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<インタビュー>Asilo、何気ない日常や出会いから生まれたEP『Bouquet』と音楽ルーツを語る

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 2001年生まれのシンガーソングライター峰清(ホウセイ)によるソロプロジェクトであるAsilo(アシロ)が6月7日に初のEP『Bouquet』をリリースした。

 彼は2020年4月からYouTubeに弾き語りのカバー動画をアップし始め、2021年よりAsiloとして本格的に音楽活動をスタート。柔らかで伸びのある歌声、情景の浮かぶ歌詞、心地よく耳に届くソングライティング、柏倉隆史(toe、the HIATUS)やShin Sakiura、SUKISHA、澤村一平(SANABAGUN.)、いけだゆうた(BREIMEN)、LAGHEADSらと共に施した豊かなアレンジ......彼の楽曲の魅力は多々あるが、彼の音楽的なキャリアはほとんどYouTubeの動画投稿とリンクしており、まだ3年ほどだというのだから驚きだ。その早熟さには何か理由があるのだろう。

 9月10日に渋谷WWWで初のワンマンライブ【Asilo with the Bouquet】の開催も決定しているAsiloに迫るべくインタビューを実施した。(Interview & Text: 高久大輝)

「常に人々や景色や感情などに意識して目を向けるようになりました」

――EP『Bouquet』のリリース、おめでとうございます! AsiloさんはYouTubeの動画投稿から音楽のキャリアをスタートしていますが、ちょうどコロナ禍に入った時期でもあった当時、どのような心境だったのでしょうか?

Asilo:ありがとうございます! 当時、調理師の専門学校に通っていて授業もオンラインになってしまい、就活の時期でなかなか企業もコロナの影響で受けれなかったりと大変な時期で、世界はどうなってしまうんだ。早く戻ってきてほしい。という不安もありました。でもステイホームの時間をただ何もせずに過ごすのではなく、何か意味のあるものにしたいと思いギターを始めました。


――「アーティスト名は自身のルーツであるフィリピンの言葉『家』という意味で、英語にすると『HOUSE』になる綴が自分の本名と似ていることに由来する」とのことですが、ルーツであるフィリピンに何か影響を受けていると感じる部分はありますか?

Asilo:フィリピンではR&B、ソウルがとても人気で家でも母がよく聞いていたのでその影響で僕も好きになりR&B、ソウルが音楽のルーツにもなりました。それと、フィリピンではみんなSNSを使って自分を発信していることが多いのですが、僕が自分の弾き語りをSNSに発信することに抵抗がなかったのは、そこに影響されているからかなと思います。


――過去のインタビューでは「もともと歌うのは好きだった」とおっしゃっていました。歌うことが好きになったきっかけはどのようなことでしたか? できるだけ具体的に教えてください。

Asilo:フィリピンは、アジアで飛び抜けて歌の上手い人が多い国で、歌番組が多かったり、街中や家にもカラオケがあったり、国民みんな常日頃歌っていたりして、歌に包まれた国なのですが、幼い頃からその環境に居たので、歌う事が好きになったのはフィリピンに影響を受けたからなのかなと思っています。



――曲をカバーすることで、作曲のスキルについて学んでいった部分も大きいのではないかと思います。今までカバーした曲の中で最も学びや気づきのあった曲はどれでしたか? できるだけ具体的に教えてください。

Asilo:久保田利伸さんの「Missing」です。日本語と英語は、発音も文法も響きも全く違うものなので、R&B、ソウルに日本語を乗せる事ってとても難しいと僕は思うのですが、この曲を聴くとその人の心情や情景が浮かんでくるような素敵な表現方法をされていて、日本語の魅力が沢山詰まった詞と、グルーブが感じられるメロディラインで、完璧な曲だなと思っています。この「Missing」のような曲を目指して日々楽曲制作に取り組んでます。


――YouTubeに投稿されているShin Sakiuraさんとのトークでは、“褒められて伸びるタイプ”であることや恋愛を元に曲を作ることについてお話していました。Asiloさんの活動のモチベーションになるものについて教えてください。

Asilo:友人と話すのが大好きで、よく深夜に集まってくだらない話や面白い話、恋愛話をするのですが、そこで沢山インプットして曲が浮かぶ事が多いので、その友人達と話すたわいもない時間が僕のモチベーションです(笑)。





Asilo - "Talkitchen ~話をしようよ~" (Acoustic Live)feat. Shin Sakiura


――Asiloさんは名古屋在住でバスでの移動が多いと伺いました。フィリピンも含め年齢を重ねるにつれ他の土地にも足を運ぶことは増えてきていると思うのですが、名古屋という土地から影響を受けていると感じることはありますか? それがどのように音楽に影響を与えていますか?

