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<インタビュー>20歳の新星クリエイター“あたし”、歌を始めたきっかけから最新曲「イベリス」まで語りつくす



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 2020年“現役女子高生あたし”名義で歌い手として活動スタート。「グッバイ宣言/Chinozu[歌ってみた]」で注目を集めた彼女は2022年、“あたし”に改名し、1stシングル「太陽観測」を配信。3rdシングル「着心音」がTikTokを中心に拡散されるなど確実に知名度を上げている。
 新曲「イベリス」(MBSドラマシャワー『4月の東京は…』オープニング主題歌)をリリースしたばかりの“あたし”に、音楽ルーツ、これまでのキャリアなどについて聞いた。 (Interview & Text:森朋之/Photo:Yuma Totsuka)

小学生時代にニコ動に出合い“あたし”になるまで

――音楽や歌うことに興味を持ったのはいつ頃ですか?

あたし :母が歌手をやっていたので、小さい頃からいろんな音楽が周りにあるのが当たり前の生活をしていたんです。気が付いたら歌ってました(笑)。

――自分で音楽を積極的に探しはじめたのは?

あたし :小学校の頃にニコニコ動画に出合って、ボーカロイドを聴き始めたのがきっかけですね。最初にハマったのはカゲロウプロジェクト(ボカロP“じん”のプロジェクト)。“物語を曲にする”というのが私にとっては新鮮だったし、カゲプロのキャラクターもすごく好きで。高校生くらいまでは、ほぼボカロしか聴いてなかったです。ずっとニコ動を見ている生活ですね(笑)。

――高校からは好きな音楽の幅が広がった?

あたし :はい。軽音楽部に入って、ギターボーカルをやってたんです。ガールズバンドだったんですけど、メンバーそれぞれ好きな曲を持ち寄って。ドラムの子はback number、ベースの子はMrs. GREEN APPLEが好きで、私とキーボードの子はボカロ好きだったので、バラバラですよね(笑)。そのときに初めてJ-POPを聴くようになったし、文化祭や学生が主催する対バンイベントに出たり、けっこう楽しんでいました。でもコロナになって、学校にも行けなくなって。その時期に部活の顧問の先生が「YouTubeに歌を投稿してみたら?」と言ってくれて。その言葉がきっかけで歌い手として活動をはじめました。もともとネットが好きなので、戻ってきたという感じですね。


Photo:Yuma Totsuka

――歌の投稿のやり方は知ってたんですか?

あたし :いえ、ぜんぜん知識がなかったので、自分で調べました。音源の録音の仕方、アップする方法、必要なソフトなども検索して。母にも機材を借りたんですよ。ずっと借りっぱなしなんですけど(笑)、感謝ですね。

――自分の歌に対する反応はどうでした?

あたし :YouTubeに投稿したときはそんなに反応がなかったんですけど、Twitterに投稿したらすぐに400くらい“いいね”が付いて。「けっこう聴いてもらえるんだな」と思ったし、見知らぬ人に自分の歌を褒めてもらったり、評価されることがなかったので、めっちゃ嬉しかったです。歌い方も広がりましたね。ボカロ曲にはいろんなジャンルがあるし、歌うのが難しい曲も多くて。いろんな曲を歌うなかで「こうやって歌えばいいんだ」と気付いたり、少しずつ成長できたんじゃないかなって。

――いちばんのルーツはやはりボカロなんですね。

あたし :そうですね。ボカロに限らず、二次創作が好きで。自分でもイラストを描いたり、動画を作ったりもするし、あの文化は今も大好きですね。

――高校生の頃から、歌い手、クリエイターとしてやっていこうと思っていたんですか?

あたし :最初はめちゃくちゃ迷ってました。音楽の道に進むって、現実的に考えるとすごく難しいじゃないですか。でも、歌をネットに上げ続けて、評価してくれる人が増えるにつれて、「がんばってみようかな」という気持ちになってきたんですよね。高3の1月か2月くらいに「グッバイ宣言/Chinozu」の“歌ってみた”を投稿したら、自分の想像以上に反響があって。人の曲を歌わせてもらったので、自分の力だけではないと思っているんですけど、「これだけ聴いてくれる人がいるんだったら、やってみよう」と。卒業間際でしたね、そう思えたのは。

▲あたし「グッバイ宣言(Chinozoカバー)」

――当時の活動ビジョンはどういうものだったんですか?

あたし :初めてYouTubeにアップしたのはオリジナル曲だったんですよ。軽音楽部の大会のために作った曲なんですけど、1曲作るのにもすごく時間がかかって。歌い手として活動を始めたときも「いつか自分の言葉で歌いたい」と思っていたので、まずはその能力を身に付けたいなって。それは今も変わってないですね。

――そして2022年から“あたし”として活動スタート。オリジナル曲を次々とリリースし、MAISONdesの「わかっちゃないfeat.あたし,zumiTa」に参加するなど、活動の幅を広げています。

あたし :自分でもびっくりしてます。あまり実感はないですけど。常に自分のやりたいことを全力でやろうと思っています。

――楽曲の制作はどんなスタイルで進めているんですか?

