたゲームシリーズで、まさか自分がテーマソングをやれるようになるとは思っておらず。最近ずっとそんなことばかり言ってる気がするんですけれど、ひとえに光栄ですね。またとない話だという感じでした。
――ゲームの制作サイドからはまずどんな話がありましたか。
米津:最初に吉田さんが、物語の概要や、託している思いをひたすら熱く語ってくれて。その後、全体のテキストベースのシナリオと、キャラクターの簡単な設定資料をいただきました。ゲームの“あるシーン”で流れる音楽を作ってくださいというオファーだったので、 そこで、ある程度好きにというか、あなたの感じたことを音楽にしてくださいという話だった気がします。
――制作にあたっては吉田プロデューサーとのやり取りもあったんでしょうか。
米津:そうですね。結構頻繁にありました。定期的に来てもらって「ここまで開発ができた」とか「戦闘システムは今こういう感じになっている」という映像を見せていただいて。そういう姿を見ても、やっぱりすごく熱意を持っている方なんです。自分が今こういうことをやっているという話、こういうゲームなんだという話を、やっぱり矜持もありながら、すごい熱意で喋ってくれて。当たり前ですけれど「この人たち、本気でやっているんだな」という感じが伝わってきて、自分も生半可なものにはできないという感じでした。
――以前から米津さんは『FINAL FANTASY』を好きなゲームと言っていましたが、改めてどんな出会いでしたか?
米津:小学校1年生の頃にうちにプレイステーションがやってきて、そのときに自分が何のゲームを買ったかは覚えていないですけど、気づいたら『FINAL FANTASY VII』がうちに置いてあったんです。誰かが買ったのか貰ってきたのかはわからないけれど、あるならやってみようとやり始めたのが最初です。
――その体験は米津さんにとってどんなものだったんでしょうか?
米津:今思い返してみると、自分がこういう趣味嗜好の人間になったのは、この作品の影響が大いにあるんじゃないかという気がします。ストーリーとしてはシリアスで、街並みもスチームパンクっぽい感じがあって、いまだにそういう感じのものを見て心躍るものがあったりするんですよね。自分の人格形成に大きな影響を及ぼしているんじゃないか、振り返ってみるとそう思います。
FINAL FANTASY VII REMAKE オープニングムービートレーラー
――『FINAL FANTASY』シリーズから受けた影響は、ミュージシャンやクリエイターとしての自分の表現に、どのようなアウトプットとして出てきていると言えますか?
米津:子供の頃からファンタジーが大好きだったんですよね。それこそ、幼稚園、小学生の時からファンタジックなものがすごく好きで。ファンタジーって、一言で言うと簡単ですけど、それがどういうことかというと、自分が今生きている卑近な生活の中にどう考えても存在し得ないようなものが、ごく当たり前のようにそこにあるということなんですよね。そういう空想的空間にすごく恋焦がれる子供時代を送ってきた感じがするんです。今振り返ってみると、それが自分の人生にひとつの大きな幹として通ってきているような気がします。そこから絵を描くのが好きになって、音楽を作るのが好きになって、自分が表現する側の立場になっても、作る音楽や作る絵というのは、やっぱりそういうファンタジックな、空想的な視点で作ったものがいまだに多いですし。もともと一人遊びするのがすごい好きな人間だったんで、人とのコミュニケーションの中で喜びを得ていくというより、家で本を読んだりゲームをやったりして、自分の頭の中でいろんな空想をしたり、ファンタジックなものを思い起こしたりして楽しむという、そういう子供時代を過ごしてきたような気がします。いまだにそれは続いていて、そういうものに教えてもらったことがたくさんあると思います。ファンタジーと一言でいうけれども、そこには現実の写し鏡みたいな部分も多分にあるわけで、必ず現実が反映されていて、コインの表と裏みたいに切っても切れない関係があると思うんですよね。だから、ファンタジーを通して、空想的な物語を通すことでしか得られない、現実の正体のようなものが確かにあるような気がするんですよね。そういう形でしか表現できない現実のあり方みたいなものが、ファンタジーに詰まっているような気がします。
「ただただ物語のために」作った曲
――曲を作るにあたっては、どういうところがアイデアの取っかかりになったんでしょうか。
米津:ゲームのテーマソングってどういうことなんだろうって、いろいろ自分の中で考えました。やっぱりゲームって、映画やアニメやドラマと比べると、何十時間という途轍もなく長い時間がかかるもので。しかも、自分がコントローラーを通してプレイヤーになりきり、そこに没入して、その世界を自分で体験する。だから、その世界に対する執着のようなものが、他よりとても深いと思うんです。今回自分が楽曲を担当させてもらうにあたっては、猥雑な日常を感じさせるものじゃいけないと思いました。
――自分の曲であるのはもちろんですが、ゲームの中で流れた時に現実に引き戻されない曲を作ろうという発想がまずあったと。
米津:そうですね。これまでも数々の主題歌を作らせてもらい、いろんな物語と一緒にやってきましたけれど、これまで以上にゲームのほうに比重を置いている感じがします。そもそも自分は大衆音楽、ポップ・ミュージックを作っている人間なので、それぞれの物語に似つかわしい音楽であると同時に、物語と関係ない人間、その物語を知らない人間にも、ちゃんと届くようなものを作らなければならない。そのバランスをどうするかということを、いつも主題歌を担当する時は大事にしているんですが、今回はそのバランスが非常に悪いというか、ゲームのほうに大きく傾いた気がしますね。
――そのことによって、曲の作り方はどう変わりました?