Asilo:生まれも育ちも名古屋市で、これまで他の土地に足を運ぶ事は少なかったのですが、アーティストになってからは、常に人々や景色や感情などに意識して目を向けるようになりました。県外に行って名古屋から離れることも最近は多くなり、ずっと身近にあったから気づけなかった他の土地との違いや、帰った時の安心感も深く感じるようになりました。今まで楽曲の歌詞は名古屋の街を散歩しながら書いたものが多く、その時の風景、気温、街の喧騒からインスピレーションを受けて出来たものなので、もし別の場所で生まれ育ったとしたらこれまでの楽曲は生まれてなかったと言えるほど影響を与えてくれています。


――個人的にAsiloさんの音楽は帰り道に聴きたくなるような日常に寄り添う感覚もあると感じています。ご自身は移動の際にどのようなことを考えていたりしますか? Asiloさんが移動など日々の暮らしと音楽の関係性をどう捉えているのかも含めて伺えると嬉しいです。

Asilo:Asiloには"家"という意味が込められていてみんなが安心できるような、心拠り所になるような音楽を意識しているので、そう捉えていただけてとても嬉しいです。飛行機やバス、車などで窓の外を眺めてその日の出来事などを振り返りながら頭の中を整理してこういう音楽を作ろうと決めることが多いので、0から1を生み出すとても大事な時間です。


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“何気ない日常から出会いがあり、恋が見せてくれる輝きがあって、しかし一瞬で消えてしまって最後にはその人が忘れられずに居る“

――EP『Bouquet』にも収録されているデビュー曲「Beautiful Rain」以降、さまざまなミュージシャンとの交流も増えたのではないかと思います。制作中のやりとりなどで印象に残っているエピソードなどはありますか?

Asilo:「Lonely」のアレンジをShin Sakiuraさん宅で一緒に制作したのですが、音楽始めたての頃、知り合う前からShinさんのYouTubeチャンネルでトラックメイクを見て勉強させて頂いてたので、動画で見てた部屋に自分が居る事が不思議でずっとソワソワしてました(笑)。「Lonely」では僕もアレンジをしていて、一緒に共同作業できた事がとても嬉しかったです。





「Lonely」ミュージックビデオ


――EPのリード曲にもなっている「Melody」はデビューする前に一番最初に作った曲なんですよね。思い入れのある1曲だと思うのですが、このタイミングでEPに収録してリリースしようと思ったのはどうしてでしょうか?

Asilo:1番最初に作った曲って言うのもあって、できた当初は本当にこれで大丈夫なのかなと不安もあったのですが、音楽の事を少しずつ分かってきて時間をあけて改めて聴いた時に、以前とはまた違う風に聴こえてきたのがきっかけです。当時の何も知らないフレッシュな自分だったからこそ、今の自分には生み出すことができない1曲なのかなと思います。メロディもキャッチーで耳に残るし、歌詞も華やで前を向けるような明るい1曲だったので、リード曲としてこのタイミングでリリースしたいと強く思い決めました。


――「Melody」はR&Bな1曲です。ディアンジェロからインスパイアを受けたとのことですが、R&Bやいわゆる“ブラック・ミュージック”のレジェンドである彼の音楽のどのような部分に触発されたのでしょうか?

Asilo:僕が好きなアーティスト達がどのような音楽に影響を受けてきたのかを掘り下げて行った時にディアンジェロが居てそこで初めて知りました。リズムの少しズラしてよれたドラムが大好きなのですが、それを世界に提示したのがディアンジェロだと聞いて衝撃でした。あのグルーブ感に触発されて「Melody」のアレンジは「Feel Like Makin' Love」を元に制作しました。





「Melody」ミュージックビデオ


――今回のEP『Bouquet』はスタジオ・ライブ・セッション『Hang Out Sessions at Our House』を除いては初のまとまった作品かと思います。曲順など構成の面でこだわったポイントはありますか?

Asilo:曲調のバランスをみて飽きさせないような順番にしました、その中でも内容にもこだわりがあって、“何気ない日常から出会いがあり、恋が見せてくれる輝きがあって、しかし一瞬で消えてしまって最後にはその人が忘れられずに居る“というストーリーが続くように組み立てました。


――アルバムのリリースも期待してしまうところですが、世代的にアルバムを通して音楽を聴くことに馴染みが薄かったりはしませんか? Asiloさんがアルバムというフォーマットに対して抱くイメージについて教えてください。

Asilo:そうですね。世代的にも周りで"あのアルバム良かったね~"と言う会話もなく、今どの曲が流行ってて人気なのかが分かりやすい時代になって、僕もこれまでは単曲でしか聴かない事が多かったのですが、音楽を始めてなぜアルバムというフォーマットがあるのかを理解するためにアルバムを聴くようになり、そのアーティストの想いや意図が込められていて、曲単体で聴くより流れで聴くと、その曲の良さをより感じ取る事ができて、アルバムの魅力に今更ながら気づきました。