あたし :最初に私が絵を描くことが多いですね。それを作曲の方にお渡しして、そこからイメージして曲を作ってもらって、自分で歌詞を書いて。全曲ではないんですけど、そういうやり方が基本ですね。

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過去曲からも垣間見られるボカロルーツ

――これまでにリリースした楽曲についても聞かせてください。まずは1stシングル「太陽観測」。切なさ、愛らしさが伝わるミドルテンポの楽曲です。

あたし :この曲は自分で歌詞を書いていないんですが、ほぼ初めてのレコーディングだったし、思い返してみると「すごく緊張してたな」と思います。それまではマウス片手に一人で録音していたんですけど、周りにもたくさん人がいて、指示を受けながら歌って。 ディレクションしてもらうことで、「この部分が聴こえづらいんだな」と気付いたり、自分では良くないと思っていたクセの活かし方もわかってきたり。一人でやっていたときよりもスムーズだし、ありがたいです。「太陽観測」を好きでいてくれるファンの方も多いし、大事な曲になりましたね。

▲あたし「太陽観測」

――2作目の「うぉーしゃーだんす」は“戦う女”をテーマにしたアッパーチューン。

あたし :歌い手として歌っていた曲は、ノリがよくてアップテンポの曲がけっこう多めだったので、「うぉーしゃーだんす」はかなり歌いやすかった記憶があります。逆にバラードはそんなに得意じゃなくて。聴くのは大好きなので、もっと練習して上手くなれたらいいなと思ってます。

――「着心音」は、“離れていてもつながっていたい”という思いを描いた楽曲。TikTokで拡散されるなど、大きな話題になりました。

あたし :「着心音」を出してから、リスナーさんからすごくピュアな恋愛相談のDMをもらうことが増えたんですよ。ラジオ(あたしがパーソナリティをつとめる「あたしと、はなそ?」)にも中高生の恋愛相談のメールが来たり。なんかホッコリしてます(笑)。

――「着心音」はR&Bテイストを取り入れたサウンド。こういう音楽も聴いてました?

あたし :たぶん知らない間に聴いていたんだと思います。家で流れていた音楽もそうだし、ボカロもそうなんですけど、本当にいろんな曲を聴いてきて、それがどういうジャンルかはっきりわからないんですよ。常に何かしら聴いているんですけど、ハードな曲も聴くし、可愛い曲、切ないバラードも好きなので。

▲あたし「着心音」

――“あたし”として発表している曲もジャンルレスですよね。「ラストディナー」は〈もっとちゃんと叱ってよ ダーリン〉というフレーズが印象的な楽曲。「シロップ」はギターロックテイストの夏ソングです。

あたし :「ラストディナー」は歌うのがすごく難しかったですけど、本当にいい曲だなって。めちゃくちゃ切ないラブソングなんですが、それを“食事”と絡めて表現しているのがグッとくるポイントですね。この曲も作詞家の方に書いていただいたんですけど、私はいろんな考え方や感情を受け入れられるというか、理解できるところがあって。「こういう感じ方もあるんだな」と自分のなかに落とし込んで、その曲の主人公になったつもりで歌うのも楽しいんですよね。それもたぶん、ボカロ曲をずっと聴いていたからだと思います。「シロップ」はバンドっぽい曲だなって。かき氷をイメージしているんですけど、爽快感と甘さがあって、リスナーさんの間でも人気がありますね。歌詞に関しては〈夏色に染まる夜は真っ赤なシロップ〉を最初に思いつきました。

――ギターを弾きながら歌うのも似合いそう。

あたし :ギターもずっと練習しているんですよ。もっとがんばりたいなと思っていて。ネイル好きなんですけど、ギターを弾くために左手の爪は短くしてます。

▲あたし「シロップ」

――「AtoZ」はファンクのテイストを感じさせるナンバー。これは〈いい女になる途中の曲〉だとか。

あたし :そうなんです。私、自分のことを“歌う いい女”と自称しているんですけど(笑)、この曲ではそれを思い切りかましてやろうと思って。“いい女”のイメージはいろいろあると思うんですけど、私は欲張りなので、全部ほしいんですよ。“かっこいい”も“かわいい”も全部持ってるいい女を目指したいです。

――「今回の炎上について」も個性あふれる楽曲ですね。テーマはもちろんSNSの炎上です。

あたし :たぶん、この曲を作っていたときに「おかしいんじゃない?」と思っていたことがあったんでしょうね(笑)。私、常にインターネットを見てるんですよ。YouTube、TikTok、もちろんTwitterも見ているんですけど、目にしたくないことも入ってくるじゃないですか。「これは嫌い」と思うこともあるけど、それよりもイヤなのは何も感じないことなんです。そこも欲張りというか、好き、嫌い、いい気持ち、悪い気持ちも全部感じたくて。

――今は発信する立場になってますけど、SNSとの距離の取り方についてはどう考えていますか?