米津:より滅私奉公みたいな感じになりました。やっぱり、曲を作っている最中に自分の中でいろんな邪念が巻き起こってくるわけですよ。もっとこうしたほうが、ゲームをプレイしない人にも伝わりやすいんじゃないかとか、もっとこういう音を足したほうがポップスとしていいんじゃないかとか。そういう様々な邪念が渦巻くわけですけれど、今回はそれをいかに排除するかを意識しました。そういう意味での滅私奉公ですね。ただただ物語のために音楽を作るという。今まで以上にそういう方向に寄っていったのは確かです。
――アニメやドラマの主題歌として曲を作る時とは発想が違っていたわけですね。
米津:ドラマの主題歌は毎話かかるわけで、曲がかかるシーンも違うし、状況も違う。そうなると、どうしても抽象的にならざるを得ない部分があって。そのドラマの全10話の根幹がどこにあるのかを探していく作業になるんですよね。たとえば、この物語の重要な要素を3つ挙げるとしたらなんなのかという風に、いろんな枝葉をかき分けて最後に残るのは何なのかを探して、そこを中心に自分なりにまた飾りつけしていくという作業になるんですけど。今回みたいな“あるシーン”にかかる曲を作る場合は、そういうやり方ではいけない気がしたんです。
――歌詞で歌われていることについても、ゲームをプレイした後で聴くと、思い当たること、より理解が深まるようなところがたくさんあるような曲の作り方になっています。
米津:というか、そのためだけに作った曲と言っても過言ではなく。ゲームをプレイし終わって、曲を聴いた時に、初めてピースが全部ハマる。そういうやり方にせざるを得なかったんですよね。これまで数々のゲームをやってきた自分の人生から考えると、それ以外の選択をしてしまうと、自分のあり方に誠実でない気がしたんです。ある面で言うと、それはポップスとしては非常に不誠実なのかもしれないですけど。今回においてはそれが正解なんじゃないかという予感がありました。
――実際に米津さんが『FINAL FANTASY XVI』をプレイし終わっての余韻にはどういうものがありましたか?
米津:『FF16』自体が非常にシリアスなゲームで、主人公の過酷な環境に、コントローラーを通じて自分も同一化していくと、どうかこの人たちが幸せであってほしいという気持ちがどんどん増していくんですよね。主人公は過酷な環境で生まれて、そこからずっと過酷な戦いを強いられるわけで。なんて可哀想なんだろうと思うと、どこかに救済があってほしいという思いが強くなって。楽曲を作るにあたっては、そういうことを考えました。ただ、それと同時に、彼が残した傷跡みたいなものも曲の中に込めなければならない。じゃないとフェアじゃないという感じがしたので、救済を感じつつ、いつまでも癒えることのない遺恨のようなものを感じる、そういう曲にしていきました。
FINAL FANTASY XVI テーマソングトレーラー / 米津玄師『月を見ていた』
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言語的な意味から遠く離れても
――米津さんの海外での人気の広がりについても訊かせてください。昨年にリリースされた「KICK BACK」はアニメ『チェンソーマン』のオープニングテーマだったこともあり、日本以外のいろんな国や地域、さまざまな言語圏の人々に届いた楽曲になりました。そのことに対して、どんな思いがありますか。
米津:ありがたいですね。たくさんの人に聴いてもらいたいということは、大衆音楽を作っている人間としての本懐だと思うので。そういう意味で、この曲を作らせてもらった、そのきっかけを与えてくれた『チェンソーマン』に対しては、ありがたいの一言です。
――今回の「月を見ていた」も、『FINAL FANTASY』という、日本だけでなくいろんな国や地域、さまざまな言語圏に幅広い世代の熱烈なファンがいるシリーズのテーマソングとなります。そこに関してはどんな思いがありますか。
米津:この曲が日本語なので、日本語の曲をどういう風に受け取ってもらえるかというのは、あまりわからないのですけど、ちゃんと受け取ってくれるかどうか不安もありつつ、今は、この曲が入ったことによってゲームが台無しになっていないことを祈るのみです。
米津玄師 - 月を見ていた Kenshi Yonezu - Tsuki Wo Miteita / Moongazing
――音楽に込められている感情は国境と言語を越えると思います。米津さん自身にも、そうあってほしいという気持ちもあるんじゃないでしょうか。
米津:そうですね。基本的には日本語なので、そこで何が歌われているのかは伝わらないじゃないですか。でも、言語的な意味から遠く離れていても、なにか心震えるものがそこに生まれるというのは、自分でも経験してきたことなので。どこの国の、どんな言語かもわからないような音楽を聴いて、その歌声や音楽がすごくいいなと感じた経験が確かにあったので。この曲もそういう受け取り方をしてくれたらいいなとは思います。
――最後に訊かせてください。『FINAL FANTASY XVI』以外で、ここ最近注目している、もしくは気になっているゲームはありますか?
米津:最近はずっと『マインスイーパー』ばかりやっていて。ライブでもさんざん話したのですが、シンプルであるがゆえの中毒性の高さを身をもって感じています。
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