『Hang Out Sessions at Our House』


――今回のアートワークはグラフィックデザイナーのKhuyen Leさんと一緒に制作されたとのことですが、どのようなイメージから形にしていったのでしょうか? 制作の過程やKhuyen Leさんとのやりとりも含め、こだわったポイントについて教えてください。

Asilo:花束というインパクトのあるテーマで、わかりやすく真ん中にドンッと花束を写そうと最初からイメージしていました。これまでの楽曲、全6曲を束ねたEPなので、6種類の花束を作ろうと思い地元の花屋を巡りそれぞれの曲に合った花を選び花束を作り、近所の河川敷で時間帯や日の当たる方向、一輪一輪がしっかりと映るような花束の角度にこだわって100枚ほど撮影して満足のいく1枚を納めました。海外の雰囲気を取り入れようとカラコレは海外のグラフィックアートを見ながら仕上げて、Instagramで気になっていたデザイナーKhuyen Leさんにタイトルをデザインしていただきました。タイトルの配置や色やフォントを何回もやり取りして今のジャケットに仕上がりました。


――アートワークという視覚的な表現をご自身で手がけるようになったきっかけはありますか? 何か影響を受けたアートワークや絵画、写真などがあれば知りたいです。

Asilo:アメコミのキャラターの配色のバランスやポップでオシャレなデザインがとても大好きでそこから影響を受けて、模写したり自分のオリジナルキャラクターを描いたりしていました。特にスパイダーマンが大好きでした。小学生の頃に秘密基地の家具を作ったり、地元のイベントのポスターを手掛けたりと昔からものづくりが大好きで、音楽だけでなくいろいろなアートにも挑戦してマルチに活動したいなと思っていました。


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「"この人色んな音楽作るな~"って思われるようなアーティスト」


――Asiloさんの活動はスポンジのように新たな要素やスキルを次々に吸収してどんどん成長していっているイメージです。今後どのようなアーティストを目指していくのでしょうか? 現状での具体的な目標や今一番興味のあること、今後表現したいことについて教えてください。

Asilo:自分が好きになるアーティストを振り返ってみると、一つのジャンルにとらわれず、ジャンルレスに色んな種類の音楽を作れる人が多くて僕も"この人色んな音楽作るな~"って思われるようなアーティストを目指しています。





「Talk」ミュージックビデオ


――音楽仲間から刺激を受けることも多いとのことですが、実際にAsiloさんが突き動かされたり、影響を受けた音楽仲間からの印象的な言葉などはありますか? シチュエーションも含めて、そのときのAsiloさんの心境など、できるだけ具体的に教えてください。

Asilo:東京の居酒屋で集まり、仲間内でリリース前のデモ曲を聴かせ合うことがあるのですが、良い曲ばかりであせりと対抗心が芽生えて毎回自分のやる気に火をつけられます。お酒が入ると謎の褒め合い会が始まって、その時に仲間に言われた、「Asiloの曲は全部の曲が似通わず、色々な種類の曲調なのに作るメロディと歌声で統一感が生まれてAsiloって言うジャンルが出来てきている」という言葉がとても嬉しくて、僕が目指しているジャンルレスで様々な音楽が作れるアーティスト像に近づけた感じがして自信が持てました。


――音楽仲間は仲間であると同時にライバルのような側面もあると思います。お互いの活動を常に意識し合っているような関係性のアーティストはいらっしゃいますか? もしいらっしゃるのでしたら、どういったところを意識し合っているのでしょうか?

Asilo:僕は音楽仲間をライバルのように思っていて、そしてリスペクトもしています。実は同じようなジャンルの音楽をしている仲間は少なくてみんなそれぞれ違う音楽性だからこそ学べるものが沢山あって、別ジャンルだから関係ないと思うのではなく、自分の音楽に仲間の武器を取り入れる事を意識し合っています。いつも情報を共有しあって切磋琢磨しています。





「Beautiful Rain」ミュージックビデオ


――9月10日に渋谷WWWで初のワンマンライブを開催することも決定しています。すでにステージの構想などはあるんでしょうか? 可能な範囲で教えてください。

Asilo:1人の方でも楽しめるような居心地の良い空間にしたいなと思っています。そのためにも、自分もリラックスしてラフな感じで素が見せられるようにしたいです。今の規模感だからこそできる、みんなが参加できるような企画も考えているので、それも楽しみに待っていてほしいです


――では最後にワンマンライブの意気込みをお願いします。

Asilo:タイトルは【Asilo with the Bouquet】と名づけて、ファンの皆さんを花に例え、花束のように一丸となって素敵な時間を過ごせたら良いなという意味が込められています。コロナ禍から音楽を始め、沢山のアーティストがライブできなくなり、いつおさまるかも分からなく、ステージに立てる日が来るのか心配だったのですが、やっと憧れの舞台に立て、みなさんと会える日が来てとても楽しみです! 皆さんと顔を合わせて歌える日まで、しっかり準備して『Bouquet』を届けられるようがんばります!


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