あたし :他人なのに知り合いかのように接してくる人もいるし、その人には関係ないことに対してめちゃくちゃ怒ってたり。それはもう慣れてくしかないのかなって思います。「今回の~」の歌詞は活動者目線の歌詞だと思っていて。もちろん人を傷つけるのはよくないけど、いろんな感情が入り混じっているのがネットじゃないかなって。

▲あたし「今回の炎上の件について」

――なるほど。今年5月にリリースされた「ちゅーして」はめちゃくちゃキュートな曲。ボカロっぽいさが全面にでてますね。

あたし :そうですね。私、わがままで素直じゃない女の子ってマジでかわいいなと思ってて。「ちゅーして」の主人公もそんな女の子なんですよ。ボカロ曲でいうと「ワールドイズマイン」もそうなんですけど、“わがままだけど、たまに素直になってかわいい”みたいな子の曲を作りたいなと思ってたら、こういう歌詞を書いてました。

――「ワールドイズマイン」はボカロ初期の楽曲ですね。

あたし :そうですね。ニコ動でももちろん聴いていたし、プロセカ(スマホゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ!feat.初音ミク」)でも「こんな曲があるんだな」って。

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“今”の自分を常に伝えていきたい

――では、新曲「イベリス」について聞かせてください。ドラマ『4月の東京は…』オープニング主題歌ですが、シックなシティポップと言いますか、すごくオシャレな曲調ですね。

あたし :そうなんです。この曲もあまり歌ったことがないようなテイストなんですが、曲を聴いた瞬間、簡単な言葉になっちゃうんですけど「めっちゃいい感じだな」と思いました。その後ドラマの原作の漫画を読ませてもらって。登場するキャラクターたちの想いがまっすぐで、すごくキレイだなと思って。印象的なシーンが丁寧に描かれているのも印象に残ったし、自分のなかで感じた部分を歌詞にしていきました。

▲あたし「イベリス」

――〈100万回100億回の愛してる〉というサビはじまり、めちゃくちゃインパクトありますね。

あたし :ありがとうございます。強く強く、長い間思い続けていることが伝わりやすい言葉だだなと思って。「イベリス」の歌詞は、思いついたワードをどんどんメモ帳に書いて、それをパズルみたいに組み合わせたんです。そういう書き方もよくやってますね。

――レコーディングはどうでした?

あたし :めちゃくちゃ難しかったです(笑)。この曲も主人公を自分のなかに下ろすような感じで歌ったんですが、「100万回100億回~」が言いづらいというか、滑舌が回りにくくて。ディレクターの指示を聞きながら、がんばって歌いました。

▲ドラマ『4月の東京は…』予告映像

――ドラマのオープニングでこの曲が流れたときはどう思いました?

あたし :リアタイしたんですけど、「オープニング主題歌を歌ったんだな」と実感が沸いてきましたね。画面に“あたし”というクレジットが出るのが超うれしくて、ニヤニヤしてました(笑)。

――“あたし”というアーティスト名、記憶に残りますよね。

あたし :ありがとうございます。けっこうパッと付けちゃったんですけどね(笑)。歌い手をはじめたときに、自分らしい声、自分らしい言葉を伝えたいと思ったし、「私が発信するんだから、名前は“あたし”がいいんじゃないかな」って。


Photo:Yuma Totsuka

――この先の活動については、どんなビジョンを描いていますか?

あたし :今思っていることと、1年後に思っていることはたぶん違うと思うんです。芯の部分は変わらないとは言え、価値観や考え方が変わっていくと思うので、“今”の自分を常に伝えていきたいですね。

――実際、1年前と現在で変化している部分はあります?

あたし :私、衝動的に動いちゃうところがあって。最近は「いったん落ち着いて考えよう」ということができるようになってきたのかな、と。そうやって自分を客観的に見ることは、音楽活動にとってもいいことだと思うんですよね。もちろん“まだまだ”ですけど。掲げる目標みたいなものはないのですが、大きい場所でライブをやりたいという気持ちはあります。バンドをやっていたし、ライブ自体、すごく好きで。たくさんの方に観てもらいたいですね。

――期待してます! ゲームもよくやってるそうですけど、どんなゲームが好きなんですか?

あたし :Apexみたいな戦闘系も好きだし、マインクラフトでまったりとスローライフを楽しんだり。音楽と同じでジャンルは関係ないですね。


Photo:Yuma Totsuka

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